第六話 確かめたい
こちらは文をAIを使い、構成、キャラクター設定、舞台設定、話の原文、セリフの1部を私が作成しています。
その日の帰り道。
椿は一つだけ決めていた。
――試そう。
もちろん、試すなんて言い方はよくない。
桜を疑っているようで、ひどく後ろめたい。
それでも、この胸のつかえを放っておくことはできなかった。
「今日も川寄る?」
桜が聞く。
「うん。」
二人はコンビニへ寄り、いつものようにアイスを買う。
桜はソーダ味。
椿はチョコバー。
店員のおばさんが笑う。
「あら、今日も一緒ねぇ。」
「ほぼ毎日です。」
桜が笑って答える。
何も変わらない。
昔から何度も見てきた光景だ。
橋へ向かう途中、椿は何気ない調子で口を開いた。
「そういえば。」
「ん?」
「小さい頃、お前ここで転んで大泣きしたよな。」
「あー。」
桜は照れくさそうに笑う。
「またその話?」
「何歳だったっけ。」
「小二。」
即答だった。
椿は小さく頷く。
「そうだったな。」
嘘だった。
本当は、どちらだったか椿も覚えていない。
小一だった気もするし、小二だった気もする。
だから毎回、わざと違うことを言ってからかっていた。
桜も、そのたびに言い返していた。
答えは、いつも変わっていた。
「小一だろ。」
「違う、小二。」
「いや絶対小一。」
「だから小二!」
そんなやり取りを何度も繰り返してきた。
だから、今日みたいに迷いなく言い切る桜に、ほんの少しだけ違和感を覚える。
……いや。
たまたま今日は覚えていただけかもしれない。
自分は何を期待しているんだ。
椿は頭を振る。
川へ着き、堤防へ腰を下ろす。
しばらく無言でアイスを食べていると、桜がふいに口を開いた。
「椿。」
「ん?」
「最近、何かあった?」
「……何で?」
「何となく。」
桜は川を見たまま続ける。
「この前から、俺のこと見てること多い気がする。」
心臓が一拍、大きく鳴る。
見ていた。
無意識に。
歩き方も。
仕草も。
表情も。
全部。
「気のせい。」
できるだけ自然に返す。
「そう?」
「うん。」
「ならいいけど。」
桜はそれ以上聞いてこなかった。
それなのに、椿の胸はざわつき続ける。
見抜かれた。
いや、違う。
桜なら、この程度の変化に気付くことはある。
昔から観察力は悪くなかった。
そう思おうとした、その時。
桜が、ふっと笑った。
「でもさ。」
「?」
「そんなに見られると、照れる。」
その一言に。
椿の思考が止まる。
照れる。
桜は、そんな言い方をしたことがあっただろうか。
もし同じ状況なら。
きっと本当の桜は、
「何だよ。」
とか、
「俺の顔になんか付いてる?」
とか、
そんなふうに笑って終わらせる。
「照れる」という言葉は、あまりにも不自然だった。
ほんの少し。
本当に、ほんの少しだけ。
親友同士の距離ではない。
そんな響きが混ざっている。
椿はアイスの棒を握る手に力が入る。
もう、偶然では説明しきれない。
小さな違和感が、ひとつ、またひとつと積み重なっていく。
そして椿は、初めて心の中で、その言葉を最後まで口にした。
――目の前にいるのは、本当に桜なのか。
◇
その日の夜。
夕食を終えた椿は、自室の机に肘をつき、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
住宅街にはぽつぽつと明かりが灯り始めている。
遠くから、犬の鳴き声が聞こえた。
静かな夜だった。
「……何考えてるんだ。」
ぽつりと独り言が漏れる。
目を閉じる。
思い浮かぶのは、桜の笑顔だった。
小学生の頃。
初めて話しかけてきた日のこと。
川で転んで泣いたこと。
文化祭で一緒に怒られたこと。
くだらないことで笑い転げた放課後。
その全部が、本物だった。
「……違う。」
首を振る。
もし本当に桜じゃないなら。
そんな馬鹿な話があるはずがない。
人が別人になるなんて。
漫画じゃあるまいし。
なのに。
椿の頭の中では、一つ一つの違和感が勝手に繋がり始めていた。
近すぎる距離。
髪をかき上げない癖。
秘密基地への反応。
歩き始める足。
視線。
言葉選び。
笑う間。
そして。
「照れる」。
たった一言なのに、あまりにも桜らしくなかった。
「……俺がおかしいのか。」
その結論が、一番現実的だった。
洞窟で変なものを見た。
そのせいで思い込みが激しくなっているだけ。
そう考えた方が、ずっと自然だ。
椿は机の引き出しを開けた。
一番奥に、小さなアルバムが入っている。
小学生の頃の写真ばかりが入ったものだった。
ページをめくる。
運動会。
林間学校。
夏祭り。
そのほとんどに桜が写っていた。
「……。」
一枚の写真で手が止まる。
橋の近くの川。
二人ともびしょ濡れで笑っている。
撮ったのは、たしか桜の母親だった。
その写真を見ていると、不思議なくらい当時の空気を思い出せた。
桜は笑う時、少しだけ顎が上がる。
目尻が柔らかく下がる。
肩を揺らして笑う。
写真では一瞬しか切り取られていないのに、それでも思い出せる。
何千回も見てきたから。
「……。」
その時だった。
スマートフォンが震える。
画面を見る。
桜からだった。
『暇?』
短い一言。
椿は少し迷ってから返信する。
『どうした』
数秒後。
『今から少し出ない?』
椿は時計を見る。
午後九時四十分。
普段なら、もう家を出る時間ではない。
『こんな時間に?』
『少しだけ』
椿は窓の外を見る。
夜風で木々が揺れていた。
嫌な予感がした。
理由は分からない。
それでも。
断る理由も思いつかなかった。
『分かった』
返信すると、すぐに既読が付く。
『橋で待ってる』
それだけ送られてきた。
◇
夜の村は、昼とはまるで別の場所だった。
街灯は少なく、田んぼの向こうは闇に溶けている。
虫の鳴き声だけが、静かに辺りを満たしていた。
椿は自転車を漕ぎ、橋へ向かう。
昼間は何度も通る道なのに。
夜になるだけで、こんなにも長く感じる。
橋の欄干にもたれ掛かる人影が見えた。
「椿。」
桜だった。
月明かりに照らされた横顔は、見慣れた親友そのものだった。
「急にどうした。」
椿が尋ねると、桜は少しだけ笑う。
「会いたくなった。」
その言葉に。
椿の胸が、ひどく冷えた。
桜は。
今まで一度も、そんな理由で自分を呼び出したことはなかった。
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