七星さんは、狼。異論は認めません。
※ ※
酷く懐かしい夢を見た気がした。遠夜は、身を起こして夢の内容を思い出そうとする。けれど、靄がかかり思い出すことは不可能だった。
どんな夢だったのかな。もう一度思い出そうとして、
「わぁ?! もう、こんな時間!?」
時計を見て驚き、急いで着替えて階下に向かった。顔を洗いリビングに顔を出す。
「ごめん! 寝過ごした…!」
すでにリビングにいる九重と海月に謝罪をした。九重は雑誌から顔を上げて「遠夜はんが、寝過ごしたの珍しいなぁ。俺は授業午後からやから大丈夫やで」
「俺も授業午後からだから」
二人の言葉にほっとしつつ、九時を回っているので急いで朝食を作った。彼等が食事をしている間に、洗濯機を回す。
リビングに戻れば、早食いの海月は既に食べ終わっていた。
九重はサラダとスープを完食して、紅茶を飲んでいる。
食器を洗いながら、慣れないスマートフォンを操作する。幼馴染がこちらに来ているとのことなので、どこかで待ち合わせようと思っているのだ。
近くのカフェで待つと返事を貰い遠夜は、二人に声をかけた。
「今日お客さん来るからね」
「え、誰?」
「前来た俺の幼馴染」
「ああ。七星はんか。泊まるん?」
九重の言葉に遠夜は頷いた。海月の方を見ると嫌そうな顔をしている。何故だろうか。
ソファから、立ち上がり海月は資料を置いて遠夜の傍に来た。
海月を見上げると、彼は意外なことを口にした。
「講義休む。遠夜が、心配」
「え?」
心配ってどういうことだろうか。すぐそこのカフェに行くだけだ。車の通りもそんなにない。
明るい路上だ。不審者を見たとの声もない。
なのに、心配って?
「狼と一緒にできるわけないじゃん。だから、休む」
「オオカミさん?」
「七星さんのこと。二人きりなんて不安だよ」
「しちせは、オオカミさんじゃないよ?」
遠夜の言葉に海月は、分かってないなぁというようにため息を零した。
どうすれば鈍い遠夜に説明が出来るか海月は真剣に考えた。遠夜でも分かる言葉を使わないと、遠夜は理解しない。
仮に分かる言葉を使っても理解しないことは、あるけど……。
それでも、弟の様な幼馴染に恋情を抱いている狼は信頼できない。二人きりをいいことにラブホテルに連れ込む可能性はなくはない。
「七星さんはね……意外と巳月さんのような人なんだよ?」
「え? 変態さんってこと?」
「そう」
意外とばかりに遠夜は目を見開いた。長年―ブランクはあるものの―仲のいい幼馴染が変態だなんて誰も想像だにしないだろう。
これで分かってくれたかな。と、海月は思っていた。
だが、実際遠夜は理解していなかった。
「なら、しちせと一緒じゃなきゃいいんだよね?」
「うん」
「でも、お店だからしちせだけといるわけじゃないよ?」
「……」
あ、これ理解してないと海月は悟った。恐らく遠夜の頭の中では、お店の中=お客さん沢山! であり、外に出た時のことなど微塵も考えていないのだ。
実際そうなのだから、海月が悩むのも分からなくはない。
海月は頭を抱えそうになった。まさか、ここまで恋人がアホの子だとは、思うまい。
「海月ちゃんは、過保護やねぇ……」
別のソファに座り雑誌を読んでいた九重が口をはさんできた。
自分も変態と認識しているのか、変態の部分には触れてこない。
二人の近くに行けば、遠夜を引き寄せて軽く遠夜の唇に口付けた。
「ま、ようはこういうことやな。七星はんと二人きりやと……?」
遠夜から離れようとしたとき、おぞましい殺気を感じて九重は海月の方を振り向いた。
般若の様な笑みを浮かべた海月が、拳を作って、
「ちょっ! stop!」
九重がそう言ったのも遅く。彼のみぞおちに深く海月の拳がめり込んだ。
「全く。俺の遠夜に手を出さないでくださいよ」
撃沈した九重の背中を踏みながら海月は、黒い笑みを浮かべながらそう言ったのだ。
遠夜はというと、呆然としていた。
日頃からセクハラをしてくる九重だが、まさか口付けられるとは思わなかった。
「遠夜」
海月は、遠夜を抱き寄せた。消毒というように、遠夜の唇に口付けた。
やがて、それは深いそれになっていく。そこまでくれば遠夜も気付く。
「ん……っ。あ、おい……っ」
くちゅりと厭らしい水音がリビング内に響く。しばらく海月は遠夜の口内を犯していた。
満足して唇を離すと、瞳を潤ませ海月を見つめてる。ムラッとなってしまうのは、仕方ない。
だって、こんなに色香漂わせてる恋人を前に指くわえて大人しくしてるのなんて無理だよ?!
据え膳食わぬは男の恥だし……!
と、心の中で海月は叫んでいた。
遠夜の首筋に軽く口付け舌を這わす。
「あ……っ。碧……、やだぁ……っ」
わざと見える場所に鬱血痕を残しながら、遠夜をいただこうとした。
海月が、遠夜の服を脱がそうとしたとき、誰かのスマホが着信を告げた。
可愛らしい子熊のマーチ曲。ああ、これは、遠夜のスマホだ。海月は気付いて渋々離れた。




