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日本にダンジョンが現われた! 作者:赤野用介

第一巻 日本にダンジョンが現われた

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21話 世界の反応

 二一世紀に入ってから、千年に一度の大災害を二度も経験した日本においても、全国で数十万匹にも及ぶ巨大コウモリが発生した事による影響は、極めて甚大であった。

 巨大コウモリの大発生後、一時的に制空権を確保できなくなった日本では、安全のために複数の空港が航空機の受け入れを拒否した。とりわけ首都圏の空港は拒否の姿勢が顕著で、すべてを地方へ押し付けようと躍起だった。
 だが各国から飛んできた航空機の一部は最初から燃料が乏しく、出発国へ引き返す事が出来ない状態で各地をたらい回しにされた結果、燃料不足に陥った。
 そのため各機長は、燃料不足による『緊急事態』を次々と宣言し始めた。
 緊急事態の宣言が行われた航空機は、自衛隊や米軍基地だろうと無関係に最優先で緊急着陸できる。なにしろ拒否すれば、空から航空機が墜落して来るのだ。頭を押さえられた地上側には、拒否権など存在しなかった。
 こうして各空港は予定外の緊急着陸を受け入れて、次々と機能不全に陥った、

 また国内の電車も、一時的に半数近くが停まってしまった。
 なにしろ巨大構造物の出現位置は、各都道府県で利用者最多の駅付近である。
 山中県であれば、山中駅の正面に向かい合う形で同規模の巨大構造物が出現しており、東京都であれば、新宿駅から目と鼻の先にある新宿御苑の西半分が巨大構造物に変わっている。
 そんな至近距離から一万匹もの巨大コウモリが現われて人間を襲い始めたのだから、安全など確保できるはずもなく、国内の路線は滅茶苦茶になった。
 高速道路や幹線道路も事故車両が道を狭め、緊急車両を通すための通行止めが相次いだ結果、人の往来や物流が停滞した。
 総理が行った緊急記者会見では、巨大構造物四七ヵ所の半径一〇kmには屋内避難指示が出され、不要不急の外出は控えるようにと通達された。
 諸外国から見れば、日本は非常事態宣言の発令と何ら変わらない状態に陥った。


 そのためアメリカ合衆国のライアン大統領が、日米安保条約に基づく在日米軍の自衛的活動とアメリカ太平洋軍の派遣を通告した時、混乱状態にあった大場総理には咄嗟に断る術が無かった。
 予てより介入の機会を窺っていたアメリカ軍の行動は、極めて迅速だった。
 沖縄に臨時配備されていた攻撃ヘリコプターAH九一サラマンダーや、アメリカ本土から長駆した無人戦闘攻撃機X七四ゴルゴンなどの最新機動兵器が、日本の空を縦横無尽に飛び交いながら、強烈な機関銃やミサイルの雨によって巨大コウモリの群れを瞬く間に叩き落としていった。
 流石に仮想敵国との兵器開発競争に明け暮れる世界最強の軍隊だけあって、コウモリ達はゲームの的であるかのように次々と、いとも容易く潰されていった。
 もっともアメリカ軍が戦果を挙げるたびに、日本がアメリカ合衆国に対して何らかの譲歩を迫られるであろうことは誰の目にも明らかであったが。
 一方で自衛隊は、アメリカ軍の型落ちや世代落ち兵器を高額で押し付けられる立場であったが、それでも地の利と人数を活かして戦果を挙げ続けた。
 そんな各地での戦果と共に、コウモリ側も一昼夜攻撃を行った後は一斉に山や森へ逃げだした事で、戦闘は一気に収束していった。
 しかし報道機関に取り上げられた新たな問題によって、事態はさらに複雑化する。

「引き続きまして、レベル問題についてお伝えします。巨大コウモリ氾濫後、被害を受けた各地の市民からレベルが見えたという報告が相次ぎました。共通する内容として、いずれも身体能力五種類、魔法能力六種類の一つが上げられるようになり、魔法を選択した人は、何も無いところから火や水、光などを自在に生み出せるようになりました」

 テレビの画面が、ニュースを読み上げる女性アナウンサーから、インターネット上に投稿されて再生数が跳ね上がっていた有名な動画に切り替わった。
 動画では男子高校生が、空き缶や七月四日付けの新聞紙を全方向から撮影して何の仕掛けもない事を証明した後、ガレージに並べる様子が映されていた。
 そして空き缶と紙を並べ終えた少年が、仰々しく構えて手を突き出した数秒後、掌の先から卓球の球くらい火球が飛び出して空き缶を弾き飛ばし、新聞紙を燃やした。
 この動画は、巨大コウモリが出現した七月四日の夜に投稿されたものだ。
 最初は真偽を廻って大議論が巻き起こり、コウモリ出現関連の掲示板などへ大量のリンクが張られ、一夜にして五〇万回を超える再生数を弾き出した。
 だが同様の主張をする複数名からの新動画が続々と投稿されていった結果、魔法を撮した最初の投稿として不動の地位を築いている。

「御覧頂きました映像は、視聴者が投稿したものです。投稿した男性高校生は取材に対し、火を〇から一に上げて、火の球を生み出せるようになったと語りました」

 テレビの画面は、再びスタジオに戻った。

「そして芸能界でも、Sylphidシルフィードの四人が、レベルが見えたと発表しています。Sylphidは病院で行った記者会見で、メディアの前で魔法や身体能力を実演しました」

 Sylphidシルフィードは、日本人と外国人のハーフとクォーターで結成された現役女子中高生の人気アイドルユニットだ。
 リーダーの片山真暖(マノン)は、次郎と同い年の高校一年生。
 祖母がフランス人のクォーターで、最初はフランス語会話でテレビにレギュラー出演して知名度を上げた。
 初レギュラーから一年ほど経った頃には、その容姿とトライリンガルの能力を活かして英会話番組を掛け持ちするようになり、CM出演で人気を博し、ついに大河ドラマに大抜擢された。
 その後にSylphidを結成して歌手活動も行い、曲を出せばランキング入りし、コンサートでは数千人を動員できるほどの人気を誇っている。
 なおSylphidのメンバーには、片山真暖の他に、同じく子役時代から芸能活動をしていた三人がいる。父がフィンランド人のイリナ・アウヴィネン。父がトルコ人のアイシェ。母が中国人の遠田華。
 彼女たちは自分たちのルーツを個性として活かしながら、ユニット単位でいくつもの番組に出演している。
 そんなSylphidが三枚目のCDジャケット撮影のために沖縄へ赴いていたところ、コウモリが大発生し、在日米軍の攻撃ヘリコプターと争う現場に巻き込まれてしまった。
 乗っていた車が事故を起こして逃亡手段を失う中、弱ったコウモリたちに襲われて必死に抵抗し、体内から臓器ごとはみ出した魔石に触れた時にレベルが上がったらしい。
 その後、彼女たちはレベルに活路を見い出して応戦する事で、辛うじてコウモリの襲撃から生き延びたそうである。

 入院中の病院で行った国内外のメディアに対する記者会見では、全員がレベル三になって片山真暖が魔力と火を二に上げ、イリナが火・水・光、アイシェが体力と攻撃と敏捷、遠田華が魔力と火・風を得たと発表した。
 そして四人は、実際に沢山のカメラの前で魔法や身体能力を披露してみせたのだ。
 マスメディアの数十台のカメラが並ぶ中で行った魔法の実演は、ネット上に投稿された動画と異なり、本人たちには編集の余地が一切無い。
 その映像を見た世界の人々は、魔法が存在する事を共通認識とせざるを得なくなった。
 さらにSylphidは、極めて重要な情報を出している。
 それは欧州人、北欧人、中東人、アジア人との混血でも、レベルが上がるという事だ。
 各国から共感されやすい立場の彼女たちが行った、日本人以外でもレベルの影響を受けると言う情報は、既に地球の半分以上の国々で放送されている。
 そのため各国の情報を求める要求は、劇的に増した。

 それに対して峰岸官房長官は、日本政府は健在であり、日本国内での調査は日本が主体となって行うと発言した。
 官房長官の言い回しが「日本が行う」から「日本が主体となって行う」に変わったのは、アメリカ側への配慮であろうと世間から認識されている。
 一方で国民に対しては、レベルについてはどのような副作用が出るのか分からないため、不用意に取らないようにと呼び掛けただけだ。
 また発表は国外メディアを排除した記者クラブで行われており、目新しい新情報もなく、調査内容の具体的な言及も避けられた。
 その官房長官の対応に、とりわけ記者会見に呼ばれなかった国外メディアは苛立ちを募らせており、国外での報道は情報公開に後ろ向きな日本政府に対する批判の嵐となっている。
 一方で優遇されている国内メディアは、流石に日本政府を突き上げるような事はしていないが、Sylphidの記者会見には飛び付いて、様々な立場の者を呼んで多様な意見を述べさせている。

 女子アナウンサーがこれまでの経過を説明し終わったところで、司会者の菅山雄大が出演者達に話を振った。

「Sylphidのメンバーは実際に魔法を使って世間に衝撃を与えましたが、皆さんは映像をどのようにご覧になられましたか。亜寿沙さん、彼女達の魔法を見て如何でしたか」

 話を振られた柊亜寿沙は三〇代の女優・タレントで、高校時代から芸能活動を続けている。何も考えずに自由な発言をするため、テレビ局にとっては都合の良い人間の一人だ。発言自体のコントロールは困難だが、過激な発言の方が視聴率を取れる。
 時に危ない発言もあるが、それは司会が良識的に遮ってみせる事で、テレビ局の見解は司会者側と同一だと視聴者に誤認させて評価も上げられる。

「火の魔法って、ガスコンロとか水道で代用できそう。芸人ならいいけど、日本のアイドルは使い道ないですねー」
「なるほど。確かに生活必需品では無いかも知れません」
「でもトルコなら、火の魔法は便利かも。あとは水とかも」
「では五井さんは如何ですか」

 司会者が中東への偏見を遮るように話題を振り直した先は、時代劇や刑事物で活躍する俳優の五井甚平だ。
 大柄で厳つい顔の彼は、頑固で融通が利かない役を担う事が多く、番組でもご意見番的な立ち位置を求められる。
 本人も自分が望まれる役回りを理解しており、敢えて頑固な面を見せる。

「記者会見で軽々とバク転をして見せた小柄な子がいましたが、元々は平均的な身体能力だったというのは本当ですか?」
「アイシェさんですね。以前出演した別の番組では、そのような結果が出ていたようです」
「あれくらい自在に動ければアクション女優になれますが、そんな力が一夜で手に入るなら、役者としての長年の身体作りは何だったのかと思いますね。必死に生き延びた本人を責める気はありませんが、レベルは格差問題になると思いますよ」

 憮然とした表情を浮かべて見せた五井の意見は、決して多数派と言うわけでは無かった。
 レベルが見える条件は一部未解明だが、少なくともコウモリを倒して魔石に触れば良いと言う事は分かっているため、レベルが欲しい者は武装して各地に逃げたコウモリを追い回している。
 レベルが見えるまでのコウモリ撃破数には、個人差がある事も知られ始めている。
 ネット上に集められた情報によれば、一八歳を境に区切りが存在するようである。
 だが複数匹を倒してレベルが上がった報告もあった事から、とにかく沢山倒せばいつか上がると言う事で、都会からコウモリの多い田舎の森まで遠征に行く人達も居る。

「千葉さん、医者としてはいかがでしょう」

 五井の次に話を振られた千葉美冬は、元アイドルで医師だ。
 医学部に受かってから研修医を終えるまで芸能活動を休止し、医師になってからは父親が院長を務める病院で週に数日働く傍ら芸能活動にも復帰したアイドル医師である。
 アイドルから医者になったという極めて異彩な経歴を持つため、このように様々な番組に呼ばれている。

「そうですね。わたしが驚いたのは、イリナさんの光魔法です。記者会見の場で切り傷を作った後、魔法で傷を最初から無かったかのように綺麗に消していましたけど、あれは再生治療の超高性能版かもしれないですね。医学と組み合わせれば、これまで助けられなかった方も助かる可能性があります」
「一体どういう方が助かるのでしょうか」
「どこをどれだけ再生できるのか詳しく調べる必要はありますけど、例えば外科系では、従来では死亡していた多発外傷の救命や、回復不可能だった脳の損傷や頸椎の麻痺に新たな治療法を確立できる可能性があります。内科系では、臓器や細胞の再生が可能なら人工透析や糖尿病の患者を完治できます」
「それは、凄いですね」
「はい。魔法の力を現代医学に還元できれば、一〇〇年分のノーベル医学賞が乱発されるくらいの事態になります」
「一〇〇年分のノーベル医学賞ですか!?」

 一〇〇年分のノーベル賞という言葉が飛び出し、司会の菅山は大いに喜んだ。
 大言壮語は注目されて視聴率が上がり、スポンサーが付いてCMの広告料も入るので番組にとっては大変喜ばしい。
 そのためもっと話して欲しいとばかりに、単語を取り上げて聞き返した。
 しかし発言した千葉美冬自身は、発言を大言壮語だとは思っていなかった。彼女は力強く、先ほどの発言を堂々と肯定する。

「はい。現代医学では、いかに低侵襲性の治療を行うかが基本でした。低侵襲性とは、身体をなるべく傷付けずに治療する事です。そうする事で身体の負担が少なくなり、回復や社会復帰が早くなるというものでした」
「なるほど」
「ですが未侵襲の治療が可能になった場合、現代医学の標準治療が根底から覆ります。新たな治療法では、傷病者が一瞬で治り、即座に社会復帰が可能になります。さらに高額な薬剤や材料が一切不要で、医療資源も大幅に抑制できます。そんな魔法のような治療が始まった場合、日本と世界がどうなるか分かりますか?」
「…………どうなるのでしょう」
「日本では、少子高齢化によって国家喫緊の課題であった、労働力の回復と税収の増大、さらに毎年数十兆円という医療費の大幅な削減が期待出来ます。また世界でも、魔法であれば高額な薬剤や材料が不要になるため、経済的に貧しい国でも様々な疾病が治って大勢の人命が救われます。仮に日本が規制しても世界が行いますので、結果として医学が最低一〇〇年分の躍進をするのは時間の問題です。きっと、もう誰にも止められませんよ」

 アイドル医師である千葉美冬の発言以降、世界中のメディアが魔法の可能性に飛び付いて、日本政府に対して強く情報公開を求めるようになった。
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