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レガリアス・カード~真白の乙女は七彩の夢を見る~  作者: ほっとけぇき
藍の章:静寂を抱くものよ、もう汝は孤独ではない

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第38話 眠り神と藍色のもや

「簡単に言えば、『眠り神』様はわたしたちの守り神だ」


 ――ほら、家に上がれし。


 手に持つ杖で村長は、この村で一番大きな家の中へ招く。

 他のかやぶき屋根の不安定な家とは違い、瓦で出来た丈夫そうな家は酷く浮いて見える。


 この村の中に技術力じゃ、間違いなく建てられない立派な家だ。


 何かきな臭い。

 それが私の村長に感じたことだった。

 

「守り神、ですか」


「ほうだ。長いあいさ、村を守ってる」


 彼は『ちょっくら待っててくれ』と、屋敷の奥の方へ消えていく。


 通された居間をよく見渡すと、一枚の掛け軸が目立つように掲げられている。

 一匹の竜が藍色のもやを纏い、目を閉じた青年と共に舞う絵。


 今にも動き出しそうな躍動感ね。


「わぁ、すっご。これが噂の()()()ってやつ?」


「え?」


 幻さんが何でもないように言うものだから一瞬聞き逃すところだった。


 水墨画って、大体白黒で描かれている奴よね?

 彼にはこの絵が白黒の絵に見えているって言うの。


 私には竜に藍色のもやが掛かっているように見えるんだけど。

 

「確かにな。()()()だけでよくもまぁ、ここまでの濃淡を表現できるなんてすごいよな」


 久志さんまでも、白黒に見えているの?


 あまりにもしみじみと言っているから、嘘じゃないと信じたい。

 揶揄うことはあっても無意味な嘘はつかない人だし。


「おぉ、その絵を気に入ったか」


「ひゃっあ!」

 

 うわっ、びっくりした。

 いきなり後ろからぬるりと村長さんが現れるものだから、変な声が出ちゃった。


 ニコニコとした笑みを浮かべる村長は本当に読めない。

 

「この絵に描かれているのは?」


「『眠り神』様だ。竜も、人もな」


 てっきり竜の方が『眠り神』だと思っていたけど、違うのね。

 

 もう一度よく見て見ると、藍色のもやは人の手にも纏われている。

 2人で1つの存在と言う事かしら?


「わたしの5つ前の頃の話だ」


 彼がそう語りかけるのと同時に、巻物を広げる。

 書かれている文字は所々汚れていて正確に読み取るのは難しそうだ。


「その昔、この村では獣の出ることが原因で人々は眠れん日々を過ごしてた。一日ではねえ。何年もだ」


 こんな鬱蒼とした森の中に佇んでいる村だ。

 獣が出ることは仕方のないことだろう。しかし、眠れぬまで出るとはどういうことだろう。


 夜中にずっと吠えていたりするのだろうか?

 それなら全く寝れなさそう。


「人々は眠れんことから、畑を耕すことができなくなって、飢えるようになった」


 まぁ、この村の技術力を見ると『それもそうですね』としか言えない。


 畑を耕すのに人力のみで行うのははっきり言って無謀だ。

 確か彼らの格好に準拠した江戸時代ぐらいって、牛を使って耕していたはず。


 ここから一体どうなって、今の状態になったのかますますわからなくなった。


「ほんなある日、ご先祖様が外に出ると村がうんと静かだった。辺りを見渡すと、誰かが動く影が見えただ。……ほれは彼の息子だった」


 ごくりと喉を鳴らしたのは誰の音なのだろう。


 いつの間にか彼の話に引き込まれるのを身をもって感じる。


 ――続きを聞きたい。

 そう思った私はいつの間にか前のめりになっていた。


「彼の姿をした何かはこう答えた。『我は汝らの祈りに答えやって来た。我はこの村で一番静かな者に降りて現れるだろう』と」


「それが、『眠り神』だと……」


「ほうだ」


 話を聞く限り、色々なところにあるただの昔話にしか聞こえない。


 だけど、『火のない所に煙は立たぬ』と言うし、何よりクルイモノだなんて化け物のいる世界だ。

 もしかしたら本当なのかもしれない。


 あっ、そういえば……


「今、『眠り神』はどうなっているのですか?」


「ん? わたしの孫に降りてる。ほうっちゅうしきたりだ」


 彼が満足そうに、笑う。

 その顔が酷く不気味に見えるのはどうしてだろう。


「こんな名誉、滅多にねえ」


 そう彼が掛け軸に触れた瞬間、藍色のもやがふわりと霧散した。

 噛みつくように彼を通り過ぎたもやは私の懐に飛び込んだかと思うと、どこかへ飛んでいく。


 え、どういうこと?!


「話は以上だけんど、聞きてえこんはあるけ?」


「特にはありません。素晴らしいお話、ありがとうございました」


 今の私、きっと変な顔をしている。

 質問をするどころの話じゃない。


 私は彼に会釈をすると、居間を飛び出した。


「さっきのもやはどっちの方に……」


 あぁ、もう見失った。


 屋敷の外へ出ると、藍色のもやなんてどこにも見当たらない。

 あるのは爽やかな快晴のみ。


 私が見たものは気のせいだった?

 いや、気のせいじゃない。はっきりと目に映っていたし、私の体もすり抜けていた。


 あれは一体何なんだ?


「結芽」


 その時後ろから、誰かにそっと肩を叩かれる。


「うわぁ、美緒か」


 振り向くと、神妙な顔つきをした美緒が立っていた。


 彼女は私の耳に顔を近づけ、そっと囁く。


「結芽、日記帳持っている?」


「もちろん、肌身離さず持っているよ」


「今すぐ出して。早く」


「わ、分かったよ」


 鋭い剣幕で促す彼女を尻目に、懐から日記帳を出す。


 相変わらず白いままだけど……。

 あっ。もしかして、この前の美緒みたいなことになっているとか?


 一枚一枚、確認していくと明らかにおかしな色のページがあった。


「『藍』のページが、灰色になっている?!」

「やっぱり」


 持ち主の私が驚いているのに、美緒は全く動じる様子を見せない。


「あの掛け軸の竜、たぶん『レガリアス』」


「あの藍色のもや?」


「そう。確信は持ててなかったけど、今の結芽の日記帳を見て自信を持って言えるよ」


 ――決めつけるのは早いんじゃない?

 そう言いかけたけど、否定する理由はない。それどころか納得できる。


 あの絵が示していたのが、『レガリアス・カード』による武装状態なら?

 『眠り神』が2人で1つなのも納得がいく。


 ただ、1つ分からないことがある。

 ――本当に今いる『眠り神』が本物なのか。

 

「とりあえず、もう少し調べてみよう、『眠り神』について」


「うん」

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