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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第一巻 日本にダンジョンが現われた

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24話 発覚

 コウモリ大氾濫に続くように、夏の熱波が襲い掛かってきた八月一日。
 絵理のレベル上げから解放された次郎は、美也と共にダンジョンの地下一二階を探索していた。
 夏休みの探索では、次郎が美也の家まで迎えに行き、部活や市立図書館、街などに出かけてくると伝えてから連れ出し、次郎の家が所有している杉山の中から転移を使って、ダンジョンの攻略地点まで一気に跳ぶ。
 帰宅時も次郎が家まで送らなければならないが、これは七村市にまでコウモリが現われるようになった結果、安全のために祖母から課されたルールだった。
 なお次郎自身の場合は、空手のメダリストである母が、男なら冒険の一つくらいしておくべきだという漫画のような考え方を持っているため、夜中に出歩こうとも何も言わない。コウモリの一匹でも狩って持ち帰れば、さぞや褒めてくれるだろう。

 現在潜っている地下一二階の魔物は、巨大クロオオアリだ。
 地球に実在する種ではあるものの、サイズは胴体だけでも中型犬に等しく、長い手足と触覚まで含めれば大型犬と遜色なく見える。
 魔物同士で比較するならば、地下一〇階の巨大カマキリや、地下一一階の巨大オニヤンマが同サイズになるだろう。
 カマキリやオニヤンマは鋭い鎌や顎を持ち飛行するが、クロオオアリは強靱な顎に加えて凄まじいパワーと硬い身体を持っており、しかも大集団を形成する。
 地上に現われた場合は兎も角、ダンジョン内においては大集団で物理的な壁を形成するクロオオアリの方が厄介だろう。そのため次郎と美也は、地下一二階で足踏みしないまでも、かなりの鈍足を余儀なくされた。

「美也先生、土槍の射出で道を作っても、黒い影が奥からどんどん溢れてきます」
「それなら、もうお家に帰る?」
「いいえ。先生の火炎放射器で『汚物を消毒だー』作戦を提案いたします」
「次郎くん、言い方が汚い」

 ボケが流されるや否や、通路を埋め尽くす巨大な炎が形成された。
 炎の後ろには風の防護膜が張られており、二つの魔法は世界への産声を上げると同時にゆっくりと前方に進み始めた。
 炎に巻かれた黒い塊の動きは次第に緩やかとなり、タンパク質を焼いた臭いが周囲に立ち篭め、パンパンと膨張した体内の水分が身体を突き破って弾け出す音が聞こえ出す。
 まるでフライパンでポップコーンを作った時のように、通路の隅にドロドロに溶けたオオクロアリの塊がこびり付いていった。そこへ石槍が突っ込まれ、同時に炎が流し込まれて、魔石を経験値へと変えていく。

「階層と同じレベルだと、ちょっと辛いかも知れないね」

 視界を埋めていたクロオオアリの群れを倒しきった後、美也から魔物の再評価が行われた。
 レベル三九の次郎と三四の美也にとっては、クロオオアリも纏めて薙ぎ払える相手でしかない。そのため相手の脅威度を推し量る事は難しいのだが、地下一〇階のカマキリに比べると、地下一一階以降の脅威度は上がっているように感じられた。

「地下一階のコウモリだって、レベル〇の人が沢山倒している。武器があれば、何とか…………!?」

 先に気付いたのは、美也だった。
 彼女は人差し指を口元で立てると、いつでも転移で離脱できるように、転移先の録画用に持ち歩いている携帯ペン型カメラで周囲を撮り始める。
 その様子を見た次郎は言葉を飲み込むと、後方に向かって石槍を構えた。やがて二人に向かって、新たな黒い群れが近付いてくる。
 群れの一部には、POLICEという白文字が描かれていた。
 頭部を覆い隠すポリカーボネート製の特殊ヘルメットが被られ、左手にはファイバーコンポジット製(炭素繊維強化炭素複合材料)の盾が構えられ、右手には自衛隊のお下がりと思わしき二〇三六年製の通称・三六式小銃まで構えられていた。
 その横には、射撃時に保護するために右肩パッドが大きくなった戦闘防弾チョッキ三型改と呼ばれる迷彩服を着込み、ケプラー製の三三式迷彩帽を被った武装集団も居る。
 その新たな集団がアサルトライフルの銃口を向けながら、投光器で次郎たちの視界を奪いつつ、真っ直ぐに迫ってきていた。

「お前達、何処からダンジョンに入った!」

 石槍と相対した相手は、日本語を話した。
 次郎が始めてダンジョンに潜り始めてから二年三ヵ月。
 以来、洞窟内で会話した相手は美也しか居なかったが、その記録がついに打ち破られた。無論、二人にとっては絵理の乱入に勝る最悪の事態だ。
 次郎は相手の「武器を捨て、両手を挙げろ」という警告とほぼ同時に、土魔法で相手との間に土壁を生み出した。続いて闇魔法を放ち、投光器の照射を阻害する。
 次郎の魔法発動に続いて美也も光魔法で生み出していた明かりを消し、火魔法で身体の放熱を遮って暗視スコープを無効化した。
 一瞬で生まれた暗闇と障害物が山中県警の誇る機動隊員達の目を眩ませた隙に、次郎たちは反転してダンジョンの奥に向かって駆け出した。

「待て、止まれっ!」

 そんな警告に前後して土壁の端が対抗魔法で崩され、隙間から覗いた三六式小銃の銃口が激しい火花を散らした。
 発砲音が立て続き、直後に右脚が衝撃を受ける。
 思わず身を竦めた次郎は、一瞬の硬直後に気を持ち直すと、すぐさま美也の手を引いて奥へと駆け始めた。
 二人の後を追おうとした機動隊員たちが土壁に阻まれる僅かな間に距離が開く。それが決定打となって両者は互いを見失ったが、それでも次郎は暫く奥へと走り続けた。
 時折出てくるクロオオアリを追っ手に対する壁にするためにすり抜け続け、どうしても回避できない場合は倒すのでは無く退かしながら強引に道を作っていく。

「どうするの?」

 暫く高速で疾走した後、完全に引き剥がしたと確信できた頃、話しかけるタイミングを見計らっていた美也が口を開いた。
 チュートリアルダンジョンと異なり、新ダンジョンは国家に把握されている。そんなダンジョンに潜っている以上、警察との遭遇はいずれ起こり得た事態だ。
 二人は最初から顔を隠しており、捕まりそうになっても転移で逃げ出す事が出来る。
 事前に遭遇時の対策も用意しており、それも上手く機能して出し抜けた。
 それでも二人にとって想定外の事態は発生していた。

「撃たれた」
「身体を狙っていなかったから、警告射撃だと思うけど……」
「勿論そうだろうけど、手元がズレたのか足を撃たれた」

 次郎は立ち止まり、右脚を上げてズボンを引っ張って見せた。
 ズボンは右脚のふくらはぎ部分に穴が空いており、破れた部分から覗いた皮膚は赤くなっている。さらに靴にも穴が空いており、脱ぐと弾頭が転がり落ちてきた。

「大丈夫なの?」

 途端に真剣みを帯びた美也が、次郎の撃たれた足を覗き込んだ。

「ああ、血は出ていない。何しろレベル三九で防御五だからな」
「本当は怪我してるとかだったら、ちゃんと言って。銃創は弾が回転して肉が抉れるし、弾が体内に残って危険だから」
「いや、マジで大丈夫。回復魔法もいらないと思う」
「ちょっと見せて」
「…………はい」

 転移能力を絵理に知られて以降、次郎は一時的に美也に逆らい難くなっている。素直にズボンの裾を上げ、靴下を脱いでみせた。
 光魔法で明かりを出しながら、納得するまで傷を観察した美也は、確かに銃弾を弾いているようだと結論づけると安堵の溜息を吐いた。

「撃たれたのは予想外だった」
「うん」
「美也に当たっていたら拙かったな」
「わたしもレベル三四で防御三だけど?」
「俺よりは柔らかいだろ。それに機動隊に撃たれると、かなり精神に来るな」

 機動隊は、全国で約三〇万人居る警察の一部隊だ。
 本機機動隊一万名の他に、状況に応じて管区機動隊や第二機動隊が編成されて最大三倍にまで膨れ上がる基幹部隊の一つである。
 通常の警察では困難な任務に投入される性格上、体力のある隊員ばかりで構成され、アサルトライフルなど各国の対テロ特殊部隊と遜色ない装備も持っている。
 出動目的は治安確保であるが、内容に応じて装備が変わり、特殊任務においては最初から武力制圧も辞さない。そしてこれは、どう考えても特殊任務であろう。
 彼らの公式な任務は巨大構造物の封鎖であり、ダンジョンから溢れ出したコウモリ退治を行う自衛隊と共に任務に当たっているというのが世間の認識だが、実際にはダンジョン内でもしっかりと活動している。
 いかに集団とは言え、ここまで潜って来られるレベルから推察するに、おそらくはチュートリアルダンジョンが封鎖されていた頃から編制されていた部隊なのだろう。
 経験値が最低でも一〇〇倍以上も必要な大人の彼らがレベル一〇に達するためには、最低六万匹ほどのコウモリを倒す必要がある。一日一〇〇匹倒しても二年近く必要で、今の新ダンジョンが出てからではとても到達不可能だ。
 レベルはそこまで高く無さそうだったが、流石にレベル三や四でこの場に来るのは自殺行為だ。チュートリアルを経験していないなら、いくら何でも地下一二階まで来られるはずが無い。

「俺たちが倒した魔物の死骸を見つけて、一斉捜索でもしたのかな」
「そうかもしれないね。これからどうしようか?」
「せっかくマップを埋めて良いところまで来たのに、ここで収納能力を諦めるのは惜しい」
「そうだけど、撃たれたんだよ」
「だからこそだ。あいつらは不法侵入者を捕獲するつもりなのかもしれないけど、そもそもダンジョンは日本の地下じゃなくて、巨大構造物の入り口から別空間に繋がっている」

 次郎の断言には、根拠がある。
 地下に広がるダンジョンは、都市を丸ごと飲み込むほど大規模だ。
 それにも拘わらず、巨大構造物が出現した新宿などの地下にある地下鉄や下水管などが、ダンジョンに押し潰されず綺麗に残っているのだ。
 構造物だけでは無く、地盤も水脈もそのまま残っている。
 ダンジョンの上と思われる場所から地下に向かって地面を掘っても、ダンジョンには行き着かない。
 そのためダンジョンは日本の地下では無く、別空間に在ると考えるのが順当だ。

「従ってダンジョン内は日本国外になるから、日本の国内法が適応されない。俺たちは、公海上で海賊船から止まれという警告と同時に実弾で撃たれたようなものだ」
「つまり、結論は?」
「海賊船に従う謂われは無い。これからもフロンティアを目指して航海を続ける」
「レベル一〇にも届いていないみたいだから、私達を追っては来られないと思うけど。でも先制攻撃された証拠は、しっかりと残しておこうね」

 美也は作動を続けている携帯ペン型カメラで、次郎の撃たれたズボンや靴、皮膚や弾丸などを念入りに撮影していった。
 次いで遭遇時の状況を、細部まで詳しく口頭で補足説明して記録を終える。

「後で動画をコピーしておくね」
「…………分かった。任せる」
「これは家に置いておきたくないから、ますます収納能力を取らないといけなくなったね」

 美也の同意が得られた次郎は、再びダンジョン深部へと進み始めた。
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