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レガリアス・カード~真白の乙女は七彩の夢を見る~  作者: ほっとけぇき
青の章:悩める少女よ、その心で自由を描け

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第16話 その悪意の名はフラウス

「ここがこの階の一番奥ですか。扉の向こうからかなり禍々しい気配がしますね」


 刹那さんは訝し気に扉を見つめるのも当然だ。


 扉の向こうから、肌を突き刺すような殺気をひしひしと感じる。


 あの帰り道で会ったクルイモノと比べ、濃厚で鋭利な悪意が今にも私たちに手を伸ばそうとして来ているのだ。


「この先に足を踏み入れると、調査では済みませんね」


「やっぱり、こうなるよな。なんで、毎回最後はこうやって戦うことになるんだよ」


「本当にそうですね。2人も戦闘準備を……って、できているみたいですね」


 だって、あの人に頼まれたもの。わざわざ、私たちを指名してね。


『この階の最も奥の部屋に行っておくれ。本当は私自身で処理をしたかったがね。こんな状態じゃ叶わない』


 死の間際、そう吐きだした彼は本当に悔しそうだった。


 本当は抗いたかったのだろう。まだ、やりたいこともあったのだろう。


 でも、それらを全て飲み込んで、彼は私たちに託した。


「やるべきことをやりましょう。これ以上、誰かが無意味に死ぬことのないように」


 扉にそっと手を掛ける。

 古くなって錆びついているのか、単純に扉が重いかは分からない。


 キィっと、鈍い音を立てながら、扉が開く。


 ――もう、後戻りはできないわ。

 覚悟を決めて、扉の向こうへ踏み込んだ。



「この部屋、実験室かなんかか? 試験管とか、学校の実験室とかでしか見ないような器具がいっぱい置かれているな」


「注射器とかもあるようですね。ここにいる存在へ投与していたのでしょうね」


 テーブルの上に置かれている紙へ視線を落とすと、小さな文字が敷き詰められていた。


 細かく見ていくと、『202x年 x月10日』と言う今日の日付が目に入る。

 つまりは、殺される寸前まで実験を行っていたということか。


 本当に殺されるのは無念だったんだろうな。

 道半ばで死ぬなんて、死んでも死にきれないもの。


「うぉっ!? なんだ、この赤く光るやつ。って、ボタンか。見たことあるような?」


「授業でやったやつですよ。拘束系霊具の作動部位がこのような形をしていると」


「あ、今日習ったやつじゃん。だから、見覚えがあったんだ」


 幻さん、さすがに今日習ったことは覚えていましょう?

 授業中に爆睡でもしていたのかな?

 

 刹那さんも思わずため息をついてしまっているじゃない。


「クルしィ、タスけテ」


 奥の方から、幼い子供のような高い声がした。

 その瞬間、どこかみんなの気の抜けていた空気感が一気に締まる。


「結芽。この声って、多分クルイモノだよね?」


「恐らくは。あの時、帰り道で聞いた声とかなり似ているわ」


 少しノイズがかかったような歪な声。


 間違いない。

 そこまで力を持っていなかったクルイモノ達も、たどたどしく喋っていたもの。


 1回、声のする方をライトで照らしてみるとするか。


「アぁ、タスけてクレるノ?」


 ――オねェサんたチ。


 そう笑うのは、人の形になり切れていない泥の塊だった。

 幼い子供のように、純粋に笑うこの塊こそが、彼の処理したかったものなのだろう。


「それは……」

 

 あの帰り道であった存在は、今目の前にいる存在よりも遥かに醜悪だった。

 人を食らうことを善とし、その行為に罪悪感を感じることすらなかった。


 でも、この存在はどうなのだろう。


 あまりにも幼さすぎる。善悪を判断することもままならなさそうだ。


「できないわ。ごめんなさい」


「ドウしテ?」

 

 泥に覆われてろくに見えないけど、無垢な視線が突き刺さる。


 胸が痛む。

 幼気な存在を切り伏せねばならないのかと。


 その一方で覚悟が決まった。

 幼いからこそ、手を汚させてはならないと。


「博士に頼まれたの。あなたを終わらせるようにと」


 ――だから、ごめんね。


 そう言って、刀を振り下ろそうとした瞬間だった。


 突如として、大きな霊力を纏った存在が背後から飛び出す。


「あっ、やっと会えたぁ♡ 嬉しいなぁ♡」


 その存在は爛々と黄金色の瞳を輝かせ、その視界には私しか入っていないみたい。


 他のみんなは?


「よそ見はしちゃ、だぁーめ♡ウチ、ずぅーッと、アンタに会えること、楽しみにしてたの」


 ――だから、ね♡


 甘い声で私に囁く少女は、間違いなくあの男性の最期に写っていた。


 長い白髪を高めのツインテールにして、服はいわゆるギャルと呼ばれる類の人たちのような露出度の高い派手な恰好をしている。


 極めつけは毒々しい紫色の肌に、黄金色の瞳。


「そんなに熱烈な視線を寄こすなんて、見惚れていた?」


「別に、そういうわけじゃないわ。ただ、気になることがあったの」


 机の上に座り、足を組む彼女は並大抵の存在ではない。


「なぁに? ウチは結構優しい方だから、答えてあげるよ」


 彼女の纏う甘い香りは、吸うたびに体を蝕むように痺れを与える。

 そのまろやかな声は、時として人々に眠りと言う死を与えようとするのね。


「あなたは何者?クルイモノと呼ぶのは失礼、でしょうね?」


 そう問いかけると、目の前にいる存在は嗤いだす。


 刀を前に突き出して、警戒している私が滑稽に見えたのか、哀れに見えたのかは分からない。


 ただ、彼女は楽しそうに笑う。


「そうだねぇ。私自身には名前があるけど、私たちを示す名はないわね」


 私()()

 彼女のような存在が他にも何人もいるということか。


リベリオン(叛逆者)。美しいものが嫌いなの。人間賛歌が嫌いなの。そんな同志たちが集まってできたのが私たち。」


 ――私はフラウス。よろしくね。レガリアスのお嬢さん?

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