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レガリアス・カード~真白の乙女は七彩の夢を見る~  作者: ほっとけぇき
序章:始まりのユメ

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第4話 悪夢から醒め、歩むべき未来を見よ

「『陰陽師として生きていかなくちゃいけない』? いきなりそんなこと。冗談よね?」


 本当は、心のどこかで分かっているの。

 クルイモノを自らの手で切り伏せた瞬間、私の中で何かが変わったことを。


 だから、『普通』の女子高生には二度と戻れないわ。

 でも、その事実を受け入れられるかどうかはまた別なのよ。


「ごめん。そうだよね。そんなこと言われても戸惑うよね。でも、私の説得だけじゃ、どうにもできなかった」


 震える声でそう返す美緒が頭を下げる。

 いつもキビキビしている様子の彼女からは想像できないぐらい弱弱しい姿に胸がキュッと痛んだ。


 そんな様子を見せられちゃ、文句なんて言えるわけないじゃない。


 ――ちょっと待って。

 さっき、美緒は『私たちは』って言っていなかった?


「美緒、もしかしてあなたもなの?」


「冷静じゃないなら誤魔化せるのかなって思っていたけど、そう上手くはいかないよね」

 

 苦しみを押し込んで笑うぐらいなら、どうして陰陽師になるなんて判断をしたの?


『私、自由に生きたいの。陰陽師になっちゃったら自由に生きて死ぬなんてできなくなるから、なりたくないの』

 

 昔、彼女が悲しそうに呟いた夕焼けのことを今も鮮明に焼き付いている。

 あの時の彼女の目も、今の彼女の目も疲れが孕み歪んでいたことには変わりない。


 でも、今の彼女は割れ欠けた人形が何とか笑みを繕っているようにしか見えない。


「私のせいだ。私があの時、路地になんか入っちゃったから……」


「それは関係のないことさ。遅かれ早かれ、君は決断を迫られることになっていたよ」

 

 その軽薄な明るい声はすぐ真横から聞こえる。


 振り向くとそこには「やぁ!」と愉快気に笑う眼鏡をかけたやたらと長い灰色の長髪を持つ男が立っていた。


 ……誰?いつの間にそこに?

 『決断を迫られることになる』って、どういう意味かしら?


 疑問に思うことはいっぱいあるけど、とりあえず……。


「あなた、誰なんですか?! それと、そんな恰好で寒くないんですか?!」


 間違いなく今考えるべきはこんなことじゃないと思うけど……!!


 でも、どうしても気になってしまう。


 真横にいる人が「爆発に巻き込まれました」みたいなボロボロの格好していたら、気にならないわけがない。

 

 それにしても、この人どこかで見たことがあるような……。

 

「あー、ごめんごめん☆ 驚かせちゃったね。でも、結構イカしているでしょ、この格好?」


「は、はぁ。随分と独特な感性をお持ちなのですね」


 本当に変な人ね。

 半ば浮浪者に見えるほど服がボロボロなのに平然としていられるのが理解できない。


 それよりも、さっきから異常なまでに距離が近い。

 初対面の人に向かって、肩をツンツンつつくなんて、おかしな人ね。

 

「……土御門会長。結芽が困っているので、絡むのはやめてください」


「困っている? あっ、本当だ。すごく渋い顔してるね」


 ん? 今、美緒この変な人のこと『会長』って呼んでいたわよね?

 

 ――思い出した。

 この人、テレビで会見していた『日本陰陽師協会』の会長だ。

 

 パズルのピースがようやく嵌ったみたいにすっきりしたわ。


 いや、待って。

 今までの私の態度って、とても失礼だったのでは?


「申し訳ございません。会長さんだなんて知らなくて……」


「別にいいさ。あんまり君がかしこまりすぎている方が見たくないからね。君もリラックスしなよ」


 そう言いながら彼はだらしない姿勢で椅子に座った。

 この人、あまりにも自由すぎない?


「あの、さっき言っていた『遅かれ早かれ、君は決断を迫られることになっていた』とはどういうことですか?」


「それはね、今回のことが起きてなくても、そのうちスカウトするつもりだったんだよ」


 『スカウト』って、どういうこと?

 それじゃ、どのみち私は陰陽師になる運命だったってこと?


「状況がまるで理解できないのですが……」


「うーん、やっぱりそっくりだね。霊力の色も、姿も全部彼女そっくりだ」

 

 彼は私の頬を優しく撫でる。

 誰かを懐かしむような、悲しそうな顔をさせながら。

 

 目がかちりとあった瞬間、彼は不自然に顔を逸らし、再び正面を向いたときには陽気さを取り戻していた。

 

「話がそれたね。理由だったかな。簡単に言うと、今陰陽師の業界は重大な人材不足なんだ」


「3年前の大災害がきっかけでね」と彼はため息を吐く。


 そうだ。陰陽師たちが台頭したのはあれがきっかけだったわ。

 注目された当初は志望者も増えたけど、今は低迷しているらしいと聞く。


 まぁ、そうなっても仕方ない現状だけどね。


「一体のクルイモノの討伐に対して、一般的な実力を持つ陰陽師は5人必要。でも、今はそうやって丁寧に人材を割く余裕がないほど、うじゃうじゃと出てくるんだ」


 最近は特に警報が出る頻度も高まっているものね。

 悩ましくなることも当然だわ。


 あれ? 一体のクルイモノの討伐に対して、陰陽師は5人必要なのよね?


 ――ってことは、私がやっていたことってかなり常軌を逸脱しているの?


「思い当たる節があったみたいだね。私も驚いたよ。まさか10匹以上のクルイモノを一人で切り伏せる学生が眠っていたなんて、誰が思うんだ」


「なんか、すみません」


「謝る必要はないさ。そもそも君たちの世代は、君みたいのがごろごろいる。」


「そこにいる美緒ちゃんもすごかったよ」と、遠い目で美緒を見た。


 美緒、あなた昔一体何をやっていたの?


 そんなに顔を引きつらせて挙動不審になるなんて、珍しい。

 よほどの黒歴史だったみたいね。


 とりあえず、今は置いといて。


「日佐戸君、この子に救助の際の状況を教えてあげてくれ」


「りょーかいです、会長。……ちょっと長くなりそうなのですが、大丈夫ですか?」


「それもそうだね。なら、一番インパクトのある情報を1つ言ってくれ」


「えーっと、何から話していこうかな」って、そんなに悩むぐらい情報が多いの?

 

 ――なにか肌寒いものを感じるわね。


 彼が話を始めるってなった瞬間、部屋の中がピリつき始めたのも不安を引き立たせる。

 

「俺が現場に到着したとき、……クルイモノ達に囲まれた状態で彼女は気絶していたんですよ」

 

 まさか。

 あの時、全部倒しきれていなかったの?

 

 いや、そんなことはない。

 意識を手放す前、周りにはクルイモノどことか人の気配すら感じられなかったはず。


 つまり、私が気絶してからそのクルイモノ達はやって来たってことになる。


「そのクルイモノたちは【レガリアス】と呟きながら、彼女に危害を加えようとしていましたが、それは叶いませんでした。……彼女を守るように淡い結界が張られていましたから」

 

 ……え?

 そんなの知らない。私、気絶している間になにやっているの?!

 

 呆然と顔を伏せる私に今度は会長さんが声をかけてくる。

 混乱している子供を諭すような柔らかい声で。

 

「今の君が置かれている状況は異常だ。今日、こうしてクルイモノたちに認識されてしまったということは、これからも追われることになるだろう」


 理解していても、改めて言葉にされると心に突き刺さるものがある。

 選択を迫られているような圧迫感で、息がしづらくなる。


「……それは嫌です。あんな怖い思い、もう二度としたくない」

 

 目を閉じれば、無残な姿になった若い女性の最期の顔が脳裏によみがえる。

 クルイモノに吊り上げられた時の恐怖が、私の体を震わせた。

 

 思いだしただけでもおじけづくというのに、戦えっこない。

 

 だからと言って、誰かに守られ続けるわけにもいかない。

 いつ、どこで、あの無尽蔵に湧いてくるクルイモノたちを相手取るのか分からないから。


 実質選択肢が1つしかないのは、分かってしまう。


「絶対に、陰陽師にならなくちゃいけないんですか? 命を賭ける覚悟も、逃げずに戦う覚悟も何もない臆病者ができると思いますか?」


 あの時は確かに戦えた。

 

 守らなくちゃいけないのが自分だけだったから。

『戦わなくちゃ、死ぬ』なんて強迫観念が迫っていたから、震えも恐れもなく戦えた。


 でも、陰陽師になって戦うなら、それだけ考えるじゃダメなんだと思う。


「できるさ。むしろ、逸材だね。そんな覚悟を真っ当に持っている奴はすぐに死んでいくし、喰われる。それが陰陽師の世界だ」


 彼は一段低い声で私に告げる。

 多くの死や恐怖を彼は、陰陽師たちは見てきたのだろう。

 

 陰陽師の長に立っているということは、一般的な陰陽師よりも何倍も多く心に刻んだに違いない。


「決める覚悟なんて1つだけでいい。華々しく散る? 最後まで戦い抜く? ……違う。君が決めるべきは『未来』を生きる覚悟だ」

 

 頬でも叩かれたみたいに背筋がしゃんと伸びる。

 でも、じくじく痛むというよりも心は酷く晴れやかだ。


 まだ、すぐには決断できないけど、少なくとも先ほどまで抱いていた不安や焦燥は限りなく薄れている。

 

「ご家族とも相談するといい。君がいい返事を返してくれることを祈っているよ」


 彼はすっと一枚の名刺を私に手渡し、静かに部屋を出た。


 家族――私のお義母さん。

 どこの馬の骨かも分からぬ私を助け、愛し、心を育んでくれる人。


 そんな人に心配をかけたくない。泣かせたくない。

 ずっと笑顔で、毎日会えたらそれでいい。


 ありふれたささやかな幸せが、ある日突然無常にも奪われるかもしれない。

 遠い場所での話と無意識に思っていたことが、現実だと痛感した。


 もう他人事ではいられないのね。

 ……私の中の答えは決まったわ。


「憑き物が落ちたような顔をしているね、結芽。やっぱり、結芽は笑っていた方がいい」

 

 美緒が自分のことのように喜びながら私の手を握る。

 温かい生きた人のぬくもりがここまで心にしみるものだなんて知らなかった。


 ――この温もりを私は守っていきたい。


 「美緒。私、決めたよ。陰陽師になる。胸を張って未来を生きるために」


 ……とりあえず、お義母さんを説得しないとね。

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