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レガリアス・カード~真白の乙女は七彩の夢を見る~  作者: ほっとけぇき
青の章:悩める少女よ、その心で自由を描け

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第7話 少女よ、新たな世界の門を叩け

新章です

 つ、ついに来てしまった、陰陽師になる日が。


 まだ見ぬ新しい世界へ胸をときめかせる一方で、上手くやっていけるかの不安が少々。


 いずれにせよ、これから踏み入れる世界が私に何かをもたらすと信じている。


 ――てなわけで、今私の目の前にはコンクリートでできた巨大な建物がある。

 

 正直、この建物が本当に陰陽師の施設だなんて信じられない。

 どっかの会社の支社だって言われた方が信じられる。


 そう思うぐらい、あまりにも普通。


 電話したときに『名刺に書かれている住所のところに行ってちょうだい』と言われたけど……。

 

 ここ、その住所の場所で合っているよね?


 スマートフォンのGPS機能で検出した住所と、名刺に書かれた住所を比べてみる。


 やっぱり一緒だ。ということはつまり――


「ここが、日本陰陽師協会の七草支部。……案外普通の建物なんだね」


「どんな建物だと思っていたの? 変な建物だったら、私たちみたいな外部の人間が訪れにくいでしょ?」


「確かに……」


 ごりっごりの和風建築だと思っていたことは美緒には黙っておこう。


 美緒の言うとおり、少し考えれば分かることか。


 【大災害】以降、クルイモノ達が活発的に動いているもの。

 この前の私みたいに攫われるみたいな件が起こったら、警察だけではどうしようもない。


 そんなときに神社みたいな荘厳な建物だったら少し駆け込みづらいのかもしれない。


 そう考えるとこういう街になじむ施設の方がいいのか。

 いや、これはこれでヤ〇ザとかがいそうな不気味さを感じるんだけどね。


「これ、どこから入ればいいのかしら」


「……正面から入ればいいんじゃないの。ほら、あそこに扉があるよ」


 首を傾げながら美緒は自動ドアの方を指さす。

 美緒の言うとおり、あそこから入ればいいのは確かなんだけど。


 でも、ドアの向こう側から人の気配が一切感じられない。

 ガラス越しに見える建物の中は一切灯りがついていないし、本当にここで合っているの?

 

 試しに近づいてみても、自動ドアが開く様子は見られない。


 え、本当に大丈夫なの、これ?


 頭を抱えていてもどうにもならないことは分かっているけど……。分かっているけども!!

 

「あの、大丈夫ですか? すごく、顔色が悪いみたいですが」


 少し掠れていながらも綺麗な声が耳に入る。

 顔を上げるとそこには心配そうに眉尻を下げる絶世の美人がいた。


 往来を歩いていたら、10人中10人が振り返るような美貌とはまさにこのことを指すのだろう。

 

 月のような黄色の瞳は輝いて見える。

 キラキラと輝く雪のように白い髪の隙間からは、紫色の髪がちらりと見えるのが神秘的だ。

 

 まつ毛もばさばさだし、唇も適度にふっくらしている。


 まさに美の権化とはこのことか。


「あの、じっと見られると大変恥ずかしいのですが」


「わぁぁ、すみません。つい綺麗だったので見惚れてしまいました」

 

 あ、思っていたこと、そのまま言っちゃった。

 でも、きっと言われ慣れているだろうし、気にも留めないでしょう。


「そうですか。……ありがとうございます?」


 視線をそっとその人の方に向けると、顔を茹蛸みたいに赤らめていた。


「こほん、それであなたたちはどうしてここに? 近くの高校……七草高等学校の生徒さんのようですね。もしかして誰か行方不明にでもなりましたか?」


「いえ、違います。私たちは協会の方から指示を受けて……」


「指示、ですか……」


 何か考え込んだと思うと、「ちょっと、手に持っている紙を見せてほしい」と言うかの人に住所が書かれた紙を渡す。


 紙に書かれた内容を読み進めたかの人は、ピクリと眉を吊り上げた。


 そして、そのまま汗を頬に一筋流しながら、どこかに電話をかけ始めてしまった。

 

 あれ、もしかして何かやらかした?

 内心冷や汗がだらだらになりながら、美緒に目配せをする。


「気にしなくていいと思うよ」


 ボソッとそう吐く美緒の視線はどこか冷めていた。

 

 ――どういう意味なんだろう?

 考えながらしばらく様子を眺めることにした。

 

 その視線の理由は案外すぐにわかった。


「すみません。本当にお客さんだなんて知らなくて、外で待たせてしまいました」


 焦った様子で頭を下げたかの人は、懐から一枚のカードを取り出して扉の印にかざす。

 

 印が光ったかと思うと、建物の中も明るくなる。

 かの人は私たちを建物の奥まで案内する。


 そして、共に入った部屋はどこかの事務所のような場所だった。

 

「どうぞ、おかけになってお待ちください」


 *


「この度はこちらの不手際で申し訳ございませんでした」


 体面に座ったかの人は私たちに対し、深々と頭を下げる。

 

 ――申し訳なく思う必要なんてないのに。

 そんな薄っぺらな本音を、些細なことで苦々しい表情をさせるかの人に言うべきことではないだろう。

 

「私たちの方こそすみません。いきなり押しかけるようなことになってしまって」


 なによ、美緒。

 そんなにじーっと私を怪訝そうな目で見る必要はないじゃない。

 

「いいのですよ。事前に分かっていたはずなのに、報連相をまともに行わなかった本部が悪いですから」


 バシッとそう言い切ったかの人に、思い切り頷く美緒。

 

 2人の困惑するよりも呆れたような反応が気になる。

 もしかして、こういうこと結構日常茶飯事なの?


「自己紹介をしていませんでしたね。僕は朧里刹那と申します。日明学院の高等部1年の学生陰陽師です」


「あと、僕は男ですよ」と悪戯っぽく笑う彼は、どこか大人びて見える。


 ……ん? 今、「僕は男」って言った?

 見た目が余りにも中性的だったから気付かなかったけど、確かに喉仏とかくっきり見えるものね。

 

「美緒さん、こちらの方が以前話してくださった結芽さん、ですよね?」


「……そう。あんまり結芽をからかうのはやめてね。陰陽師界には滅多にいない素直な子なんだから」


 昔の友人と会うような気軽な距離感で、2人は接している。


 美緒の家も陰陽師の家系だし、刹那さんの礼儀正しい態度を見るにきっと彼もそうなのだろう。


 同業者だったら少なからず関わることがあるはずだ。

 だから、こうもフランクな関係性なのね。


「本当は一緒に日佐戸の方も来るはずだったのですが、彼、補習に引っかかってしまって……」


 日佐戸……あぁ、あの時に来てくれた陰陽師さん。

 チャラいというか、マイペースというか、どこか独特な雰囲気を纏わせていたから印象深い。


 それにしても、陰陽師の学校でも『補習』はあるんだ。

 こういう面を切り取ると、普通の学校みたいね。きっと、授業内容は普通じゃないけど。


「今回は何が補習に引っかかったの?」


「数学Ⅰと英語ですね。まぁ、今回は2つだったのでまだましですよ」


『今回は』って、日佐戸さんどれだけ補習に引っかかっているの。

 それと、授業の内容が普通の学校と変わらないなんて衝撃ね。


「案外一般社会とはかけ離れていないのですね」


「僕たちもその枠組みの中に入っていますから。……常人には扱えない力を扱えるからと言って、社会のルールを破ることはあまりよくありません」


 湯呑を持って、お茶を一気に飲み干した彼は悟りを開いたような顔をしていた。

 

 色々あったんだろうな。綺麗な顔立ちをしているし、ストーカーとかされることもあったのだろう。

 あまりこういうことは、考えるべきではないわ。


 適度に温かいお茶を喉に流していると、外に人影が。


 外に全速力でこの建物に向かって走ってくる人が見える。

 あんなに慌ててどうしたのだろう。


 あ、建物の中に入ってきた。それと、刹那さんの名前を呼んでいる。

 この人も陰陽師か何かか。


「すまない、刹那。俺の代わりに二人の対応をしてくれてありがとう」


「大丈夫ですよ、久志兄さん。会長が人使い荒いのは分かっていたことですから」


 刹那さんに頭を下げる男性、見覚えがあるのだけど誰だっけ?

 この気だるそうな声も聞いたことがある気がする。


「久しぶりだな、嬢ちゃん。あの日以来か?」

「えっと、どちら様ですか?」

 

 ガーンとでも言うみたいに顎が思い切り外れそうになっているけど、本当に誰か分からないんだって。


「……兄さん。もしかして、髭を剃らないで結芽さんに会った、だなんてこと、ないですよね?」


「あ、あぁ~。そういやそうだった」


 「やっぱり」とため息を吐く刹那さんの視線に耐えきれないのか、男の人は彼から視線を逸らす。


 髭、……髭。

 あの会長さんの部下さん?


「驚くのも無理ないですよ。髭があるかないかで、見た目年齢に大きく差が出るんです。この人」


 なるほど……。

 確かに髭が生えていた方が大人っぽくは見えるけど、無精髭なのは清潔感がないからよくないと思う。


 そう言えば、この人どんな用事できたんだろう。


「あの、久志さん? はどうしてこちらに来たのですか?」


「聞いていなかったか。……会長、こういうことは先に連絡すべきだろ」


 久志さんは悪態をつきながら、頭を掻きむしる。


「会長から直々に二人の戦闘指導を頼まれた。だから、ここにいる。これからよろしくな、嬢ちゃんたち」

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