第13話 自業自得
私とアリオスは国王から優勝トロフィーを授与された。
女の私が武闘会の優勝者として記録されるのは、本当に名誉なことだと思う。
賞金は1億コズン。
騎士団長である私の年収が800万コズンだからな。
その膨大さがわかるだろう。
その大金をアリオスと半分に分けた。
私は貰った5千万コズンを更に半分にして、相方ベスターニャに渡した。
彼女は恐縮していたけれど、頑張ってくれたお礼だ。
さて、帰ろうか。
そう思って、身支度をしていた時のこと。
アリオスが冷ややかな表情を浮かべて、メイドのマーサさんに話しかけていた。
「カベル男爵のことが知りたい。どんな些細なことでもいい。調べ上げて報告してくれ」
「かしこまりました」
何をするつもりなんだろう?
それにしても、アリオスって真剣な表情の時ってドキドキしちゃうのよね。
なんというか、イケメンパワー炸裂とでもいおうか……。
普段は散歩を期待する犬みたいな顔をしているのにさ。
なんだか調子が狂ってしまうわ。
「ロォサ。今日はみんなで夕食を食べませんか? 薔薇騎士団のメンバー全員を誘って、みんなで祝賀会をしましょう!」
ああ、いつもの彼の笑顔だ。
私の返事を待つ彼に尻尾が見える……。
物凄い勢いでパタパタ振っているな。
「ふふふ。良い案でしょ?」
ああ、どう見ても犬だ。
「ええ、いいわよ。みんなで祝いましょう」
「あは! とびきりのご馳走を用意させますからね!」
と、そこに、女の声が響いた。
可愛らしい、男が好きそうな声だ。
「アリオス様ぁああああ〜〜!」
げっ!
ミィネル!!
ピンクサファイヤのような髪。
小柄な体に、童顔、巨乳。
カベルのフィアンセだ。
控室にいる男たちは、彼女の可愛さにメロメロになっていた。
「 私、ミィネル・フォンデルゼと申します。子爵フォンデルゼ家の四女でございます」
「ミィネル……。どこかで聞いた名だな……。その子爵の娘が僕になんのご用件でしょうか?」
と、アリアスは覇気のない返事をした。
「先ほどの戦い感動いたしました!! よろしければ今晩はうちの屋敷で祝賀会など開いてはいかがでしょうか?」
う!
なによそれ!!
アリオスは 薔薇騎士団を夕食に誘っているのよ!
それにそもそも、あなたはカベルのフィアンセでしょうがぁ!!
アリオスは目を細めて冷たく言い放った。
「思い出しました。ミィネルさん。そう言えば、あなたからは何度かお手紙をいただいていましたね」
「まぁ! 覚えていてくれたのですね!! 感激ですわ!!」
衝撃の事実!
「以前からお慕い申しておりました」
はぁああ?
あなたはカベルのフィアンセでしょう?
それなのにアリオスにモーションをかけていたの?
貞操観念どうなってんのよ?
アリオスも同じ思いなのだろう。
しっかり問い詰めてくれた。
「あなたはカベル男爵の婚約者だと聞いていますが?」
「あはは。そ、それとこれとは話が違いましてよ。おほほ!」
何が違うんだか……。
飄々と言う、この話振り。
きっと、アリオスだけじゃないでしょうね。何人もの良い男にモーションかけてんだわ。
最低な女ね。
「手紙でも返しておりますが、僕は苔の研究に余念がありません。とてもあなたの要件に応えることができないのです」
「それは存じておりますわ。ですから、本日は祝賀会を誘っておりますの。ねぇん。伯爵様ぁ」
彼女は上目遣いで大きな瞳を潤ませた。
「祝賀会をみんなで派手に開きましょう。その後は2人っきりで……。 私のことは自由にしても構いませんわよぉ?」
ああ、男はこういう誘いに弱そうだな。
アリオスは大丈夫なんだろうか?
取り越し苦労だった。
彼は冷血な視線を彼女に送る。
「興味ありません。私があなたと2人きりになることなど、未来永劫ないでしょうね」
「え?」
「忙しいので、それでは」
「ちょ、伯爵様ぁあああ!!」
ああ、アリオスの知人であれば、一緒に祝賀会を祝う未来もあったろうが、彼女じゃあなぁ……。
アリオス同様、私だって未来永劫、一緒にいたくないタイプだ。
「アリオス様ぁあああ!!」
ミィネルの言葉に彼が振り返ることはなかった。
完全に無視である。
ここは選手の控室。例えそんな場所とはいえ、騎士団長や貴族、諸々の人間がいる面前だ。
そんな場所で、ここまで冷たくあしらわれるなんて、相当な屈辱だろう。
オロオロと恥ずかしそうにしている彼女の姿は滑稽である。
本当に同情の余地はない。
こうして、私たち 薔薇騎士団はアリオスの屋敷で祝賀会を開くことになった。
みんなで美味しい料理を食べて、笑う。
その晩は、本当に楽しい1日となった。
〜〜カベル視点〜〜
くそぉお。
ロォサの奴。力一杯ビンタしやがってぇ……。
俺は自分の屋敷に帰るとベッドで寝込んでいた。
腰が痛い。ビンタで吹っ飛ばされた時に腰を強く打ったのだ。
僧侶に回復魔法をかけてもらったが、それでも2、3日は安静にしなければならない。
腰には湿布を貼り、パンパンに腫れた頬を氷で冷やす。
ミィネルはそんな俺を冷たい視線で見つめていた。
「おい、そんな所に突っ立ってないで、ここへ来て俺を癒してくれよ」
「だってぇ。無様に負けちゃうんだもん」
「そ、それは……。あの女がゴリラ並みの強さだったからさ。人間では勝てないんだ。わかるだろ?」
「あなたが弱かっただけのように見えたわ。剣技なんて無様なものよね」
「お、女のお前には剣技の奥深さはわからんさ」
「ええそうね。私にはわからないかも。でも、その姿を見れば想像はつくわよ」
「うう」
「とりあえず、抜けた前歯を入れ直した方がいいんじゃなくて?」
「うぐ……」
「優勝トロフィーも、賞金もない。おまけに前歯まで無くして。 私はあなたに魅力を感じませんわ」
「そ、そんなこと言わずに癒してくれよぉ」
「今日は帰りますわ」
「ミィネルゥウウ〜〜!」
と去っていく。
クソがぁああああ!!
ミィネルは子爵の娘だ。
俺の出世には相当に利用できると踏んでいた。
しかし、いかんせん性格に問題があるかもしれん。
これならロォサの方が数倍、いや100億倍マシか。
彼女なら、俺の看病を必死でしてくれるだろうな。
それに、どうもアポロンダル伯爵と繋がっているようだ。
うーーむ。ちと切るには惜しかったか。
もう一度、寄りを戻して俺の女にして、伯爵とのパイプを繋げるように利用できるかもしれんな。
よし。
ならば、なんとしてもロォサを手中に収めよう。
「おい! ベアートはいるかぁ!?」
「はい。ご主人様。なんですか?」
「今直ぐロォサを襲ってこい!!」
「え?」
「好きなんだろ?」
「ええ。まぁ……」
ククク。
こいつに襲わせて、傷心したところに俺が出ていって助けてやろう。
『ロォサ。君の優しさに気がついたよ。戻ってきておくれ』
『はい。戻ります』
うむ。
完璧な筋書きじゃないか。
「強引に自分の物にしてしまえ!!」
ククク。
お前は単なる道具にすぎん。
ロォサに暴力を働けば王室にでも報告して牢屋に入れてやろうか。
「でも、彼女、あの武闘会の時……。泣いてましたよ」
「う、嬉し涙だ!! 強引にされて喜んでいるんだよ!!」
「そうは見えませんでしたよ」
「うぐ!! と、とにかくロォサをめちゃくちゃにしてこい!! お前の力なら余裕でできるはずだ!! そしたら酒も料理もたらふく与えてやる!!」
「おいら、彼女が悲しむことはしたくないですよ」
「にゃにぃいいい!?」
「もっと喜んでもらいたいです。へへへ」
「だったら強引に結婚してしまえ!! お前の女にしてしまうんだよ!! そしたらロォサは喜ぶさ!!」
「いえ。そんなことはやめます。へへへ。おいら、彼女の笑顔が見てみたいんです。それじゃあ」
「え!? おい待てって!! 帰ってこいベアーーーートォ!!」
クソクソクソォオオオオオ!!
どいつもこいつ使えないクズばかりぃいッ!!
「クソ共がァアアアアッ!!」
怒りのあまりベッドから立ち上がると、腰の骨がゴキっと砕けだ。
「ぎゃぁああああああああああッ!! 痛ぁああああああああああッ!!」
〜〜ロォサ視点〜〜
武闘会から3日後。
王室から祝賀会の招待状が来た。
優勝者の私とアリオスは主賓である。
会場の規模は大きそうだ。
きっと、諸外国の人間も招かれて、多くの貴族らが集まることだろう。
薔薇騎士団の寄宿舎は朝から騒がしかった。
部下たちが、私の姿を見て浮き足立っているである。
「ベスターニャ。おかしくないかな?」
「ええ。勿論。とってもお綺麗です」
鏡に映った私はドレスを着ていた。
生まれて初めて着るドレス。
肩を出し。
しっかり胸の谷間まで見せている。
うう……。
こんな露出していいのだろうか?
白と赤を基調としたパーティー用のドレスである。
「ちょ、ちょっと押さないでよ」
「いいでしょ。よく見えないんだから」
「わ、私だって見たいわよ」
やれやれ。
扉の隙間から覗き見しているのがバレバレだ。
「お前たち、そんな所で見てないで入ってきたらどうだ?」
そう言われて、部下たちは気まずそうに笑いながら入ってきた。
途端に目を見張る。
「うはぁあ!! ロォサ様! 素敵ですぅううう!」
「きゃああああ!! お似合いですよぉおお!!」
「素敵素敵ぃいい!!」
うーーむ。
「カッコいい……かな?」
「いえいえ! お綺麗です!! とっても似合っています!!」
と、部下のミリアは目を輝かせていた。
そうか……綺麗。
へへへ。
この姿……。アリオスが見たら、なんて言うかな?
「アリオス様もさぞや喜ばれると思いますよ!」
ミリアの言葉にはっとする。
私……。変なこと考えてた。
「べ、別に……。アリオスとかどうでもいい。わ、私はただ、祝賀会で浮かないかと、それだけを心配しているんだ」
そうだ……。
アリオスの反応なんかどうでもいいんだ。
祝賀会で浮かなければそれでいい。
私は 薔薇騎士団の団長として、生きることを決めたんだ。
私に男は必要ない。
恋とか愛とか、もう本当にどうでもいいんだから。




