第十四話 同じ夕焼け
こちらは文をAIを使い、構成、キャラクター設定、舞台設定、話の原文、セリフの1部を私が作成しています。
図書館を出ると、空は茜色に染まっていた。
西の山へ太陽が沈みかけている。
椿は自転車を押しながら、ポケットの中の紙を指先で確かめた。
『目を合わせたら、連れて行かれる。』
短い一文。
誰が書いたのかも分からない。
何を意味するのかも分からない。
それでも、捨てる気にはなれなかった。
「……連れて行かれる。」
思わず口に出す。
何処へ。
誰に。
その答えは、どこにも書かれていない。
◇
村へ戻る途中。
橋の近くまで来ると、人影が目に入った。
欄干に腰掛け、川を眺めている。
制服姿。
見間違えるはずもない。
桜だった。
椿は反射的にブレーキを握る。
桜?もこちらに気付き、ゆっくりと立ち上がった。
「おかえり。」
まるで待ち合わせをしていたかのような口調だった。
「……。」
椿は返事をしない。
「図書館、どうだった?」
椿の心臓が一瞬止まりそうになる。
「……何で知ってる。」
「学校から見えた。」
桜?は笑う。
「そっちの方向に行ったから。」
それだけだった。
不自然な答えではない。
なのに、椿はまた考えてしまう。
――本当か。
「何か分かった?」
桜?が尋ねる。
「……何も。」
嘘だった。
紙のことは話したくなかった。
あの老人のことも。
今はまだ。
「そっか。」
桜?はそれ以上聞いてこなかった。
代わりに川へ目を向ける。
「今日、夕焼けきれいだね。」
椿もつられて空を見る。
燃えるような赤色が、田んぼ一面に映り込んでいた。
子どもの頃から何度も見た景色。
本来なら、隣で「明日も晴れるかな」なんて話をしている時間だった。
「椿。」
静かな声がする。
「怒ってる?」
「……。」
「俺に。」
椿はゆっくり視線を戻した。
「怒ってる。」
迷いなく答える。
「すごく。」
桜?は少しだけ目を伏せる。
「そっか。」
寂しそうに笑う。
椿は首を横に振る。
「お前が何者かは知らない。でも。」
拳を握る。
「桜は、お前じゃない。」
沈黙が落ちる。
川のせせらぎだけが二人の間を流れていく。
やがて桜?は、小さく笑った。
「やっぱり。」
「?」
「椿は、すごいね。」
「……何が。」
「誰も気付かないのに。」
その一言に、椿の背筋が凍る。
「先生も。」
桜?は静かに数え始める。
「クラスのみんなも。近所のおばさんも。俺のお母さんも。」
少し間を置く。
「誰も気付かなかった。」
椿は何も言えない。
「でも。」
桜?は椿だけを見つめる。
「椿だけは、気付いた。」
その瞳は、嬉しそうでもあり、悲しそうでもあった。
「……どうして?」
その問いは、椿ではなく、自分自身へ向けたもののようだった。
「どうして、椿だけなんだろう。」
椿はゆっくり息を吸う。
そして、初めてその理由を口にした。
「見てたからだ。」
桜?は静かに耳を傾ける。
「誰よりも。ずっと。桜を見てきた。」
夕焼けに照らされた橋の上で。
桜?は何も言わなかった。
ただ、その言葉を宝物のように胸へ抱きしめるような表情で、静かに微笑んでいた。
夕焼けに照らされた横顔は、どこか嬉しそうにも見える。
やがて、小さく息を吐いた。
「……いいな。」
ぽつり、と呟く。
「何が。」
椿が眉をひそめる。
「本物の桜。」
桜?は川面を見つめたまま続ける。
「そんなふうに見てもらえて。」
椿の表情が曇る。
「当たり前だ。」
「当たり前……か。」
桜?はその言葉を噛みしめるように繰り返した。
「俺には、よく分からない。」
「……。」
「でも。」
少しだけ笑う。
「ちょっと羨ましい。」
椿は何も返さなかった。
返せなかった。
桜を羨ましいと言っている。
それが、どうしようもなく気持ち悪かった。
「帰る。」
椿は自転車へ向かって歩き出す。
もうこれ以上、一緒にいたくなかった。
「椿。」
背中から呼び止められる。
立ち止まる。
「また明日。」
その声は、いつもの桜だった。
椿は振り返らない。
「……ああ。」
短く返事だけして、自転車を漕ぎ出した。
◇
家へ帰ると、机の上へ図書館で借りた郷土史を広げた。
白蛇様。
山の祠。
封印。
ページを何度読み返しても、新しいことは何も書かれていない。
あの破れたページだけが、ぽっかりと空白になっている。
「何かあるはずなんだけどな……。」
椿は鉛筆を手に取り、ノートへ思いつくまま書き始める。
・祠
・封印。
・桜の失踪。
・白い蛇。
・違和感。
・距離感。
・歩き方。
・髪をかき上げない。
・夜に呼び出されたこと。
・「嫌われたくない」。
・「会いたくなった」。
紙いっぱいに言葉を書き並べても、答えは見えてこない。
ただ一つだけ、確かなことがある。
「桜は、生きてる。」
そうであってほしい、ではない。
生きている。
そう信じなければ、ここまで来た意味がなくなる。
椿はノートを閉じる。
その時、スマートフォンが震えた。
画面には一件のメッセージ。
送り主は、桜?だった。
『今日はごめん。』
たった一行。
椿は画面を見つめる。
返事を書こうとしてやめた。眺めていると
『返事はいらない。』
『おやすみ。』
椿はスマートフォンを伏せた。
「……桜なら。」
こんな送り方はしない。
謝るなら、翌日、会って直接言う。
メッセージだけで済ませるようなやつじゃない。
その小さな違いが、また一つ増えた。
椿は部屋の明かりを消し、ベッドへ横になる。
窓の外では、虫の鳴き声が静かに続いていた。
眠りに落ちる直前。
椿の頭に浮かんだのは、祠で見た小さな白蛇だった。
暗闇の中で、自分を見つめていた黒い瞳。
あの目は。
どうしても、助けを求めているようにしか思えなかった。
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