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レガリアス・カード~真白の乙女は七彩の夢を見る~  作者: ほっとけぇき
青の章:悩める少女よ、その心で自由を描け

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第10話 結芽に迫る不穏な影

 とは言っても、本当に『湯呑を触れずに浮かせる』のって難しいのよね。


 手に触れた状態からやるのならできるけど、一切触れずにすると途端に難しくなる。


「浮かせられないわけじゃないのだけど、安定しない……」


 霊力を知覚して、それを練り上げて湯呑を包み込む。

 

「よし、良い感じ。この調子でもう1つ……やっぱり無理だ」

 

 1つだけなら特に揺れることもなく、自由自在に操れる。

 それが複数になった瞬間、できなくなるのはなんで?


 むしゃくしゃしていると、胃がキリキリと痛む。こんなんじゃ集中できない。


 ただでさえ、霊力を扱うのは精密にやらなきゃなのに。

 

「お、嬢ちゃん。鍛錬は順調に進んでいるのか?」


「久志さん。マー、ソウデスネ」


「なんでそんな片言になってんだ。うまくいっていないんだろ。見せてみな」


 自信満々に久志さんは言うけど、いまいち信用ならない。

 指導するって言っておきながら、会う事なんてほとんどないし。


 でも、ここで唸っていても何も変わらないからなぁ、しょうがない。


 意地張っていないで、正直に言おう。


「この『湯吞を3つ同時に浮かせる』ってやつができないんです」


「ほーん、なるほどな……。って、ここまで進んだのか。まだ3週間ぐらいしか経っていないぞ、凄いなぁ」


『1回やって見せてくれ』というものだから、しぶしぶ湯呑を浮かせてみる。

 湯呑は3つとも浮かぶけど、カタカタ震えながら今にも落ちそうになる。


 やっぱり、上手くいかない。


「ふむ、これは……。霊力を扱うときの考え方の問題だな」


「と、言いますと?」


 首を傾げて聞き返すと、困ったように笑った。


 だって、彼の言う『霊力を扱うときの考え方』が、いまいちピンとこないもの。


「嬢ちゃんはこの湯吞を浮かせるとき、どんなイメージで浮かせているんだ?」


「え、それは霊力を纏わせるようにするとか。あれ? どんな風に想像して浮かばせていたっけ?」


「じゃあ、湯呑に触れながらはどうだ?」


「その時は確か、自分の体の一部だと思ってやっています」


 あまり考えたことがなかったけど、想像の仕方がなんか違う?

 でも、それが一体どんな影響をもたらすって言うんだ。


 はっきり言ってもらわないと分からない。


「人によって、霊力を扱うときの想像の仕方は様々だ。霊力に合う、合わないがあるから結構重要なんだ」


「なるほど?」


「試しに嬢ちゃん、湯吞を持っているときのやり方で浮かしてみな」


 そんなにすぐに変わるものなの?

 もし、そうだとしたら私の2週間は一体何だったんだ。


 まぁ、言われた通りやるけどね。

 

 湯呑が私の手の上にあると想像して、それを持ち上げるように霊力を練る。


「う、浮いた。しかも、安定している……!!」


「だろ? 嬢ちゃんに合ったやり方があって、良かったぜ」


 フヨフヨと浮く湯呑はイメージの仕方を変える前よりも安定してるみたいだ。

 指を動かすと、その動きに合わせて湯呑も動く。


 これ、すっごく楽しい!


「ありがとうございます、久志さん」


「どういたしまして、嬢ちゃん」


 あれ、なんか久志さん、具合でも悪いのかな?

 

 短期間でしか彼と接していないけど、どこか荒々しいというかやんちゃという印象がある。


 それなのに、今の彼の表情はどこか凪いでいる。


 初めて会った時の人を寄せ付けない胡散臭さとは違う、落ち着き払った顔つきになっている。


「あの、久志さん……」


「嬢ちゃん、ごめんな。少々厄介な来客だ」


「奥の方で待っていてくれ」と言った久志さんは入口のほうを険しげに見る。

 片手はいつでも戦えるように構えられている。

 

 明らかに来客を見る目じゃない。あれは敵を睨む目だ。


「そろそろ、刹那たちが戻るだろ? 3人に見せてきたらどうだ」


「……はい、分かりました」


「ありがとうな、嬢ちゃん。俺も後で行くから」


 誰が来るのだろう。

 あれだけ久志さんが警戒する人だから、彼の嫌いな人なのだろう。


 前に感じたことのあるような気配がしたけど、きっと気のせいに違いない。



「お茶、ありがとうございます。今日のお茶もおいしいですね」


「それはよーござんした。……で、どうしてお前はここに来た?」


「あなたには分かりきっていることでしょう?」


 これで、こいつと会う事になるのは今月で何度目になるんだ?

 まだ2週目だというのに、すでに両手で数えきれないほど会っているような気がする。


 目の前に座っているガキは刹那と同い年なのに、本当に可愛げがない。

 

 少しぼさっとした黒髪は無造作に伸びていて、服も黒で統一されているものだから、傍から見れば不審者にしか見えない。

 

 何よりも、その澱んだ黒い瞳は明らかに俺を見下している。


「竜岡、何度言えば分かるんだ。今のお前にあの娘を会わせる気はない」


「どうしてですか? 毎日こうして会いに来ているのに、一度も会わせてくれないなんて非情です」


「1回自分の顔を鏡で見て見ろ。話はそれからだ」


 思わず本音が出てしまったが、仕方がないだろう。


 あいつが結芽の嬢ちゃんの話をするとき、愛と情欲と執着と憎悪が混ざり合った目になるんだ。


 そんなものを嬢ちゃんにぶつけられるわけがないだろ。


「残念です。意外と優しいあなたなら、頷いてくれると思ったのに」


「お生憎さま、その優しさっつーやつは家族と教え子にしか発揮しないからな」


 よし、そろそろだな。


 時計が5時に指を指そうとする頃合いを見計らう。

 今日もいい具合の時間だ。


「竜岡、こんなところで流暢している暇なんかないだろう? もう、5時になったぞ」


「チッ、これが大人のやる手段だって言うのか。本当にあんた手ぎたないんだな」


「お褒めに預かり光栄です」


 キ゚っと俺を睨みつけ、あいつは施設を去ろうとする。


「そうだ。聞きたいことが1つあるんだが、お前はどうしてあの娘に執着する」


 ここ最近のこいつの様子を見て、ずっと聞きたかったことだ。

 元から頭のネジが数本外れたような奴だったが、最近はそれが酷くなっているように感じる。


 原因があるとするなら、あの娘だろう。

 でも、あの娘は記憶喪失と聞く。故にあの娘から手がかりを得るのは不可能だ。


 かなりリスキーだが、本人に聞いてみるしかないのだ。


「守りたいからですよ。元気に笑っている彼女をずっと見ていたいのです。」


 ――そのためなら、私は手段を選ぶつもりは無い。


『では、失礼』と締めくくったあいつは何事もなかったように建物を去っていった。


 何が守りたいだ。


 あれはただ、自分の理想を押し付けたいだけだろう。


 はぁ、なんか嫌な予感がするな。

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