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クラス転移に失敗して平民の子に転生しました  作者: ささくれ厨
第五章

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ガラン=アドゥナ 八

 昼ご飯の準備をしてダイニングテーブルに料理を並べた。

 皆を呼ぼうとしたところ、姿を隠していたドレアが俺の後ろに来て、クイクイと俺の服の裾を掴む。


「クウガさん。お昼ご飯のあとに時間をちょうだい」


 何か困ったように眉をハの字にして上目遣いするドレア。

 わざわざ屈んでまで上目遣いを見せてくるとか、あざといけど許せてしまう……。

 良い匂いがする可愛いお姉さんに近寄られてドキドキする十五歳になろうとする少年の俺。


「あ……はい……」


 と、頷くのが精一杯。周りに女性ばかりだし、皆、見た目が若くて賑やかで。そんな麗しい女性に囲まれて生活をしてるから余裕があるはずなのに、こうして迫られると狼狽えてしまう。

 全く経験がないというわけでもないのに、綺麗な女性に近寄られるといろいろと意識するのは男の性か。ま、それは仕方のないことなのかもっしれない。


 食事はテリオンとソニアにも振る舞ったけど、俺は同じテーブルにつかなかった。


「どうやら椅子が足りないようだね。給仕のキミは別の場所で食事をするか、時間を改めてくれ」


 椅子は足りてるというのにテリオンにそう言われてしまったため、俺は食事をとるのを諦めた。

 給仕のようなことをして一緒に食事をとるのは帝国貴族の間では無礼にあたるようで、それでも、母さんたちが食卓を囲えたのは、見た目が良い女性だかららしい。

 このテリオンとかいう貴族の男は、いい顔をしてるけど、俺を遠ざけるとかやってることはあまり気持ちの良いものではない。

 とはいえ、帝国民という意味では俺に反論する権利はないから一礼をして台所(キッチン)に下がった。

 食事は全部、テーブルに置いてしまったから俺の食べ物はない。

 みんなの食事が終わるまで俺は台所の片隅で蹲るように丸椅子に座り、魔法で遊んで時間を潰した。


 最後に食事を終えたのはテリオンだった。

 彼がカトラリーを置いて、メル皇女に「話の続きを」と言って席を立つ。


「承知いたしました。では、ニムも一緒に参りましょう。レイナ様もお願いします。それと、スイレンもついてきて」


 テリオンに続いてメル皇女が立ち上がり「では、応接間に参りましょう」とテリオンとソニアに伝えて居間から出ようとしたところ、足を止めて振り返ると母さんの顔を見た。


「よろしかったらラナ様にもご同席をお願いしたいわ。テリオンにはソニアという護衛がいらっしゃるから、ラナ様は私たちの護衛として」


 そう言って何やら目配せをしたらしいメル皇女。彼女の目線の先に気が付いた母さんは


「仕方がないわね。今回だけよ」


 と言って、しぶしぶ了承。

 そうして居間に残ったのは結凪と柊、エルフのラエル。それから、妹のリルム。

 彼女たちは顔を見合わせて「これから何をしようか」と午後の予定を立て直していた。


 居間の女性陣と応接間にお茶を配ったあと、俺はドレアと一緒に外に出ていた。

 彼女が話をしたいと言ってたからだ。


 俺とドレアは森を切り開いたばかりの場所で話すことにする。

 まだ煌々とした赤い熾火が残っていた。粉のような小さな粒の雪がパラパラと降り始めていて肌寒いけど、その熾火の熱で寒さはそれほど感じられない。

 空を見上げて、今年は雪が遅いな、と思いながらドレアを見ると、彼女は何やら不安げな表情で俺を見ていた。


「あのさー、あたし、パパを異世界人とお兄ちゃんに殺されちゃっててさ──」


 俺と目が合ったからか、ドレアが口を開いたけど、のっけから重たいことを言葉にする。

 ドレアは現ロマリー家の当主でドレアの兄、デム・イル・ロマリーの命令でここに来たという。

 デムはレイナの元旦那だったが、レイナに不貞の罪を着せるために如月を使って公爵家から追い出そうとした。

 これはレイナから良く聞いていて知ってるけど、離縁したがっていた理由が実母のゼレーネとの間柄を邪魔されたくなかったからのようで。

 如月の皇位簒奪のついでに当時の当主、ズーク・イル・ロマリーを殺害し、デムが公爵家を継いで正式にレイナに離縁を言い渡した。

 で、ドレアはレイナが逃げたときから家と距離を置いて生活をしていたらしく、ここに来たのはデムの命令で密偵として送られたと言う。


「──これで家から離れられてラッキーって思ってたけどさ。けど、あんなお兄ちゃんでも戦で死んだって聞いてなんだか複雑で……」

「…………」


 それから自身の境遇や現在の気持ちなどをドレアは俺に語った。

 どうやらドレアは家の様子が気になるようで。


「ママの処刑が執行される前に帰りたいとは思うけど、ママの顔を見たくないし……でも、逃げてるって思われるのもヤだし……それに、あたし、まだ、死にたくないし……」


 ドレアは難しい状況に置かれている。デムが如月の皇位簒奪に協力したこともあり、家に残っていたゼレーネは処刑が決定的な状況だった。

 貴族は貴族籍という戸籍で管理されているため、ドレアも処刑の対象になっていた。他家に嫁いだ姉も刑罰の対象になっていて、ゼレーネとともに帝城に幽閉されているらしい。そんなわけで、ドレアは家に帰れば当然、死刑になると思っている。

 それでもお世話になった使用人や友人がいるから顔を見せに行きたいという気持ちがある彼女。

 うんうん、と話を聞いていたら、ドレアはとんでもないことを言い始めた。


「──だから、クウガさんに一緒に来てほしいなーって……」

「え? 俺?」

「うん。だって、ラナさんだってクウガさんがここを出ても、旅をしておいでってスタンスでしょ? 何ならクウガさんが帝都に住んだら一度くらいは行ってみたいっていってたじゃん?」

「いや、でも……」


 ドレアは俺に一緒についてきてほしいと言う。そこにはいろんな打算があるんだろう。

 彼女の第一の目標は生き延びる。


「だって、ミル皇女殿下のお気に入りだから一緒だったら多少は安心かなーって」


 藁にも縋る思いで俺に頼み込むドレア。


「俺、ここを離れるつもりはまだないんですよ」

「いいでしょ? 一緒に来てくれたら、あたしのこと好きにしていいから? ね? ね? クウガさんってあたしのこと悪しからず思ってくれてるんでしょ?」


 身体を使って迫ってくるドレア。迫力があって気圧される。

 ドレアはとても綺麗で可愛らしい顔立ちで、抜群のプロポーションの持ち主。

 そんな女の子の誘惑に耐えられる男がいるだろうか。

 ましてや俺はロインの息子。クレイもそうであるように、やはり、抗いがたいものがあることだってある。


──わかりました。そういうことならいいですよ。


 そう口にしそうになったけど、やはり俺は、ラナの息子。


「俺では難しいことがあるように思います……」


 弱々しいけど、何とか抗えた。面倒事は抱えたくない。


「じゃあ、その難しいことがなくなったら、いいんだよね?」


 はい。面倒事がなければ……。


「いや、でも、それは……」


 俺はそう答えるだけで精一杯だった。

 それでも、この場で断り切れたことを誇りに思おう。

 この世界の平民の男には、未婚で恋人がいない女性からの誘いを断ってはいけないという不文律が存在する。

 据え膳食わぬは男の恥──と似ているのかもしれないけど、実際は、子を生みたいと求める女性に応じることも善意のひとつだとされている。

 相手が貴族の女性の場合はまた別で、享楽の道具として扱われたり、情夫として招き入れられることもある。その相手に平民の男が選ばれることもあって、女性の要求には可能な限り協力するべきともされていた。

 まあ、貴族の男が家人の女性や平民の女に手を出すのと同じだね。

 で、俺も過去に一度、それで断れなかったことがあったし。

 それから、ドレアはいろんなことを俺に話してくれた。彼女の胸のつかえが落ち着くまで話を聞いて二時間ほど。

 家に戻ったら、居間にいる女性たちが真剣な眼差しを俺に向けてきた。


「お姉様がクウガに伝えたいことがあるとテリオンからお手紙を預かってます」


 メル皇女が俺に手渡した一通の手紙。

 厳重に封蝋がされている。こんな凝った絵柄の印を見たのは初めて。それをまじまじと見ていたら、


「それはコレオ帝国の正式な国璽よ。つまり、国としてクウガに出したお手紙ということになるわね」


 と、恐ろしいことを言う。

 俺が何かしたのか──そう勘ぐって封蝋を傷つけないように丁寧に開こうとした。

 封蝋は無惨にも上下に分かたれてしまったけど。

 周りにたくさんの人がいる中、封書から手紙を取り出して読み始める。


──帝立総合学園高等部推薦入学試験のご案内


 という題が書かれていた。

 ミル・イル・コレットの記名がされていて、これでは断りにくいような気がする。

 横から覗き込んでいた母さん。


「学園の入試案内か。それも推薦だなんて! 凄いわね」


 何故かとても喜んでいた。

 母さんに続いてレイナも少し驚いた様子で。


「セアの領民学校から総合学園に推薦で入ったのは私が最後だったわね。とても厳密に成績が審査されるから難しいのよ」


 レイナが推薦を受けて入学したというのだから、ああ見えて実は非常に優れた才女だったらしい。


「日程が少し厳しいけれど、もし、お断りするようなら今日中にテリオンに伝えるようにお願いしますわね」


 嫋やかに微笑むメル皇女。表情がどことなく、いつもと違うように見えた。


「お兄ちゃん、いっちゃうの?」


 こっち──大人しく話を聞いていたリルムは涙目で俺の顔を見上げる。

 俺は行かないよ──と、言おうとしたら、その言葉を遮った母さん。


「クウガはもう子どもじゃないんだから。家から出ててもおかしくないんだよ」


 そう言われてしまうと、行かないと言い切れず。興味がないわけではないから母さんの言葉で揺らいでしまった。


「でも、お兄ちゃんがいなくなったら淋しいよぉ……」


 今にも泣きそうなリルムだけど、母さんはリルムの頭に手を置いて屈んで姿勢を下げると、


「もう会えないわけじゃないし、どうしても我慢できなくなったら会いに行ったら良いんだよ。帝都にいるってわかってるんだから」


 と、母さんは俺が行く前提でリルムを慰撫。

 この言葉にはリルムも頷くしかなくて、頷いたリルムに──


「リルムだってできる子なんだから、お母さんと魔法の練習して、帝都にいけるように一緒に頑張ろう? ね?」


 と、母さんは伝えた。

 リルムは最近、魔法を練習したりということから離れていたから、母さんに教わるのは悪くないことだ。けど、羨ましい。

 俺も母さんから魔法を教わりたかった。


「うん。わかった。お母さん。リル、頑張るよ」


 リルムが母さんに説得されて俺が帝都に行っても頑張ると母さんに返す。

 これでは、俺が帝都に試験を受けに行くことを拒む理由がないどころか、リルムの頑張るという気持ちを台無しにしてしまう。

 俺には行くという選択肢しかないように思えた。

 ふたりのやり取りを見て、俺はメル皇女に伝える。


「わかりました。行ってみようと思います」


 俺の答えを聞いたメル皇女は、封筒に入っていたもう一つの紙と、どこからか取り出したボールペンを手にして俺に言う。


「では、こちらにクウガの名前を書いてくださるかしら? それから、テリオンにお渡ししますので」


 彼女の言うがまま、署名をして書類を返すとメル皇女がテリオンに手渡しと、


「では、私どもはこれで」


 と、テリオンとソニアは署名済みの推薦入学試験の申し込み書を仕舞って、直ぐに家を出た。


 それから二日後──。

 帝立総合学園のある帝都に向かうためにいざ出発……なのだが。

 今回、行くのは俺だけ。メル皇女とニム皇女はまだ帝都に行かないという。

 初めての一人旅──と、言いたいところだけど、ドレアがこっそり俺についてくるようだ。

 ともあれ、いざ、出発──と、その直前で「クウガ、ちょっと待って」と、母さんに呼び止められた。

 母さんは手のひらに小さな布の袋を持っていて、それを俺の手に握らせる。


「それ、帝国聖貨というやつで使い道がなくてさ。これで帝都に家を一つ買っておいてほしいんだよ」


 母さんの手が離れると手のひらに収まるサイズだけど、金属が擦れる音がするし、少し重たい。

 この帝国聖貨はミスリルを混合して鍛造した特別な金貨で金貨よりも二回りほど小さいのに価値が非常に高いそう。中は数えていないけど、これで家を買えるほどなのだとか。

 ちなみにセルムで家を買ったときにもこの帝国聖貨を数枚、使ったらしい。

 一枚の価値が高すぎるから普段遣い出来ず、しかも、両替が難しいという不便さ。加えて、この帝国聖貨は、魔力との親和性が高いミスリルを多く含有している所為で、所有者や使用者の特定が容易。

 要するにこれを使えば俺が母さん──ラナの息子で、母さんからお金を受け取ってることが分かってしまうわけだ。

 しかし、なるほど、この聖貨で家を買ったのが原因でセルムの家がバレていたのか。

 この大変高価な帝国聖貨で家を買えということは何れ帝都に遊びに来たいということなのかもしれない。ならば、素直に受け取っておこう。

 けど、これを受け取ってしまうと入試を終えて、合格した場合、ここに帰る余裕がないかもしれない。合格発表まで一ヶ月も空かないから変わらないのか。

 それはまあ良いだろう。母さんとリルムが遊びに来ると言うなら吝かでない。

 それから、父さんからは帝国金貨をたくさんもらった。それこそ半年くらいは何もしなくても生活できる程度に。

 ここに来てそれほど一緒に過ごしていないけど、ちゃんと息子として気遣ってくれているのはわかるから、ありがたく受け取っておいた。


「ありがとう。じゃあ、行ってきます」


 そう言うと、父さんが「元気でな」とハグをしてくれて、次にリルムが「お兄ちゃん、また会おうね。ちゃんと帰ってきてね」と力強く抱き締められた。

 リルムが離れると母さんが俺を抱き締めて「身体に気をつけるのよ」と、目に涙を浮かべていたけど。

 クレイは何がなんだかあまり分かっていない様子で俺を見送り、ラエルとスイレンは淋しそうな目で俺を見る。

 メル皇女とニム皇女は嫋やかに微笑んで俺を見送っていた。結凪と柊は俺に手を振ってくれてたし。


 そうして、俺は、寒い晴空の下、ガラン=アドゥナを旅立った。

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