30 スマホ
「……香子さんは、お家ができたら冒険者を辞めるんですか?」
「うーん、とりあえずシュベルクランは冬に雪が降るらしいから、その間はお家でゆっくりしたいかも。でもそれ以外は、冒険者するのも良いんじゃない? スキルちゃんと素材採取したいし、買い取ってくれるところも冒険者ギルドしか知らないしね」
奈々美さんの表情が緩んだ。
「実は私、冒険者の仕事が楽しいなって思うようになったんです。この環境だからだろうけど」
わかるわかる。わたしが頷いた時、アシャールさんが、馬車から降りてきた。
「アシャールさん、まだゆっくり休んでいて良いのよ」
「お陰様で、数十年ぶりに良き眠りを得られました。しかしこれ以上は夜の睡眠に支障をきたしますので。という訳で香子、頼まれていた魔導具の最終確認が終わりましたよ。稼働には全く問題なく、スキルちゃん達はかなり優秀ですね」
「ほんと?! じゃあ本番機の作成に入っちゃいますよ!」
リガルさんから貰ったお皿の箱の下に、パーティ猫の目の紋章を作ってみたと、カッコかわいい図案があったので、利用させて貰うことにした。
わたしとスキルちゃんが製造に入っている間に、奈々美さんはアシャールさんから試作機を受け取って驚いた。
「これって、スマホですか?!ライふぉ以外のアプリも使えるんです?」
「時計、カレンダー、スケジュール、録音、録画、カメラ、住所録、ヘルスケア、音声通信、電卓、香子の鑑定図鑑や素材や製品在庫のチェックなどなどかなり多機能ですよ。あなた達のスマホを更にこちら向きに変えた魔導具ですね。この『ライトモ』アプリで各自の状況を知らせる事が可能」
「いつのまにこんなものを……」
『ライトモ』はズバリSNSだが、利用者はわたし達しかいない。トークとか投稿機能はあれども。
いざという時に『ライふぉ』を個人間の連絡で使うのも気が引けるので作ったアプリです。
わたしは神聖なる銀外装で猫の目紋章入りスマホを四台造った。
本当はもう一台あるのだけど、それはスキルちゃんを通じてライ様に渡して貰った。こんなんできましたよ♪ と。だってサーバーや通信塔代わりの魔導具、わたしの空間収納内だけど、狙ってイスタリオに置かせて貰ったの。だってそこ、神様の領域だから、世界中どこでも高速で魔力電波繋げられるし。
「はい。ではみなさんそれぞれどうぞ。名入れもしてあるから」
奈々美さんとアシャールさん、それから遊びから戻ってきたピホに、スマホを渡した。
「ピホウ! ピピホー!」
ピホさん大歓喜。作ってよかったピホの分。
「わ! アカウント情報って魔力を流すだけで登録出来るんですね」
「ちなみにこっちのスロットに冒険者証を差し込むと、眼鏡のギルド長さんがしてたみたいに討伐履歴が読み取れるの」
「……香子、スキルちゃん達は写真に写るのですか?」
?
「ちょっと言ってる意味がわかりません。スキルちゃん達はわたしの中にいるのであって……」
アシャールさんは、そっと『ライトモ』を開いた自分のスマホをわたし達に見せる。
そのプロフィール画面には、紙を作ったり、農園の水やりしてたり、素材を両手で掴む笑顔のスキルちゃん達のイキイキぴちぴちした画像が上手く配置された、見事なヘッダー画像がある。かわいい。
奈々美さんが読み上げた。
「えーっと、我々はとある元気なスキルちゃん。本体がのびのび育ててくれたので、E-1のよちよちから現在SSS-5まで急成長中! るるん。ららん」
アイコンは青と緑の二色シンプルアイコンだけど、早速画像付きの投稿が上がっている。
スキルちゃんの農園だよ! ららん♪
????
謎すぎっちゃ。
わたしは空間収納を確認した。スキルちゃん専用スマホが二台有る……この魔導具のせいね、ハイ、理解しましたよ。
スキルちゃん達にはのびのび暮らして欲しいので、気にせずわたしは黙って友達追加した。
「可愛い。スキルちゃん達ってこんな姿してたんですね!」
奈々美さんもほくほく顔で友達追加している。スキルって何だろう。
スマホ本体のアカウント情報にはステータス値も表示されるようになっていて、仲間内に公開するかの設定もある。わたしはこのメンバーで隠し立てするものは何もないのでオープンよ。ノクレイドラゴンを素材にしたおかげでレベルもね、432まで上がったの。
あの変態ドラゴン、かなりお強かったみたいですね。まあ人語話してたし。
しかしここで、大問題? が持ち上がった。
「……あの、香子さん、ぜったい、絶対、ぜったい、前線に出ちゃだめですよ」
わたしのステータスを見て、奈々美さんは真剣に言った。絶対を三回も言った。
ちなみにわたしのステータス、
レベル:432
体力:30
魔力:420000
攻撃力 (物理):15
防御力 (物理):40
魔法攻撃力:12000
魔法防御力:11000
敏捷性:50
知力/処理能力:84000
運/幸運:12000
運/特殊: 50000
この特殊運ってどうやらたまご仲間達や神獣になったミケ子が影響してる数値みたい。
奈々美さんのステータス、
レベル:52
体力:3800
魔力:3000
攻撃力 (物理):900
防御力 (物理):1800
魔法攻撃力:1100
魔法防御力:1300
敏捷性:950
知力/処理能力:600
運/幸運:650
アシャールさんのステータス、
レベル:1000
体力:500000
魔力:1000000
攻撃力 (物理):50000
防御力 (物理):100000
魔法攻撃力:200000
魔法防御力:150000
敏捷性:80000
知力/処理能力:300000
運/幸運:30000
※衰弱状態にあるため各ステータスが表示値の十分の一まで下がっています。
です。
ここ、わたしのステータスよりラスボスみたいなアシャールさんのステータスに注目すべきじゃないけ?
「ピホかミケ子さんは、私がいない時は絶対香子と離れないように」
アシャールさんも真剣よ?
「大袈裟ですねー。これでも体力は60まで上がったんだから」
「物理防御が40、敏捷性が50しか有りません。とてもレベル432のステータスではありませんね。香子は極端に物理的攻撃に弱いのです。物理攻撃力など15しか無いのですよ。物取りに襲われただけで無抵抗にやられてしまいます。ピホ、もし香子がならず者に襲われそうになったら、問答無用で攻撃して下さい」
「ピオウ!」
「香子さんの敵は人……」
待って、奈々美さんの呟きが物騒だわ。
「少々スキルちゃん達とゆっくりトークする必要がありそうですね」
「え? アシャールさん、うちのかわいいスキルちゃんに何をさせるつもりなの?」
「武器は素材、まずこれを徹底していただこうかと」
「いやいやいや、職務上帯剣してる方々とかいるでしょう? 治安を守る方々とか。自動採取の対象にはできませんよ!?」
アシャールさんは、フッと笑った。
「やりようとは、色々あるものですよ」
ああ、もう。わたしも寝る前にスキルちゃん達とお話し合いをしないとだわ。
夕方から優しく雨が降り出して、わたし達は大人しく馬車の中で過ごした。
温かいヴァレ茶を飲んで、ぐっすり眠る準備をする。
アシャールさんは地図を広げて、スマホで何か確認している。家造りの構想を練っているのだろうか。
「お先に。お休みなさいアシャールさん。ほどほどにね」
「ええ、お休みなさい。良い夢を」
わたしがベッドルームに引っ込むと程なくしてスマホの通知が鳴った。
ライトモにアシャールさんから、『愛しています』と。
今まで生きてて、誰にも言われたことのない言葉に、一瞬で身体中に血が巡って、脳内の思考が霧散した。目を閉じると、さっき見たアシャールさんのいつも通りの澄ました佇まいが再生される。
アシャールさん、あのひとは。独りが苦にならないタイプの人だ。その気楽さより、わたしと一緒にいることに価値を見出したのよね……。鑑定で確認しても、愛してるの言葉に嘘はない。
ああ、既読がついちゃってるわ。何か返信しないと! わたしも、は、はじめての愛の告白に返すのに足りない気がして。
『 エルカリシャ』
わたしはそう返信した。
わたしは、あなたの存在を、求めます。いつもそばにいて。
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