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【ドラゴンライダー】~飛べない竜と俺は必ず再起する~  作者: 霧笛の火魔人


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【第49話 終戦】

王国の飛竜達が待機している砦の広場に、1頭の飛竜が滑り込むように着陸する。

翼が巻き起こす突風が、地面に溜まった砂埃を派手に舞い上げた。


「セルジュ旗隊長に報告! 制圧完了しました!」


飛竜から飛び降りたアインが、声を張り上げる。

その顔には興奮と高揚があった。


「聖国の新兵器"空刺し"、全三門のうち二門を完全に破壊。残る一門は我が軍が鹵獲(ろかく)! 地上の脅威は排除されました!」


その報告を受け、飛竜部隊の旗隊長セルジュが、鋭い眼光を戦場へと向けた。


彼の背後には、いつでも出陣できる準備を整えた飛竜と騎士(パイロット)たちが控えている。



「よくやった、アイン。・・・隊長諸君、聞いた通りだ。空を縛る鎖は断たれた。これより、この不毛な殺し合いに終止符を打つ」


セルジュは腰の長剣を引き抜き、天を指した。



「全隊、出陣だ! 敵軍の戦意を挫き、戦いを終わらせる。最初から"終局の陣"で飛べ! 戦わずに勝利を刻め!」



その号令と共に、大地を揺らす羽ばたきが始まった。

1頭、また1頭と、巨躯が重力に抗って宙へと舞い上がる。


その数、31頭が今この瞬間に翼を広げる。


現在、戦いに投入できる王国の誇る全戦力だった。


------------------------------------------------------------


白いマントが風に暴れる。

聖国の飛竜隊長ドガは、信じがたい光景を目の当たりにしていた。


ほんの数刻前まで、彼は自分たちの勝利を疑っていなかった。


新兵器"空刺し"で制空権を抑えていたのだから、負けるはずがなかったのだ。


しかも、"空刺し"の警護は聖国の最強、バルカ将軍が先頭に立っていたからだ。


しかし、王国側から現れたあの"異物"は、常識の外側に居た!



いち早く気付いたバルカ将軍が追い回しても、常識を超えた速度で駆けた。

特に草原での追撃戦は、ドガの飛竜はついていけず、将軍の飛竜と"異物"に離されてしまった。


「バルカ閣下・・・」


ドガが遠目に見たのは、森の木々が激しく揺れ、土煙が上がる光景だった。


森に突入したバルカ将軍の飛竜は、上昇を完全に阻止され、なすすべなく墜落した。


あの高さ、あの速度での墜落だ。


生存の望みは、限りなく薄い。



ドガは苦渋に満ちた表情で手綱を握り直した。


今の空は、王国側に鹵獲された"竜撃砲"が支配している。


高度を上げすぎれば、即座に捕捉され、屠られるだろう。


彼は低空を這うように飛びながら、残存する飛竜が集結しているはずの広場を目指した。




「終わりだ・・・今回の戦は、我らの敗北だ!」



ドガは毒づいた。通信手段の限られたこの時代、飛竜こそが唯一の迅速な伝令手段だった。


だが、空の覇権を失った今、撤退の合図を送ることすらままならない。



「くそっ! このままでは、地上の走竜隊が全滅してしまう……!」


眼下には、自軍の兵士たちが逃げ場を失い、死の淵に立たされている光景が広がっていた。



------------------------------------------------------------


地上の旧市街。そこは、文字通りの地獄と化していた。


石造りの建物が入り組み、視界を遮るこの場所では、走竜を駆る騎士(ライダー)たちが入り乱れ、血で血を洗う白兵戦が続いていた。


しかし、戦場の空気は確実に変わりつつあった。


「聖国の飛竜が1頭も居なくなったぞ?」


「王国側が押しているのか? それとも、これから飛竜同士の決戦が始まるのか?」



兵士たちの間に、困惑と恐怖が混じった動揺が広がる。


見通しの悪い路地裏では、下手に背を見せれば即座に斬られる。


だが、既に勝敗が決しているのなら、殺し合う意味がない。



「いま死んだら・・・無駄死にだ」



誰かが呟いたその言葉が、戦場全体の総意のように響いた。


王国兵も聖国兵も、互いに剣を構えたまま、じりじりと後退りする。






睨み合ったまま、心臓の鼓動だけが早鐘を打つ、嫌な時間が流れた。





その沈黙を切り裂いたのは、上空からの風圧だった。


「見ろ! 空だ!」


兵士たちが一斉に天を仰ぐ。


そこには、一頭や二頭ではない、空を埋め尽くすほどの飛竜の影があった。


雲を割り、太陽を背にして現れた王国の飛竜大群。




それらは一見バラバラに飛んでいるように見えたが、その軌跡は極めて洗練されていた。


二つのグループに分かれた飛竜たちが、上下に高度を変えながら、正確に60°の角度で交差して飛ぶ。


それは、地上から見れば巨大な網が空を覆い、逃げ場を封じるかのような圧倒的な威圧感 "終局の陣"であった。



「空を取られた! 終わったんだ、もうおしまいだ!」



聖国の走竜隊員が絶望の叫びを上げた。


「撤退! 撤退だぁぁぁ!」


雪崩を打ったように聖国軍が後退を始める。



それを見た王国の若手兵士たちが、勝ち鬨を上げて追撃しようとしたその時、班長の怒声が響いた。


「追うな! 深追いは無用だ!」


班長は荒い息をつきながら、上空の陣を見上げた。


「あれを見ろ、"終局の陣"だ。上層部が『これ以上の血を流すな』と言っているんだ。勝ったんだ! 無駄死にするな!」



戦場という名の巨大な機械が、ゆっくりと、確実にその動きを止めていった。


------------------------------------------------------------


「ビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッ!」


風を切り、ツバイは借りた飛竜の背で戦場を俯瞰していた。


彼は今、交差する二つのグループのうち、低空を担当する編隊の中にいた。



眼下には、つい先ほどまで激闘が繰り広げられていた"空刺し"の設置広場が見えてくる。


最初の広場。


そこには、無残に倒壊した対空兵器と、その傍らに横たわる五頭の走竜、そして赤いマントを纏った王国兵たちの遺体があった。


彼らが命を賭して、この兵器を黙らせたのだ。


「ありがとうございます!決して忘れません」


ツバイは右手を左胸に当て、静かに敬礼を捧げた。



編隊が旋回し、次の直線ルートに入る。


二つ目の広場が見えた瞬間、ツバイは息を呑んだ。


そこは、先ほどの場所とは比較にならないほど「赤かった」。


広場は血で染まり、引き裂かれた走竜の残骸が、激戦の凄まじさを物語っている。


生存者の姿はない。

ただ、静まり返った死の庭がそこにあった。


「激戦を勝ち抜いていただき、感謝する!」


ツバイは再び胸に手を当てた。喉の奥が熱くなるのを感じながら。



そして三つ目の広場。


そこでは、王国の走竜たちが勝ち鬨を上げていた。


鹵獲された"空刺し"に跨った兵士が、泥にまみれた王国の旗を力強く振っている。


「ぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


ツバイは叫び返し、両手を高く突き上げた。



その時、彼の胸を去来したのは、激しい自己嫌悪だった。


(俺は・・・なんて愚かだったんだ)


かつての自分を思い出す。


飛竜に乗ることを誇り、地上を這う走竜隊を「裏方」や「兵站担当」だと見下していなかったか。


だが、現実はどうだ。彼らこそが泥を啜り、血を流し、この勝利の土台を築いたのだ。




ふと見ると、先頭を飛んでいたアインが隊列を離れ、降下を始めていた。


彼が降り立ったのは飛竜の休息所ではなく、その手前にある森の縁だった。


そこには、アインの飛竜と並んで、見覚えのある竜――カイルの相棒、マックスの姿があった。


「カイル・・・お前も、ここで戦っていたのか」



ツバイの脳裏に、以前にカイルへ放った傲慢な言葉が蘇る。


『走竜は兵站担当だ。お前は絶対に前に出るな』


あの時、カイルはどんな気持ちでその言葉を聞いていたのだろうか。

この凄惨な戦場を、命懸けで駆け抜けた親友に対して、自分はなんという無礼を働いたのか。


(今度、ちゃんと謝らないとな)


ツバイは小さく呟き、静かに高度を下げていった。


------------------------------------------------------------


戦後処理は、驚くほど速やかに進んだ。


聖国のバルカ将軍は生け捕りにされ、王国軍の捕虜となった。


ドガは、全軍に撤退指示を伝達した後、主を失った軍をまとめ上げ、国へと引き返した。


ただ一人、聖国の教皇だけは、軍と共に去ることを拒んだ。


彼は破壊された戦場の中心に立ち、静かに祈りを捧げた。




王国の将軍レオニスが、その教皇の元へ歩み寄る。


一刻ほどの会話の後、二人は互いに背を向け、それぞれの国へと向かって歩き出した。




やがて、戦場には新たな影が動き始めた。


それは武器を持った兵士ではない。

王国の、そして聖国の衛生兵たちだ。


彼らは敵味方の区別なく、倒れている者たちに駆け寄り、手当てを始めた。


長く苦しい戦争が、ようやく終わろうとしていた。


空を制し、戦いに勝ったのは、大地に生きる者たちだった。


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