40 新素材と労働力
明け方の涼しさと違って、今日は日が照ってすごく暑いの。わたし達は早々に森の散歩から戻ってきたちゃ。体力がないので、既にてきない。
だけどそのてきなさも、目の前の光景で吹き飛んだ。
森から出ると、もう家の形が出来上がっているじゃない!!
「……すっごい。アシャールさん、一休みしない?」
スキルちゃん達が用意した素材を使って、魔導具造りスキルの延長みたいに作っているのかと思っていたけど、魔法も使って作業してるよう。作業速度が尋常じゃないがいちゃ。少し前まで魔力が衰弱してる状態だったから、無理してないか心配になったけど、全然大丈夫そう。
あのラスボスみたいなステータスは伊達じゃなかった。
「香子! おかえりなさい。パナマ草茶を淹れてくれますか?」
「冷たいのにするわね」
みんなで一旦馬車に戻る。
馬車の上にいたピホも戻ってきた。
キトキトコンビはハーネスを外して、好きにお散歩に行っている。ネコノメは火山がある地域以外は、緑と水が豊富だから、うまく木陰や水場を見つけて休んでいるのだろう。幸い火山地帯は一番遠い海側にあって、居住地には影響がなかった。
わたしはよく冷えたパナマ草茶に柑橘果汁を少し入れる。スキルちゃん達におしゃれな脚付きのグラスを作って貰っていたので、今日はそっちを使う。
「はあ……沁み入ります……」
珍しくアシャールさんが、しみじみと言った。本当に今日は暑いわ。
私も滝のごとく汗をかいてるもの。
「今日は暑いから、水分補給しっかりしてね」
マリーシェラさんと奈々美さんにもアイスティーを渡す。
「多分明日以降は徐々に涼しくなっていきますわ。きっと今日が夏の終わりよ」
「そうなんですか?」
マリーシェラさんは頷いた。
「夏の最後の日はいつも特別暑くなるのです。今年はドレスじゃないので、快適ですわ」
シュベルクランでみたドレス姿は、薄布の下着を何枚も重ねて最後に鮮やかに染色や刺繍のされた布地か、上半身は薄い革で仕立ててあった気がする。
ベルサイユなロココ調ドレスじゃなくても、それなりに重そうだった。
あれ、グランヒュームの宰相さんも革のベストをお召しだったし、ケモリアでも……。
「そういえば身分の高い方、革の服を着てる事が多かったような……あれ、蒸れないのかしら?」
マリーシェラさんが、苦笑いした。
「一応、暗殺対策のためですわ。だからしっかりとした革なので、正直蒸れます」
おお、そうよね。心臓も肺も、刺されたり射られたりしたら大騒動やちゃ。だい⤴︎SOどう!
「それよりも……」
マリーシェラさんの瞳がキランと輝く。
「あ、そうだった。これがキンマユガの真珠ね」
わたしは素材収納から取り出して、転がらないよう木皿に入れる。大きさがまちまちな真珠が、40個ほど有った。
馴染みのある和珠や南洋真珠のような真珠層なのに二枚貝の真珠のような火焔模様も揺らめく、どれも綺麗な真円の珠ばかり。
パナマ草は20本を1束にまとめてある。対して繭は50個あった。パナマ草のレートが高すぎると思ったけど、くれたんだからまあいいかって素直に貰ったのよ。生糸に釣られて。
「王冠に一つ添えられるかどうかの宝石がこんなに……!!」
マリーシェラさんが驚いている。
「え? そんなに高価なの?!」
アシャールさんも珍しそうに眺めた。
「キンマユガの繭を見つけても、必ず真珠が入っているとは限らないのですよ。どうしたんですか、これは」
「えっと、森のすぐそこでキンマユガさんと出会って、パナマ草1束と物々交換した結果?」
「なるほど。香子にしか出来ないことですね。それにしても流石スキルちゃんです。傷一つ付けずに繭から取り出してあるとは」
他にも繭の中に入っていた種とか魔宝石とか並べていく。
わたしの勘では、キンマユガ的に物々交換の対価は、どうやらこっちの方なのよね。なんで真珠の割合い多いのかしら?
『は〜い。スキルちゃん達がお答えします!』
『キンマユガは、糸の元を作る絹糸腺が大きくてどんどん繭を作るの。お気に入りを入れられなかった繭の中で生まれてくる真珠に対しては特に未練もなく邪魔なので、普段は土に放置して土に還してるよー。キンマユガの糞と混ぜると、とても良い肥料! キンマユガのいる土地は豊かな土地なのーららん』
ロマンがなくなりそうなスキルちゃんの解答はそっと心の中に留めておく。わたし、キンマユガさんにとって半分廃品回収業者だったがけと思ったけど、めっちゃ得してるので、ウィンウィンでいいちゃ。
「繭から取り出すのって、難しいの?」
「ええ、繭は幾層にもなって分厚く強固なので、削るように慎重にナイフを入れていかないといけないのです。しかもナイフは神聖なる銀製でないと、歯が立ちません」
「ナイフを入れると糸として使えなくない? 勿体ないわ」
「糸?」
アシャールさんとマリーシェラさんはキョトンとしている。
糸、取れたよね、スキルちゃん?
『いっぱい採れたよーるるん』
『シーツに枕カバーに布団カバー、そしてパジャマも作れるよー、アシャールの紐パンも作れるぅららん』
紐パン。そう、洗濯係だから知っている。この世界の一般的な男性下着は紐パン。スカートの女性はドロワーズ。でもドロワーズじゃズボンがもたつくから、早々にスキルちゃん達にぱんつとスパッツを造ってもらっていたわたしと奈々美さんだった。
じゃなくて。わたしは早速スキルちゃんが造った枕カバーを取り出した。
サテン織じゃないのに、ツルツル感がありつつ、肌に馴染む。とろりとした良い感触の生地だわ。
「これがキンマユガの繭から作った布です」
鑑定スキルを持つマリーシェラさんが、目を見張った。
「生き物にとって心地よい環境を作り出す奇跡の布地で作られた枕カバー……」
ん?
「香子さん、キンマユガの繭から糸を取り出すには、採取スキルか生産関係のスキルがS-1以上ないと出来ないそうですよ」
奈々美さんが、スマホの鑑定図鑑を見て教えてくれる。
「つまり一般普及しない品ですね。香子のおかげで、私は今が一番、人生で楽しい時です」
「くそう、新居ではみんな、この寝具で寝てもらうんだからぁ!」
わたし達は皆で笑い合った。
アシャールさんが作業を再開しに行くと、スキルちゃん達も外に出たがった。
今日は暑いというのに……。
わたしはアシャールさんに渡す菅笠と、自分のそれを持って外に出る。
「アシャールさん、笠被ってー」
土木作業も絵になる男、それがアシャールさん。
「ああ、ありがとうございます。香子はこの暑さの中どうするつもりですか?」
「スキルちゃん達がすることあるらしくて」
そう言った途端に、見覚えのある魔導具がドンと現れた。実際見たものより小ぶりだけど。
魔物を生み出す魔導具……の試作機。復元しちゃったのか、スキルちゃん達よ。きっとリシャールさんのスキルも取り込んだから、るるんららんでやってみたかったのね。
リシャールさんの魔導具を身をもって知ってるアシャールさんの眉が跳ねた。
「香子エディションになっているようですが、この魔導具はまさか……」
「そうですねー、魔物を生み出す謎魔導具ですねー」
わたしの声は平坦だった。
設定はスキルちゃん達が済ませてあるらしく、後は起動するだけだ。スキルちゃん達を信じて、わたしはポチッと起動した。
途端に、色とりどりの無数のふわふわの光が現れ、それらは農園作成の作業を行っていく。土がぽこぽこ耕され、木の柵も出来ていく。スキルちゃんが造っていた配管を組み立て、掘ったら自噴するほどの豊富な井戸水を利用し、レバーを下げるだけで畑中に水やりができるものも出来上がっていく。
「…………これは!!」
驚くアシャールさんの横顔を眺めつつ、私は素直に疑問を口にした。
「えっと、これ本当に魔物?」
「ええ、フェアリーレイスという物理攻撃の効かない魔物です。個体によって様々な属性のスキルを持ち、このように労働をしてくれる希少な魔物なのです。確か三百年くらい前に乱獲で絶滅してしまったはず……」
『地上の農園は、彼らに任せたなのーるるん』
『お家のお掃除とかもしてくれるのーららん』
あーっ!! 助かるぅぅぅ!
「小さなお手伝いさんね。ご飯は何が良いのかしら?」
「彼らは自然の中の魔力を食べて生きているので、特に食事の用意とかは要りませんよ」
「なるほど。みんなー手伝ってくれてありがとーこれからよろしくねー」
わたしが手を振ると、フェアリーレイス達はチカチカ瞬いた。
そうして夜が更ける前に、新居と農園が出来上がってしまったのだった。
とは言っても、わたし達が入居するのは明日から。今夜はフェアリーレイス達が仕上げのお掃除をしてくれているのよ。
明日夜が明けるのを楽しみにしながら、わたし達は横になった。
瞼を閉じる前に、するりとフェアリーレイスが壁をすり抜けてきて、休憩するかのようにムウのお腹にとまって、じっとしている。
もしスキルちゃんが現界したら、あんな感じなのかしら?
目を閉じて意識を手放す前に、そんな想像をしながら……。
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