ルシアを知る者
投稿遅れて申し訳ございません。
「賑やかですね~」
「相変わらず道が広いな、ってライムあんまり遠くに行くなよー」
次の日、王との話し合いも終わってフリーになった俺達は、ルーガの提案でベクトリールの城下町を散歩していた。
しかしやっぱあれだな、他の街とか慣れない土地って改めて見て回ると新鮮で良いな。
俺は前世で初めて上京した時の感覚と似たようなものをベクトリールに感じながら、ふとそんな事を思った。
「前回は殆どゆっくりできなかったし、今日くらいはこういうのもありかな」
「そうですよ! ファルちゃんだって私に負けないくらい普段から頑張ってくれてるんですから、こういう時は休まないとです!」
何気に一番頑張ってると言っているルーガ。
まぁ女王としての仕事はそつなくこなしてるし、確かに頑張ってるな。
「あ、見てください! 洋服屋ですよ!」
魔法使いが着ているようなローブから動きやすそうな作業服まで様々な種類の服が入り口に置かれている店を発見したルーガ。
「欲しい服でもあるの?」
「アシュトルスとはまた違ったものがあるかもしれませんので軽く見ていっても良いですか?」
そういえば最近ルーガも服装に興味を持ち始めたみたいで、城下町にお忍びで行った時にたまにだが服を買っていたりする。どうやら城下町に行く時に着る服らしいが、花より団子のイメージをルーガに持っている俺からすると少し意外だったりする。
「俺は全然構わないけど」
「特に寄りたい所も無いしな」
という俺とジャックさんの言葉に「じゃあ決定ですね!」と店に突入していったルーガ。
「おぉー、やっぱりベクトリールの服は装飾が多いですね」
店に入って、最初に目についたのだろう胸の部分に宝石の埋め込まれた服にそんな感想を抱いたルーガ。
興味から値段を聞いてみると、なんと銀貨三枚(前世でいう三万円)という意外にも安価な値段であった。
「活火山がすぐ近くにあるからな、その分鉱石が大量に採れるんだろう」
なんというか、アシュトルスでは金貨を使うような値段で取引されててもおかしくないような派手な装飾の服が銀貨数枚で買えるという部分に、どこか土地の違いというものが感じ取れるな。
「炭鉱夫御用達だって。蒸れそうだな」
本当に色んな種類があるんだな、と感心しながら見ていると、採掘や製鉄業に使用しそうな服が置かれている場所を発見した。
物凄く頑丈そうだが、通気性が見てくれから残念そうな服の数々にそんな感想を溢した俺。
しかし通気性の方は、言うほど酷くも無いらしい。
「着た人物に風属性魔法を発動させてるから意外に涼しいらしいぞ」
「そうだとしたら、凄い高そうだな……」
流石にこれは魔法を付加させているというだけあって銀貨八枚だった。
「服は銀貨5枚までですよ」
「買わないから、って……その服の数々は一体どうするつもり?」
おやつは一人三百円まで、的なニュアンスで注意してきたルーガに突っ込みを入れるべく振り返ると、ルーガが色の派手な服を何着か持っているという姿が目に入った。
サイズ的に子供が着るようなものばかりなんだが……。
「ほら、ライムちゃんって飾りっ気の無い服ばっかり着ているじゃないですか。なのでこの機に何着か服を買おうかなと」
あぁライムか、と内心で安堵のため息を吐いた俺。しかし何故ライムの服?
「アシュトルスでも良かったんじゃないか?」
ジャックさんもそこは気になったらしく、何故にベクトリールで買うのか、という質問を投げ掛けた。
「えっとですね、アシュトルスは比較的無難な服ばかりが揃っているんですよね」
「? それで良いんじゃないの?」
「別の言い方をすると『地味』なんですよ!」
地味、まぁ確かに分からなくもないな。
アシュトルスは比較的形から入るのが礼節とされている部分があり、今まで殆ど気にしてはいなかったが、ベクトリールは城下町でも踊り子のような露出度高めの服を着ている人が多いのに対して、アシュトルスはセーターのような簡素な作りのものを着ている人が殆どだった。
個人的にはそれが普通だと思うのだが、昔から様々な国を転々としていたルーガは納得していないらしい。
まぁ、旅してた頃のルーガの服装がヘソ出し和服にノースリーブのコートだったし、カトラさんとかも筋肉を見せるための鎧を着てる感じだったから、とりわけそれらが変という訳では無いのだろう。
「多少の危険を冒したとしても、もっと目立つような服があるのも良いと思っているんです!」
「ルーガは服に何を求めてるの!?」
危険ってなんだよ! と突っ込んでしまった俺はきっと悪くない。
「ほら、ライムちゃんは派手な服とかでも問題なく可愛いでしょうし、女の子には華が必要ですよ?」
「ライムは性別無いんだけど」
「ん?」
やる事無さげに店内をぶらぶらしていたライムが俺の言葉に反応した。
「ファルがこういうのに関心が無いのは分かってますけど、少しはライムちゃんの服にも目を向けた方が良いですよ?」
まぁ、確かにそれは言えてるな。
前世の頃は「着れれば良い」って事で私服は夏冬合わせて九着を着回ししてたような俺に服のセンスがある筈も無いし、羞恥心皆無のライムは服に関して何も言わないので、「これで良いかな」と思っていたのだが、ライムの服にはもう少し目を向けた方が良いだろう。
ここはルーガに頼むとするか。
「じゃあお願いしていい? ……あまり値段のかからないやつ」
「お任せ下さい! ライムちゃんを可愛くしてみせます!」
それじゃあ、とライムを捕獲して試着部屋へ向かうルーガ。ライムは不思議そうにしながらもルーガに付いていく。
と、ルーガが去り際に俺に対して……。
「あ、それと、ライムちゃんの次はファルちゃんですからね」
その言葉を聞いて俺が脇目も振らずその場から逃走したのは、想像に難しくないだろう。
「ふぅ……ここまで来れば平気かな」
ルーガの着せ替え人形にされる運命を回避すべく、ライムという犠牲――当の本人は露程にも感じてないだろうが――の下にその場から逃げ出した俺は、狭い路地裏を抜けた先に広がっていた無人の広場にたどり着いた。
……特に何も考えないで走ってたけど、うん。
(完っ全に迷子だな、これ)
マトモに歩いても道に迷うような俺がルート関係無しに移動したらどうなるか? その答えが今のこの状況なのである。
『ライムの現在位置から合流ルートを模索しま(いや大丈夫)承知しました』
ライムと【主と従】を結んで【共有】でお互いの位置を知る事が可能になったのでそれを使おう、というルシアの提案を一旦保留し、ついでという事で――、
「誰だか知らないけど、いるんでしょ?」
声を掛ける事にした。
どういった人物かはある程度予想していたので声を掛けた訳だが、どうやらその予想が的中していたらしく、周囲に漂っていた霧のようなものが一つに集まって人の形になった。
しかし結構な頻度で尾行されるな、俺。
「……影の言っていた事は本当だったのね」
霧に同化していた女性はそう呟き、敵意が無い事を示しているのか軽く両手を上げてこちらに近付いてきた。
「案外すんなり出てきたな」
「任務じゃないもの」
という事らしい。任務じゃなかったら普通に正体を明かしても良いのだろうか?
「俺達に【風届】でマグナさんの事を知らせた暗部だね?」
俺の問いに ええ、と律儀にも頷いてみせた女性は、その時の事を俺に話した。
どうやらあの時はナフールの力で魔法を切断されて、詳しい事を俺達に説明するまでに至らなかったらしく、大事は無かったのだという。
無事ならそれが何よりである。
「それにしても、何か用?」
「警戒しないで。私は礼を言いに来ただけだから」
そう言って先程までの、心理を掴ませまいとしているようなゆらゆらとした雰囲気が鳴りを潜め、ファルに対して敬意を表すように真摯な視線を投げ掛けた。
「マグナ様の一件、信じてくれて有り難う」
「……」
「……何よ」
「いや、わざわざ尾行してそれを言いに来ただけなんだな、と」
信じたも何も、俺達だって操られてたマグナさん本人を確認するまで疑ってたし、どちらかといえば俺達にそんな半分裏切りとも取れるような行動をしてまで知らせてくれたって事に俺が感謝する側なんだよな。
「私にとっては大切な事なのよ」
「というか、暗部がそんな簡単に顔出しちゃっても良いの?」
「マグナ様をお救いになった人物に対する信頼と誠意よ」
誠意云々で顔出しOKなのか……。
「マグナ様に何か伝えたい事はあるかしら? 度を越さない程度の事だったら伝えるわよ」
「それじゃあマグナさんに『九日後の蛇の位置』って伝えてくれる?」
本当は城に戻ってから何とかして伝えようと思っていた事なのだが、丁度良かったので伝言をお願いすることにした。
「分かったわ。それじ「っとちょっと待って! もう一つ!」」
「……道に迷っちゃったんだよね」
「……右の路地を抜けたら道に出ると思うのだけど」
呆れた様子でそう教えてくれた女性。……だけど、右?
「通路なんて見当たらないけど……」
「そんな筈は……だって私は貴方を追う時にその道を通ったわ。貴方も同じ筈……」
「え? 俺は後ろの通路から来た筈なんだけど……」
そう言って振り返った俺だったが、背後には壁しか見当たらず、肝心の通路が消えていた。
『この一帯全てに魔力が充満しています。空間変化系の技能と推測します』
「……誰かが空間を操作したみたい。俺達の場所だけ」
どうやら閉じ込められてしまったみたいだが、一体誰がどんな目的の為に俺達を閉じ込めたのだろうか?
「一体誰が……ッ!?」
突然女性の声が途切れ、咄嗟に振り返ると、そこには胸を貫かれている女性とそれを実行している老人がいた。
女性は状況を理解できていないのか、え? という表情をしている。
「えっ、大丈夫……」
俺がそう言い終わる前に、女性が光の粒子のように細かく分裂して消えた。
「成功か」
「誰だ! えっと……あの人を何処にやった!」
男に対して警戒と警告の意味を込めて身構えた俺。
『転移魔法です。恐らく技能と思われます』
「邪魔じゃったからな。殺しとらんから安心せい」
二人が同時にそう言い、女性の無事を知り安堵のため息を吐いた俺だが、警戒は解いた訳ではない。
俺はいつでもルシアを使えるように首元に手を当てて距離を保った。
「……あんたは誰だ?」
「ヌシの持つ武器に興味を持つしがない老人じゃよ」
え? 俺まだルシアをこの男の前で出した事無いぞ……。
「武器? 俺は何も「しらばっくれるでない」……」
「いや、寧ろ隠すのは当然か。それだけの代物じゃろうからな」
こいつ、ルシアの事本当に気付いてるぞ。
『……御主人様』
「(大丈夫だ)……俺がその代物とかいうのを持ってたとして、それをどうするつもりだ?」
心配そうな声音のルシアを握り締め、威嚇する姿勢を崩さない俺。
「警戒は解かないか、よし気に入った」
そんな俺を見て男は笑みを浮かべ、一枚の羊皮紙を投げ渡してきた。
「来るか来んかはヌシの好奇心の赴くままにするが良い」
そして俺が羊皮紙の内容を確認する間もなく、そう言って自身に剣を突き刺して消えた。
その直後に周囲の景色が変化し、周囲に通路が現れた。
「……今のは何だったんだろうか」
『申し訳ございません。【解析鑑定】を無効化されて素性を把握できませんでした……』
「……これはルーガ達に要相談だな」
「あ、ファルちゃん発見しました! 何処行ってたんですか、探しましたよ~……って、どうしたんですか?」
ライムとの【共有】を使ってお互いの位置を確認した俺達は無事合流し、俺はルーガ達を発見する事ができた。
俺の姿を見るなり普段通りのテンションで近付いてきたルーガだったが、俺の普段とは違う雰囲気を読み取ったのか、表情を真面目なものに変えた。
「ちょっと相談があるんだけど、良い?」
「……場所を変えましょうか」
そして俺の話すだろう事の重大さを察して、俺達は場所を移すのであった。
「何があったんですか?」
「実は……」
俺はルーガ達と別行動を取った後に起こった事を二人に話した。
「その時にこんなのを渡されたんだけど」
「住所、でしょうか?」
「だろうな」
羊皮紙の中身を覗いた二人は、そう瞬時に判断して再び俺に返した。
住所という事は、つまりはそこに来いという事なのだろう。
「二人はどう思う?」
「少なくとも罠という訳では無いと思いますよ。能力が未知数なので断言はできませんが」
優れた第六感の持ち主であるルーガはそう判断するが、俺が不安なのは変わらない。
「ちなみにそのルシアっていうのはどんな剣なんだ?」
「俺がいつも戦う時に使ってる剣だよ」
「……すまん、武器にはあまり関心が無くてな」
唯一ルシアの存在を知らないジャックさんに首飾りとして首に下げていたルシアを元の状態に戻して見せた。
「これがルシア。本当の名前は『エクセルシア』って言うんだけどね」
「【多次元収納】とは違うな……何も無い所から出てきたぞ」
突然ルシアが出てきた事に驚くジャックさんはそう言ってルシアを観察する。
「俺が生まれた時から相棒で、普段は首飾りみたいになってるんだ」
生まれたといってもこの世界で、だが。
「そんな事、俺達に言っても大丈夫なのか?」
「信用してるからこそだよ」
「とりあえずはこの住所をベクトリールの使用人さんに聞いてみましょう。行くかどうかはそれからです」
オマケ
前世の頃は「着れれば良い」って事で(ry
「なぁ」
「うん?」
「お前ってさ、年中同じような服着てるよな」
「服なんて着られりゃなんでも良いんだよ」
「言うと思った……けどよ」
「どうしたん?」
「真夏に冬服を腕捲りして着るのは良いとしても、真冬に夏服を普通に着るのだけは止めてくれない?」
「何で?」
「いや何でも糞もねぇだろ! 見てるこっちが寒くなってくるわ!」
「つっても東京とか冬でもあんま寒くないし……」
「……TPOって言葉の意味知ってるか?」
『九日後の蛇の位置』
「マグナ様、子供冒険者から伝言を預りました」
「む? 早いな」
「九日後の蛇の位置……と言っておりましたが、どういう事なのでしょうか?」
「蛇か。ご苦労だった」
(王が凄く楽しそう……一体何があるのかしら……?)
次回からは消えた書き置きの分も完成しましたので、多少は投稿ペースが回復すると思います。




