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第11話 ドキドキの危機

「ロォサ様を離せぇえええ!!」


 ああ、ベスターニャ!


「来ちゃダメだ!」


 案の定。

 ベアートの蹴りを当てられて吹っ飛んでしまった。


「きゃああッ!!」


「ベスターニャァアアッ!!」


 10メートル吹っ飛ばされた彼女は気を失ったようだった。


 ああ、早く手当をしなければ。


「へへへ」


「く! 離せッ!!」


「おいらと結婚してくれたら離してやるよ」


 こんな状況で、うん、と言えるか!


「嫌だ!」


「近くで見ると本当に綺麗な人だ。益々、惚れてしまうなぁ」


 こ、こんな状況で、


「な、な、何を言っているのよ!!」


 嫌がらせ?


 でも、こいつの目……。

 キラキラとした純粋な瞳。


 私をまっすぐに見る視線は、おそらく本心……。


 つ、つまり……。


 わ、わ、私のことが、ほ、本当に……。



 す、す、好きってこと?



 それによく見たら、こいつ結構イケメンだったりする!

 しかも、ワイルドな風貌に反して綺麗好きだ!

 髪はボサボサなのに髭の処理はしっかりしているし、なぜだか全身から石鹸の匂いがする!!

 

 って、今はそんなことを言ってる場合じゃあああないのよぉおお!!


「じょ、状況をわきまえなさい! 今は戦いの最中よ!!」


「カベル様が、おいらとロォサを結婚させてくれると言っているんだ」


 なんですって!?

 適当なことを!!


「ハーーハッハッハッ!! ロォサ。良かったじゃないか結婚相手が見つかって」


「くッ!」 


「熊とゴリラのめでたい結婚だ」


 何それ?

 熊は……ベアートのこと?

 そうなると、ゴリラは……!?


「誰がゴリラよ!!」


「ギャハハ! ウケる!! 降参しろゴリラ女、ロォサ!!」


「こ、降参なんかするもんか!!」


「クハハ! そう言うと思った。やってしまえベアート。強引にお前の女にしてしまうんだ!!」


 ベアートは顔を赤らめた。


「んじゃあ。おいらは強引に行くよ」


「は、離せ!!」


「おいらの嫁になってくれ」


「嫌だ!!」


「強引に行く!」


 そう言うと、私を抱きしめた。


「きゃああ!!」


 彼の顔が近い。


 こいつ、結構鼻が高いし、精悍な顔立ち……。


 鼻腔に広がる石鹸の香り。ワイルドな見た目に反する清潔感。


「ちょ、ちょっとぉおお!!」


 鋭い視線が私を見つめた。

 その表情は自信に満ち溢れ、さながら、獲物を仕留めるハンターのよう。


 さっき見せてた純真な、ペットみたいな表情はどこへ行ったのよぉ!!






「ロォサ、結婚してくれ」






 ななななな、なに言ってんのよぉおおおお!!


「バ、バカバカ! 離せぇええ!!」


 ベアートは目をつむると、動かなくなった。


「んーー」


 な……。


「んーー」


「何してるの?」


「てへ。やっぱり、キスはしてくれないか?」


「あ、あ、当たり前でしょ!」


「ロォサの方からして欲しかったんだけどな」


「あ、あのねぇえ!! そんなことするわけないでしょ!!」


「ロォサって綺麗なだけじゃないんだ」


「は、はぁ? なに言ってんのよ」


「なんだか可愛いな。ふふふ」


「か、からかわないでよ!!」


「じゃあ強引に、んーー」


 と顔が近づいて来る。


 キ、キスするつもり!?


 こんな面前で!?


「んーー」


 ちょ、ちょっとぉ!


「んーー」


 ああ、体が動かない。


 こ、このままじゃキスされちゃう!


 うう、この状況を打破するには、もう降参しかないわ……。


「んーー」


 ああ、悔しい。


「ぎゃはは! やれ! ほれ! ぶちゅっと! やってしまえベアート!!」


 悔しい悔しい悔しい!!

 

 カベルなんて、1対1なら負けないのにぃいい!!




「こ、こうさ──」



 

 降参、と言おうとした、その時である。


 真っ黒い人影が、私の視界に飛び込んできた。


 それはベアートの顔面に、めり込むような蹴りを放つ。



ボコォアッ!!



 太陽に照らされた人影は、私の知っている人物だった。




「アリオス!?」




 私を手放したベアートは吹っ飛んだ。

 

 空中に放り出された私を抱きしめたのはアリオスである。


 そのまま、お姫様抱っこで着地した。


「大丈夫ですか? ロォサ」


「ア、ア、アリオス……。どうして?」


 Bブロックのアリアスがどうして私を助けるの!?



「おおっとぉ! アリオス伯爵の乱入だぁああ!! 他のチームの人間が助けに入ることは反則です!!」



 場内がどよめく中、彼は私を優しく下ろすと、何も言わずに綺麗なハンカチを渡してくれた。


 ハッとする。


 私、泣いていたんだ。

 急いで、そのハンカチで涙を拭く。


 彼はそしらぬ顔で私の前に立った。


「みなさん! 聞いて欲しい!!」


 観客は彼の言葉に注目した。


「この武闘会は実戦を意識したイベントです! ならばどうでしょう。同盟ということがあってもいいと思うのです!」


 同盟!?


 と、私も含め、場内の者が眉を寄せた。


「私はBブロックで戦っていました。しかし、それを今、放棄します!」


 ええ!?

 どういうこと!?


「ロォサチームのベスターニャは気を失い棄権しました。丁度その時。私のパートナーである、マーナも棄権したのです!!」


 え?


 と、マーナさんを見るとニコニコと笑いながら手を振っていた。


「棄権しまーーす」


 ご、強引じゃないですか?


「互いにパートナーを失った者同士。協力するのは戦場ならばあり得ること。それが今、起こったということです! つまり──」


 場内は彼に釘付けだった。

 次の言葉で大歓声が湧き上がる。







「私こと、アリアス・アポロンダルは、ロォサ・ルビキノーサと、たった今より同盟を結ぶことにします!!」





 

 えええええええええ!?


「いいぞ! いいぞぉおお!!」

「きゃああ!! アリオス様カッコいい!!」

「だいたい女が男に混じって戦っているのが筋力的には不利なんだから、それを認めているということは、他チーム同士の同盟くらいあってもいいだろうな」

「同盟を認めろーー!!」


 会場の盛り上がりを受けて、環境大臣のゼムトオが立ち上がった。



「ハッハッハッーー!! これは面白い!! 伯爵の言葉は一理ある!! このイベントは実戦を踏まえている! ならば、同盟を認めざるを得まいて! カーーッハッハッ!!」



 ゼムトオの言葉に会場は更に盛り上がった。


「ゼムトオ卿の許可が出ました!! 試合は続行です!!」


 し、信じられない……。

 私とアリオスが同盟を組んじゃうなんて……。


 私の泣き顔はすっかり晴れていた。


 太陽のように輝く、彼の笑顔が私を出迎える。







「さぁ、ロォサ。一緒にがんばりましょう」






 ああ、アリオス。


「ありがとう!!」

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