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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第三巻 接触

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49話 上級ダンジョンへ

 内閣支持率が八割を超えた。
 それは自由な意思が表明できない独裁的な国家、あるいは多様性に乏しい国家でも無ければ容易に達成できない数値だ。
 しかし民主主義国家においても、一定の条件をクリアすれば達成可能となる。それは戦時中で、国民に共通の敵が居て、政府が目覚ましい戦果を挙げる事だ。

『第一次特攻隊、五時間で魔物五〇〇〇体を撃破』
『現在六ヵ所のダンジョンを快進撃中』

 一一月の魔物氾濫において、広瀬大臣がマスコミにお披露目した三二人の特別攻撃隊は、一時間に一〇〇〇体という凄まじい戦果を挙げて国民の期待に応えた。
 彼ら彼女らは全員が未成年の子ども達だが、政治家が自らの子弟を最前線に出して身を切る意志を示した事で、内閣支持率は否が応にも上がらざるを得なかった。

 第一次特別攻撃隊の面々は、全員が初級ダンジョンのボスよりも高い三一レベルのチームだ。
 ボスは二体であるが、特別攻撃隊は五~六人で六チームを編成し、まずは六ヵ所に突入する形を取った。
 そこで攻略時に可能であれば全員が攻略特典の転移能力を取り、第二陣に組み込んで残る各地のダンジョン攻略を手伝わせる。
 第一陣の一度目の攻略が成功すれば、日本に残るのは二四ヵ所のダンジョンのみ。
 時間的には、その後に二回の攻略機会がある事から、一二班以上を編制して全班に転移能力者を加えて送り込み、ダンジョン外で休憩を取らせながら部隊の体力を維持。ボス部屋では転移能力者を切り離して突入させる。
 転移能力者を含まない班員が全滅しても、転移能力者がボス部屋前に増大させた新部隊を送り込めるため、確実な攻略が可能になる。
 すなわち第一陣の転移能力取得に、その後の作戦の難易度が掛かっている。

 第一陣は、突入を命じる政治家の子弟。
 第二陣以降は、自衛隊の子弟で、自らも入隊を希望する者から選出した。
 彼ら彼女らは、国家緊急事態宣言下における身柄の徴用にあたる。
 第一陣への補償は、希望する進路への無試験合格、一時金、特攻隊年金。
 第二陣以降への補償は、一時金と第二次特攻隊年金。
 任務中は国家命令に基づく活動で、個人の刑事・民事責任は一切問われない。
 すなわち他国へ引き抜かれないために、好きな進路と大金、生涯に渡っての日本での金銭支給、攻略に協力する限り法的に保護するというものだ。政府は閣議決定を行い、衆議院に法案を提出して、それらの補償を可決させた。

「最終判断を行ったのは私、広瀬秀久であり、批判は私が甘受する。だが計画は変更しない。第一次特攻隊の最深部突入は、一一月二二日を予定している」

 シンと静まり返った記者会見場が、フラッシュで眩い点滅を繰り返す。
 労働党の旧主流派の一部は、非人道的だと批判を繰り返していたが、対案を示さなかった事から大多数の人々の共感を得るには至らず、旧主流派の間でも意見が割れていた。
 いずれにせよ賽は投げられており、人々は固唾を呑んで、二二日の結果を見守っている。

 もっとも国内には、大多数とは異なる方角を向く少数派の国民も居る。
 各々が向く先は様々だが、中でも一七歳の男女二人組が向いていたのは、とびきりおかしな方向だった。
 二人が向き合う先は、ゴブリンの巣である。

「後ろから沢山来るかも!」
「迎撃に切り替える。正面は石壁で塞ぐ」
「分かったよ」

 美也の正面に、赤、緑、茶の三光が生まれて輝きだした。
 やがて光は、業火、突風、礫となって重なり合いながら後方に吹き抜けていく。
 背後から飛んできた魔法や矢は、一斉に吹き散らされて灰色の洞窟壁面にぶつかり無力化されていった。
 直後、前方だった場所を土壁で幾重にも塞いだ次郎が飛び出し、石槍を構えて射手たちに襲い掛かる。
 筋骨隆々とした緑色の肌、長い耳、やや小柄で醜悪な顔をした仮称・ゴブリン達は、慌てて後衛と前衛を入れ替えようとする。

「遅い」

 次郎や槍先にゴブリンの一体を引っ掛けると、それを振り上げてゴブリンの身体を洞窟の天井に力強く放り上げる。
 激しい衝突音と振動が響き、うめき声のような呻り声が一度だけ溢れた。
 それを掻き消すように、槍は左右に激しく振り回される。
 剣を掲げたウォーリア、槍を構えるランサー、矢を番えるアーチャー、杖を振り上げるソーサラー、そして集団を統率するリーダーと、何れにも属さないゴブリン。
 これら六種類が、上級ダンジョンの地下二階に出現する魔物達であり、次郎達と交戦している敵対集団でもあった。

 上級ダンジョンの内部は、日本の平均的な市が複数収まる規模の灰色地下迷宮だ。
 そこに空想上の魔物が出現する点は中級ダンジョンと変わらないが、上級の場合は魔物だけではなく、その集落までもが再現されている。
 上級ダンジョンの地下二階には数十の集落が存在し、集落の間には広い空間に深い森が存在していた。
 森を構成するのは、中級ダンジョンのボス部屋で見た背の高い杉、檜、松、銀杏などの裸子植物だ。
 大地には肥沃な土が敷き詰められ、鉱物にはコケ類が張り付き、シダ植物のワラビ、クサソテツ、クラマゴケなどが足元を覆い尽くしている。そして中央には、大きな湖も存在した。
 そんな地下二階に暮らすのは下級、中級の上層で見た魔物達で、それらはいずれもゴブリン達の餌だった。
 ゴブリン達は餌を喰らい、他のゴブリングループとは縄張り争いを行う。

 だが最大の疑問である、彼らがどうやって増えているのかは未だ不明だ。
 転移で地上に戻ってから攻略を再開すると、壊滅させた周辺の集落のゴブリン達がいつの間にか纏めて復活している事が多々あった。
 菌類が増殖するわけでもあるまいに、その速度で回復するのは有り得ないだろう。
 巻き戻り説、蘇生説、リポップ説。いずれにせよ理不尽極まりなく、人類がこの地を制圧する事は極めて困難だ。

 高速で剣を振り回すゴブリンの攻撃範囲外から槍を振るい、豪腕を折った勢いで顎を砕き、地面に叩き落とす。
 ゴブリン達の強さは、ロケットランチャーのように飛んできたアルプ達よりも若干上で、レベル三七と見積もっている。素早さだけならアルプが上だが、ゴブリンは武器を使い、毒を用い、集団戦を展開できる。
 広瀬大臣が投入した、レベル三一の第一陣三二名が集落に入れば、おそらく数分で壊滅する。
 レベルが互角でも、ゴブリンが用いる毒に対抗する光魔法や、ゴブリンの動きを感知できる闇魔法が必須で、総数で上回らなければ一気に押し込まれるのは目に見えている。
 対して次郎たちはレベル八〇で、ゴブリンが何万体生息していようと歯牙にも掛けない強さがあった。

 まるでゲームセンターのモグラやワニ叩きで高得点を出しまくるように、次郎は攻撃範囲内に踏み入ったゴブリンたちを槍で叩きまくり、茶色い体液の海に沈めまくった。
 次郎が武器として槍を選んだのは、小学生の頃に子天狗として槍を持たされ、獅子舞をさせられてイメージがし易かったからだ。
 チアリーディング部がバトンを回すよりも遙かに早く槍を振り回し、身体の動きに合わせて槍を突き出し、薙ぎ払い、構えながら飛び退り、子天狗同士で連携しながら獅子を攻撃する。
 田舎の伝統を継承してきた老人達の「ああでもない、こうでもない」という自己満足に散々付き合わされた結果、次郎は槍の使い方に慣れていた。そんな槍は攻撃範囲が広く、ゴブリンが剣で次郎を斬り付けるよりも先に叩きのめせる。

 次郎が槍を得物とするように、美也は炎と風の魔法を得意とする。
 それは全てを焼き尽くしたい、切り刻みたいなどという負の感情から生み出されたものだろうと次郎は考えている。なにしろ生み出された時期は、両親を長年の虐待で告発して縁を切る数ヵ月前だ。
 美也の場合、魔法の制御は完璧で、それが暴発する時は本人が意図して徹底的に引き起こす。レベル上げや能力加算という事前準備を徹底するため、ゴブリンだろうがボスだろうが、彼女の業火から逃れる術は無い。
 次郎は恐い想像を振り払うかのように、美也に声を掛けた。

「流石に最大の集落だけあって、守りが堅いな」
「他の集落を弱らせたから、こっちに纏まっちゃったんだと思うよ」
「うーん、マンダムだ。いい加減疲れたから、一旦撤退で」
「撤退は良いけど、全然マンダムじゃないからね」

 二人は倒したゴブリンの胸部に土と炎の槍を突き刺し、魔石から力を吸収すると集落の出口に向かって走り出した。
 背後の石壁は破壊されていないが、警戒の遠吠えが洞窟内を行き交い、方々からも遠吠えが返ってくる。
 二人は洞窟から広い森に出て暫く走り、やがて背後を振り返った。

「半包囲だね」
「湖を背にしているから、ほぼ包囲かな」

 それはまるで、森から湧き出す軍隊蟻の群れだった。
 地上の魔物氾濫よりも遙かに多いゴブリン達が、各々に武器を構えながら次郎たちに向かってくる。
 いくら集落に逃げ込んでも破壊の限りを尽くされ、部族を殺され続けるので、いい加減に頭に来たのだろう。彼らはレベルの差を顧みず、膨大な数で逆撃に転じた。

「美也のレベル上げ方針、大正解だったなぁ」
「本当にね」

 醜悪な顔に、目を血走らせたゴブリン達が、次郎たちを睨み付けながら油断無く両翼を伸ばしつつあった。
 次郎は闇魔法で、数万体の彼らを群として認識し、それらが森の大地に広がる動きを把握していた。
 そして大地を伝って彼らの真下に、二桁まで割り振った土系統の魔力を流し込む。

「準備オッケー」
「こっちも大丈夫」
「じゃあ三、二、一、今……」

 勢い良く両手を振り上げた次郎に従って、ゴブリン達の足元から一斉に土槍が突き上がった。
 槍は地面に埋設してあった罠であるかのように、一気に跳ね上がって筋骨隆々としたゴブリンの足や身体の皮膚を貫き、肉を抉る。
 瞬く間に串刺しにされていくゴブリン達が、凄まじい絶叫と共に槍から逃れようと、狭い群集の中でぶつかり合い、押し退け合っていた。
 だが土槍は、無情にも突き上がり続ける。
 あたかもドラキュラ伝説の元となった串刺し公ヴラドの所業を再現するかのように、ダンジョン内部にはゴブリンの串刺しの林が生み出されていく。
 そんな串刺し林の上空から、炎と風の轟風が吹き荒れ、串刺しにされたゴブリン達を煉獄の炎で焼き始めた。
 バーベキューの余熱が、周囲にまで押し寄せる。
 次郎と美也の二人は、残った魔力で湖の水を引き寄せ、水壁を生み出して森を焼き払う業火に耐えた。

 荒れ狂う天地からの攻撃に、ゴブリン達は完全に統率を失った。
 やがて彼らは必至に飛び上がって槍から逃れ、這いつくばって逃れながら、生存本能の赴くままに壊走し出した。
 次郎は一体も逃がすまいと、逃げ出すゴブリンを優先して串刺しにしていく。
 美也も通路に灼熱の炎を注ぎ込み、逃げ込んだゴブリンを焼き払っていく。

 やがて森が焼け落ち、湖が水位を激減させた頃、かつて美しかった森は五万体近くの串焼きが並ぶ、生々しいバーベキュー会場へと変貌していた。
 焼き加減は様々で、一部はまだ動いているようだが、命が尽きるのも時間の問題だろう。
 ところで武器を扱うゴブリンは、知的生命体の様に見える。
 世界に知られれば、人類以外の知的生命体の対応を巡って大きな議論が巻き起こるだろう。
 だが彼らは、他の魔物同様に、人に襲い掛かってくる習性を持っていた。
 さらにダンジョンを攻略しなければ、日本中に魔物が溢れてくる。
 そのため次郎と美也は、他の魔物同様に倒す事で結論が出ている。
 ゴブリンは地球に実在しなかった空想上の魔物であり、日本語も通じないため、他の魔物と同様に倒す事に躊躇いが生じなかった。

 次郎はゴブリンの身体を串刺しにした槍から大地を伝い、魔石の魔力を一斉に吸収し始めた。それに少し遅れて美也も、次郎が吸収し損ねたゴブリンの魔石を風魔法を使い、吸い寄せるように吸収し始めた。
 二人は四方八方に全力で魔力を飛ばし、およそ四~五万体という膨大なゴブリンを自らの経験値に変換していった。
 作業が効率的なのは、敵に比べて圧倒的にレベルが高いからだ。
 今までレベルを上げ続けた成果が、高レベルで高収入な魔物と遭遇した事により、絶大な効果を齎していた。

「レベルが八〇から八三に上がったよ」
「……まあ、この地下二階はもう二度と使えそうに無いけどな」

 かつて豊かな森と美しい湖があった地下二階は、干上がった湖と、煤けた荒野に広がるゴブリンの串刺し林へと変貌を遂げていた。
 もっとも塔型円柱は、中級ダンジョンを攻略した事で出現したものであり、塔型円柱を攻略すれば再び変貌するであろうことから、二人は塔の環境など一切気にしていなかったが。

「それじゃあ地下三階に降りようか」
「そうだな。下でも稼げると良いな」

 半年後には一八歳を迎えてレベル上げの効率が落ち始める次郎は、地下三階以降の魔物にも同様の稼ぎを期待していた。
 仮に地下三階が駄目でも地下四階、地下五階とダンジョンには続きがある。
 美也の受験勉強のためにも、高校三年の夏が終わるまでにはレベル九九なり一〇〇なりに達して、レベル上げに区切りを付けておきたかった。
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