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レガリアス・カード~真白の乙女は七彩の夢を見る~  作者: ほっとけぇき
青の章:悩める少女よ、その心で自由を描け

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幕間 想像の中の世界はいつだって自由 ≪side 美緒≫

「美緒ってさ、いつも絵を描いているよね」


「まぁ、好きだからね。……何か気に障った?」


 授業が終わった放課後、私たち以外いない教室。

 あまりにも静かで穏やかなその空間では、声がよく響く。


 目の前でそう問いかけた結芽は朗らかに微笑みながら、私の描きかけの絵を見つめる。


「これって、何の絵なの? 美緒が人の絵を描くのって珍しいよね」


「……今はまだ秘密」


 今私が描いているのはこの前の刹那と結芽の模擬決闘のある一瞬を切り出した絵だ。

 あの時は雑なラフしか描けなかったけど、ちゃんと作品として完成させたかった。


 写真や動画で残すのも風情があるとは思う。

 ただ、私は絵を描くのが好きだ。見て、そこに込められた思いを馳せるのが好きだ。


 だから、こうして絵にして残す。


「……やっぱり好きだなぁ。美緒が絵を描いている所を見るの」


「いきなりどうしたの? 物思いに更けるなんてあなたらしくないじゃない」


 ふいっ、と顔を背けた彼女は窓の外を見つめる。

 懐かしむように目を細める彼女が見てるのはきっと、遠く彼方に見える夕日だろう。


 そう言えば、決断に迫られたあの日もこんな感じの日だったような気がする。

 

「陰陽師の訓練を始めてから、段々自分が塗り替えられていく気がするの。自分ではない誰かになるような気がするって言うか。……色々、変わったからかな?」


 私から見れば、見た目とか様子とか特に変わっていない。

 

 人とは何かをきっかけに大なり小なり変わるもの。

 それは彼女だってきっと例外ではない。


 特に彼女は記憶喪失だ。それがより顕著に出るのだろう。


 その変化に対する恐怖がより強いのは仕方のないことかもしれない。


「でも、真剣に絵を描いている美緒を見るとそんなことがどうでもよくなってくるの。どうしてか分かる?」


「……分からない」


 だって、そもそも『絵を描いている所が好き』とか今初めて知った。

 今言った彼女の悩みなんて、そんな小さなことで取り払われるとは思わない。


 本当にどうしてなのだろう?

 

「絵を描いているときの美緒は、どんな時でも楽しそうにしているからよ」


「そんなに楽しそうにしている? 別にいつも通り仏頂面だと思うのだけど」

 

 はにかむようにして、言われた言葉をなぜか素直には飲み込めなかった。


 絵を描くのは楽しい。それに違いはない。

 でも、いつも絵を描いているのは、もっと違う理由があるの。


 それを言葉にしたいかと言われればちょっと違うのかもしれない。


「まぁ、自分の手で何かを生み出すのは楽しいわ」


 ――あとは、空想や想像の世界でなら、どこまでも自由であれるから。

 なんて、続きの言葉は出なかった。


 なんとなく、私がこの言葉を言うのは酷く傲慢だと思ってしまった。


 特に目の前にいる結芽には――現在進行形で周囲の汚い陰謀に巻き込まれそうな彼女には言えない。


「美緒、どうしたの?」


「何でもないわ。……ちょっと考え事をしていただけ」


 首を傾げながら私を気遣う彼女は、どこまでも無垢で綺麗だ。

 それが醜い欲望で汚されることに耐えられない。


 さっき、変わることは当たり前だと思ったけど、彼女に関しては違う。


 どうか、このままどこまでも無垢であってほしい。花が咲くような優しい笑顔で過ごしてほしい。

 お門違いかもしれないけど、どうしようもなく願ってしまう。


「結芽。陰陽術の鍛錬、どこまで進んだの?」


「4冊目の半分までだよ。人形の札の制御がやっとできるようになってさ、内容を網羅するのもあとちょっとかも」


 ――早い。そして時間がない。

 元々、ただでさえ容量が良くて飲み込みが早い方だと思っていたけど、それがこんなところまで発揮されるのか。


 まだ真面目に鍛錬を初めて精々1か月程度なのに。

 もうここまで来たら恨めしいとか、ずるいとかなんて言えないわ。


「そうなのね。いっぱい頑張るのはいいけど、適度に休んでね」


「うん。そう言う美緒も()()()()すぎないでね」


 まさか、言い返されるなんて……。

 驚きからか、思わず小さく声が漏れ出てしまった。


 そんな私の様子を見て、彼女はより一層笑みを深めて言う。


「私ね、美緒が思っているよりも純粋じゃないよ。だからね、どこの誰かも分からない人間に何を言われても気にしないよ」


 心を見透かされたのかと思った。

 事実、ここ最近よく遭遇する竜岡とやらを結芽に近づけないように動いていた。


 他にも彼女のスペックを知った会長の派閥ではない人間とか、ちょっとひねくれた学院の人間とか。

 みんながみんな隙を突いて、彼女を狼略しようとする。


 それを久志さんや刹那と共には追い払っていたのだ。


「もっと肩の力を抜いていこうね。私も美緒も」


 のんびりした口調で紡がれる言葉は、張り詰めていた私の心を解く。


 なんだ。彼女の方が私よりも何倍も自由じゃないか。

 想像の中でしか自由になれない私とは違って、どうしようもない現実を気ままに生きている彼女。


 本当に眩しいなぁ。


「ねぇ、美緒。その絵、完成したら見せてよ。私、美緒が描く絵の温かくて優しい世界が大好きだからさ」


 彼女は笑っている。初めて出会った時よりもほんのちょっぴり大人びた顔で。

 ただ、その笑顔を取り繕う道具にしたりはしない。


「いいよ。結芽になら見せるよ」

「へへっ、やった!」


 まだ絵が完成するのにはちょっと時間がかかるって言うのに、もうそわそわしだしている。

 本当に好奇心旺盛なんだから。


 でも、こんな時間が長く続けばいいなと思う。

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