第12話 結芽と廃墟の豪邸
「はぁ、また負けた~!! 悔しい」
霊力操作も完全にものにした私は今、美緒と何でもありの決闘をしていた。
久志さん曰く、「いつでも任務に行けるように戦えるようにしとけ」、らしい。
まぁ、結果はこの通り。
肩で息をしながらなんとか立っている美緒と、頭からひっくり返っている私。
勝敗は明らかだった。
「今回は上手くいくと思ったんだけどなぁ」
「いや、本当に、ギリギリだった。パランディンいなかったら、私普通に負けているよ」
毎回言っているよね、それ?
そう言いながらも、ずっと私に勝ってんじゃん。
今日はかなり接戦だったって、自分でも思うけどさ。
結局パランディンの方が速いから、吹っ飛ばされるんだよね。
それをどうにかしない限り勝てないってことか……。
「パランディンが余りにも無法すぎるよぉ」
「それを言うのなら、結芽の霊術もなかなかに無法じゃない? いきなり位置が変わったときは本当に焦ったんだけど」
焦ったって言うわりには、一瞬目を丸くしてすぐに体勢を整えていたよね、美緒?
むすりと頬を膨らませたいのは私の方よ。
せっかく霊力操作の中でたまたま思いついたのを、なんとか形にするまで出さなかったのに。
あっさり見破られたら、肩を落としてしまうのは仕方がない。
「俺から見たらどっちも無法だよ」と、呆れたように突っ込む幻さんの声はきっと気のせいだ。
「おーし、お前ら全員揃っているな」
久志さんがこの時間にここへやってくるなんて珍しい。
背中を丸めながらため息をついているってことは、今日もお客さんやって来たのかな?
でも、そうだとしたら眉を若干潜めていることが多いから違う。
よくよく見て見ると手に何かを持っている。
あれは布?
「嬢ちゃんたち、これ1回着てきてくれないか?」
渡された紫の布を広げてみると、丈の短い和服? とスカートみたいだ。
生地はつるつるとしているのと伸縮性があって動きやすそう。
「はい、分かりました」
*
「わぁ、すっごいね美緒。この服動きやすいよ!!」
「うん、腕を大きく振り回してもなんてことないもの」
和服って、着ているとすごく動きにくいって聞くから不安だったけど。
かなり簡略化されたもので、動きやすさに特化しているようだからあまり問題はなさそう。
逆に普通の服よりも動きやすい。
「これは、陰陽師たちが着る戦闘服だ。特殊な繊維で作られているのと、サポートに特化した霊術を組み込んでいるから動きやすいだろう?」
「はい!!」
へぇ、それじゃこの服っていろいろな技術が詰まっているんだね。
いくらぐらいするのだろう。絶対かなりいいお値段がするに違いない。
――やめよう。考えて結論を出してしまったらきっと、この服を着るのが怖くなってしまう。
ん?そう言えば……
「あの、久志さん。いつ服のサイズを測ったんです?」
ピシッと空気が割れる音がした。
ギギギとブリキの人形が首を動かすように、みんな彼の方に体を向ける。
みんなが鋭利な視線を向けても、何事もなかったかのようにしているのはすごいと思う。
「……ノーコメントだ」
「あまりよろしくない手段を使ったのですか、兄さん」
視線に居た堪れなくなった彼は、そっぽを向きながらそう一言呟いた。
はっきりと言えないのか。何か鳥肌が立ってきたような気がする。
「コホン、今日二人にこれを渡したのは、近々任務へ行ってもらうためだ」
あ、久志さん。露骨に話を変えた。みんなに突っ込まれるのが嫌になったのだろう。
……って、任務?! あまりにも唐突すぎないか。
今までそんな素振り、一切見せなかったのに。
「本当はもっと前から持ち掛けられていたが、まだ早いと思ってな。流石にこれ以上断るのはダメだって叱られちまった……」
あぁ。だから、そんなにしょぼくれた顔をしていたんですね、久志さん。
「任務の場所はここから北方にある廃墟だ。最近、クルイモノが多数住み着いていると通報があった。任務内容はそこにいるクルイモノの数の把握だな」
*
――一週間後。
私たちは今、うっそうとした森の中を必死にかき分けながら歩いていた。
一切手入れのされていない荒れ果てた森は、草が縦横無尽に生えているためか、歩きづらい。
足に纏わりつく草を切りながら、私たちは目的地の廃墟へ向かう。
「それにしても、今日の任務は調査なんですね。てっきり討伐までやらされるのかと思いました」
「まだ、俺たちは学生だからね。実力的には可能でも、倫理的にアウトなんだよ」
――このネット社会だと余計に。
あぁ、なんとなく幻さんが言いたいこと、分かるかもしれない。
最近、色々と過剰にネットに書き込む人が絶えないのよね。
あることないことを面白がって書き込んで、炎上する。
それを鎮火するのって、相当手間がかかる。
特に、注目を集めている陰陽師関連の話題になるとなおさらだ。
「僕らが倒すのを許されるのは、身の安全が保障されない状況下にいる時です」
「身の安全が保障されないとは?」
「例えば、クルイモノに周囲を囲まれたとか、ですね」
それって、私がこの前遭遇したやつじゃないか。
確かに、命を守るために技術を学んでいるのに、それを使わなかったら元の子もないか。
「さて、みなさん。目的地に着きましたよ」
刹那さんが指さす方には、元は豪邸であったであろう廃墟が鎮座していた。
廃墟の基礎の木は腐り崩れ、恐らくは赤色であった屋根は苔でくすむ。
柱や壁には蔦状の植物がこびりついていた。
今私たちがいる門のところも、昔あったであろう豪勢さは鳴りを潜めている。
「随分と、趣深い場所ね。ここまで草が生い茂っていなければ、相当な歴史ある建物だったに違いないわ」
「この建物は明治に建てられたもので、80年前までは所有者がいたらしいですよ」
うわっ、想像しているよりも前に建てられていた。
精々、50年前ぐらいに建てられたかと思っていたけど、それよりももっと前だなんて。
所有者がいた、ねぇ。
引っかかるなぁ。
「ここまで大きな建物だったら、いつ見つかってもおかしくないはずなのに」
「それもそうだよな。人が管理していたってことは、この建物のこと知っている人は少なからずいたってことであろ?」
まさしく、幻さんの言うとおりだ。
こんな豪邸だ。
きっと、パーティーとかもたくさん行われていたに違いない。
そこに参加していた外部の人間だって多いだろう。
それなのに、この場所の情報が出てきたのがつい最近になってだなんておかしい。
そんなことを考えていると、今まで一言も発していなかった美緒が呟いた。
「もしかしたら、表には出せないことをやっていたりしたんじゃ……」
――例えば、人体実験とか?
一見、ありえなさそうな妄想から出ることのない意見に見える。
そんなホラー映画みたいなとか、ミステリー小説だとかで一蹴してもおかしくない。
でも、不思議と美緒の言っていることが的を得ているような気がした。
なぜなら――
「みんな、屋敷の奥の方にクルイモノのいる気配がする。……これ、多分私が帰り道に遭遇したやつと近いかも」




