第七話 確信
こちらは文をAIを使い、構成、キャラクター設定、舞台設定、話の原文、セリフの1部を私が作成しています。
夜風が橋の上を吹き抜ける。
昼間の熱気はすっかり消え、川の水音だけが静かに耳へ届いていた。
椿は桜の隣まで歩いていく。
二人の間には、いつもと同じ距離があった。
……はずだった。
桜は一歩だけ近付く。
自然な動作だった。
不自然ではない。
それでも、椿は無意識に半歩下がっていた。
「……暑い?」
桜が笑う。
「いや。」
「そっか。」
それ以上は詰めてこない。
ただ、その視線だけが椿から離れなかった。
「で。」
椿は川へ目を向ける。
「話って?」
「別に。」
「え?」
「話したかっただけ。」
その返事に、椿は思わず桜を見る。
「……それだけ?」
「うん。」
桜は照れくさそうに笑った。
「椿と話してると落ち着くし。」
胸がざわつく。
もちろん、桜がそう思っていてもおかしくはない。
親友なのだから。
でも。
桜は、そんなことを口にする人間ではなかった。
照れくさいことは笑ってごまかす。
面と向かって言われたことなど、一度もない。
「最近さ。」
桜がぽつりと呟く。
「前より一緒にいたいって思うんだ。」
椿は返事ができなかった。
「何でだろ。」
桜は困ったように笑う。
「自分でも分かんない。」
椿の喉がひどく渇く。
その笑い方は桜だ。
声も桜だ。
顔も桜だ。
なのに。
言葉だけが、知らない誰かのものだった。
「椿?」
名前を呼ばれる。
「今日、変だよ。」
「……そうかも。」
それしか言えなかった。
沈黙が流れる。
川面を渡る風だけが、二人の間を通り過ぎていく。
やがて桜が、小さく息を吐いた。
「俺さ。」
「?」
「椿に嫌われたくない。」
その瞬間だった。
頭の奥で、何かが弾けた。
違う。
違う違う違う。
桜は、そんなことを言わない。
桜は人に好かれようとする人間じゃない。
自然体でいて、それでも周りに人が集まってくる。
だから「嫌われたくない」なんて、不安を口にしたことがない。
ましてや。
俺に対してだけ、こんなにも執着するような言い方は。
絶対にしない。
椿は桜の目を見る。
暗い夜でも分かる。
瞳の色も。
瞬きの速さも。
そこに映る自分も。
全部、本物だ。
なのに。
目の前に立っている"何か"は。
どうしても桜には見えなかった。
「……帰る。」
椿は短く言った。
「え、もう?」
「ああ。」
「もう少しいようよ。」
まただ。
引き止める。
桜なら、「じゃあまた明日な」と笑って終わる。
こんなふうに引き止めたりしない。
椿は一歩後ろへ下がる。
「また明日。」
それだけ言って、自転車へ向かった。
背中に視線を感じる。
振り返らない。
振り返ってしまえば。
何か決定的なものを見てしまう気がした。
自転車を漕ぎ出す。
夜道を必死に走る。
胸の鼓動が耳の奥で鳴り響く。
家へ着き、自転車を止めても、しばらく息が整わなかった。
「……違う。」
誰もいない庭で、小さく呟く。
その言葉は、もう自分をごまかすためのものではない。
「桜じゃない。」
初めて。
椿は、その考えを否定できなかった。
玄関の扉を開ける。
時計の針は、午後十時半を回っていた。
靴を脱ごうとした、その時だった。
「椿。」
低い声がリビングから飛んできた。
身体が一瞬強張る。
父だった。
椿は何も言わずにリビングへ顔を出す。
父はソファに座ったまま腕を組み、母は食卓で黙って俯いていた。
「何時だと思ってる。」
「……ごめん。」
「どこへ行ってた。」
一瞬だけ答えに詰まる。
「友達と。」
「こんな時間までか。」
「少し話してて。」
父は深くため息をついた。
「高校生にもなって、時間も分からないのか。」
「……。」
「遊ぶ暇があったら勉強しろ。」
叱る声に怒鳴るような激しさはない。
けれど、その静かな口調の方が、椿には苦手だった。
「返事は。」
「……ごめんなさい。」
「次はないからな。」
それだけ言うと、父はテレビへ視線を戻した。
話は終わりだった。
母も何も言わない。
椿が帰ってきたことを確認すると、再び食卓へ目を落とした。
温かい言葉もなければ、心配そうな表情もない。
怒鳴られることはない。
殴られることもない。
ただ、必要なことだけを告げて終わる。
それが、この家では当たり前だった。
「……おやすみ。」
返事はなかった。
椿は静かに階段を上がり、自室の扉を閉める。
ベッドへ倒れ込むと、ようやく息を吐いた。
家の中は静かなはずなのに、胸のざわつきだけは消えない。
父に叱られたからではない。
桜のことだった。
「……桜じゃない。」
口に出してみる。
誰も聞いていない部屋でさえ、その言葉にはひどく重みがあった。
もし自分の考えが間違っていたら。
親友を疑った最低な人間になる。
もし正しかったら。
――あいつは、どこへ行った。
その問いだけが、暗い部屋の中で静かに残り続けた。
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