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クラス転移に失敗して平民の子に転生しました  作者: ささくれ厨
第五章

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勇者 二

 ガラン=アドゥナを出て数日。

 バッデルへと到着。

 出発前は小船でファルタ川の対岸に渡ろうと思ったけどセア辺境伯領がどうなっているのか、情報が無くてわからない。そこで、状況を把握しやすいメルダで情報を集めてから帝都に向かうことにした。

 ガラン=アドゥナからメルダに行くには、メルダに通じるバラド街道の枝道に出る必要があったから、ベレグレン大街道に出てからバッデルに入る経路を選択。

 何度か泊まったことのある宿で今日は休むことにする。


『いらっしゃい……って。にゃっ!? クウガくんにゃ。久し振り。ずいぶんと背が伸びたのにゃー』


 猫人族の女将が出迎えてくれた。


『お久しぶりです。覚えてもらえてて光栄です』

『ここはニンゲンはあまり来ないからわかるのにゃ。それに匂いがクウガくんだからにゃ』


 なるほど。俺たち人間と比べると嗅覚や聴覚がかなり発達しているから面影が薄くなってもわかるようだ。

 初めて泊まったときは少しだけ見上げた女将さんが俺よりもずっと小さいから、俺自身の成長が実感できる。


『んにゃっ。で、今日は二名様のお泊りでよろしいかにゃ?』

『はい。二名で……』


 と、答えてる途中で、ドレアが俺の服の裾をくいくいと引っ張った。


「同室で良いからね。あたし、ここで一人部屋とか怖くて死んじゃう」


 うるうるとした目で必死さがうかがえるドレア。


『同室でお願いします』


 ドレアの希望を聞いて、女将さんに二名一室を希望すると伝えると、女将さんは鍵を机の上に置く。


『承知にゃ。食事はどうするにゃ?』

『食事は二食付きでお願いします』

『にゃ。では、二名様一室、二食付きで承ったにゃ。料金は一万八千モルににゃりますにゃ』


 バッデルでは魔族領の通貨──モルを使う。

 俺は魔族領の金貨の入った小袋から大金貨を一枚と小金貨を八枚取り出して机の上に置いた。


『一万八千モル、確認いたしましたにゃ。部屋は階段を上がって突き当りににゃります。どうぞ、ごゆっくり……にゃ』


 鍵を受け取ってドレアとふたりで部屋に。


「わ、すっごーい。大きなベッドー」


 ドレアは部屋に入ると嬉しそうにベッドに飛び込んだ。

 この人、これで、公爵家のご令嬢。貴族のご令嬢と言えば、レイナは昔から抱き寄せグセが凄くて何度も窒息死させられそうになったし、メル皇女やニム皇女はどことなく儚げな雰囲気を漂わせながら、メル皇女はやたらと色仕掛けみたいなことをするし、ニム皇女は俺の服の裾を良く引っ張る。

 レイナの姪にあたるニコアはニム皇女と良く似た感じだけど、ニコアは転生者だから。

 で、それはともかく。この部屋のベッドは何かおかしいと思ったら、ふたり部屋なのにベッドがひとつしかない。それもキングサイズの。

 そういうふうに見えてたのか……。ちゃんと言わなかった俺が悪いんだろうけど、今回もまた床で寝るのか……と、そう思うと自分が残念でならない。

 とりあえず、荷物を置いて、久し振りのバッデルの町を見て回りたい。


「ドレアさん、夕食まで時間が少し時間があるので良かったら町を見て回りませんか?」


 一人でここに置いていくのは後ろ髪が引かれるのでドレアを誘う。すると、彼女は身体をおこしてベッドの縁に座る格好になってニヤついた顔を俺に向けた。


「デート? クウガさん。あたしのことデートに誘っちゃうんだぁー」


 まあ、揶揄われたね……。それで、俺はドレアに腕を組まれて歩き回るハメに。


 バッデルは獣人族の町──と、いうけど、実際は獣人族でも大人しい種族の集まり。

 ここでよく見る、猫人族や犬人族(コボルト)、兎人族は割と大人しい。他にも狸人や蟲人(インセクト)なんかも見るし、種族は本当に様々だ。

 そして、この町はドレアの恩恵との相性が非常に悪い。

 エルフやドワーフ、それから、魔人の多くに効果を発揮するスキルが、多くの獣人族には通じない。

 町に入るときも、先程の宿屋でも、ドレアはスキルを使っているのに最初からそこにいたかのように気が付いていた。

 彼らは嗅覚や聴覚に優れていて、消しきれない匂いや心臓の鼓動など、たったそれだけのことで存在に気が付くよう。

 ドレアもそれで諦めて今はスキルを使わずに俺にひっついて歩いてる。歩きにくいのに──だ。


「恩恵が全く効かないってこういうことなんだねー。なんかこう、なんも気にしなくていいから、いっそ清々しいまであるよ」


 恩恵の効果がなくて気を落とすどころか、使っても意味がないなら──と、それはそれで楽しんでいるらしい。


 ちょっとした広場にでると屋台が並んでいたり、衣類や武具、貴金属なんかが立ち並ぶ商店街が見えたりして、今回はゆっくりと見ることが出来ている。


「わ、あのお犬さん、かわー」


 商店街を通り過ぎて、また、別の広場に着くとコボルトが露店を開いてた。

 そこに並んでいたのはとても綺麗な宝石ばかり。

 やっと俺から離れてくれたと思ったら、そのコボルトの露店に駆け寄るドレア。


「すっご。ここまで綺麗に磨かれた宝石は初めて見るよー」


 ドレアは膝に手をついてかがんだ姿勢で露店に並べられた宝石を眺める。

 それはどれも輝かしくて、俺の目には眩しいほど。以前、ここで別のコボルトに砂白金や砂金を売ったことがあったなと懐かしむ。


『こちらはグヴェンネ大湿地の丘陵鉱脈で算出した宝石にございまして、現在はこちらのベリルが特におすすめでございます』


 コボルトが紹介した宝石。吸い込まれそうな鮮やかな碧色で、見ているだけで目が奪われそう。

 ドレアもベリルから目が離せないようで。


『これでおいくらなんですか?』


 値段を聞いたら、あらびっくり。


『こちらは三万五千モルになります』


 大金貨三枚と小金貨五枚。帝国通貨だと金貨が四枚と銀貨が二枚。

 思った以上に安い。これが帝国貴族のご令嬢にはどう映ったんだろう。


『三万モルになりませんか?』


 予想より安価だったけど、価格交渉をしてみた。


『おやおや、ニンゲンは良心的でございますね。我々でしたら二万モルから交渉するところでございますから』


 ということはもっと安くなるということらしい。


『それで二万モルから交渉していくらくらいになるんですか?』

『二万五千モルでございます』

『では、そのお値段でください』

『ありがとうございます。それでは、石座はどういたしましょう? 指輪にするようでしたらこちら。ほかにもネックレスやブローチ用などもございます』


 ドレアの顔を見ると、彼女と目が合った。

 獣人語で話しているからドレアは何を言っているのかわからないらしい。

 安いし、旅の記念にと思い買うことにしたわけだけど。ドレアにはネックレスのほうが良いだろう。


『ネックレスに使える石座にしてください』

『承知しました。ネックレスでしたら石留めとチェーンで二万モルになりますがよろしいでしょうか?』


 合計四万五千モル。安いように思えて高いような。高いように思えて安いような。どうも人間とコボルトの間で物の価値観がズレているように思えた。

 でも、買うと決めたので、お金を払って色鮮やかな碧色のベリルのネックレスを購入。

 受け取ったネックレスをドレアにあげることに。


「これ、あげます。旅の記念に」

「え? いいの? こんなにすごいものをあたしに? あ、ありがとう!」


 ドレアはとても喜んでくれた。


「ね、クウガさん。つけて」


 と、ドレアが言うのでネックレスをつけると、金髪碧眼にこのベリルのネックレスがとても映える。


「とてもよく似合ってます」


 そう伝えたら頬を微かに赤らめてドレアは嬉しそうにしてた。

 これは良いものだ。俺は、それからコボルトにもう一つお願いをしてみることに。


『このベリルは他にもあるんですか?』

『ええ。今回、ベリルがとても採れたので、在庫はまだございます』

『だったらお願いがあるんですけど、お代は払うので、ここじゃなくて別の場所に届けてほしいんですが──』


 母さん、リルム、レイナ、メル皇女、ニム皇女、ラエル、スイレン。それと、同じ家に住む結凪と柊の分も買うことにした。

 代金は多めに払って種類を選べるようにしてもらい、ガラン=アドゥナに届けてもらうことに。


「いっぱいお金払ってたけどどうしたの?」


 コボルトにお願いをして露天から離れるとドレアが俺に聞く。


「あ、さっきのをガラン=アドゥナに届けてもらうように頼んだんです」


 正直に伝えると、俺の腕にひっついていたドレアの腕がより一層強くなったような気がして。顔を見たら、頬を少し膨らませていた。


 翌朝──。

 気怠い身体を起こして朝食を食べた後、バッデルの町を出て魔都まで繋がるバラド街道を北に進む。


「はあー。すっごく良いところだったけど料理の味が薄くて味気がなかったよー」


 バッデルにいる間は、美味しい美味しいと言って食べてたし、表情を見てもそんなことを言うように見えなかったけど、町を出てからは遠慮が要らなくなった。

 獣人の町だからなのか、屋台で食べても味付けはとても薄い。特に肉や野菜を使ったものはほぼ素材の味しかしないから人間の味で慣れた舌では美味しいとは感じられなかった。

 前世の記憶によると、ドッグフードやキャットフードは人間も食べられるけど、味気がなくて美味しくない。きっとそれと同じだろう。

 でも、バッデルは魚が美味い。川魚だけど。肉が出なければ食事は楽しめる。あそこはそういう町なのだ。


「獣人族は素材のそのままの状態の味を好む傾向が強くて、どの料理も薄味みたいです」

愛玩動物(ペット)に食べさせるエサかよ……」

「それを一度言ったことがある人が居たんですけど、その時に獣人族の人たちも笑ってました」


 自虐ネタかと思ったらそうでもなくて、彼らにも、ペットを飼う習慣があるから、ペットのエサとほぼ変わらない味付けの料理という理解はあったらしい。


「あとさ、バッデルって路上生活者とかスラムみたいな人があまりいないよね」

「バッデルはお金がなくても川岸に出ると砂金が掘れるんです。だから無一文で行っても砂金を掘ったらお金になります。それで生活に困るということがないんです」


 道行く獣人が見窄らしくないのも町が綺麗なのも、砂金が取れて直ぐに換金できるから。

 そういった面では宝石や鉱物資源を好むコボルト族が一役買っていて、魔族領のあちこちで行商しているおかげ。

 ドレアにあげたベリルは、行商のコボルトから購入したもの。

 まあ、碧色鮮やかなベリルがたったの二万五千モルで買えたのに、白金の石留めとチェーンが二万モルっていう。

 なぜ、安いのかを聞いてみたら、このベリルに含有されている成分に魔力の通りが良いものが含まれていないから、だそう。

 ドレアに言わせると「これほどまでに見事なベリルは見たことがない。売ったら聖貨くらいにはなるかもしれない」とのことだ。

 ともあれ、バッデルはいろんな可能性を感じさせるところ。魔王城のある魔都から遠く辺境の地に存在する小さな町だけど、魔都に足を踏み入れられない弱小種族が集って生活圏を築いてる。

 弱いというだけで魔族領の隅っこに追いやられているけど、普通に良い街なのだ。


 それから、数日かけてメルダに到着。

 難なく通過することが出来たけど、ここでは入町税を一人分払うだけで済んだ。

 魔族領からメルダに入るのに帝国金貨十五枚はさすがにぼったくりにもほどがある。

 父さんからもらった金貨を半分も使ってしまった。


(たっか! おかね大丈夫? あたしも出すから遠慮なく言ってね)


 門を守る衛兵にしぶしぶ金貨を払ったけど、ドレアの恩恵で胸を撫で下ろす思いに。

 そんなドレアが俺の懐事情を心配してくれる。俺の上着の内ポケットにあるのは母さんにもらった帝国聖貨と父さんからもらった帝国金貨。聖貨は使える場所が限られていて、金貨はどこでも使えるけどまさかこんなところで半分も使ってしまうとは。

 ここに泊まって、帝都に着く頃にどれくらい残るんだろうか。それでも、ドレアに頼るのは憚られるから、


(お気遣いありがとうございます。お金のことは大丈夫ですから。何とかします)

(んー、ならいいけどさー)


 それでも、ドレアの気持ちは嬉しく感じられる。


(ユイナ様やハルカ様からメルダは温泉と肉料理が美味しいと聞いてますので、どちらも楽しめる宿に泊まりましょう)


 メルダの夜もそれは楽しめた。懐にはとても痛かったけど。異世界人っていうのはやっぱりお金持ちなんだということも理解した。


 メルダで帝国金貨を五枚も使って、その翌朝に帝都に向かって出発する。

 ここから帝都まで馬車なら二週間から三週間ほどで着くようだ。

 歩くと一ヶ月近く。俺とドレアの足なら二週間前後で到着できるだろう。

 携行食を補充したし、このまま突っ切る勢いで帝都に行こう。


 と、考えていたところまでは良かった。

 メルダを出て数日後──。


「人の気配がします」


 遠くに人の気配がしたから、ドレアに知らせる。

 ドレアより俺のほうが索敵範囲が広いから、メルダを出てから何度もこのやり取りを繰り返していた。


「ん。わかったよー。じゃ、隠れるね」


 ドレアは恩恵のスキルを使って気配を消し、俺はドレアから学んだ盗聴っぽいことをして、何が来るのかを確認。

 耳を澄ませて、よく聞くと──どうやらこの帝都まで続く街道に出る直前のようだった。


(もう少しで帝都からメルダに繋がる街道に出る。それから北に向かってメルダを抜ければ魔族領だ)


 男の声──それも日本語……。

 もしかしなくても、この男の声は異世界人。

 男が話しかけたのは馬車にいる人間に向かって。感覚を研ぎ澄ませて気配を更に探る。すると馬車に女性がふたり。言葉を満足に発せない状態なのか、うめき声しか聞き取れない。

 女が(あうっ……)と放り出されたような声のあとに、


(ここまで長かったな)


 少し荒い息の声──これも日本語。

 それからもう一人の女性が乱雑に扱われたようなうめき声がして、また、別の男の声が聞こえた。


(休憩?)

(そろそろ良い頃合いだと思ってね)

(じゃ、俺は飯の支度をするよ)


 どうやら、馬車を停めて休憩をするようだ。

 俺はスキルで姿を消しているドレアと南に向かって歩き続ける。

 向こうの声はまだ聞いている。


(もうそろそろヤバいかなー。金もないし)


 どうやら食糧も金もないらしい。

 この辺に来るとドレアも既に気が付いていて、彼らの会話を聞いていた──といっても、日本語は理解できないだろうが。

 それから緩い坂を登りきったら彼らは俺の姿に気が付いた。


(人が来る。それも一人だ)

(アレをやるのか? 腹ごなしにいっちょヤるにはちょうどいい)


 どうやら俺を襲うつもりらしい。

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