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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第二巻 ダンジョン問題が日本を動かした

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43話 新政府

 二〇四五年一〇月八日、日曜日。
 単独過半数を取っていた労働党が内閣支持率を過去最低まで落とし、連立与党や同じ党内からも造反を招いて、内閣不信任決議案を可決されての解散総選挙の決戦日となった。
 この間、選挙権を持たない次郎は代わりにダンジョン攻略を行った。
 初級ダンジョンに次ぐダンジョンは中級ダンジョンであったらしく、攻略を果たした次郎たちは攻略特典を得た後、新たに出現した灰色い塔型円柱の仮称・上級ダンジョンに踏み入っていた。
 現在のステータスは次のように伸びている。

 堂下次郎 レベル七四 BP〇 転移S二 収納A
 体力九 魔力一六 攻撃一〇 防御一〇 敏捷一〇
 火二 風二 水二 土一一 光二 闇五

 地家美也 レベル七四 BP三 転移S 加算A 収納S
 体力七 魔力二二 攻撃六 防御七 敏捷七
 火一一 風一〇 水二 土二 光八 闇六

 井口綾香 レベル四三 BP〇 転移A二
 体力五 魔力九 攻撃四 防御六 敏捷六
 火五 風三 水一 土一 光二 闇五

 綾香が二つ目の攻略特典である転移Aを取得した事で、次郎たちは再び一億円の報酬を手に入れた。既に得ていた分と合せて二億二〇八〇万円であり、二人で山分けしても一億一〇四〇万円となる。
 高収入を得た次郎は次第に働きたくなくなってきたものの、今後の活動を考慮して二つ目の転移能力を取得した。
 共和党が政権を取った場合、上級ダンジョンで活動を続けると同時に、少し政府に協力するためだ。労働党が政権を保ち続ければ当然協力しないが、その可能性は皆無だろうと次郎は考えている。
 夕食後の食卓で兄と共に見ているテレビ特番では、共和党が圧勝しそうな勢いが見て取れる。
 労働党派の父が食卓では無く自室でテレビを見ているのも、子供の前でイラつく姿を自粛したからだろう。あるいは不愉快だから引き籠もったのか。
 おかげで次郎たちは、父が好む公共放送では無く、開票速報が早い民放を見ることが出来る。報道が早いと誤報のリスクも高くなるが、誤報された当人にとっては深刻でも、次郎には総数が概ね合っていれば問題ないのだ。

『投票締切りの午後八時まで、残り三分を切りました。投票率は午後六時の時点で、期日前投票を含めると七五.一%。これは昭和三三年、昭和二七年、昭和三〇年の衆議院選挙に次いで歴代四位となる高さです。その後の投票次第では歴代一位も有り得る事から、今回の選挙に対する国民の関心の高さが窺えます』

 男性アナウンサーが過去のグラフを示しながら、説明する。

『これまでは労働党が単独過半数となる二二三議席を持ち、連立を組んでいた国民党の三一議席と共に安定した政権を担ってきました。今回の選挙で注目されるのは、連立の意思を示している野党四党で過半数を取れるのか。出口調査の結果発表まで、残り二分を切りました』

 出口調査は、民放などが前回の投票結果、選挙の情勢、投票者からの聴き取りなど様々な情報を収集して結果を纏めたものらしい。

「兄貴、選挙結果はどうなると思う」
「それは共和党が勝つだろう。但し単独過半数は無理だな」
「なんで?」
「全ての選挙区に共和党候補を出せば圧勝しただろうが、選挙協力で他の野党や国民党、労働党の小林派にも譲って候補を出さなかったからだ。だが以前に連立を組んでいた改革党と手を組めば、過半数には届くだろうがな」

 一郎の指摘は尤もだが、内閣不信任決議案を通すために、共和党は小林派や国民党とも手を組まざるを得なかった。
 然もなくば衆議院選挙は行われず、カマキリパニックは実現していただろう。
 身を切って折り合いを付ける事で望む結果を得る。それが井口・広瀬家の得意技だということを、次郎は一郎以上に理解していた。

「そういえばさ、どうして出口調査で結果が分かっているのに発表しないの?」
「先に言ったら、勝ちそうな候補の支持者は投票に行かなくなるし、負けそうな候補の支持者が選挙に行って、場合によっては結果が変わるからな」
「へぇ」

 成程と納得した次郎の見守る前で、テレビがカウントダウンを開始する。
 効果音がタラン、タランと鳴る度に数字が小さくなっていき、それが〇になると同時に予想が飛び出した。

「これは凄いな」
「マジか」

 あくまで各地の出口調査からの結果予想であるが、二二三議席だった労働党が六〇議席台まで落ち、代わって六〇議席台だった共和党が単独で一九〇議席を上回るらしい。
 改革党、新生党、共歩党もそれぞれ伸びを見せており、不信任案に賛同した国民党も議席を維持している。
 その結果、与党勢力が二五四から一〇〇未満に落ち、野党勢力が三三〇~三四〇議席まで増えた。
 野党四党は、選挙中から組むと宣言しており、間違いなく新政権が誕生する。
 予想が発表された瞬間、父の部屋から罵声が轟いた。

「馬鹿野郎!」

 どうやら受信料を徴収する公共放送でも、壊滅的な予想が出たらしい。
 そしてテロップには、真っ先に広瀬秀久議員当確の速報が流れた。時刻は未だ午後八時〇分台である。

「はやっ!」

 締め切りから、僅か一分未満で当確情報が出ていた。
 するといきなり場面が切り替わり、広瀬議員が万歳をしている姿が映し出される。
 切り替わった場面は宮城県青葉区の広瀬秀久選挙事務所らしく、四方八方に膨大なカメラが押し寄せており、その前で広瀬議員と支援者達が万歳三唱を行った後、広瀬が一礼をしてからマイクを持って話を始めた。

『国民の皆様が不安をお持ちの魔物につきまして、私たちは政権交代後の対策を進めて参りました。今回、衆議院選挙におきまして国民の皆様の信任を得られましたので、私は間もなく誕生する新内閣において防衛大臣を担い、来年一月四日の出現前までに初級ダンジョンの一斉同時攻略を実施します』

 凄まじい数のフラッシュが一斉に焚かれ、暗闇が眩しく照らし出された。
 テレビの画面から溢れ出す光に、一郎と次郎は揃って目を瞬かせる。

『既に期限が二ヵ月を切っておりますので、皆様が眉を潜めるような強引かつ強行スケジュールとならざるを得ませんし、実現のために強引な法案も通します。ですが何よりも国民の皆様の生命を守るため、ご理解とご協力、厚い支援を賜りたく存じます』

 テレビ局の予定では喜びの声だったはずの選挙事務所の中継が、記者会見のような場に変わっていた。
 だがそれも当然だろう。
 共和党政権が誕生する事も、その最大の立役者である広瀬議員が大臣席に座るのも既定路線とみられていたが、具体的な閣僚名に言及があったのは初めてだ。

 日本には無任所大臣と特命大臣を除き、一四の国務大臣職がある。
 内閣総理大臣、内閣官房長官、財務大臣、外務大臣、防衛大臣、総務大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、農林水産大臣、厚生労働大臣、国家公安委員長、法務大臣、文部科学大臣、環境大臣。
 制度上は内閣総理大臣のみが上席であるが、二〇四五年現在の席次としては概ね挙げられたとおりの順番になっている。
 昔は総務大臣の序列がもう少し上であったが、外交政策やダンジョン出現で外務大臣と防衛大臣の職責が重くなる一方で、総務大臣職を連立与党の党首に渡すなどして重要度の入れ替わりが起こった。
 また厚生労働大臣は少子高齢化によって、いかに社会保障費を削減するかに終始して国民の恨みを買い易くなった。それに法務大臣以下には実質的な権限が殆ど無い事などもあって、同じ国務大臣職と言えど実際には重みで格差が存在する。

 重要閣僚は防衛大臣までの四人で、内閣総理大臣の臨時代行筆頭候補者だ。
 中量級閣僚は厚生労働大臣までで、大臣経験や与党内の派閥力学を要する。
 軽量級閣僚は環境大臣までで、当選回数に基づくご褒美などと揶揄される。

 なお総理、官房長官、外務大臣、防衛大臣の四人が、日本の安全保障や対外政策を定める四大臣会合のメンバーだ。
 その下には財務大臣、総務大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、国家公安委員長の五人が加わった九大臣会合があって、より多角的な視点を要する事項を審議する。
 すなわち防衛大臣は、国家戦略において最重要な四大臣の一人である。

『広瀬議員、防衛大臣に就任されるのは井口党首と話し合った結果ですか』

 メディアの一人から声が上がり、広瀬議員がマイクを持ち直した。

『勿論です。井口代表と話し合った結果、新政府誕生の暁には最速で動くために、私が防衛大臣を担う事となりました』
『それでは、自衛隊を動かして攻略するのですか!?』
『いいえ。それだけでは月一~二ヵ所の攻略しか出来ないと、前政権が示しております。ダンジョン攻略は新政府の最優先課題とし、最長でも二ヵ月以内に必ず結果を出しますので、日本にお住まいの皆様は、全力でご支援下さいますよう改めてお願い申し上げます』

 兄が押し黙ってテレビに注視する中、次郎はやれやれとお茶を啜った。
 既に井口家と話は付いているが、政権交代が成る事が確定した以上、今後の次郎には沢山の仕事が発生する事になる。
 テレビはテロップに次々と当確議員の名前を流しながら、暫く広瀬議員の選挙事務所前からの中継を続けた。
 明けて翌日。
 朝刊の一面には共和党圧勝と共に、大場総理の労働党代表の引責辞任と、広瀬議員の防衛大臣就任がデカデカと載っていた。

 旧
 労働二二三 国民三一
 改革七一 共和六三 新生二八 共歩二一 他八

 新
 労働六四 国民三一
 改革八一 共和二〇五 新生三三 共歩二六 他五

 結果は新与党となる連立四党で、四四五議席のうち四分の三を上回る三四五議席を獲得するという、まさに圧勝であった。
 労働党も大場派に反旗を翻した小林派が三八名全員で当選する一方で、その他の派閥は合計で二六議席しか残れていない。
 国民党も、党そのものが労働党から離れて共和党と協力体制を構築した。
 すなわち新しい内閣は、与野党の衆議院議員の九割以上から協力を得られる状態となった。
 大場は小選挙区において一二%の票を獲得し、比例区で復活当選を果たした。
 だが今後は、針の筵だろう。
 民主制における政治判断の誤りは、政治家を選んだ国民自身に帰す。
 直接口封じを指示した物的証拠でも出てこなければ捕まえるのは難しいし、おそらく出てこないだろうが、その代わりに二度と政権を任せないという国民の判断が下された。
 この裁きで大場派は衆議院での議席を劇的に減らし、閣僚も大半を落選させた。
 加えて来年の参議院議員選挙に向けて、小林派が現職の参議院議員を切り崩しに掛かるのも必至だ。泥船から離脱を図る議員は、これからも続出するだろう。
 そして選挙から八日後、新生日本政府による特別国会が召集された。
二巻はここまでです。
次話から三巻になります。
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