24 お買い物
「ねえ、アシャールさん、これだけお金があったら、土地を買って家を建てることは出来る?」
「そうですね。腕の良いドワーフに、しっかりした家の建築を依頼することが出来ますよ」
「パナマ草農園も作れる?」
「作れますね」
わたしは夢膨らませながら、馬車へ向かった。広いベッドでミケ子を侍らせながらぐっすり寝たい。猫ちゃんと一緒に寝るのはこの世の贅沢の極みなのだ。
ああ、極上の寝具を作るには、どんな素材が必要かしら。
そんなふわふわの気持ちも、馬車に近づいた途端に「キトーッ」と鳴かれて現実に戻った。
「キトキトーッ」
「キットキトーッ」
「ピホウ」
……動いてる。馬車が動いてる。
待ちきれなかったキトキトコンビが寄って来たからね。クロったら、ちゃんと側に立ててた看板咥えて持って来た。
「はいはい。待っててくれてありがとうね」
クロから看板を受け取って、キトキトコンビを撫で回す。ピホはわたしの肩に乗ってご満悦だ。
わたしに一通り撫でられると、キトキトコンビは今度は奈々美さんとアシャールさんにもナデナデを要求する。
一番身体が大きいのに、一番甘えっ子だったりするがいちゃ。
そして馬車に乗って街中を移動する。目的がある買い物なら、そのまま馬車で移動すれば良いのだけど、わたし達はふらふら散策したい。商店が並ぶ通りに着くと、車体は一旦アシャールさんの空間収納に仕舞った。
ミケ子はわたしの鞄に。ピホは肩の上に。ムウはシロの上に乗って、アシャールさんとわたしがいるのだから、さあ目立つ団体だ。奈々美さんに申し訳ない気もするけど、彼女も注目されるのにすっかり慣れてしまったようだ。
冒険者の中にはテイマーもいるのか、魔物を連れているのはわたし達だけでは無かったので、少し安心した。
「こっちの通りの向こうは冒険者用の武器や防具、魔導具などのお店が多いですね。香子は食器を見たいと言っていましたよね」
「そうなの。毎日使うコップをね。どうせなら磁器の可愛いのにしたいかなって。木のコップも軽くて良いんだけど、衛生面が気になってきたから」
洗濯物のように空間収納内で乾燥させることも出来るけど、パキッとヒビとか入る可能性を考えると怖い。この世界の木の食器は消耗品なのよ。
だけどアシャールさんが、磁器はこの世界独特の不思議素材を使っていて割れにくいと言っていたので、ちょっと物欲を膨らませていたの。
グランヒューム王国の王都でもそうだったけど、ちゃんとした職人のお店は盗難防止のためか、外から気軽に商品が見える造りにはなっていない。だからなかなか入りづらかったんやちゃ。
「割れ物を扱うお店だし、みんなには一旦神殿に戻ってもらう方が良いかしら……」
アシャールさんはキトキトコンビを手招きした。
「シロ、クロ、ここに来る途中に小さな森があったのを覚えていますか」
「キト」
「キトキト」
「私達が買い物をしている間、そこでしばらくみんなで遊んでいて下さい」
アシャールさんはキトキトコンビの首にそれぞれマジックバッグをかけてやる。いつの間に用意していたのかしら。
わたしはすかさずその中に、パナマ草を入れる。
「お腹が空いたら、みんなで分けて食べるのよ。ピホ、よろしくね」
ミケ子をクロに乗せて、ピホを撫でて空へと放った。森のたまご仲間の中では、一番小さなピホが一番しっかりしてるのよ。その後を、ミケ子とムウを乗せたキトキトコンビが飛んで行く。
なんだか子供の初めてのお使いを見送るような気持ちになってきたわ……。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。皆、主の加護をいただいていますから滅多なことはありませんよ」
そんなことは心配していないがいちゃ。何か変なもの拾って来んか心配なんやわ……たまごとかやちゃね。
などとは口に出さず、わたし達は磁器工房のお店に入った。
「おや、アシャール神官いらっしゃい」
お店に入ると、品の良いおばあさまが出迎えてくれた。どうやらアシャールさんが贔屓にしているお店のよう。
「今日はどんな品が御入用なのかしら」
「普段使いの取手付きカップを見せていただいても?」
「だったら、そちらの棚になりますよ」
案内されながら、チラチラと他の商品も眺める。
白無地のもの、色を付けただけのシンプルなもの、絵付けをされたもの……。
お店を覗く行為が久しぶり過ぎて、なんだか楽しいわ。
絵付けは当然、皆手描きなんだけど、花柄とかに混ざって、お皿の縁を鳥を狩って血抜きして解体して……食卓に並ぶまでの過程を精密に描かれたものがある。それならまだしも、騎士が決闘をして……みたいなのも。
絵は芸術的だし、金彩の豪華な装飾もしてあり、物語性があっておもしろいんだけど、食事のお供にこの戦闘物語はいいの? 敵将の首とかも描かれてるけど。売れるのかしら……?
「お気に召しましたか?」
「すみません、物語になっているようで、つい珍しくて見入ってしまいました」
「ふふ、お客様の足を止めさせたのですから、うちの絵付け職人もきっと喜びますわ。カップにも彼が絵付けをしたものがあるんですよ」
まずい。カップの側面にぐるりとホーンラビットを狩って解体するまでの絵が描いてあったりしたらどうしよう……うっかりノリで買って後悔する未来しか見えないわ。
嫌いじゃないけど、パナマ茶で一服する癒しのひとときには、もっと他の可愛いのがいい! 冷静にならなきゃ。
「こちらにあるのがそうですわ」
「……!!! 手にとってみても?」
「ええ、どうぞ」
形はがっしりしたマグカップ。
上部と取手に綺麗な泡のような形が細かく細工され、その下に金彩の縁取り。そして美しい青と緑と桜色で。
一面に花の咲いたパナマ草が描かれていた。
「パナマ草って、こんなかわいい花が咲くの?!」
「まあ、博識でいらっしゃるのね。その草がパナマ草という名前だというのも、私は職人に聞くまで知らなかったのですよ」
他のカップを見ていたアシャールさんと奈々美さんも覗きにきた。
「これは……リガル叔父上の絵付けですね」
「そうそう、流石一目で分かるのね。とても美しく出来てるのに、みんな『乞食草』の絵は嫌だって売れ残ってるのよね」
雑草の他に乞食草なんて呼ばれてるんけ……。
「同じものはありますか? 私もお揃いにしたいので」
「ええ、その柄で確か二つ作ったのよ」
おばあさまは棚の下の引き出しを確認する。
「奈々美さんはどう、良いのあった?」
「はい、これがすごく可愛くて……」
別の職人さんの絵付けだろう。雰囲気が明るくて優しい。森が描かれているのだけど、実の成る樹々の間からホーンラビットがチラチラ見え隠れするように描かれている。これは確かにかわいい!
「あったわ、同じパナマ草柄!」
「ではこれも合わせてお願いします」
お店に入る前に、今回わたしが支払うので遠慮はなしと宣言しておいた。
「二時間程待ってくれたら、この裏底の部分にお名前入れますよ」
もちろん、名入れを頼みましたよ。
ついでにプリン型に使えそうなココット型を十個購入。早速スキルちゃんに蓋造りをお願いする。
そのあとは名入れが終わるまで賑やかな街を見回った。
アシャールさんは旅の間に手に入らなかった野菜類や香辛料を補充し、わたしも砂糖と蜂蜜を買う。
柑橘系の果物は素材収納の中にあるから、これでまたスポーツドリンクが作れるわ。
それにお家ができたら、カスタードプリンも作りたいの。
料理はイマイチだけど、混ぜて焼くだけのお菓子作りは、ちょっとだけ出来ますよ。
ミルクと卵は立派な素材のものがあるしね!
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