ういさんの物語 26話 研究者達
つかまえた研究員に脱走されてしまった魔王軍たちは、
研究員が残した遺物のまわりに集まっていた。
「おおかみ、大丈夫だったか。」
研究員から火属性魔法を食らってしまい、倒れた魔王軍幹部、狼男のアトロスは
回復魔法をもらい、立ち直っていた。
「いやぁ、すごいのを食らいましたよ。死ぬかと思いました。」
やけどの跡をさすりつつ、狼男は返答した。
「さて、この得体のしれない装置は、結局何なのだ?」
魔王が幹部達にたずねた。
「魔法力増幅装置とか言ってましたね。使い方はさっぱり、わかりません。」
きのこの化け物が答えた。
装置は、真っ黒な大型真四角の装置で、中に入って使うものらしい。
「以前も、研究室で開発していたそうで、これが3台目?とか言ってましたね。」
「ふむ・・・。」
装置には、パネルやレバーがあり、よくわからない。
「他にも捕まえている研究員がいるだろう。連れてきて、説明させろ。」
「はい。」
研究員が数名連れてこられた。
「この装置を解析して、説明しろ。」
「は、はい・・・。」
研究員達は、装置を色々確認し顔を見合わせた。
「これは、思念体用に使われていた覚醒装置の簡易版ですね。」
「なんだそれは?」
「魔力やステータスの向上、色々とすごい事の出来る装置です。
試しに、誰かやってみますか。」
「俺にやらせろ、ひどい目にあったからな・・・。中に入ればいいんだろ?」
そういうと、狼男は中に入って行った。
「では、起動します。レベル調整はデフォルトでいいでしょう・・・行きます。」
ウィーンと起動音がすると、どどどどとーんとものすごい音が響き渡った。
中から、薄汚れた狼男が出て来た。目が赤く光り輝いている。
「こいつはすげぇ・・・・。すげえぇぇぇぜ。覚醒したぜ。
おい、スキルでおれの能力を調べてみろ。」
「はい・・・。おお、すごいです。」
「どうすごいんだ。」
「確かアトロスさんは、元々、レベル113 だったと思いますが、
スキルで調べたところ、レベルは、200になっています。」
「200か! はっはー! 魔王様より上じゃねーか!」
狼男は有頂天だ。
「魔王様、勝負しようぜ。下剋上だ!
この魔王軍を率いるのは、今日から、この俺様アトロス様だ!」
・・・次の瞬間、アトロスは、床に転がっていた。
「いくら能力が上がろうとも、レベルが上になろうとも、私に勝てる存在は
この世にはいない。覚えておくことだ。」
魔王は魔法で狼男を倒すと、まわりの幹部に言い放った。
「しかし、ものすごい強化ができるものだな。こんなものを作り上げるとは。
あの研究員達を逃がしたのは、痛手だった。いつか、また拉致してこなければならん。」
研究員達は顔を見合わせた。
「逃げ出せたのか、あいつら。やるな。」
魔王は、研究員達を睨みつつ、喜んでいるようだった。
「だが・・・これで、念願の魔王軍強化が実現できる。
これでようやく、ようやく、人間達に対抗できるというものだ。」
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その頃、ういさんは、魔王達から逃げ出した研究員達を
ギルドマスターセリカに、引き渡していた。
「ほい、地下牢の鍵。研究員達はきのこ食わせて、閉じ込めてある。」
「ありがとう、ういさん。じゃ、ギルドスキルで洗脳させてこよう。」
セリカは、地下牢に行き、研究員達を洗脳しに行った。
「これで、こいつらは我々に絶対服従だ。ふふふ。」
研究員4名がセリカと共に、地上に上がって来た。だが、薄汚れている。
「情報を聞き出す前に、とりあえず、風呂行って来い。臭い、汚い、ばっちぃ。」
教会の衣装を手渡し、少量の銭を渡して、風呂屋へ向かわせた。
「さて・・・と、今後の話だが、北方の地へ調査へ向かわなければならない。
噂では、陸地が増え、生物も増えたと聞く。まさに神の力のなせる偉業だな。」
「調査は、いつまで?」
「数ヶ月はかかる見込みだ。予言のあった日から、何がどう変化したのかを
詳細に調査する必要がある。ベースキャンプを設営して、そこを拠点に調査する。
場合によっては、危険な生物がいるかもしれない。準備は念入りにしておく。」
後日・・・
北方の地の調査へ調査隊が出発した。
調査員として国の研究者50名が選抜され、護衛として教会専属ギルド36名が随行した。
最北の街を過ぎ、荒れ地を進んだ。
行く先々で、生物・鉱石、地形などの調査を行いつつ、荒れ地にベースキャンプを設営した。
「かつて、ここには、消滅した例の企業の研究所があった場所だ。」
そこは、もう荒れ地と化していた。不毛の大地のように見える。
そして、数ヶ月かけて、最寄りの街に戻りつつも、北方の地の調査に随行した。
時折現れる狂暴な生物を討伐する以外は、特に変化はない退屈なものだった。
だが、そんな時・・・
奇妙な鉱石が多々発見された荒れ地の山で、一人の思念体に遭遇した。
奇妙な生物ホムンクルスを多数連れた研究員風の思念体だった。
「おやおや、人間様御一行ですか。奇遇ですなぁ、こんな荒れ地で人に出会うとは。」
「あんたは誰だ?」
セリカは訊ねた。
「私は、エナミッシュ、昔、例の企業でマッドサイエンティストをしていたものだ。
今はもう、あの企業も消滅したので、自由に一人、研究素材を採集するため、ここに来ている。
材料を収集してくるBOTも、手下の研究員もいないのでな。一人でやるしかない。」
エナミッシュは、続けて発言した。
「君達はなんだね?こんな地へ大勢で来て。」
調査団のリーダーが反応した。
「我々は調査団だ。神の予言が実行されてから、何がどう変化したのかを調査している。」
「ふーん。」
エナミッシュは、興味なさげだ。
「さっき言ったように、私は手下がいない。君達、私のしもべにならないか?」
「なにを言っているんだ?」
「見たところ、国の研究機関の者達だろう? もっと良い研究所を紹介するよ。」
「我々は調査をしに来たのだ。」
「そうか、残念だよ・・・。あぁ、そうそう、この周辺一帯は、
我々思念体が国家を作り、その領土とする事になる。今後は侵入不可となるからよろしくな。」
「はぁ・・・思念体の国家?」
「そうだとも、人間でもない我々が永住する地としては、悪くない土地だ。」
「よくまぁ国の人間にそんな事が言えたものだ。」
調査団のリーダーはあきれていた。
「我々も暇ではないのでね。用がないなら、先へ進むよ。」
エナミッシュを放置して、調査団は先の地へ進んで行った。
エナミッシュも興味なさげに見送っていた。
「魔物とはいえ、敵意はないようだな。珍しい。」
セリカも警戒をしていたが、敵意を見せないため、そのまま通り過ぎる事にした。
「おい、ちょっと待て、そこの4人。」
呼び止めたのは、先日魔王達の元から逃げて来た研究者4人組だ。
すでに洗脳して、教会専属ギルドに絶対服従している。
相変わらず白のスーツで浮いている存在だ。
「お前達、研究所に居た者達じゃないか?」
「あの企業ですか?」「居ました。」「居ましたね。」「えぇそうです。」
「懐かしいじゃないか。こんなところで出会うとは、私の研究所へ来ないか?
また、素晴らしい研究をしているんだ。是非協力してもらいたい。」
セリカは、調査団の人々には先に行ってもらった。
「私達は、もう研究とは無縁の生活を送っています。残念ながら、お断りします。」
「そう言うな、格別の待遇を約束しよう。研究所の4つの施設をプレゼントしよう。」
「待遇ったって、思念体って、飯食わないんでしょう?嫌ですよ、そんな研究所。
うちらは、おいしい飯のあるところにしか行きません。」
「なんだとー!うぬぬぬぬぬ。」
交渉は決裂したらしい。
「なんとしても連れ帰ってやるー!」
エナミッシュは憤怒した。
「ホムンクルス、あいつらを連れ帰るぞ。」
セリカが止めに入った。
「ちょっと待った。交渉は決裂だ。どうしてもやるなら、
おいしい飯を用意してから、また交渉すればいいじゃないか。」
「無理だ。思念体は、飯が食えない。飯が作れない・・・、もう、飯の味が・・・。」
エナミッシュは、涙を流し始めた。
怒ったと思ったら、今度は泣いている。セリカは扱いに困ってしまった。
「めんどいな。」「どうする?」「洗脳しちまうか。」「それもそうだなぁ。」
その声が聞こえたのか、反応した。
「私を洗脳すると言うのか!この世界最高峰の頭脳である私をなんだと思っている!」
今度は怒り始めた。本当に面倒くさい。
「行け、ホムンクルス!実力を見せてやれ!」
すると、おとなしかった奇妙な謎の生物達が動き始めた。
粘体のようなだけど白い羽の生えた虹色の生物、
三つの頭を持つ竜のような生物、色々な珍妙な生物5体が一斉に襲い掛かろうとしていた。
「裏スキル ホムンクルス制御」
セリカが突然何かを唱えた。
ホムンクルス5体は動きを停止した。
「はっ?何をした。」
エナミッシュは、意図しない動きに驚いた。
セリカは解説した。
「いや、昔ね・・・私もホムンクルスのAI研究をしていた事があってね。
ホムンクルスを制御する理論、AI機構は、私が構築し研究者達に配布したものなんだよ。
だから、こうやって、魔法的裏ルートで、制御に介入する事が出来るんだよ。」
「はぁ?お前何者だ?研究者か?」
「私は、ただの聖職者ですよ。」
ういさんも初めて聞いた。司教セリカは、尋常な者ではないと思っていたが、
元アサシンだけでなく、そんなこともやっていたとは・・・。やはり化け物クラスだった。
エナミッシュは、突如黒いオーラを放った。
やばい、こっちも普通じゃない感じだ。こっちは本物の化け物か。
「こいつは、とんでもなく危険なオーラを放つのだな。」
セリカはすぐに警戒した。すると
「もう地下牢はごめんだぜ。」「きのこもダメだ。」「地上がいいのさ。」「じゃあな。」
「テレポート!」
研究者4人は、テレポートで逃げ去ってしまった。
「に・・・逃げられた。・・・がっくりだ。」
エナミッシュは、今度は落ち込んでいた。
なんて、面倒な魔物なんだ・・・。
「まだ、魔王に捕らわれている研究者達は大勢いると聞く。魔王に交渉して
研究者を引き渡してもらったらどうだ?」
セリカは別の提案した。
「お前も研究者だったんだろう?お前もどうだ・・・?」
「もう研究は引退している。ただの教会の司教だ。興味はない。」
「そうか・・・。」
これ以上関わらないようにして、その場を立ち去ろうとした。
「そういえば、ホムンクルスを止めたな・・・どうやった。
私のホムンクルスを止めた者は、いまだかつていなかった。私の研究室に来ないか。」
やべぇしつこさだ。なんだこいつは・・・。ういさんは思った。
「私も帰る!」
そういうと、セリカもテレポートで帰ってしまった。
「えぇぇぇ・・・・。」「ちょっとマスター・・。」「調査隊どうすんの・・・。」
みんな呆然とした。
エナミッシュも、両手を地面について、ショックを受けているようだった。
「世界で最高の研究ができるというのに、何故・・・。」
「・・・お前勧誘下手くそだな・・。」
ういさんは率直な意見を述べた。
今日の調査は、打ち切りとなり、全員帰路に着いた。
27話へ続く。




