同行転移
投稿遅れて申し訳ございません。
「……やっぱこうなるんだよなぁ」
ライムが寝てしまったせいで転移魔法が使えない俺――意識の無い生物は転移させられないのだ――はライムを背負ってなんとか脱出しようと思ったのだが……まぁ無理であった。
出口が一つしかないこの建物、案の定巣穴から出てくる蟻のごときスピードで見つかってしまった。
「子供冒険者だな? このような場所で何をしていた?」
人数は四人、全員が黒いローブに身を包んでおり、着ている服や装備が分からない。
しかしただ一人、俺と同じ位の背丈をした子供が男達に紛れて立っていた。
あの男達の仲間かな?
そう思いながらも、俺は男の質問に答えていく。
「伝説の武器職人がいた場所だと聞いたので、観光がてら寄ってみただけですが」
どうやら俺の素性は知っているみたいなので、あくまで探検という名目で事を進めようとした俺。
ちなみに変に敬語を使っているのは、相手の素性が不明だからである。これでガチの貴族家とかだったらシャレにならないだろう。
「……ふん、まぁいてもいなくとも関係無い。我々の目的はお前だ、子供冒険者」
「俺?」
被っているフードのせいで顔は見えないが、前世でいう高校生と何ら遜色の無い若々しい声音で俺に対して語りかけてくる。
「来てもらうぞ」
たったの今までエグルフさんを狙ってた人物達だとばかり思っていたが、どうやら俺に用があったみたいだ。
しかし、先程までは尾行されてる気配はしなかったのに、何故この場所が分かったのだろうか?
「素性を知らないあなた方に従う義理は無いんですが」
「貴族家の命令に逆らうと?」
俺が拒否することを見越していたのか、淡々とそう口にした男。
貴族、ねぇ。
「そういう脅迫は、俺には通じませんよ」
こういうのもなんだが、俺には女王という後ろ楯があるのだ。今となっては貴族の脅しなんて屁でもない。
「ふむ、それなら話が早い。痣の一つ二つは覚悟してもらおうか」
……なーんでそうなるのかな?
武力行使が好きなのか、俺をどこかに連行すべく男達が慣れたような動作で姿勢を低く構える。
ちなみに子供は後ろの方に下がって戦闘を見守るようだ。
「来る来ないは別にして、あんた等の雇い主は誰?」
「お前に言う訳ないだろ」
俺の探りを入れた質問に対して、子供が威圧するようにそう言い放った。
しかしまぁその部分に関しては俺も負けてはいない。
「まぁ言わないだろうね。ぶっちゃけ俺はあんた等が雇われ兵かどうかを知りたかっただけだから別に良いんだけどさ」
「えっ?」
俺がそう口にして初めて、子供を含める男達は俺の口車に乗せられた事に気付いたみたいだ。
「雇い主は誰だ?」という俺の問いに「誰が言うか」と答えた……それはつまり、彼等は貴族に雇われて俺を拐おうとしている、という事が分かるのだ。
フードのせいで口元しか見えないが、口の形から凄く悔しそうにしているのが分かる。
「成る程、ただの子供ではないのは本当か」
ついでにもういっちょ。
「それはどっちの意味で?」
俺は、先程から俺に向かって【解析】を使用している男の方を向いて悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。
俺には大体お見通しだぞ、というアピールをして一時退却を促そうと考えての行動だが、このリーダー格の男はあくまでも冷静さを保っている。
「……その無知を装ってる所を含めて全てだ」
「どうするんだ、兄貴?」
男の一人かが、リーダー格のその男にそう質問した。
構えを解いてないことから、俺を警戒している事がありありと分かる。
「俺は戦う気は無いから、できれば何もせず去ってくれたら嬉しいんだけど」
「お前には聞いてねぇ」
まだ負けてないんだよ、といった様子で威圧する姿勢を崩さない子供。
小生意気なガキんちょだな。
「兄貴、こんな子供とっとと捕まえちまおうぜ」
「おい待……」
「あぅ?」
ライムを背負う為に両手が空いてないので勝てると思ったのだろうか、子供が俺に向かって走ってきた。
まぁ余裕で回避したが。
「俺を拘束するのは勝手だけど、こういう場に戦力外を連れてくるのはどうかと思うよ?」
「うるせぇ! 俺だって戦えるんだよ!」
実践だとそれが命取りになるぞ、という事を言いたかったのだが、いかんせんまだ子供、ムキにしちゃったな。
「お前は離れてろ」
と、リーダー格の男が子供を下がらせ、前に出た。
「でも兄貴「巻き込まれたいのか?」……分かったよ」
不満そうな子供を一蹴し、すごすごと奥に引っ込んだ子供を確認した男は、改めて俺に向き直り、じりじりと距離を詰め始めた。
それに合わせて他の男達もにじり寄ってくるが、子供だけがそれを不安そうに見ている。
「えちょっ……俺両手塞がってるんだけど」
「こっちも訳ありでな、悪いが無理矢理にでも来てもらうぞ」
戦闘にそう言って小振りのナイフを俺の方に投げつけてきた。
『形状から先端に毒が塗られている模様。……神経系の麻痺毒です』
「うおっ……ぐっ!?」
「流石兄貴!」
ナイフを体を横に反らして避けた俺は、直後に男の膝蹴りを受けて数歩よろめいた。
成る程、相手が避けるのを見越して追撃か。
手加減していたのかダメージ自体は殆ど無い。牽制だったのだろう。
「まだ行くぞ」
「同じ手は二度も食らわないよっ!」
糸で繋いでいたのか、いつの間にか回収している投げナイフを再び投げつけてきた……が、俺はそれを敢えて避けず、腕で弾いて男に肉薄した。
そして再度追撃せんと俺に向かう姿勢になっていた男の頭に頭突きを食らわせた。
「がっ……!?」
俺の頭突きの直撃を受けた男が、その場でよろめく。
なんか周りの男達も目潰しみたいなのを投げてた気がするが、多分俺の気のせいだろう。
「兄貴!?」
「……まさか向かってくるとは、な」
位置的に角は当たっていない筈だが、クラクラッとよろめいている様子からかなりのダメージが入ったのだろう。
前世から引き継ぎで頭が硬くて良かった。
「飛び道具には肉薄が一番なんだよ「……ぅゅ?」お、やっと起きた」
『ファル? ……ここは?』
衝撃で起こしてしまったのだろう、少し申し訳ない気持ちになりながらも状況をライムに説明した。
『工房の外。ちょっと敵みたいな相手に待ち伏せされてたんだ。起きたばかりで悪いけど、転移魔法使うよ』
『ん、分かった』
ライムから了承を得て、転移を発動させる俺。
「もう此処には用は無いし、俺は逃げさせてもらう「させっかよ!」えっ……――」
転移してその場から去ろうとした俺達に少年が飛び付いてき、そしてコンマ数秒遅れで転移した俺達。
一瞬の視界暗転の後、俺達はベクトリール城のルーガの部屋に到着した。
「な、何だよここは!」
……子供と共に。
転移魔法というのは、今俺がライムを一緒に転移させたように、触れた対象を一緒に転移させてしまうのである。
つまり、転移する寸前に俺に触れてきたこの子供もその法則に則って同じ目的地、ベクトリール城に設置した専用の魔法陣に転移してしまったのだ。
「……最悪だ」
せめて城の外とかに飛ぶんだった。
「お、お前! ここはどこなんだよ! 俺を兄貴んとこに返しやがれ!」
「お前が俺達の転移に付いてきたんだろうが」
「あ、お帰りなさいです。早かったんですね……お友達ですか?」
部屋に戻ってきたルーガが、子供の姿を確認するなり不思議そうな表情で聞いてきた。
「……訳あってついて来ちゃったんだよね」
取り敢えず俺は、こっそりと逃げようとしていた子供を捕獲してルーガに事の顛末を話した。
「……成る程、つまりはファルちゃんの転移に付いてきてしまって、今に至るんですか」
ふむふむ……と頷くルーガは、アニメのように縄で簀巻きにされた子供の頬を指でつついた。
「んにっ……やめろ! つーかこれ外せ!」
「お前が何者か分かるまで、それは無理かな」
なんだと! と俺の言葉に反応して伸び縮みする芋虫状態の子供を見て、物音を聞き付けてやって来たジャックさんがため息を洩らした。
「しかしお前さん、よくもまぁこの短時間で問題を二つも抱えてきたな。歩くだけで問題を呼び寄せるそれは一種の才能か?」
「……欲しいならあげるよ」
こんな面倒事しか呼び寄せない才能なんていらないよ……。
「とにかく、です。まずはこの子を何とかしなければいけませんよねぇ」
「もう既に『通路』を通っちゃった訳だし、今後もこの場所に来ちゃう可能性が高いから、やっぱり通路は設定し直さなきゃいけないかな」
通路とは、俺達がマグナさんに許可をもらって設置させてもらった転移魔法陣の事である。
結界の関係から転移ができないルーガ達、そしてアシュトルスに来るベクトリールの要人用に設置したもので、一度使用するか設置者の許可を得なければ使用できず、逆に一度使用すると少ない魔力で何度でも使用可能になってしまうという少々リスクの張るものなのである。
そしてこの子供は俺を通してこの通路を使用してしまったので、今後は自由にこの城へと入れてしまうのだ。それは防衛上とてもマズイ事なのである。
「何の話をしてんだ!」
君の話だよ、少年。
「これが私達の国の方だったらまだ良かったんですけどね。取り敢えず、マグナさんには私から話を通しておきますね」
「なんか、ベクトリールの滞在期間を延ばしちゃってごめん」
「俺を無視するなぁ!」
きりがない、とスルーされていた子供の声が部屋に響き渡る。
オマケ
前世から引き継ぎで頭が硬くて良かった。
「……お前さ」
「うん?」
「ひとつ聞いて良いか?」
「なんだよ、勿体ぶって」
「何で喧嘩相手に頭突かれたのに、その頭突いた相手が脳震盪で病院に運ばれるんだ?」
「ぶつかる瞬間に俺も向かって頭突いたからじゃね?」
「それにしては無傷だな」
「石頭って良いもんだな」
「……お前のそれは最早鉄だ」




