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日本にダンジョンが現れた!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第一巻 日本にダンジョンが現れた

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18話 新ダンジョン攻略中

 二〇四四年五月二九日、日曜日。

 日本の駅前にドーム状の巨大構造物が出現してから三週間以上が経過した。

 その間にあった大きな出来事としては、国連側の幹部が国際的な調査チームを出す意向をマスコミに流し、定例会見で問われた峰岸官房長官が「日本国内の調査は、日本が行う」と答えた事だろうか。

 主権国家としては当然の回答であったが、常に受け身で弱腰の日本側が明確に断った事は、日本をよく知る各国に衝撃を与えた。

 実際に日本は巨大構造物の入り口を壁で完全に覆い、昼夜を問わず警察官をズラリと配置し、猫の子一匹通さない構えを貫いている。

 官房長官の発言後、巨大構造物は世界からより一層の注目を集める事になった。


 一方で次郎の身近な出来事といえば、五月八日の日曜日にダンジョンの地下三階まで辿り着けた事と引き替えに、五月一二日と一三日に行われた中間テストではクラスで九位という微妙な順位になった事だろう。

 入試の時は一〇位だったので、そこから一人だけ抜いた。だが美也との勉強の積み重ねがあってこの成績というのは、当初の想定よりもかなり悪い。

 もしもダンジョン攻略を捨てて勉学に集中していれば、さらに数人は抜けたはずだ。

 しかし学校内の定期試験で数人抜く事と引き替えにダンジョンの攻略特典を諦めるのは、あまりに勿体ない気がした。


「それに付き合ってもらって、悪いな」

「ううん。わたしも収納は欲しいから、気にしなくて良いよ」


 とはいえ美也単独であったなら、存在が露見しているダンジョンの攻略に乗り出したとは思えない。北村の件で明らかなように、洞窟で魔物を倒せば、何処かへ連れて行かれて調べられる。

 レベルを持たない北村は中間テストの後に無事解放されて公欠扱いになったが、日本が公表していない秘密を知る次郎や美也は確実に帰して貰えないだろう。

 そのため二人は、国の調査隊に遭遇しないよう、平日は夕食を終えた後の夜から潜り、土日は日中の時間を用いて可能な限り奥へと進んだ。

 新ダンジョンは確実にチュートリアルダンジョンよりも広く、通路も複雑で進み難くかった。加えて魔物の数も、かつてのチュートリアルダンジョンに比べて倍加している。

 それでも成績を犠牲にした結果、五月一五日には地下四階、五月二一日には地下五階まで辿り着いている。


 概ね一週間に一階をいう早いペースで下っているが、今のところ周辺で魔物の死骸などは見つかっておらず、山中県警には先んじているようだった。

 次郎は新ダンジョンで得られたボーナスポイントを全て闇に振り、ダンジョン内で遭遇した際には姿を隠しながら逃げる算段も打ち合わせてきたが、今のところ全て無意味になっている。

 おそらく先方は、次郎たちが転移で自宅とダンジョンを往復しながら探索している事など想像もせず、じっくりと地図作りでもしているのだろう。

 初見のダンジョン内を記憶して思い描くのは容易ではないが、カメラで撮影して見返せば問題なく跳ぶ事が出来る。かつて美也が両親の行為に対する証拠集めで用いたカメラは、現在も新たな用途で活躍している。

 あるいは政府は、首都圏を優先させて山中県までは手が回らないのかも知れない。

 そのため二人は誰にも邪魔される事無く、チュートリアルダンジョンで折り返し地点だった地下六階まで到達していた。


「はぁ、やっと地下六階か」

「調査隊を引き離すために、ちょっと無理しすぎたね。これから普通のペースで進んだら、地下一〇階に辿り着くのは六月末から七月頭くらいかも」


 ダンジョンが地下何階まで続いているのかは分からない。

 だが常識的に考えれば、練習的な意味合いのチュートリアルダンジョンよりも、本格的に出現した新ダンジョンの難易度が高いであろう事は想像に難くない。

 であれば新ダンジョンは、チュートリアルダンジョンの最深部だった地下一〇階以上の深さであろうという考えで二人の意見は一致している。


「期末テストが六月三〇日と七月一日。どうせ被ってしまうなら、少しペースを落として勉強もしておくか」

「それならあまり進めない平日は予習復習を中心にして、探索は土日だけにしようか?」

「仕方がない。かなり先行したから、平日は息抜き程度で我慢しておくか」

「うん、それが良いよ」


 中学時代からダンジョンに入り浸る二人には、探索と成績のバランスを調整する感覚が自然と身に付いていた。

 調査隊の動きは不確定要素だが、彼らがどこまで進んでいるのかを確認するために浅い階層へ赴いて発見されれば本末転倒だ。同じ階に居ない事を信じて、ひたすら前に進むしかない。

 地下五階から下る道に入った次郎と美也は、すぐに地下六階に降り立った。


 地下六階の入り口付近はグラウンドくらいの広い空間になっており、そこにはチュートリアルダンジョンの地下六階にも生息していた巨大なヤモリの姿が数十匹も見て取れた。

 魔物は形状が変化してより攻撃的になっているが、次郎たちのレベルが上がりすぎたせいか、遭遇すると半数くらいは通路の奥へと逃げ出していく。

 この逃亡行為はチュートリアルダンジョンの巨大コウモリから既に起っていた現象で、魔物達は機械的では無く、生物としての生存本能のようなものを持っているようだ。

 次郎は逃げ出した魔物を無視し、逃げ出さなかった手前の一匹に右手の石槍を向けると、わざとらしく解説を始める。


「さて出ました、懐かしの巨大ヤモリ君の登場です。白亜紀の大地を思い起こしそうな土色の皮膚ですが、灰色のダンジョン内では保護色の意味がありません。これは保護色を持たずとも、天敵なんて存在しないと主張したいのでしょうか」

「単に土系統だから、身体が土色なんだと思うよ」

「うぐっ」

「攻略の総合評価をSにする条件が分からないから、魔物はちゃんと全種類、一定数を倒してね。それと、なるべく沢山のフロアに入ってレベルも上げようね」

「……うい」


 鋭い突っ込みとオカンの説教を同時に浴びせられた気分になった次郎は、渋々と大型犬サイズの巨大ヤモリの前に歩み寄る。

 そして反射的に噛み付いてきたヤモリの口を避けて背後に回り込み、長い尻尾を踏み付けた。


「哺乳類との戦いに尻尾を持ち込むとは、なんて卑怯な爬虫類だっ!」


 尻尾を踏み付けた次郎の足の裏に、グニャリと柔らかいものを踏んだ感触が伝わってくる。

 かつてチュートリアルダンジョンで戦った時には、それなりに硬かった尻尾だ。

 おそらく地上にいるワニと比べても素体の頑丈さには遜色が無いはずで、銃弾が効かなかった巨大コウモリのようにダンジョンの不思議なエネルギーで補われている分だけ、巨大ヤモリの方が堅さで勝っているはずである。

 もしかすると機関銃ですら、皮膚を貫けないかもしれない。

 しかしレベル三三に上がって、その分だけ不思議な力で強化されている今の次郎にとっては、硬いはずの尻尾もマシュマロのように柔らかく感じられる。

 レベルが上がるごとに身体に不思議な力が纏わり付き、それがヤモリの身体を覆う何かを中和しているようなのだ。加えて身体能力も上昇しており、次郎の攻撃は二重に通り易くなっている。

 本気で踏み付ければ、踏み切る事すら出来るだろう。その場合は尻尾の前に、次郎が履いている靴の方が破損してしまうのだが。


「おっと、逃げるなよ。地上を支配したご先祖様の名が泣くぞ」


 次郎に踏み付けられたヤモリは危機を感じたのか、くねくねと身体をよじらせて、踏まれた尻尾を切り離した。

 そしてヤモリが自由を取り戻す直前、次郎の右手から石槍の矛先が伸び、ヤモリの背中から突き刺さって前胸部へと突き抜ける。

 まるで千枚通しで薄い紙を貫いたかのように、双方に存在する絶対的な強度の差が、抗いようのない一方的な結果を生み出したのだ。

 胴体を串刺しにされたヤモリは、頭部と四肢を激しく振って、拘束から逃れようと藻掻き、鳴き声を上げて必死に抵抗した。


「ギイィイ、ギィャヤアアアッ」


 まるで一億年前の恐竜時代を彷彿とさせるような鳴き声だった。

 かつて地上を支配していた絶対的強者として、地上の片隅でコソコソと生きていた哺乳類の子孫を威嚇しているのだろうか。

 しかし、イモリと人間の身体のサイズは、一億年の時を経て逆転している。少なくとも両者の力関係においては、地上のイモリと人間並に開きがあった。

 次郎は右手の槍でヤモリを押さえ付けたまま、左手にも石槍を生み出してヤモリの頭部を叩いて、爬虫類の絶叫を強制的に黙らせる。

 鈍い音が響いた時、ヤモリの頭蓋骨は上からの衝撃で割れていた。さらにそのままの勢いで床面に叩き付けられ、割れた頭蓋骨がさらに細かく粉砕される。

 だが頭部を破壊されたヤモリは、恐ろしい体力でなおも四肢を動かし続けた。

 その心臓付近に、頭部を破壊した槍が突っ込まれ、体内の石を引っ掛けて弾き出した。すると石を取り出されたヤモリは、今度こそ絶命した。


「もっと簡単にならないかなぁ」


 返り血を浴びないよう慎重に戦った次郎は、愚痴りながら土色の石を手に取る。

 触れられた石は瞬く間に色褪せ、土色から灰色へと変わっていく。そしてダンジョンの壁や床と同色に変わると、ボロボロと崩れて手からこぼれ落ちていった。

 その一方で美也は、風魔法を放って周辺のヤモリを纏めて斬り伏せていた。

 そして最短の距離に倒れる一匹に歩み寄りながら追撃の風を放ち、石を取り出しやすいように身体を切断する。さらに辿り着くまでに、傷口から血が流れないように炎も放った。

 そんな姿を見た次郎は、ふと思い付いた。


「炎と風の魔女。これで高校の制服なら、漫画の表紙に載せられるな」

「綾村さんが喜んで描きそうだよね」


 切り刻まれ、焼かれたヤモリは、石を取り出すまでも無く絶命している。

 美也の魔法を生み出したエネルギーが、ヤモリの体内にあった石に打撃を与えたからだろうか。魔法の理論に関しては、殆ど分かっていない次郎と美也である。


「よし、六階のノルマ達成。後は地下七階を目指すだけだな」

「それが長いのよね。それに一〇階の先もあるかも知れないし」

「それなら、今度こそ宝箱を期待したいな」

「宝箱?」

「おう。チュートリアルじゃない普通のダンジョンが出てきたし、今度こそ回復薬とかを期待したいところだ」

「そんなのが見つかったら、研究に回されて世の中には出回らないよ。売ったら調べられて、捕まるから駄目」

「だったら闇ルートで売り捌く!」

「それってどこにあるの?」

「…………夜の歌舞伎町とか新宿の裏通り?」

「見つかると良いね」


 周辺に転がる石を自らの力に換えた二人は、広い空間の奥に向かって走り出した。

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