第35話 新たな任務とシジマ村
「皆様、本日はこのように集まっていただきありがとうございます。本当に……すみません」
頭を地に打ち付ける勢いで土下座?!
全員揃ったから、任務の話をされると思ってたらいきなり何をするんだ、この人。
人事部の佐藤、と名乗ったその人の精神が大丈夫なのか、純粋に心配になる。
「顔をあげて下さい。あなたが何をやったって言うのですか?!」
アワアワする私の様子を見て、さらに女性は涙を目に蓄える。
「あの一体何が何やら分からないので、ひとまず説明していただけますか?」
刹那さんがにっこりと微笑みながら、問いかける。
彼の細められた目には、彼女を見極めようとする意志を感じる。
と言うか、私以外のみんなこの人のこと警戒している?
「は、はい。皆様にはある山奥の村――シジマ村へ行ってほしいのです。任務内容としては人材のスカウトと言う名の保護です。」
――ちなみに拒否権はありません。
しどろもどろになりながら答える彼女に、私は小さな違和感を覚えた。
やけに落ち着きがないし、さっきから視線が右往左往しているのが目に入る。
それとあえて詳しく説明することを避けているような気がしてならない。
「あの、その村って変な風習とかあったりしませんよね?」
私が思っていた疑問を口にした瞬間、部屋の空気がぴしりと固まる。
ほら、ゲームとかでよく古い村にはその村独自の風習とかあったりするじゃん。
それに、なんとなく私の中にあるそういう村のイメージを吐き出しただけだけど。
どうして、あの女性は冷や汗をだらだらと流しているのだろう?
「……おっしゃる通りです。予測ではございますが、『人柱』の風習のある可能性が高いと想定しております」
なるほど、確かにこれはかなり言いにくいことだ。
恐らくだけど、その『人柱』になっているのは私たちぐらいの人だろう。
彼女は、私たちに別の誰かを重ねているように見えた。
「シジマ村は『眠り神』と言う土着の神を信仰していると、これまでの調査で分かっております。それだけならいいのですが……」
さらに目を泳がせながら言いよどむのが目に入る。
その時点で彼女が何を思っているのかが筒抜けだ。
「……村の周辺に人骨らしきものが見つかりました。一人のものだけではなく、複数の」
予想していた衝撃はやってこなかった。
なんとなく、そういうことなのだろうと察しがついていた。
こうなったら、私としては1つはっきりさせたいことがある。
「佐藤さん。この任務、誰からの指示ですか?」
「え? それは……」
また、彼女は話すのを止める。
どう話すべきかを考えているのだろう。
できれば早く答えてほしいものだけど。
この人が私たちの敵かどうかを見極めるためにも。
「以前、七草支部の者たちへ行われた任務妨害、覚えていますか?」
「もちろん。人事部に所属するものとして重く受け止めています」
あら、てっきりゴニョニョとはっきりしない口調で答えられると思ったけど、そうじゃない。
ちゃんと私と目を合わせて、胸を張り答えている。
悪意はなさそう?
それなら、どうしてはっきり言えないのだろう。
「本来なら、学生の皆様にこのような危険な任務をさせるわけにはいきません。しかし、並大抵の陰陽師では対処不可能であると協会は判断いたしました」
さっきの発言からスイッチが入ったのだろうか。
あの土下座のときとは全然印象が違う。
どこか自信なさげで話していたのが嘘みたいだ。
「最後の手段なのです。この支部にいる学生及び久志さんは逸脱した実力をお持ちになっています。私たちとしてはどうにかその力をお借りしたい」
もう一度、彼女は私たちに頭を深く下げる。
さっき土下座したときとは違い、それは責任から逃げないという覚悟のように見えた。
「あの10年前の悲劇を繰り返すわけにはいかない。私も同行いたします。ですので、どうかお願いします」
正直、内心信頼できなかった。
最初に話し始めた時の彼女の目には、ほんの少し『人任せにしたい』と言う意思が宿っているように見えたから。
任務を断ることが不可能だと分かっているからこそ、危険性が高いと分かっていたからこそ。
何も言わず、ただ従うだけにはいかなかったのだ。
「佐藤さん、頭を上げてください。私はただ不安だったのです。碌に指示を出さずに、また丸投げされるかもしれない、と」
「そんなことするわけがありません!私たちは人材あってこそ、成り立つ組織です。何があっても致しません」
私、すっごく失礼なことを彼女へ言ったのに、怒るそぶりすらも見せない。
本当にいい人なんだな……。
試すような真似をしてすみません。
「僕も色々言おうと思っておりましたが、結芽さんが言ってくださった通りです。説明、ありがとうございました」
刹那さん……。
彼もなかなかに険しい顔をしていたから、やっぱり不審に思っていたのか。
でも、彼の眉間にはもう皺が寄っていないから解決したのかな?
そういえば、私何かを忘れているような……。
「それでは、皆さん。さっそく村の方へ――」
「ちょっと待った。嬢ちゃん、荷物」
あっ、荷物を持ってくるのを忘れていたんだった!
「本当にすみません!」
急いで取りに行かなくちゃ。
*
「それで、あんたはあの子の霊力を見てどう思う?」
「……ガッツリ、賀茂家の血を引いています。少なくとも三親等以内には血縁者がいますね」
久志が佐藤に問うと、思っていた通りの答えが返ってくる。
「本命は?」
「一親等です。両親のどちらかが確定で賀茂家の者――それも本家筋でしょう」
顔を顰めながら答える彼女の脳裏には『ありえない』と言う言葉で埋め尽くされていた。
理由は簡単。
その条件を満たすものは、すでに死しているはずだからだ。
「あなたはあの子が賀茂樹だと思っているのですか?」
「あぁ、遺伝子でも証明されているからな」
彼は彼女へ以前幻に見せた冊子を手渡す。
その中身を見た彼女は座り込み、ため息をついた。
「ただ分かっていないこともあるんだ」
彼はある悲劇を思い出す。
シジマ村と似たように特異的な風習を持った村のことを。
「そもそも――あの時、彼女は本当に“死んでいた”のか」
彼が静かに紡ぐ言葉に彼女もはっとする。
――そういえば、まだ遺体すらも見つかっていない。
「死んでいなかったとしたら、どうなると思う?」




