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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第一巻 日本にダンジョンが現われた

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26話 変化

 巨大蜘蛛の撃破後、最初に行ったのは機動隊員の服を脱がせる事だった。
 ボス戦を行った次郎と美也の服は何れもボロボロで、互いに目のやり場に困る状態だった。
 チュートリアルダンジョンを攻略した時のように、ダンジョンがあった場所に跳ばされた場合、半裸で駅前に放り出されてしまう。

 山中県警の機動隊員は美也の魔法で焼かれたが、化学的な燃焼ではなく魔法による対人攻撃であり、衣服や装備は半焼け未満で使えるものが多かった。
 そんな三人分の服を二人で分けて、エセ機動隊員の出来上がりである。
 サイズが合っていないが、転移で次郎の家の杉山に隠してある服を回収して着替えるまでの応急処置なので、その点には目を瞑った。
 やがて即席のコスプレイヤーが誕生した後、ようやく二人は現実と向き合った。

 初級ダンジョン 総合評価A
 攻略特典を選択してください。
 一.能力加算A (BP+一二)
 二.転移能力A (一回/一日)
 三.収納能力A (二〇フィートコンテナ分)

 虚空に見えている内容は、二人とも変わらなかった。いずれも総合評価Aであり、かつて見たS評価の時の半分の特典内容だった。

「機動隊員の三人分が混ざって、人数とか平均レベルで評価が下がったのか。それとも追いかけっこで探索不足だったから、踏破率みたいなものが低かったのか。あるいは人間の死亡率が影響したのか」
「それより次郎くん、初級ダンジョンっていう文字、ちゃんと見えてる?」
「ああ。つまりダンジョンには、次の段階があるわけだな」

 ダンジョンを生み出した側にとって、新ダンジョンは初級ダンジョンのつもりであったらしい。
 わざわざ日本人に通じるように表記している以上、この後には中級や上級のダンジョンが控えていると考えるべきだろう。
 但し、それらのダンジョンがいつ何処に出るのかは分からない。
 初級ダンジョンがいくらか攻略された後であるのか、それともチュートリアルダンジョンの時のように四年ほど経ったら変わるのか。仮に四年後であれば、現在一六歳の次郎は二〇歳になっている。
 そうであるなら、初級ダンジョンでレベル上げに勤しみたいところであるが、山中県警機動隊の溜まり場となっているダンジョン内では難しいだろう。

「それで特典はどうしよう。これからも追いかけられるなら、能力加算を取るのもありかも」

 二人の能力の割り振り方は、典型的な前衛と後衛の特化型だ。
 それ故に集団戦となった時、美也は真っ先に狙われる。

「俺は収納能力を取って、あの三人を運ぶ。美也も、収納能力が良いんじゃ無いか。次のダンジョンで俺たちが特典を得られる保証なんて、無いんだから」
「もう二度とダンジョンに来ないならそれで良いんだけど、次の機会があるなら収納を選ぶと後悔するから。わたしが収納を取るまでは、次郎くんがわたしの荷物も持ってくれたら嬉しいかな」
「分かった。じゃあ、そうしよう。二人とも特典を取ったら多分跳ばされるから、俺が先に選んで、あいつらを収納で片付けられないか試してみる」
「うん。それじゃあお願い。どうしても駄目なら、魔法か転移で何とかするけど」
「まあ、収納でやってみる」

 次郎が特典を選ぶと、虚空に表示されているステータスが変化した。

 堂下次郎 レベル四一 BP〇 転移S 収納A
 体力六 魔力八 攻撃五 防御五 敏捷五
 火一 風一 水一 土八 光一 闇五

 それからは、あまり心躍らない作業が粛々と行われた。
 結論として、人間は収納できた。次郎が極めて不快な作業をやり遂げたのは、美也には手伝わせられないという責任感からである。
 その後、美也が特典を選ぶ順番になった。

「それじゃあ、次は美也が能力加算を取ってくれ。チュートリアルダンジョンの時みたいに、選択の直後か、BPを振った後に入り口に飛ばされるかもしれない。だから先に手を繋いでおいて、一緒の位置に出たら美也の転移で移動。別々の位置だったら各自の転移で離脱。準備してくれ」

 スッと伸ばされた手が、次郎の左手をしっかりと握った。

「じゃあ、選ぶね」
「おう」
「…………あっ、BPが一二になったよ」
「うーん、跳ばないな。選択してからなのか」

 どうやら跳ばないらしいと理解した二人は、割り振りの相談と相槌を繰り返しながら、加算された能力値を割り振っていく。

 地家美也 レベル三六 BP三 転移S 加算A
 体力五 魔力一二 攻撃五 防御五 敏捷五
 火六 風四 水一 土一 光四 闇二

 美也は身体能力で次郎に匹敵するようになり、魔法も幅広く使える状態となった。
 また今後の魔物に対応した割り振りが出来るように。ボーナスポイントは三つ分を残した。
 ネット上では、ボーナスポイントを選択せずに時間を置いて虚空の表示が消えても、次のレベルアップ時にはポイントが残っており、割り振り出来る事が確認されている。
 自分と美也の数値を比較した次郎は羨ましがり、自身も能力値に割り振ろうかと悩んだほどだった。
 だが収納能力は、水や食糧、着替えなどを持ち込めそうであり、見逃すにはあまりに惜しかった。最終的には、二人で協力した方が良いという結論に達した次第である。

 美也が選択を放棄して暫く経つと、やがて周囲の光景が楕円形の空間から、地上のダンジョン前にグルリと入れ替わる。
 目前には初級ダンジョンの倍ほどは幅広い、二〇段もの階段が、地底へと続いているのが見えた。

「中止、突っ込む!」

 次郎は目の前の光景から、咄嗟に新ダンジョンと新特典を連想した。
 そして周囲が大混乱している間に潜って、入り口が封鎖される前に転移登録しておこうと即断し、美也の手を素早く引き寄せて走り始めた。
 周囲では、ダンジョン内に居たと思わしき自衛隊員や機動隊員が続々と出現しており、ドーム状から塔状へと形を変えた巨大構造物を目の前にして、大混乱に陥っている。
 機動隊員の装備を着込んで周囲に溶け込んでいた二人は、周りが大混乱に陥っている間に、新たなダンジョンの内部へと潜り込んでいった。





 ◇◇◇





 二〇四四年九月一日、木曜日。
 次郎たちにとっては、美也の一六歳の誕生日である。
 クラスメイト達にとっては、二学期最初の登校日という認識になるだろう。
 そして世間一般では、山中県の巨大構造物が灰色のドーム状から、灰色の多階層円柱に変化して五日目という数え方をしているようである。
 ヘリで上空から撮影された中級と思わしきダンジョンは、特大の円柱の上に、大型の円柱が乗り、その上に中型が乗り、最上部に小型の円柱が乗るという四階層だった。
 最も下の位置にある特大の円柱は、それ自体が初級ダンジョンや正面に向き合った山中駅を丸ごと飲み込めるほど大きかった。そして上の三段も、底面こそ一回りずつ小さくなっていくものの、高さは全て等しかった。
 そんな巨大な多階層円柱の出現により、周辺のビルは幾つかが飲まれて消えている。
 ビル内部の人達は、初級ダンジョンの出現時のように周辺へ跳ばされて無事だったが、所有していたビルや職場を失った人達の被害は深刻だろう。国は保証してくれるのだろうか。

 中級ダンジョンの入り口は、正面以外にも複数あった。
 夏休み最後の土曜日という最中、内部を探索していた機動隊員が跳ばされた場所以外から、内部へ潜り込んだ人も相当居たようだ。何しろ最初から人通りが多い駅前で、人々はコウモリ退治でレベルが上がる事を熟知していた。
 だがレベルを目当てに突入した人々は、踏み入った地下一階で、すぐに後悔する事になった。

 帰還者の携帯端末で撮影され、テレビで流された映像には、まるで物語に出てくる小悪魔インプのような姿をした魔物の姿が映されていた。
 サイズは猫ではなく、人間の幼児くらい。
 肌は灰色で、瞳は緑色。
 頭部からは角が突き出し、耳は尖り、腹部は膨れ、背中からは大きなコウモリの翼を生やし、尻からは先端が鉤状に尖った尻尾を生やした、何とも気味の悪い姿だった。
 そして魔物達は、侵入してきた人々の足を瞬く間に払って床に引き摺り倒すと、生きたまま喰らい始めたのだ。
 次郎たちの体感では、そのインプの強さは初級ダンジョン最下層の大蜘蛛を僅かに勝るレベル一六程で、抗えなかった複数の人が犠牲になった。

 インプはテレビで放送されるや否や、世界中の人々を戦慄させた。
 とりわけ宗教色が強い国々でのメディアの反応は顕著で、悪魔に対して日本政府は一体何をしているのだと、情報公開に関して極めて後ろ向きな日本政府に対して強い抗議が行われている。
 被害とは殆ど無関係な諸外国はともかく、日本政府がコウモリ被害を受けている当事者の日本国民に対して説明責任を果たしているかと問われれば、確かに全く為されてはいない。おかげで国民は、言いたい放題である。

「夏は無理だったけど、冬の同人は異世界物で決まりだね!」

 放課後の部室で、兄たちの引退に伴って新部長に就任した絵理が堂々と宣った。
 発言内容はさておき、絵理は行動力だけはとんでもなく高い。
 入部時の目論見通り、部活に関しては丸投げできそうで何よりと言うべきだろうか。少なくとも図書文芸部の活動自体は、次郎たちが積極性を持たなくとも勝手に進んでいくらしかった。

「巨大構造物に対してその発想を持つのは、学校では絵理くらいだろうな」
「そんな事ないよ。塚ちゃんと、ともみんも、普通に描くんだから」
「普通って何だよ。ていうか、一体何を描くんだよ」
「それは勿論、巨大構造物から繋がる異世界の王国だよ。時代は中世から近世くらいで、地質学的に農業革命が起こらなくて、産業革命も発生しなくて、技術の代わりに文化が進んでいる感じ。それで、その世界の王国の貴族に生まれた娘が主人公の物語」
「オリジナルの恋愛物か。ハードル高いな」

 同人の世界で幅広く支持されるのは、人気作品の二次創作物だ。
 多くの人が知っている人気作品を下地にして、読者の理想や願望を作者が代行して描くか、パロディ化して受けを狙えば、それなりの支持を得られる。
 逆に難易度が高いのがオリジナル作品で、作者が自由に描けて著作権上の問題も一切発生しない反面、物語へ導入するためのハードルは、事前に作品の世界が理解されている二次創作物より遥かに高い。
 そして作った作品が売れなければ、スペース申込み代や交通費、印刷費などの諸経費だけ掛かって次の活動を圧迫する。
 図書文芸部は部室のプリンタでカラー印刷ができるので、コピー本を作るだけなら印刷費だけは掛からないが、それ以外は全て自腹だ。絵理は同人活動の経費を捻出するため、コンビニでアルバイトもしている。

「ボクの生き甲斐だからねぇ」
「そうかそうか。完成したら見せてくれ」
「良いけど、頒布は交換以外だとお金取るからね」
「エロいシチュエーションはあるのか?」
「描いている間に自然に出てくるならあるかもしれないけど、売るために最初からその路線で進める事は無いよ」
「そうか。まあ頑張ってくれ」
「ジローくんと美也っちも、描けば良いのに」
「そんな才能は無い。と言うわけで、今日の活動はここまで。お先」
「はいはい。誕生日デートいってらっしゃい。ちなみにボクの誕生日は四月一日だから。また森林デートで良いよ」
「気が向いたらな」
「あ、それって絶対行かないやつだ」

 こうして二学期最初の校内活動を残らず終えた次郎は、美也と共にデートへと向かった。行き先は勿論、新たに誕生した中級ダンジョンである。
 当面の目標は中級と思わしきダンジョンを攻略して、一度は美也が見送った収納能力を得る事だ。
 美也自身はそれを必須だとは思っていないし、次郎も自身が能力を獲得した事で満足感を得ているため、二人には別に焦燥のようなものはない。さらに付け加えるなら、政府側も新ダンジョンへの対応を検討中なのか、中級ダンジョン内での鬼ごっこも停止中だ。
 そのような事情もあり、もしも全てを知る者が居たら、誕生日にまでダンジョンへ行かなくても良いのにと嗜めるかも知れない。
 しかしこれは二人が中学時代から続けてきたライフワークであって、テストなどの明らかな理由が無いにも拘わらずダンジョンに赴かないのは、むしろ不自然な事だった。
 それに誕生日は、ダンジョン内でも祝うことが出来る。
 次郎は収納していた机と二脚の椅子を取り出し、テーブルクロスを掛けると、その上に皿やフォークを並べていき、最後にクーラーボックスから取り出された小さなバースデーケーキの箱を乗せた。

「美也、一六歳の誕生日おめでとう」
「…………ありがとう。ケーキを買いに行く暇なんてあった?」
「学校でトイレの個室に鍵を掛けて、転移で往復したからな」
「収納って便利ね」
「そうだな。転移に匹敵するかも知れない」

 開封されたバースデーケーキは、道中の戦闘でインプの集団をいくつも蹴散らしてきたにも拘わらず、買ったばかりのように綺麗な形を保っていた。
 それだけではなく、一緒に入っていた保冷剤も全く溶けていなかった。

 収納能力は、Aで二〇フィートコンテナ分と出ていたが、内容としては二〇フィートコンテナと同サイズ分まで入る倉庫を、異次元空間に持つようなものだった。
 個々の収納物それぞれに仕切りがあるのか、液体を二種類同時に入れても混ざる事は無かった。そして空間内は時間が停止しており、録画中のカメラは取り出すまで止まっていた。
 数千年から数万年後の人類がこの技術を再現できるようになれば、さぞや宇宙開拓が捗る事だろう。
 生物の収納に関しては、昆虫などの生き物は可能だったが、生きている魔物は出来なかった。ちなみに死んだ魔物は、しっかりと収納できている。

 そんな極めて特殊な空間から取り出したケーキにロウソクを立てた次郎は、魔法で小さな火を灯すと、流石に照れながら歌を一節だけ謡って、火を消すように促した。
 すると美也は息を吹き掛けるのでは無く、次郎に合わせるように風魔法でそよ風を生み出して静かに火を消した。

「ダンジョン内で誕生日をお祝いするのって、わたしたちが最初かな」
「多分人類初じゃないか。機動隊がケーキを持ち込むとは思えないしな。いや、まてよ。山中県警ならやりかねん……」

 やがて切り分けられたケーキは、二人の手で交互に崩し合われた。
第一巻は、ここまでです。
次話より、第二巻となります。


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