第一話 いつもの放課後
こちらは文をAIを使い、構成、キャラクター設定、舞台設定、話の原文、セリフの1部を私が作成しています。
七月も半ばを過ぎると、教室の空気は朝から重かった。窓は全開なのに風はほとんど入らず、天井の扇風機が気休めのように音を立てて回っている。黒板には数学の公式がびっしりと残り、先生の「じゃあ今日はここまで」という声と同時に終礼のチャイムが鳴った。途端に教室の空気がほどける。椅子を引く音。友達を呼ぶ声。部活へ向かう生徒たちが鞄を抱えて廊下へ飛び出していく。椿はそんな喧騒の中、一人だけ机に向かったままノートを開いていた。黒板を見上げ、書き漏らした一行を書き足す。
「椿」
聞き慣れた声だった。振り返らなくても分かる。
「帰るぞ」
「……あと一分」
「またそれ?」
呆れたような笑い声がして、机の横に影が落ちる。顔を上げると、桜が肩に鞄を掛けたまま立っていた。窓から差し込む夕日を背負っているせいで、少しだけ眩しい。
「真面目だなあ、お前」
「書き終わるまで待って」
「はいはい」
桜は素直に隣の席へ腰を下ろした。
文句を言うわけでもなく、スマホを取り出して画面を眺め始める。昔からそうだった。急かすくせに、結局最後まで待ってくれる。椿はノートを閉じ、ペンケースを鞄へ放り込んだ。
「終わった。」
「やっとか。」
二人で教室を出る。廊下にはまだ何人か残っていたが、二人を見つけた男子がひらひらと手を振った。
「桜ー、また椿と帰り?」
「うん。また明日なー。」
桜は誰に対しても同じ調子で笑う。相手が先輩でも先生でも、小学生でも変わらない。その笑顔に救われた人間は、きっと一人や二人じゃない。
もちろん、自分も。
昇降口で靴を履き替え、自転車を押して校門を出る。アスファルトから立ち上る熱気がむっと肌にまとわりついた。
「暑っ……。」
「今日は三十四度らしい。」
「へー。やばいな」
桜は笑いながら自転車にまたがる。椿も後を追うようにペダルを踏んだ。学校から十分ほど走ると、村で唯一のコンビニが見えてくる。駐車場は数台分しかなく、夕方になると仕事帰りの人がぽつぽつ立ち寄る程度だ。自動ドアが開くと、冷房の風が一気に身体を包んだ。
「生き返る……」
桜は大げさに両手を広げる。二人は自然とアイス売り場へ向かった。桜はケースの前で腕を組み、「うーん」と唸る。
「また新しいの出てる。今回はマンゴーだって。」
「買えば。」
「……でも失敗したくない。」
十分ほど悩んだ末、桜が手に取ったのは見慣れたソーダ味のアイスだった。椿は思わず吹き出す。
「結局それ。」
「安定が一番。」
「新作は?」
「また今度。」
「絶対買わないだろ。」
「バレた?」
困ったように笑う。その表情を見ると、椿は昔から少しだけ安心する。目尻がふっと下がる、その癖まで含めて。会計を済ませ、店の前で袋を開ける。冷たいアイスをかじると、じわりと甘さが広がった。
「やっぱ夏はこれだな。」
「冬でも食べてるじゃん。」
「それはそれ。」
他愛ない話をしながら、自転車を漕ぐ。目的地は決まっていた。橋の近くを流れる、小さな川。子どもの頃から何度も通った場所。特別なものなんて何もない。それでも、放課後といえばここだった。堤防の斜面に自転車を止める。川の水は夕日に照らされ、ゆっくりと光を流していた。向こう岸では風に揺れた稲穂が波のようにうねり、その向こうには山々が青く連なっている。蝉の鳴き声が、空を埋め尽くしていた。二人はいつもの場所へ腰を下ろす。コンクリートは昼間の熱をまだ少しだけ残していた。桜はアイスの棒をくるくる回しながら、川を眺める。
「……平和だな。」
「急に年寄りみたいなこと言う。」
「だって見ろよ。」
桜が顎で景色を指した。
「毎日同じ景色なのにさ、不思議と飽きなくない?」
椿も川へ目を向ける。流れる水。風に揺れる草。橋を渡る軽トラック。たしかに、何も変わらない。
「……そうかも。」
「だろ?」
桜は満足そうに笑った。こういう時間が好きだった。何をするわけでもない。話題が途切れても気まずくない。ただ隣に座って、時間だけがゆっくり流れていく。それだけで十分だった。
「そういえば。」
椿はアイスを一口かじる。
「ここ来るたび思い出す。」
「何を?」
「桜が泣いた日。」
桜の動きが止まった。
「……またその話?」
「小一だったっけ。」
「小二。」
「いや、小一。」
「小二。」
「絶対小一。」
「違うって。」
桜は苦笑いしながら頭をかいた。
「だいたいさ、もう何年前だよ。」
「覚えてる。」
「なんで。」
「面白かったから。」
「ひど。」
桜は肩をすくめる。
「ちょっと足滑らせただけだろ。」
「膝擦りむいて、五分くらい泣いてた。」
「五分も泣いてない。」
「十分。」
「増えてるじゃん。」
「十五分。」
「もういい。」
二人で笑う。笑い声は川の音に溶け、蝉の声にかき消されていった。桜はふと空を見上げた。入道雲が、山の向こうまで大きく広がっている。
「もう夏休みだな。」
「来週から。」
「今年どうする?」
「どうするって?」
「去年みたいに川で遊ぶ?」
「高校生が?」
「じゃあ秘密基地。」
その言葉に、椿も山の方を見る。木々の隙間に見える深い緑。あの奥に、誰も知らない洞窟がある。小学生の頃、二人で偶然見つけた場所。秘密基地と呼ぶには少し薄暗くて、少し怖くて、それでも宝物みたいな場所だった。
「最近行ってないな。」
「草すごそう。」
「虫も。」
「うわ……。」
桜が嫌そうな顔をする。
「言い出したのお前だけど。」
「いや、でも久しぶりに見たいじゃん。」
「……まあ。」
椿も少しだけ笑う。
「夏休み入ったら行くか。」
「決まり。」
桜は嬉しそうに親指を立てた。その仕草が、どこか子どもの頃と変わらなくて、椿は思わず笑ってしまう。
日はゆっくりと傾き始めていた。オレンジ色の光が川を染め、蝉の鳴き声も少しだけ遠くなる。
「そろそろ帰るか。」
「うん。」
二人は立ち上がり、自転車へ向かった。橋を渡るところで、自然と進む方向が分かれる。ここから先は、それぞれの家だ。
「また明日。」
「また明日。」
それだけ言って、自転車を漕ぎ出す。振り返らなくても分かる。桜もきっと、同じように帰っていく。それが当たり前だった。明日も。来週も。夏休みが終わっても。きっと、この景色は変わらない。そう思っていた。
――この日までは。
基本的には、1週間以内に更新する予定です。
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