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【ドラゴンライダー】~飛べない竜と俺は必ず再起する~  作者: 霧笛の火魔人


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【第48話 決着】

地表が爆速で後ろへと流れていく。


俺たちの速度は、すでに聖国の将軍バルカが駆る黒い飛竜の滑空速度を越えていた。


風を切り裂き、心臓の鼓動がマックスの足音と共鳴する。

跳んだ。地を蹴る衝撃が背骨を突き抜け、視界が一気に浮き上がる。


空中で追いつき、バルカを捉えようとした瞬間、マックスが鋭い牙をむいた。



(だめだ!)



俺は咄嗟にマックスの首を強く叩き、手綱を強引に左へ傾けた。


バサッ!


間一髪、マックスは翼を広げて空気を掴み、衝突するはずだった軌道を逸らした。

黒い飛竜の尾が鼻先をかすめていく。


(・・・バルカを討ち取る、最大の好機だったのに!)


悔恨が胸を焼く。

だが、それでも・・・俺は、人を食い殺すマックスの姿だけは見たくなかった。


それは「相棒」としての境界線を越えてしまう気がしたからだ。

バルカの飛竜が、驚異的な反射速度で急上昇していく。


俺たちは着地し、再び戦場の要――新兵器"空刺し"が配置された方向へと走り出した。


---------------------------------------------------------------


上空、高度を上げたバルカは、乱れた呼吸を整えられずにいた。


「くそっ、何だあの動きは・・・!」


背後を振り返る。

追撃が来るのを身構えていたが、地上の影は遠ざかっていく。


「なぜ追ってこない? まさか、飛べない飛竜なのか? ・・・いや、今しがた地表を飛んでいただろうが!」


理解不能な存在への恐怖が、怒りへと変換される。


「なんなんだ・・・なんなんだぁ!」



バルカが叫んだ、その瞬間だった。




ドシュッ!!




鈍く重い衝撃音が鼓動を止めた。


バルカのすぐ隣を並走していた飛竜の胴体に、唐突に巨大な杭が生えていた。


バルカは驚愕のあまり、目を見開いたまま硬直する。


杭に貫かれた飛竜は、悲鳴を上げる間もなく力なく・・・ゆっくりと、重力に引かれて落ちていった。


バルカが地上に目を移すと、戦場の左翼に配置していたはずの自軍の竜撃砲が、真っ赤なマントを羽織った王国兵たちに囲まれているのが見えた。



「ちぃぃぃ、鹵獲ろかくされたか!」


パニック状態に陥った聖国の飛竜たちが一斉に散開する。


それまで空に描かれていた鉄壁の円陣が、見るも無残に瓦解していく。


対照的に、地上からは王国兵たちの地を揺らすような雄叫びが上がった。


バルカは冷や汗をかいた。


「不味い! 最後の1門だけは死守せねば、制空権が・・・!」


---------------------------------------------------------------


その頃、俺たちは跳躍を繰り返しながら、戦場の右側に配置されている"空刺し"へと迫っていた。


場所はもう分かっている。


今度は滑空で隙をさらす必要はない。

純粋な跳躍の連続で、最短距離を突っ切る。


タタタタタタタ、バン!


路地で乱戦を繰り広げていた敵味方の走竜たちが、物凄い勢いで俺たちの下を流れていく。


タン、タタタタタタタタタタ!


広場に出た。目の前には巨大な杭を番える兵士たちの姿。


(今度は、矢をつがえる時間すら与えはしない。全力だ!)


俺たちは全速力で疾走し、目標の直前で翼を大きく広げた。


猛烈な空気抵抗による急制動。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ、なんだこいつわぁぁぁ!」


操作兵が悲鳴を上げる。


バァァァァァァン、バキバキバキ!




俺たちは止まらず、聖国の新兵器"空刺し"を粉砕しながら走り抜けた。


ズドォォォォン


背後から、鉄と木材がひしゃげ、倒壊する重低音が響き渡る。



---------------------------------------------------------------


「おのれぇ・・・貴様だけは許さん! 貴様だけは生きて帰さんぞぉ!」


空で、バルカの黒い飛竜が猛然と急旋回を開始した。


視界の水平線が傾き、地上の風景がグルグルと回る


目標に向けて逆旋回。水平線が逆に傾き、目標に向けて急降下が始まる


水平線が上に移動して、正面は全てが地上になる。


その中心にカイルが居た。


---------------------------------------------------------------


俺たちは驚愕の光景を目にして足を止めた。


突如として、のこる1門の"空刺し"から杭が放たれたのだ。


それは矢のように回転しながら一直線に空を裂き、逃げ遅れた聖国の飛竜を串刺しにした。


一頭の飛竜が絶命して落下していくと同時に、空を埋めていた飛竜たちがクモの子を散らすように逃げ惑う。


あまりに衝撃的な光景に、近くにいた走竜も騎士(ライダー)たちも、殺し合いを忘れてただ呆然と空を見上げていた。


だが、俺は気づいた。

逃げ惑う群れの中から、一際巨大な黒い影が、憎悪を纏ってこちらへ降下してくることに。


「行くぞマックス!」


「ブァフッ!」


マックスが短く返事をして走り出す。


("空刺し"の脅威はもうない。なら、俺の手でバルカを終わらせる!)


考えろ。飛んでいるバルカを、マックスでどうやって落とす?


鹵獲した"空刺し"の射程に誘導するか? いや、そんな見え透いた手に引っかかるほど、奴は甘くない。


正面からぶつかるか? それは相打ちだ。二人とも死んでしまう。


やはり、俺たちが信じてきたのは「速さ」だ。


「マックス、草原に行くぞ!」


---------------------------------------------------------------


その頃、戦場から少し離れた王国の本陣後方から、一頭の飛竜が静かに飛び立った。アインである。


彼は混乱する空の状況を冷静に見極めていた。


「よし、"空刺し"の脅威はもうない! 王国の飛竜隊が出れるぞ」


勝利を確信した彼は、情報を伝えるべく、待機している飛竜隊の砦に向けて翼を翻した。


---------------------------------------------------------------


戦場から離れた草原。そこにはもう、敵も味方もいない。


俺とバルカ、一対一の決闘場となった。


草原を全力で走れば勝機がある――そう踏んでいたが、バルカの飛竜は予想以上に特別だった。


他より大きい翼は、空気を掴みたやすく上昇する。


高度が出来たなら、降下することで加速できるのだ。


空刺しで狙われる高度まで上がらずに、降下攻撃を繰り返せるのは、翼が特別に大きい飛竜だからできる技だった。


「飛竜の戦いは、空を取った者が勝つのだよ!」バルカの笑い声が聞こえる。



(くそっ、空に勝つためにはどうする?跳躍で上を取るか?)


鐙を思い切り叩き、跳躍する。


バン!


一瞬の無重力感。だが、バルカの飛竜は悠々と、俺たちの「下」をすり抜けていった。


(だめだ、見切られている・・・!)


冷や汗が背中を伝う。


不意に、グレンの言葉が聞こえた気がした『君の敵は「空」じゃない』


(そうですね・・・俺の敵はバルカです)



手綱を握る腕はパンパンに張り、感覚が麻痺し始めていた。


マックスの激しい機動を御し続けるために、全身の筋肉が限界を叫んでいる。


逃げるか? いや、逃げ切れるはずがない。



俺は、最後の場所として選んでいた所に行くことを決めた。



(もう、身体が跳躍の衝撃に耐えられない)


俺は、振動の少ない滑空を使った。


タタタタタタ、パン・・・パーーーーン!


マックスが翼を広げ、地表を滑るように飛ぶ。


滑空の合間に、足で地面を軽く叩いてさらに距離を伸ばす。


ビューーーーーーーッ!


風切り音が耳元を支配する。


流れるような草原の緑が美しい。



(なぁ、おっさん。なんで殺し合いなんかやってんだ?)



俺たちの真横を、バルカの飛竜の鋭い爪がかすめていった。

土煙が舞う。


まもなく、草原が終わる。


その先は深い森になり、背後には峻険な山脈がそびえている。



(なぁ、おっさん。竜と遊んだほうが、楽しいだろ? お前もそう思わないか?)



再び、背後に死の気配が迫る。


バルカは今度こそ仕留めるつもりだ。


俺たちは滑空状態のまま、森へと続く山道に突入した。



そこは、かつて平和な休日に、俺とマックスがのんびりと散歩した馴染みの道。



俺はマックスに短い指示を出し、




立ち止まらせた。




静寂。


振り返ると、バルカの飛竜は翼で山道の両側の木々の葉を散らしながら迫ってきていた。

山道を覆いつくし、影が広がる。


「今だ!」


鐙を叩いて合図を送る。


マックスは垂直に、ありったけの力で跳躍した。


バルカの飛竜が、俺たちのすぐ下を、猛スピードで通過していく。




マックスの着地は、これまでのどんな激戦の最中よりも、しなやかで静かだった。



直後、バルカの飛竜が上昇しようとした瞬間・・・


空中で、まるで目に見えない蜘蛛の巣に捕まった蛾のような、不自然な動きをした。


「なっ・・・何だ、これはぁ!?」


バルカの叫びが響く。



ズドーーーン!


縄に絡まった黒い飛竜は激しく藻掻いた後、地上10メートルほどの高さから叩きつけられるように落下した。


俺は、馴染みの山道に設置されていた、対飛竜用の「結界」にバルカを誘い込んだのだ。




俺は腰の短剣を抜き、静かに近寄った。


落下の衝撃でバルカは足に深手を負い、意識を失っているようだった。死んではいない。



黒い飛竜は片方の翼を不自然な方向に曲げて苦しそうにしていたが、マックスが近づくと、暴れるのをやめてじっと堪えていた。



ドス、ドス、ドス・・・。



マックスが静かな足取りで寄り添い、傷ついた黒い飛竜の顔をそっと覗き込む。


空を支配していた者との決着は、あまりに静かな森の中で、幕を閉じた。


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