第37話 不気味なトンネルとおかしな村人
「人の気配が全くしない。本当にこの近くに人里なんてあるの?」
日がやや西側に傾いたころ、美緒が周りを見渡しながら言う。
彼女の言う通り、周りには相変わらず木々や草ばかりが目に入る。
人の気配どころか、動物の気配すら全くしない。
風の音だけが妙に大きく感じられた。
「おかしいですね。これまでの調査結果では確かにこのルートで行っていたみたいですよ。もしかして、封鎖された?」
まぁ、複数回失敗していたらそうなるだろう。
絶対に警戒されている。
村人たちからすれば、私たちは侵略者のように見えているのかもしれない。
「道は1つじゃないんだし、他の道も探そう」
とりあえず、今やるべきはシジマ村へたどり着くことだ。
こんな鬱蒼とした山の中で野宿したら、何が出るか分からない。
きっと村人が使う道はひとつじゃないだろう。
「とは言っても、道らしき道はなくねぇか?」
「草むらだらけですからね。……一旦、このまま先に進みましょうか」
鋭い葉を持つ植物に気を付けながら、かき分けていく。
徐々に草丈が私の胸辺りまで来ると、本格的に道らしき道は見つからなくなる。
そうなってくると明らかに生き物の気配すらまともにしない。
辺りを一度見まわした時だった。
「あれ、トンネルじゃない? 周りの木々たちの中に、滅茶苦茶浮いているわね」
「マジ? ……おぉ、あんなに溶け込んでちゃ、すぐに気づけないな」
目に入ったのはツル植物がカーテンのようにしだれている、トンネルだった。
あまりにも自然に溶け込んでいたから気付かなかった。
ここから、そこまで遠くなさそうだし、1回行ってみるのもありだろう。
草を必死にかき分けながら歩いていくと、トンネルの近くまですぐに行けた。
その近くではあまり草丈が高くなく、道らしい道もある。
村人たちが使っている道なのか。
「入るなら、ここから入るしかなさそうね」
「明らかに怪しい要素しかない」
幻さんがしみじみと指摘するのも分からなくはない。
事実、怪しいもの。
こんな人の手が全く入っていなさそうな場所に、トンネルがあるだけでも変だ。
それに加えて、トンネルは頑丈なコンクリートでできている。
『怪しんでください』って言っているようなものではないか。
「周辺に異常な反応は見られない。多分入っても早々に事件発生はないはず」
タブレットを手に持った萌黄ちゃんが見せてくれたのは、霊力を計測してみた結果みたいだ。
そこに写っているのは私たちと同じ数の黄色い点と、近くにある多数の緑色の点だけ。
「黄色は陰陽師、緑は一般人。敵性反応があれば赤くなるの」
「なるほど……」
つまり、この周辺に敵はいないってことね。
それにしてもすごいな。
タブレット1つで探知することができるなんて。
操作さえ覚えればすぐにできそうだし、ブレも出なさそう。
霊術で探知してもいいけど、ブレが起こりやすいのよね。
「少なくとも近くに人はいるみたいですし、早々に行ってみましょうか」
「うん、そうしよう。このままモタモタしていたら日が暮れちゃうしさ」
ツルをどかしてトンネルに入ると、日の光があるはずなのにすでに真っ暗だ。
ジメジメとした空気に満たされたこの場所は少しかび臭い。
まぁ、生臭いよりは断然ましだけど。
「お、光が見えてきた。あれが多分出口だろうな」
前の方を歩く幻さんが指さす先には、小さな光が見えた。
少しかび臭さも消え、清涼な空気がトンネルの中を通っていく。
駆け足気味でその光の方へ向かっていった。
「うっ、眩しッ」
「わぁ。すっげー、マジの村だ。テレビとかで出てきそう」
外へ出て一瞬は光の強さに思わず目を覆ってしまう。
「本当ですね。ドラマとかの舞台になっていそうな場所ですね」
「意外と建物がいっぱいあるが、こいつは江戸時代とかの様式じゃないか」
ひとまず先に、光に慣れた幻さんのはしゃぐ声が耳に入る。
それに続いて他の人たちも似たようなことを発するのだ。
「これは、確かに……」
おそるおそる目を開けてみると、視界にはかやぶき屋根の家屋が多数。
小さな田んぼがいくつもあり、近くにある農具は鍬や鎌と言った古いものばかりだ。
どこか現実味がない気がするが、ひとまず着いたということで良いのだろうか。
そんなことを考えていると、ひそひそ誰かが話す声が耳に入る。
声の方へ振り向くと、着物を着た人たちが私たちを指さしていた。
「随分と古風な方たちが多いような気がする」
「どれだけ田舎でも洋服を着ている人が多い中でこれは、おかしいですね」
刹那さんが指摘する通りだ。
こんな山奥の村だ。自給自足だけで生活を賄うのはかなりきついはずだ。
だから、出稼ぎに山を下りる人だっているに違いない。
それにも関わらず、彼らの中には洋服を纏っている人がいない。
百歩譲って着物を着ているだけならいい。そういう趣味の人もいるから。
ただ、髪型がちょんまげなのは明らかに時代遅れな気がする。
「あの、あんたぁ」
「は、はい。なんでしょうか?」
背中を誰かに叩かれたから振り返ってみると、腰の曲がったおばあさんが一人。
不思議そうに私を見上げながら、彼女は喋る。
「あんたぁ、なしてこげんなとこ、きちょる?」
歯がいくつかないのと、訛っていて何言っているのか分かりにくかったけど……。
――あなたはどうして、ここに来たのか?
って、ことで良いのかな?
なんて答えるのがいいのだろう。変に答えたら警戒されるし。
「お勉強のためですよ。学校の勉強で調べ物をするために来たんですよ~」
嘘は言っていない。
長期休みの課題で『日本の伝統文化』を調べる必要があった。
ただ、それを言っただけだから久志さん、馬鹿を見るような目で見ないでください~!
「そっかぁ」
おばあさんは朗らかに笑ってから、「ちょっと、待ってなぁ」と誰かを呼びにいく。
ふぅ、一安心。
見定めるような目で見られていたからどうなるか不安だった。
他の村人たちももう私たちへ怪訝そうな目を向けていない。
「村の外から人が来たっちゅうから見に来たんだが、本当みたいだなぁ」
先ほどのおばあさんが、男の人を連れてやってくる。
その人はおばあさんや村人たちよりも幾分か上等な着物を身に纏っている。
もしかして、この人は……。
「わたしゃ、この村の長の庄助です。あんた、調べもんのためにここへ来たと?」
「はい。どうせ課題をやるのなら人と被らないのがいいなぁ、と思いまして」
「そうか、そうか」
やっぱりそうだ。この人が村長だ。
彼が出てきた瞬間、村人たちの空気が少しピリついた。
こういう閉鎖的な村は上下関係が厳しいんだよね。
……ん? どうして、行ったこともないのにそう思ったんだろう。
まるで、そこに住んだことのあるように、自然と受け入れてしまった。
「それなら、『眠り神』の話とか聞くか?」
早速『眠り神』に関するヒントが手に入れらるなんて……。
ひょっとしたら罠かもしれないけど、聞かない手はないだろう。
後ろにいる久志さんが『行け』と目で訴えているし、きっと大丈夫。
「いいんですか? ぜひ、聞いてみたいです!」




