第12話 最終決着
「バカ! ベアート、早く立て!!」
カベルが叱咤を飛ばす。
ベアートはむくりと起き上がった。
「どうして伯爵様がロォサを助けるんです?」
「俺だって知らんさ。大方、ロォサが色目でも使ったんだろ」
そんなことするか!
アリオスは見たこともない冷たい表情を浮かべていた。
「カベル男爵。あなたはロォサと面識があるようですね?」
「ははは! あるに決まっているじゃないですか!!」
ズキン……。
胸が痛む。
ああ、カベルとの過去はアリオスに聞かれたくない。
どうしても、彼にだけは、
「やめて!!」
気がつけば、大きな声を出していた。
カベルは、私が嫌がっているのを完全に理解しているようで、嬉々として話し始めた。
「クフフ。冷たいなぁ。《《元婚約者同士》》、仲良くやろうぜ」
ああ、聞かれてしまった……。
忘れたい過去。
「ははは! なんだ? 伯爵に知られたくなかったのか? ははは! お前と俺は良い仲だったじゃないか!! 乗馬デートは楽しかっただろ? 2人で行ったアーネスト高原は見晴らしが最高だったじゃないか!」
ああ、最悪だ。
何もかも、彼に聞かれてしまった。
「うう……」
再び、目が潤む。
「大丈夫」
と言ったのはアリオスである。
え?
「あなたが辛い時は、僕が側にいますから」
彼は優しい笑みを見せていた。
ああ、アリオス……。
そして、彼は、カベルを睨みつけた。
その表情は見たこともない程、恐ろしい。
本当にアリオス?
「一緒にダンスを踊ったこともあったよなぁ? お前はのっぽだからヒールを履くと俺より背が高くなるんだ。パーティー会場ではお前の背の高さにみんなが笑っていたぞ。このデカ女が! おかげで俺の格が下がったじゃないか。損害賠償を請求したいくらいだ。ぎゃはは!!」
アリオスの姿は瞬時に消えた。カベルの目の前へと現れる。
瞬く間に、彼はカベルの襟首を掴み上げた。
片手でカベルの体を持ち上げる。
「うぐぐぐッ!!」
「よく喋る口ですね」
「うぐぅ……。ベ、ベアート!! やれぇええ!!」
カベルの指示でベアートは突進する。
「ぬぉおおお!! おいらはロォサと結婚するんだぁああ!! 邪魔するなぁあああ!!」
「アリオス危ない!!」
私の声より早く、彼は瞬時に移動していた。
気がつげば、ベアートの背後である。
「カチンと来ちゃいました」
ん?
それってどういう意味?
と、思うないなや、彼の剣は動く。
彼は両手で木製剣を持っていた。
私とやった時は片手だったのに……。
ブォオオオオオオオン!!
私の髪を揺らすほどの風圧。
その剣撃はベアードの後頭部を撃ち抜いた。
バジィイイイイインッ!!
とても、人を叩いた音ではなかった。
まるで雷でも落ちたかのような衝突音。
ベアートはそのまま倒れ、気を失った。
「おおっと!! アリオス選手、ベアート選手を倒したぁあああああ!!」
場内は湧き上がる。
「さぁ、ロォサ。残るは男爵です」
「ええ」
カベルは汗を飛散させていた。
その体はブルブルと震える。
「こ、こ、この野郎ぉ。よ、よくもやってくれたなぁあああ!!」
アリオスはクルリと後ろをふり向くと、呆れるように笑った。
「ロォサ。バトンタッチです。あとはあなたにお任せします」
ありがとう、アリオス。
きっちりカタをつけるわね。
「死ねぇえええええ!」
と、無様に剣を振り上げて突進して来た。
ああ、醜態とはこのことか。
私はその攻撃を片手で払う。
「ああッ! 俺の剣がぁあ!」
カベルの木製剣は遥か遠くまで弾き飛ばされた。
「こ、こ、このぉおおお!! ゴリラ女がぁああああ!!」
と、今度は武器も無しに向かって来る。
無様の次は無謀か。
ああ、こんな奴に武器はいらないわね。
ポイッと剣を放り投げる。
そして、突進して来るカベルの頬に向かって、
渾身のビンタを食らわせた。
バジィィイイイイイイイイイイイイイインッ!!
「はがぁああ……」
カベルの前歯は欠け、そのまま5メートル吹っ飛んだ。
「誰がゴリラよ」
ったく。
「ロォサ選手のビンタが決まったぁあああああ!! 勝負ありぃ! 優勝はロォサチーーーームです!!」
会場は大盛り上がり。
「きゃあああ! ロォサ様カッコいい!!」
「アリアス伯爵、素敵ィイイッ!!」
「すげぇぞ! 2人ともぉおお!!」
アリアスは私を見てニコリと笑った。
「やりましたね、ロォサ」
「ええ。これもあなたのおかげよ。ありがとうアリオ──痛ッ」
ガクンと腰が落ちる。
そういえば、ベアートとの戦いで足を挫いていた。
「あはは。間抜けよね。でも、大したことないから」
そう言ったにも関わらず、
彼は私をお姫様抱っこした。
「ちょ、ちょっとぉお!!」
「安心してください。医務室に運ぶだけですから」
そうは言ってもねぇ……。
「きゃああああ!! ロォサ様、うらやましぃいい!!」
「ヒューヒュー! いいぞ! いいぞぉお!!」
「2人とも、お似合いよぉおお!!」
ああ、めちゃくちゃ恥ずかしい。
早く運んでぇええ!
「傷が痛んではいけませんからね。ゆっくり行きましょう」
なんでよ!!
ああん、もう! 死にそう!!
医務室には僧侶がいて、回復魔法をかけてくれた。
私は直ぐに歩けるようになる。
部下のベスターニャも回復魔法で元気になっていた。
「ロォサ様。司会の人が呼んでいます。国王からの授与式ですよ」
私とアリオスは再び闘技場へと足を運ぶのだった。
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