神剣
投稿遅れて申し訳ございません。
「お邪魔しま、うわぁ……」
エグルフさんの工房にお邪魔した俺は、その惨状に溜息を洩らしてしまった。
鉄片や魔物の素材らしき何かが無惨にも地面に散乱しており、その凄惨さたるや一瞬事故現場と錯覚してしまった程である。
「散らかっとるが、適当にどけて場所作っとくれ」
そう言って剣が無数に置かれている、座って作業するタイプの机の空いているスペースに腰掛けたエグルフさん。
言葉の通り自分で座るスペースを作れと言う事なのだろう、俺はエグルフさんの向かい側にある僅かな段差に散乱するエトセトラをどけてそこに座った。
「早速その剣についてじゃが……」
「え、もう本題入るんですか?」
「別に早いに越した事は無かろう?」
「……もう少し手順を踏んで欲しいッス」
エグルフさんの単刀直入スタンスに、どういう訳かラーフの口調が出てきてしまった俺。
「む、そうか」
「あなたが剣造神という人物である、ってのは既に聞いてますし実際に見て確信してます。その上で聞きたいんですが」
「何故儂がお主の剣の存在を知ったのか……か?」
俺の言葉を遮ってそう口にしたエグルフさん。まぁ、そういう事である。
俺やルシア、ライムは俺の【万物吸収】で鑑定関係の技能を無効化していて、本人は一時的に【共有】を切らなければそれらの技能を吸収してしまうのだ。
つまるところ、エグルフさんはどうやって首飾り状態だったルシアを発見し、俺に教える事が可能なレベルの情報を入手したのか? という疑問が浮かんできたのである。
「剣を打つ事を生業にしとるからの、強い力を持つ剣は感じ取ってしまうんじゃ」
こっそり【解析鑑定】でエグルフさんを調べてみると、称号の枠に【神剣技師】というものを発見した。どうやら剣に関するあらゆる技能の集まりであり、その中の一つ【剣力察知】という技能があったのだが、これは対象から出る魔力から大まかな情報を得る技能なんだとか。
ちなみにこの技能、鑑定関係の『介入』して情報を得るようなものではなく、対象の魔力から情報の一部を『傍受』するもので、ルシアから僅かに漏れ出た魔力から情報を読み取ったので【万物吸収】の影響を受けなかったらしい。
「この剣の事で何かあるみたいだけど、目的は何なの?」
「それを教えるにも手順を踏まねばな」
あ、さいですか。
先に俺が言った事を意地悪げに反芻したエグルフさん。
「神剣というのを知っておるか?」
「この剣がそうなんでしょ?」
戦いが終わり、首飾りに戻していたルシアを再び本来の形に戻して膝に乗せて見せた。
エグルフさんはコクリと傾いて肯定する。
「神剣とは読んで字の如く『神の剣』。造ったのが神だっただの、扱えるのが神しか存在しないだのという話が名称の元となっとるみたいじゃな」
どちらの説にせよ、神剣というのが潜在的に秘める力というのは凄まじいようだ。
今更だけど、そういう話聞くと俺の相棒ってとんでもない武器だったんだよな。
『言っておくけど……貴方含めて、貴方の周囲にはとんでもない生物の集まりなのよ?』
『だよねぇ、君はボクや姉さんを『中』に留めてるのに崩壊しないっていう物凄い器を持ってるしぃ、そこのスライムちゃんはボク達ほどじゃあ無いにしろ伝説の魔物だしねぇ』
と、俺の中の魂勢がそう口々に突っ込みを入れてきた。
そう言われてしまうと反論のしようが無い。
「神剣というものはこの世界に数えられる程しか存在しない代物での、その剣一振りだけで大陸を一つ焦土に変える事すら可能と云われている危険なものなんじゃよ」
大陸を焦土……。
『……あの、御主人様? そのような視線を向けられても、私はそのような事、不可能ですからね?』
いやいや冗談だし、仮にルシアにそんな力があったとしてもやらせないから。
俺の視線に少し間違えた解釈をしているルシアにそう訂正し、エグルフさんが言わんとしている事(仮)を予想した。
「貴方の目的は俺からこの剣を奪う事、ですか?」
「最後まで聞けぃ」
……「子供が神剣という物を持っているのは危険だ」的な理由で俺から奪おうとしてるのかと思ったが、普通に違ったわ。
未だにエグルフさんを信用しきれていないのか、どうしても疑いが完全に晴れず、事あるごとに思ってもいない疑いをかけてしまう。
「その神剣じゃが、これは神が造ったというだけあって人智を越えた力を持っていて、魂を概念ごと消滅させられる剣やこの世の物理法則を操ったりする事ができる剣といったように、剣ごとにあらゆる力を秘めているんじゃ」
そこで、だ。とようやく本題らしきものに入るらしく、エグルフさんが真剣な眼差しを俺に向ける。
「お主の持つその剣、少し調べさせてはくれんかの?」
「凄いな、こんなに詳しく説明してもらったのに概要が全く掴めないんだけど……」
「簡単にいうと、ある存在を封印するだけの力を持つ神剣を探しておる、という事じゃよ」
封印、という単語を聞いてライムがビクッと跳ねた。
少し前まで自らの意思で封印されていたライムは、恐らく封印されるまでの経緯に関するトラウマを呼び起こされたのだろう。
最近こそ少なくなったが、たまに夜中にその件でうなされたりしているのだ。
取り敢えずライムの背中をさすってやり、深呼吸をさせて落ち着かせる。
「能力って、何を封印するつもりなの?」
ライムの様子から「もう平気かな?」とタイミングを見計らい、エグルフさんとの会話を再開した。
エグルフさんはライムの変化に関して何も聞かず、落ち着くまで待ってくれた。
「とある龍を封印する為にな」
「龍?」
久しぶりにシンプルな龍って単語を聞いたな、と頭の何処かで思いつつ、封印する程ヤバい龍って何だ? と疑問に思った俺。
『……あぁそういう』
『もうそんな時期なんだねぇ』
そんな俺の内情とは真逆に、エグルフさんの言葉に納得したような様子の神龍二柱。
ディメア達が知ってる龍?
しかしそんな疑問はすぐに解消される事となる。
「龍の名はベヒモス、『土塞龍 ベヒモス』と呼ばれる神龍じゃ。七星龍は知っておるか?」
「土属性を司る神龍?」
「そうじゃ」
半分勘で言った事だが、どうやら当たっていたらしい。
しかし七星龍の一柱か。ディメア達が知ってる訳だ。
『また面倒な時期にあの栗坊は……』
栗坊って……。
どうやらベヒモスに対してそう言っているみたいなのだが、龍なのに栗? と疑問に思ったのは俺だけでは無い筈。
「ここ数十年、どうも地震が多かったりしての、気になって調べてみたらこの土地に神龍が眠っているのが分かったんじゃ」
なんでも、エグルフさんが姿を眩ます数ヶ月前から、当時のベクトリールとその周辺地域で原因不明の地震や崩落事故が相次いでいたらしく、丁度同じ時期に察知した剣を探すついでにその事も調べていたのだそう。
そしてベクトリール城の後ろにそびえる山の深部に、休眠状態の土塞龍 ベヒモスの姿を捉えたのだという。
「でも神龍でしょ? 何で封印する必要が?」
「このままだと、この国と大陸の一部が消えて無くなってしまうんじゃよ」
「消滅ぅ?」
およそ聞き慣れない単語に、俺は思わず語尾を伸ばしてしまった。
「実はベヒモスが休眠している山というのが、この山脈を作り上げた巨大な活火山の心臓でな。ベヒモスが目覚めるとその影響で大噴火が起こり、噴火の際の岩がこの大陸全体に降り注ぐんじゃ。古い文献から見付けた情報じゃから、信憑性はかなり高いぞ」
『というか事実よ』
『あったあったぁ、そういえば八千年くらい前にボクの大陸にも降ってきたよぉ。あの時は「何事ー?」ってなったけど、兄さんの仕業だったんだねぇ』
え、マジすか? 大陸を飛び越えて火山弾が降ってくるとか……。
その辺を詳しく聞いた所、どうやらこのベヒモスは数千年の単位で休眠と行動を繰り返しているらしく、休眠の際は何故か絶対に火山の中心部で眠るらしい。
「そこで、儂はベヒモスの魂を封印して大陸の消滅を防ぐ方法を模索したんじゃ」
「その封印に、もしかしたら俺のこの剣が役に立つかもしれない?」
「理解してもらえたかの」
始めからそういう風に言ってほしかったな……まぁ良いか。
「じゃあ、はい」
俺は【共有】でこっそり傾き合い、ルシアをエグルフさんに渡した。
「良いのか?」
少々意外そうな顔で俺を見るエグルフさん。ついさっきまで「ルシアを奪うつもりなのか?」と疑いまくっていた人物が突然素直に剣を渡したのだ。これは驚かない人物の方がおかしいだろう。
「貴方が事実を言っているかどうか、信用するに値する人物なのかが分かったからね。俺達は貴方を信じるよ」
俺の中に物凄く信用できる証人がいるわけだし、話だけ聞いてると近々とんでもない事が起こるっていうのは明白だからね。
と、ルシアを借り受けたエグルフさんがニヤリと不敵な笑みを浮かべはじめた。
「言い忘れておったが、儂は解析した武器の力を別のものに移したり、その力を増大させる事ができる」
「ルシアの力を解析して能力を別の剣に複製させるって事だね」
「そういう事じゃ。察しが良くて助かるのぉ」
俺が早速納得したのを確認してそう言ったエグルフさん。
「俺がそれを実行するのは?」
しかしぶっちゃけ、俺がルシアを貸して模倣品を作ってもらってそれで封印をするのなら、俺達が普通に封印しちゃえば良いんじゃない? と思っての発言だったが、どうやら普通にルシアに興味を持ち、武器職人故に「作りたい」という欲求が働いているんだそう。
つまりは……、
「当然お主には協力してもらうつもりじゃったが?」
という事らしい。
「……あ、そう」
「こんなおいそれと周囲に言えん事をペラペラ喋っとったんじゃぞ? 拒否権は無いと思……」
「うわぁ理不尽……ってどうしたの?」
突然エグルフさんが喋るのを止め、何かに集中するように動かなくなった。
「……」
別の世界に入っちゃってるね、これ。
『私の解析に神経を集中しているからなのでは?』
まぁそうだろうな、と内心でルシアに答えながら、エグルフさんが復活するのを待った。
「……お主、ファルと言ったな」
硬直から復活したエグルフさんは、真っ先に盗聴防止の【音絶空間】を俺達の周囲に展開した。
「そうだけど」
「単刀直入に聞く。この剣はどこで手に入れた?」
答えないという選択肢を選ばせない、そんな圧力を放ちながらエグルフさんがそう俺に問う。
そして俺も、ルシアに関わる事というのもあり、負けじとエグルフさんに顔を近付け、圧力をかけ返した。
「……絶対に口外しない?」
「この右腕に誓って」
即答で右腕を前に差し出したエグルフさんを見て、その覚悟を読み取った俺は、かつて俺がこの世に転生した場所でありルシアとの出会いを果たした場所を口にした。
「アシュトルスから向かって西の【魔の樹海】って場所。そこに建ってた遺跡の最奥に刺さってた」
「魔の巣食う神域……文献と一致か」
「まさかこのような地で『本物の』神剣に出会う事となるとはな」
「本物?」
神剣に偽物はあるのだろうか?
「先程儂が説明した事、覚えておるか?」
「今の流れだと、神剣の由来ってところ?」
「そう。神剣は神が造った、という伝えがあると言ったが、あれは間違いじゃ」
「間違い?」
話によると、この世界に複数本存在する神剣と呼ばれるそれは一概にはエグルフさんのような武器職人等が造ったものらしく、一線を画した性能を持つ剣や神剣を模して造られた武器もいつの日か神剣と呼ばれるようになってしまったのだそう。
「これまで幾つかの『普通の』神剣は見てきたし触れてきたが、これ程の情報量を触れただけで放った剣は初め……」
「……【音絶空間】のせいで気付かなかった」
ルシアが本当の神剣だった、という話を聞けてようやく本題に入れると思っていた矢先、この工房の目の前に複数人が気配を殺して俺達の様子を伺っているのを察知した。
なんて素晴らしいタイミングなんだろうかコンチクショウ。
魔力の量から俺でも対処は可能な相手なのは容易に読み取れるが、恐らく目的は俺ではなくエグルフさん。知名度は既に使用人さんの話で知れているので、確実に厄介ごとを持ち込もうとしているのだろう。
「すまんな、詳しく話したいのは山々なんじゃが、姿を眩ます必要がありそうじゃ」
そう言って立ち上がり、ルシアを俺に返して別の剣を取り出したエグルフさん。
あの剣は確か……斬った相手を強制転移させる剣だったな。
「俺はなんとかなるだろうけど、エグルフさんは平気?」
「逃げるだけじゃからな」
そんな話をしている間にも気配は段々と近付いてきている。この場所に来るのも時間の問題だろう。
「じゃあ後は頼んだぞぃ」
「え、あ、……行っちゃった」
今度会う際の場所等を一切教えずに剣を使って転移してしまったエグルフさん。
俺も面倒事は嫌いだし、一先ずはこの場から退散するか。
「取り敢えず俺達もずらかるぞ……って、寝てる……」




