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龍人転生~苦労の絶えない異世界道中~  作者: 白玉蛙
六章 ベクトリール
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エグルフ

  その日の夜、ベクトリール城に戻った俺達は事の顛末を使用人さんに話した。




「なんと!? ……失礼」


  その結果がこの驚きようなのだが、そんな素で驚く程凄い人物だったのだろうか?


「何か存じ上げているんですか?」


勿論です。と懐かしそうな様子で教えてくれた。


「この場所は、数十年も前に『剣造神』と呼ばれた人物が工房を開いていた場所なのです」


「剣造神?」


  名前のまま読んだら剣を造る神様となるだろう。


「あらゆる鉱物から剣を打ち、神から神器を造る力を(たまわ)った……という伝説を持つ土人族(ドワーフ)の職人でございます」


「え、あの人ってそんな人物だったんだ……」


「で、出会ったのですか?」


  信じられないものを見るような目を俺に向けた使用人さん。ちょっと視線が痛い。


「というか、その場所を指定したのがその人です」


「なんと、エグルフ殿がファル殿を……」


  エグルフっていうのか。


「その人物について、何かお聞かせ願えませんでしょうか?」








「成る程……ありがとうございました」


「お役に立てて何よりでございます」


  使用人さんから聞いた話だとこのエグルフという人物、長耳族(エルフ)には劣るもののかなりの長寿で知られる『土人族(ドワーフ)』であるらしく、今から数えて二世代前、マグナさんの父親が王をしていた頃からベクトリールで武器屋を営んでいたらしい。ベクトリールの暗部を転移させたあの剣も、その人物が作ったものとみて間違いないだろう。

  そしてマグナさんがまだ十代半ば程だった頃に忽然と姿を消し、行方不明のまま現在に至るのだという。


  ちなみにかなりの偏屈家であったらしく、才能のある相手にしか剣を打たず、貴族だろうが王族(ベクトリール)だろうが気に入らなければ門前払いをしていた豪胆ものらしい。




  ある程度どのような人物かは大体分かったし、取り敢えずルーガ達に心配は無いって事だけ伝えにいくかな。


「ありがとうございました。では私はこれで「一つ頼み事があるのですが、宜しいでしょうか?」……可能な範囲ならば」


  部屋に戻ろうとした俺を呼び止めた使用人さん。様子からみて個人的な頼みのようだが、何なのだろうか?


「エグルフ殿と出会った時と経緯について、我が王の娯楽の一環としてお聞かせいただきたいのです」


「経緯……ですか?」


  経緯も何も、ルーガから逃げてたら道に迷って暗部と話してたら空間魔法で閉じ込められて出会っただけなんだけども……。


「はい、童話としても語られる程の知名度を誇りながら、数十年も姿を見せずに死んだとも言われていた剣造神が何故、突然姿を現したのか……。近頃暇を弄んでいらっしゃいます坊っち……王子には程良き刺激となる事でしょう」


「……では私がベクトリールの街を歩いていた時辺りからで良いでしょうか?」


「お願い致します」


  王子――マグナさんの息子だろう――ってまだ坊っちゃんって言われてる年齢なのかな? と内心で思いながら、暗部の事を伏せつつ使用人さんに先程以上に細かい場所まで話した俺。

  懐から取り出した羊皮紙にメモを取っている姿が、どこぞの記者と似ていると思ってしまったのはここだけの話。







「……っていう事があったんだよね」


  使用人さんとの会話を終えて部屋に戻った俺は、いつの間にか人の部屋で(くつろ)いでいたルーガとジャックさんに先程聞いた事を話した。

  このままだと「ファルちゃんが心配です!」とか言って付いてきそうだったから、まぁ無理矢理早めてもらった。


「ファルちゃんに話し掛けてきたのはそんな凄い人だったんですね」


  俺もそれはつくづく感じてる。だって、突然現れて剣を使って目の前にいた人物を突き刺したような人物だぜ? そんな凄い相手とは思わないだろう。

  現に俺は使用人さんに聞かなければ、全体的にヤバい人というイメージで固まっていただろう。


「それで、お前さんは改めてどうするつもりなんだ?」


「武器職人っていう話だし、それならルシアに気付いたのにも納得かな? って事で行くよ」


「ライムもいク!」


  俺の言葉に元気よく名乗りを上げたライム。


「そういえば完全にタイミング逃してたんだけど……」


「ん?」


「随分と変わったな」


  ルーガが冒険をしていた頃に着ていた服を肉弾戦用に改造したような服を着ているライムにそんな感想を洩らした俺。なんというか、ダボダボな裾に四苦八苦しているライムを見てると和むな。


「そうでしょう! 大変だったんですよ? ライムちゃんに合う色が見当たらなくて探したんですから」


  露出がどうだの目立った服だのと言っていたが、結局は若干目立つ程度の服で落ち着いたみたいだ。

  まぁライムが踊り子みたいな服を着てたら、それはそれでコメントし難かっただろうし、これくらいが丁度良いのだろう。


「っごきにクイ」


「でもまぁ、似合ってると思うよ」


「え~それだけですかぁ?」


  もっとあるんじゃないですか? と何故か不服そうにしているルーガ。


「えへへ……」


「ライムちゃんもそれだけで良いんですか!?」


「良かったな、ライム」


「んっ」


  軽く頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めるライム。

  と、ルーガが新たに服を数着取り出した。



「あ、それと実はファルちゃんの分も買ってましてですね「さてそろそろ寝るかな」逃がしませんよ?」


「嫌だ! 変な服を着せられる未来しか見えない!」


  全てを見越してたかの如きスピードで俺を捕獲したルーガは、何度目になるか分からないこのやり取りに「もう慣れた」というような勝ち誇った表情で俺を見ていた。

  ……なんだってベクトリールに来て女装しなきゃいけないんだ!




「今回はちょっと違いますよ! ほら!」


「またそんな事言って……って本当だ」


  半信半疑でルーガの持つ服を広げた俺は、それがちゃんとした男物のズボンである事を確認した。

  ……え? あんなに人にドレスとかを強制してきたルーガに何があった?


「ファルちゃんにはこれから外交とかをお願いする事もあるかもですし、流石に近衛兵がずっとその服装というのもあれだったので、思いきって新しい服を見繕ってみました!」


「……てっきり踊り子の衣装とか着せにくると思ってた」


「こればかりは見てた俺も少しばかり驚いたからな」


  一応ちゃんとした理由はあったんだな。しかし外交って……近衛兵の仕事じゃ無くね?

  前世はリーマンだったのでいくらか交渉とか接待とかに自信はあるが、流石に決められた役職外の事をするのはどうかと思うぞ。


「あ、ちなみにファルちゃんのお望みの服も買ってみましたよ。ほら」


「お望みじゃないし買わなくて良いし絶対着ないからな!?」


  ちゃっかり買ってきてるよ、この人は!


「まあまあそう言わずに、こっちだけでも試着してみてくださいな」


「こっちは……まぁ着させてもらうけど」


  ……え? この場で着るの?









「ど、どう?」


「おー、やっぱ格好いいですね」


  取り敢えず一旦部屋から出てもらい、着替えを終えて部屋から出てきた俺。

  見た目は……白いシャツに短ズボンという簡素な服の上に黒ラインが入った白のジャケットを着ている状態で、前世のファッションと少し近いが、どことなく魔術師のような感じである。

  ……エトッフラワーのマントを羽織ってるのに、シャツの丈がヘソが見える程に短いのが気になるな。


「そっちの方が似合ってるんじゃないか?」


「姿見鏡が無いからどんなものか見えないんだよね」


「……その割にはしっかりと着飾ってるじゃないか」


  服の感じ自体が前世のそれと似てたからね。と心の中で答えた俺。


「このままの勢いで他の服も「着ないよ?」そう言わずに」


「ぐっ、俺は明日に備えて早く寝ないといけないんだ!」


  流れるような動作で次々と服を取り出していくルーガとそれらの服が全て女物だったのを見た俺は、ルーガに捕まる前に部屋に引きこもった。

  しかしそのせいで背丈が似ているライムが尊い犠牲となってしまった。黙祷(もくとう)










「使用人さんの話だと、この辺の筈……」


  次の日、俺はエグルフという人物と出会うべく、渡された紙に書かれた住所の場所まで訪れていた。


  この場所に行く際「これは絶対に道に迷うな」と覚悟していたのだが、ベクトリールの使用人さんが朝早くからわざわざ地図を用意してくれた。

  使用人さん曰く「昨晩の話に王子が大変興味を持たれまして……またお願いしても宜しいでしょうか?」らしい。まぁ現に助かったから良いけど。



  それにしても、こんな人気(ひとけ)の無いような場所が本当に工房なのか? 嘘の情報を教えられたのかな?

  路地裏を進んだ先にあった小さな店の跡地を前にそう軽く愚痴った俺。


『あの男性の心拍数や呼吸音から嘘は発見されませんでした。この場所で合っている事は間違いな……御主人様(マスター)!』


「うえ!」


「っおぉっ!?」


  ルシアとライムの声で直感的に真横へ跳んだ俺。するとその横を長細い何かが通り過ぎ、地面を鋭く斬り裂いた。

抵抗なくサクッと地面に突き刺さったものを見て、俺は一瞬固まった。


  剣だ。

柄が一切無い剣がひとりでに浮き、俺を狙って襲い掛かってきたのだ。


『どうやらこれは【念力操作】という物体を浮かせて自由に操る技能(スキル)のようです。……別の二振りが左右から来ます』


「ぉおっ! ……っぶねぇ」


  ブーメランのように弧を描きながら飛んでくる剣を上体を反らして回避した俺は、飛んでくる剣に何やら属性が上乗せされているのを発見し、ルシアに解析を頼んだ。


『計四本、それぞれ『魔法付加(マジックエンチャント)』で強化されています』


『お~、マト◯◯クスだぁ』


(それっぽかったけど言うな!)


  俺が剣を避けた時のポーズがそれっぽかった、と少々空気の読めていないオロチにそう突っ込みを入れながら、今のこの状況をどう打開するかを考える俺。

  普通にルシアを使えば済む話なのだが、実際にルシアを見せてしまっても良いのだろうか? と考えつき、ネックレス状態のルシアを握って元に戻すのを躊躇ってしまっている。


『私を使用する事を推奨しますが……』


(ルシアを使わせて亜理子のあれみたいに操る、とかは?)


『多分それは無いんじゃないかなぁ? 見た感じ『試練を課す~!』とかみたいだしぃ』


  なんか最近、俺の記憶している映画やアニメ等の情報を勝手に覗いているらしいオロチがそう興奮気味に口にした。『本当にこんなシチュエーションあったんだなぁ』と呟いている事から、かなり気に召している様子である。


『そもそも相手からの魔法やら技能(スキル)やらを無効化できる貴方達ならそんなの問題にすらならないんじゃない?』


  と、ディメアがごもっともな意見をくれた。


(それもそうか……よし)


「俺を試してるって受け取っておくよ」


  形だけでもと思い、姿の見えない彼に対してそう語りかけた。


「ふんっ!」


  そして突き刺すような位置で俺に突っ込んできた剣の一本をルシアでもって叩き折った。

  すると、先程までとは打って変わって、力を失ったかのように動かなくなくなり、地面に落下した。まぁ基本動かないのが普通なのだが……。


『前後から来ます。『吹雪(ブリザード)』、『溶岩(マグマ)』の属性です』


「ふっ、っりゃあ!」


  ルシアの言葉に勢いよく屈んで剣を避けた俺。頭上で「ガキィン!」と金属のぶつかり合う音がして、少し怖い。

  そして素早くルシアを振り上げ、掬い上げるように二本を絡め取り、纏めて地面に叩き付けて根本からへし折った。

  残る一本は……。


「ファルあソコ!」


「よっしゃ」


  空中で様子を伺うように停止しているのをライムが発見し、俺に伝えてきた。

  そしてそれを攻撃すべく建物の突起を利用して壁キック、剣と同じ高さまでたどり着きてそれを叩き落とした。

  そしてそのままの勢いで落下し、下に落ちた剣にルシアを突き立てた。しかし予想以上の硬度で、完全に破壊するまでには至らず、軽く弾かれてしまった。


『硬度と威力に重きを置いた無属性の『魔法付加(マジックエンチャント)』です』


  どうやら無属性魔法の影響で、ルシアとほぼ同等の強度を得ているのだそう。


(いけそう?)


『無論です。私も無属性魔法を付加させます』


  直後、ルシアから透明な魔力が流れ、刀身が白く耀いた。そして最後と言わんばかりに突撃してきた剣に向かってルシアを振り下ろした。




  すると、まるでバターを切っているかのように簡単に、先程弾かれていた剣を縦に両断したのだ。


「うおっと……簡単に斬れたな」


『物理威力の強化ですので、切れ味の方も通常より遥かに上がっております』


  上がってるっていうか、これはただの魔改造だぞ……。

  尋常じゃない位切れ味の上昇したルシアにそんな突っ込みを入れてしまった。

……と、






「カカカッ、儂の剣を容易く斬りおるか!」


  小柄な老人が俺のすぐ前に転移してきた。様子から見て、先程の戦いをしっかりと見ていたようだ。


「エグルフさんで、合ってる?」


「いかにも、儂が武器の探究に生を費やしてる土人族(ドワーフ)のジジイじゃ。試すような真似をして悪かったのぅ」


  一応人違いの可能性も兼ねて確認したが、ちゃんと本人みたいだ。……結構ノリの良い人なんだな。


「剣全部壊しちゃったんだけど、大丈夫だった?」


「なぁに気にするでない、今回の為に叩いたやつじゃからの」


  今回の為に、という事は俺と戦つ為だけにあの剣を造ったのだろう。

  うーん、ちょっと整理しきれないな。


「色々と聞かせてもらっても良い?」


「それは儂の台詞でもあるわぃ」


  そう言ってくるりと体の向きを変え、例の工房の中へと入っていった。


「着いてこい、その剣の事を話してやる」

オマケ





シャツの丈がヘソが見える程に短いのが(ry



ルーガによるせめてもの抵抗だと思います。





『お~、マト◯◯クスだぁ』



イナバウアーで銃弾を避けるあれです。





建物の突起を利用して壁キック



皆さんも昔やりませんでしたか? コンクリート塀の凹凸(おうとつ)を使って壁をかけ上がった事。

……私だけでしょうか。

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