最終話
魔王が消えた日から…数百年にわたり続いてきた人間と魔族の争いは、ついに終焉を迎えた。
剣も、憎しみも、復讐も…
それらは歴史の中へと収められ、世界にはかつてないほど穏やかな時代が訪れた。
人はそれを『悠久の平和の始まり』と呼んだ。
【二年と少し、後】
勇者パーティーは、すでに解散している。
それぞれが選び取った道で、それぞれの人生を歩んでいた。
【元・勇者 ラミレス】
王都の城壁の上
ラミレスは、騎士達の訓練を見下ろしていた。
「姿勢が甘い!剣は無闇に振るうもんじゃねぇ、守るために持つもんだ!」
今や彼は”王国騎士団長”
勇者の称号は返上したが、その背中は誰よりも頼もしい。
部下の一人が、ふと呟く。
「団長って……本当に勇者だったんですね」
ラミレスは苦笑した。
「さあな…今はただの、街の番犬だよ」
その視線は、少し寂し気ながらもどこか誇らしげだった。
【大魔導士 リーネ】
魔法学園の教室、彼女はあれからも魔法学園に教師として籍を置き、未来を担う者達へ教鞭を振るっている。
「えー…この術式は、暴発すると校舎が半壊するから、くれぐれも集中力を切らさないこと」
教師としての彼女は、厳しく、的確で、非常に優秀だった。
……昼間は。
夜。
「はぁ……またダメだった……」
酒場の片隅でグラスを傾けるリーネの姿があった。
「なんで!?魔法の才能もある!スタイルだって悪くない!顔だって――」
「そこが原因じゃないですかね……」
店主の一言にグラスが一つ空になる。
それでも彼女は、どこか楽しそうだった。
「ま、いいわ…まだまだ人生、長いもの」
【アサシン シドウ】
遥か極東…深い森の奥、そこにシノビの里がある。
故郷へ戻ったシドウは、平日は畑を耕し、休日子供達に手裏剣の投げ方を教え、夜は静かに星を見る。
「……平和、か」
シドウは、風に揺れる木々を見上げた。
「悪くないでござるな…」
刀は鞘に納めたまま…それでも彼は、確かにここに生きていた。
【聖女 ハーミア】
小さな教会。
悩みを抱えた人々が、今日も彼女の元を訪れる。
「大丈夫…あなたは間違っていませんわ」
その言葉に何人もの心が救われてきた。
祈りの後、彼女はふと微笑む。
「……みなさん、元気にやってますでしょうか?」
あの日の仲間達を思いながら。
そして…重戦士ルドルフは
…王都から離れたのどかな農村。
朝の光の中畑を耕す青年がいた。
「ルタさん、そっちは大丈夫?」
「問題ない……だが、虫がちょっと多いな」
髪を束ねほっかむりにもんぺ姿の女性が少し不機嫌そうに答える。
ルドルフとムエルタ。
二人はあれから正式に結婚し、ルドルフの故郷の村で暮らしていた。
ルドルフは、あの後勇者を正式に襲名した直後、襲名と同時に勇者引退を表明
聖剣イクスセイバーを王国に返納し、実家の農園を継いだ。
ムエルタもまた、悪魔騎士としての装備を手放し今はただの一人の妻だ。
「はい、お昼できたよ…今日は浅漬けがいい具合にできたんだ」
「ありがとう……ふふ、なんかまだ慣れないな、こういうの」
縁側に並んで座り、同じ景色を見る。
それだけで胸が満たされる日々
ルドルフが空を見上げる。
「世界、静かだな…」
ムエルタはそっと彼の肩にもたれた。
「争いが終わった証だ」
「……俺さ」
「ん?」
「勇者でも重戦士でもなくなったけど……後悔、全然してないんだ」
ムエルタは微笑む。
「私もだ」
彼女は、彼の手を握った。
「こうして生きていることが、何よりの勝利だと思う」
世界は、今日も続いていく。
英雄が剣を振るわなくても
魔王が存在しなくても
畑を耕し、誰かを想い
明日を迎える
そんな当たり前が、尊い。
そしてそれは、多くの犠牲と多くの選択の上に成り立っている。
ルドルフとムエルタは夕焼けの中、並んで歩く。
「なあ、ルタさん」
「なんだ?」
「明日、畑の端に花を植えようと思うんだ」
「……いい考えだ」
世界は平和になった。
だからこそ、これからは
愛に満ち溢れた人生を生きる物語が始まる。
~Fin
最後までご覧いただきありがとうございます。
本編はここで終了しますが、まだ番外編が続きます…もう少しだけお付き合いください。




