第9話 『レガリアス・カード』は謎だらけ
「素質はあるな。全く誰にも教わっていないわりにはちゃんと戦えている。でも、足りないな」
「足りない、ですか……」
一体何が足りないのだろう。
我ながら結構戦えた方だと思ったけど、久志さんを満足させられるものではなかったらしい。
この前初めてクルイモノと戦った時よりも、結構戦えていたって思ったんだけどなぁ。
「嬢ちゃん、君には鍛錬よりも霊術に関する勉強が必要だ」
「はへ? え、勉強ですか?」
余りにも真剣な顔するものだから何を言われるかと思ったら、そこなのか。
開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのね。
なにか陰陽師の規則に反するものでもしちゃったのかしら?
「結芽、戦うときに武装霊術――変身するのは普通じゃないよ。する人もいるけど、とっておきの切り札に使うことがほとんどなの」
「僕も結芽さんみたいな戦い方をすることもありますが、危険度の高い戦闘を行うときだけですよ」
――僕が戦うとき、別に武装を使っていなかったでしょう?
そう苦笑いしている刹那さんは、確かにあの時変身したりしていなかった。
あれ? もしかして、戦った後に倦怠感を感じていたのって……。
「私みたいに武装? を長く使ったらどうなるのが普通なの?」
「良くて霊力切れになって倒れるか、最悪の場合死亡しますね」
そんな物騒なものなの、この力? 下手したら死ぬって……。
え、あの時クルイモノ戦ったあと倒れこんじゃったのも、霊力切れ? ってことよね?
起こらなかったけど、あの時ありえたかもしれない未来を考えると鳥肌が立つ。
「嬢ちゃん、武装以外で戦うことはできるか?」
「多分、できないです。それしか戦い方を知らないので……」
「そうか、分かった」
私の言葉を受けて何かを考え込む久志さん。
『ちょっとここで待っていてくれ』と告げてから、上に戻ってしまった。
一体、何をするつもりなんだろう。
5分後、彼は片手にページの端がボロボロになってしまっている本を持って戻ってきた。
「『初めてでもよく分かる霊力操作』。これって、教科書ですか?」
「あぁ。俺が使っていたやつだから、今のよりも少し古い。だが霊術を扱う知識を得るためには十分だ」
渡された本をぺらぺらとめくると愛らしい動物が描かれていた。
全体的に丸っこい文字で書かれているこれって、幼い子供が使うやつなのでは?
「全部で五冊ある。今から嬢ちゃんにはここにある内容を全部習得してもらう。それまでは任務にはいかせない。いいな?」
「はい……」
何事も基礎からって言うもの。当たり前のことよね。
*
それから、私はひたすら久志さんに渡された『初めてでもよく分かる霊力操作』シリーズの内容を習得するための日々が始まった。
最初の方に合った本当に基礎的な霊力操作は割とすぐにできるようになった。
それこそ、本をもらった当日にはすぐに。
「結構これ、体力持っていかれるなぁ。1回休憩しよう」
今私がやっているのは『霊力を使って湯呑を3つ同時に浮かせる』ってやつだけど……。
自分の手に一切触れていない状態でやるのが本当に難しい。
浮かせるには浮かせられるけど、その状態を保つことができない。
「こういう本に書かれているコラムって本当に面白いよね。……『霊術に使用する媒体について』? どんな内容かな」
えーっと、なになに……
『霊力の制御を支えるために時に媒体を用いることがある。これを一般的には霊具という』
へぇ、それじゃあ私の場合は刀になるのかな? それともカードのことかな?
どちらにせよ、霊具を使うことが前提になってくるのね。
『一般的な霊具は使用者を選ぶことはない。しかし、霊具に求める性能が精密であればあるほど、使用者を選ぶ場合も少なくない。そして、使用する際に代償を払う必要がある場合もある』
「って、物騒すぎるでしょ」
とはいっても、そういう対価を支払う系の霊具って古い家系にしかないみたいだから大丈夫……。
――『レガリアス・カード』はね、『レガリアス』に認められた人にしか扱えないの。
ナナが夢の中でそんなこと言っていたことを思い出す。
あれ、やっぱり『レガリアス・カード』って、結構すごい代物なのかもしれない。
「そんなに唸って結芽、どうしたの? 制御訓練がうまくいかないの?」
「あ、美緒。……そうなんだけど、このコラムに書かれていることが気になっちゃってね」
「『霊術に使用する媒体について』ね」
振り返ると美緒が戻ってきていた。
髪の毛を後ろで括って、動きやすい服装になっている彼女もまた、久志さんに課題を出されている。
『いくら実家で練習できるからって言っても、限度があるだろ。どちらにせよ、今はまだ任務に出るのは難しいから、実戦を想定した模擬戦闘を行ってもらう』
それからはひたすら刹那さん、補習から解放された日佐戸さんとずっと模擬戦闘をやっているみたい。
何をやっているのか、一度見に行こうと思ったんだけど……。
『まだ、ダメ。今はちょっと恥ずかしい』
顔を赤らめてそう言われてしまっては、見に行こうにも見に行けない。
こうして、隣で本を読んでいるということは一区切りついたのかな?
「至って普通の内容だけど、何かあったの?」
美緒になら、言ってもいいのかな。
彼女は日記帳が変なのも知っているし、『最初に霊具ではないか』と言ったのも彼女だった。
頭ごなしに否定することはきっとないだろうし、言おう。
「私が持っている日記帳、覚えている? 無くしても戻ってくるって言ったやつ」
「前、霊具かもしれないって話していたあれ? やっぱり霊具だったの」
「……うん。そうなんだけど」
口で説明するよりも、見せた方が早いか。
「これが、あの日記帳? ……なんか白くない」
「白いよね。クルイモノと戦った時に白くなっちゃったの」
――摩訶不思議ね。
そう言った美緒は「ちょっと触ってもいい?」と聞いてから、観察を始めた。
特に何もなかったみたいで、彼女はすぐに私に返した。
「それで、この日記帳がどうしたの?」
「これ、使用者を選ぶタイプの霊具かもしれない」
「え、私普通に触れたけど、本当にそうなの?」
……そんな訝しげに私を見られても。
確かにそれを証明する人は今ここにはいない。
話すべきかな? 夢の中でナナとした『レガリアス・カード』に関する話を。
「おーい、どうしたんだ。二人とも。それって何の本だ? すっごくかっこいいな!!」
「こら、幻。いきなり人が話している所に突撃してはいけませんよ。何か内密な話をしているかもしれないのに」
「はっ、それもそっか。ごめんよ~、2人とも」
刹那さんと日佐戸さんも休憩のため、戻ってきたみたい。
あぁ、そうだ。
2人にも試しに、日記帳に触れてもらおう。そうしたら何か分かるかも。
「イカしたデザインの本だな。ちょっと持ってみてもいいか?」
「いいですよ」
「ありがとな。……ん? あれ、持てない」
日佐戸さんが日記帳に触れようとすると、磁石が反発しあうみたいに離れていく。
あ、日佐戸さん。
散歩に連れて行ってもらえない飼い犬みたいになっている。
「これは、霊具ですね。僕も少し触れてみても?」
「えぇ、構いませんよ」
「……僕は持てましたね。一体何が条件なんでしょうか?」
――俺だけ除け者みたいじゃん!!
日佐戸さんがそう叫びだしてしまうのも無理はない。
でも、本当に条件って何なんだろう。これも、ナナが話していたような……。
――それは『印』。カードを得る資格を持つ人たちにのみ現れるものよ。
もしかして、『印』が原因?
ちょっと試してみるか。
「刹那さん、美緒。これみたいなものを何か持っていない?」
あの時ナナは胸に手を当てて、霊力を流し込んだ。
あれを再現できれば……。
見事に胸にある印のみを光らせられる。
「あ、それ私の霊具についている印に似ている」
「僕も持っていますね」
どうやら、当たっていたみたい。
でも、当たっていたところで何なんだって話よね。
触れているから一概に無関係とは言えなさそうなことぐらいしか分からない。
「なんかね、この日記帳をくれた人が言っていたんだけど、この本に込められた力を扱うには資格がいるみたいで……。多分、2人が触れられたのはその資格があったからなんだと思う」
さっき、私の『印』を見せた時、日佐戸さんはいまいちピンと来ていないようだった。
だから多分彼は持っていない。
それの違いが、日記帳に触れられるかどうかに差が出たのだろう。
「確かにこれは使用者を選ぶタイプの霊具に違いない。しかも、ここに込められている霊力、通常のものとは桁違い。ほとんど、結芽専用みたいな霊具だね」
「なるほど……」
扱うときには要注意ってことか。
『レガリアス・カード』、本当に一体これは何なのだろう。
むしろ、謎が深まったような気がするわ。
「結芽さん、鍛錬の進捗はいかがですか?」
「あ……少し行き詰っています」
とりあえず、今は目先の鍛錬に集中しないと。




