第二話 山の奥
こちらは文をAIを使い、構成、キャラクター設定、舞台設定、話の原文、セリフの1部を私が作成しています。
夏休みに入って最初の土曜日。朝から蝉の鳴き声が窓の外を埋め尽くしていた。椿は自転車のタイヤに軽く空気を入れると、腕時計へ目を落とした。
九時五十八分。
あと二分。
昔から、桜は待ち合わせに遅れない。十分前に来ることもあれば、一分前に現れることもあるが、時間を過ぎたことはほとんどなかった。案の定、坂の向こうから自転車を漕ぐ姿が見える。
「おはよう。」
「おはよう、椿。」
桜は片手を上げる。籠にはペットボトルが二本と、小さなビニール袋が入っていた。
「何それ。」
「虫除け。あと飲み物。」
「準備いいな。」
「山だからな。」
昔は虫なんて気にもしていなかったくせに。そんなことを思いながら、椿は自転車を押し出した。二人は村を抜け、山道へ向かう。舗装された道は途中で細くなり、やがて木々に囲まれた坂道へ変わる。照りつけていた日差しも、木漏れ日になるだけでずいぶん涼しく感じた。
「懐かしいな。」
桜が辺りを見回す。
「こんな狭かったっけ。」
「子どもの頃は広く感じた。」
「秘密基地って、全部そうだよな。」
二人は笑う。自転車を脇へ止めると、そこから先は徒歩だった。踏み固められた獣道を進む。草が足に触れ、湿った土の匂いが立ち上る。鳥の鳴き声が聞こえたかと思えば、不意に静けさが戻る。村からそれほど離れていないはずなのに、別の場所へ来たような感覚になる。
「そういえば。」
桜が前を歩きながら言った。
「昔、この辺に白蛇様が出るって話、聞かなかった?」
「ばあちゃんが言ってた。」
「『悪いことすると連れていかれる』って。」
「子ども脅かすための昔話だろ。」
「俺、小さい頃ちょっと信じてた。」
「知ってる。」
「なんで。」
「山入るたび、お前、白いロープ見て逃げてた。」
「……思い出させるな。」
椿は少し笑った。その話をした瞬間だった。風が止んだ。さっきまで耳にまとわりついていた蝉の声が、ふっと遠ざかる。静かだ。山全体が息を潜めたような、不自然な静けさ。
「……あれ。」
桜も立ち止まる。
「急に静かになったな。」
「雨でも来るのか。」
空を見上げても、雲ひとつない。それでも、胸の奥に小さな引っ掛かりが残る。理由は分からない。ただ、この場所だけ空気が違うような気がした。
「行こう。」
桜は深く考えず、また歩き出す。椿もその背中を追った。
数分後。
木々の隙間に、見覚えのある岩壁が姿を現す。その中央には、人ひとりがようやく通れるほどの洞窟。
「着いた。」
小学生の頃、何度も通った秘密基地。何年ぶりかに見る入口は、記憶より少しだけ小さく見えた。しかし洞窟の奥から流れてくる冷たい空気だけは、あの頃と何も変わっていなかった。まるで、ずっと二人を待っていたかのように。洞窟へ一歩足を踏み入れる。外の熱気が嘘のように消え、ひんやりとした空気が肌を撫でた。湿った土の匂い。天井から落ちる雫が、ぽたり、ぽたりと静かな音を響かせている。
「……涼しい。」
桜が息を吐く。
「クーラーより効くな。」
「夏だけなら住めそう。」
「絶対無理。」
二人の笑い声が洞窟の奥へ反響し、少し遅れて返ってくる。懐中電灯を点ける。白い光が岩肌を照らし、昔と変わらない一本道を浮かび上がらせた。
「覚えてる?」
桜が壁を指差す。光の先には、石で引っ掻いたような歪な文字が残っていた。
『つばき』
『さくら』
小学生の字だった。
「あったな、これ。」
「先生に見つかったら怒られるってビビってた。」
「今見つかっても怒られる。」
「確かに。」
自然と笑みがこぼれる。少し進むと、壁際に錆びた空き缶が転がっていた。中には色あせたビー玉が三つ。
「あ。」
桜が拾い上げる。
「これ、俺たちのじゃね?」
「まだ残ってたのか。」
椿は思わず声を漏らした。何年も前に置きっぱなしにしたものが、そのまま残っている。時間だけが止まったようだった。
「持って帰る?」
「いや。」
桜は少し考えてから、元の場所へ戻した。
「ここにあるから意味がある気がする。」
「……そうだな。」
また歩き始める。奥へ行くほど、空気は冷たくなる。さっきまで聞こえていた蝉の声は、もう完全に届かない。聞こえるのは自分たちの足音だけ。
コツ。
コツ。
コツ。
その音がやけに大きく感じた。
「こんな長かったっけ。」
桜がぽつりと言う。
「いや。」
椿も違和感を覚えていた。記憶では、もう少し歩けば広い空間に出る。秘密基地にしていた場所だ。しかし、今日は妙に長い。一本道が終わらない。……気のせいか。そう思った、その時だった。ふっと前方が開ける。
「着いた。」
懐中電灯の光が広い空間を照らした。石が円を描くように並び、その中央には小さな祠が静かに佇んでいる。屋根は崩れかけ、木材は黒ずみ、長い年月を感じさせる姿だった。それでも、不思議と朽ち果てた印象はない。誰にも忘れられたはずなのに、まだここで何かを守り続けているようだった。
「昔よりボロボロだな。」
桜は祠の前まで歩いていく。
「触るなよ。」
「分かってるって。」
そう言いながら、桜は祠をぐるりと見回した。
「こんなのあったっけ?」
祠の土台、その裏側。岩の隙間から、白いものが少しだけ覗いている。紙……ではない。細い縄のようにも見える。椿も近寄る。
「何だこれ。」
「木の根っこ?」
「違う気がする。」
桜はしゃがみ込み、指先でそっと土を払った。ぱらり、と乾いた土が崩れる。白い縄が少しだけ姿を現す。いや――縄ではない。無数の紙が幾重にも重ねられ、縄の形になるよう丁寧に編み込まれていた。紙の一枚一枚には、かすれた墨で見慣れない文字がびっしりと書かれている。
「……お札?」
「かな。」
桜は興味深そうに眺める。その一本だけではなかった。祠の裏には、土に埋もれた同じものが何本も伸びている。まるで、祠そのものを縛りつける鎖のように。椿は胸の奥がざわつくのを感じた。理由は分からない。
ただ――触れてはいけない。
そんな考えが、不意に頭をよぎる。
「桜。」
「ん?」
「もう帰ろう。」
桜は振り返る。
「え?」
「なんか……嫌な感じがする。」
桜は一瞬きょとんとしたあと、小さく笑った。
「珍しいな。椿がそういうこと言うの。」
「……分からないけど。」
「じゃあ最後にちょっとだけ見て帰ろう。」
そう言って、桜はもう一度祠へ向き直る。その足元で。乾いた音を立てて――一枚の紙が、静かに剥がれ落ちた。紙は、音もなく地面へ落ちた。ひらり、と。洞窟には風など吹いていない。それなのに白い紙片はゆっくりと揺れ、祠の前へ舞い降りる。
基本的には、1週間以内に更新する予定です。
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