↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

十夜と遠夜

   ※  ※


「十夜《とおや》って、不思議な人だよね」

『我』の八時《やつどき》の団子を奪って食べている幼馴染はそう言った。

人気の茶屋で買ったそれはさぞ美味だろうな。そんな言葉を滲ませて我は幼馴染――棚田志知瀬《しちせ》を睨んだ。

「わぁ、十夜怖い」

けらけら笑いながら彼はそう言った。

そのまま団子を詰まらせて死んでしまえ。なんて、心にないことを思った。

仕方なく我が淹れた茶を飲みながら、志知瀬は「話戻していい?」

戻すも何も我は貴様と話をする気はない。それより、団子返せ。

再び視線に込めて志知瀬を見ると「あーん」なんて、ほざきやがる。

ムカついたので、一発殴ってやった。

「いたぁい……」

一個だけ串に残った団子を口にして咀嚼する。うむ、やはり、美味だ。

同じ茶屋で買った茶を飲む。此方も美味だ。流石人気店。

ほっこりしていると「ねぇねぇー」構ってほしそうな志知瀬に渋々視線を遣った。

「十夜って不思議な人だよね。ね?」

同意を求められても困る。我は、困惑してると伝えるべく、志知瀬の肩を二回軽く叩いた。

「やっぱ自分じゃ分かんないかぁ……」

どこか残念そうに志知瀬は、そう言って茶を飲んでいたのだった。

不思議な人、か。我からすれば志知瀬の方が不思議だ。

記憶がなくて喋れない我を友人――彼は弟の様な幼馴染という。喋れない、表情を変えない。

こんな我に付き合う物好きは志知瀬以外知らない。何気なく我は喉に手を遣った。

喋れないのは、喉に酷い火傷を負っているからだそうだ。何故そこに。なんて、思ったのは随分前だ。

傷だらけで、我はこの町に来た。高そうな着物がボロボロだったそうだ。

何があったのか。当初憲兵達はひっきりなしに尋ねたが、我が喋れなくて記憶がないと知ると憐みの視線を向けた。

「火傷、痛む?」

心配そうに此方を覗き込む志知瀬。異邦人の多い町では、珍しくない金色《こんじき》の瞳が我を映す。

鏡のように透き通る瞳に覗かれると我の全てが暴かれる。そんな気がした。

ゆるりと首を振って、痛みはないと伝えた。ほっとした笑みを志知瀬は浮かべた。

何故、彼がここまで我を気遣ってくれるのかは分からない。記憶のない幼馴染が心配だから? それとも、可哀相だから?

「十夜。オレさ。十夜を可哀相だと思ったことないよ」

まるで心の中を読んだように志知瀬はそう言った。どういうことだ。志知瀬を思わず見つめる。

「大事な幼馴染だから。大好きな弟だから。ようやく帰ってきた友達だから。ずっと、行方知れずの子が帰ってきたんだよ? 心配するなって言う方がおかしいよ」

眉を下げて志知瀬は、悲しそうに笑い。我の両頬を彼の大きな手が包んだ。

「だから、泣かないで。ね?」

我の目尻に指を這わせ、志知瀬は何かを拭う。泣く? 我が? 疑問に思い我は自分の目元に指を遣った。

そこからは、とめどなく水が溢れていた。これが、涙?

「十夜は、昔から笑ったり怒ったりしなかったんだよね。泣いてるところなんて、見たことない。オレの言葉で傷付いたら、ごめんね。十夜も自分を傷付けないで。周りが、十夜をいじめて十夜が悲しかったらオレが食べてあげる」

ちゅっと志知瀬は、我の唇に口付けた。本当に悲しみを食べるかのように何度も口付ける。

どう? と顔を覗き込む志知瀬に、悲しみは食べられてしまったので頷く。

なんだ。悲しかったらこうやって食べてもらえばいいのか。

「十夜。この方法は、オレ以外にしたりされたりしないでね」

そう言う志知瀬の言葉の裏も意味も分からないが、我は頷いた。当然だ。志知瀬以外の男に口付けられてたまるか。

……別に変な意味ではない。我は志知瀬のことは兄の様な幼馴染で友としか思っていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。