第7話 小さな仕返し②
王都の商業ギルドに、『黄金の手』商会の正式な代理人として、一通の抗議状と、莫大な量の証拠書類が提出された。
「湯ノ原郷における、根拠なき信用毀損の讒言について。当商会は、発信元である湯ノ原郷領主バルカス男爵に対し、正式な名誉毀損訴訟、および取引関係にあった商人たちへの損害賠償請求を検討する」
書類には、男爵が過去に交わした密輸品に関する契約書の写し、劣化成分入りの『施し』薬の成分分析、そして——半年間にわたる源泉の不正利用の記録が、克明に添付されていた。
王都のギルド本部は騒然となった。
「な、なんだこの証拠の量は……。まさか、以前から調査していたのか?」
「バルカス男爵……これはただの讒言どころではない、立派な犯罪の証拠じゃないか」
同じ頃、湯ノ原郷の男爵の館にも、ギルドからの通達が届いていた。
「な、なんだと……!?」
男爵は震える手で書状を握りしめた。
「王都商業ギルドより、湯ノ原郷の源泉利用に関する緊急監査団の派遣が決定。三日後、現地入りするとのこと……」
「バ、バカな! 誰がこんな……」
ゼイドが顔面蒼白になりながら呟く。
「男爵様……あの若旦那が、我々の讒言をそっくりそのまま、逆に利用したのでは……」
「なんだと……!?」
その頃、湯けむり亭では、アルトが涼しい顔でお茶を飲んでいた。
「ライナス、ギルドへの提出書類、無事受理されたって?」
「はい。ギルド長より、『黄金の手商会の調査能力には敬服する』とのお言葉を頂戴しております」
「そりゃそうだよ。だって、証拠は全部本物だもの」
アルトはにやりと笑った。
「向こうが『黄金の手は詐欺師だ』って讒言してくれたおかげで、堂々と正式な調査を申請できたんだ。ありがたい話だよね」
「……お見事です、アルト様」
エリーゼが珍しく、感心したように呟いた。
「相手の攻撃を、そのまま合法的な武器に変える……」
「ふふ。金で殴るのも一つの手だけど、法律と証拠で殴るのが、僕は一番好きなんだよね」
アルトは窓の外、暗くなっていく空を見上げた。
「……さて。監査団が来る三日後までに、向こうがどう動くか。ここからが正念場だよ」
その表情には、これまでにない緊張が、わずかに滲んでいた。
(つづく)




