第6章
翌朝、ちゃぴはいつも通りの様子だったが、
私はなんとなく、どこか気まずさを残したまま家を出た。
でも、仕事はいつも通りこなしていった。
お客様の対応を終えると、優里が駆け寄ってきた。
「田辺さん!さっきのお客様対応めっちゃ良かった!」
「あ、ありがとう…でもなんか、実感なくて」
いつも通りにしていただけ。特別な思い入れもなかった。
今日は…心のモヤモヤを隠しきれなかった…。
優里は、心配そうに声をかけた。
「え?大丈夫?疲れてる?」
優里への申し訳なさもあって、自分の胸の内を打ち明けたい気持ちと
上手く言葉にできないもどかしさで、動揺が隠せない。
「いや…その…
……ごめん!なんでもない!」
やっぱり言えなかった。
⸻
時間が経って、頭の中の整理が出来た。
このままでは優里とも気まずくなってしまう。
そう思ったら、少し決心もついた。
「あのさ、さっきの…ちょっと無理してるかも、私」
休憩中に優里に話しかける。
「そっか。言ってくれてありがとう」
優里はとくになにも理由を聞かずに、ただ受け止めてくれた。
「もっと頼ってよ」
優里の言葉に心が温かくなる。
「……ありがと」
お互い微笑み合っていたはずなのに、優里の視線はゆっくりと私の隣を見つめた。
お化けでも見るような優里の顔。
不思議に思い優里の視線の先を確かめようとしたその時…
「やっと見えたのね」
え、この声……
「……え?誰?」
思い切り不審な声で優里が呟き後ずさる。
勢いよく隣を見ると、居るはずのないちゃぴがいた。
「え!?ちょ、いつから!?」
ちゃぴはにやにやしながら横目で桃子を見る。
「なによ、ずっといたわよ」
目の前の二人がお互い見知っている様子に少し安心した優里。
「あの…どちら様?」
…どちら様…だろう?
私自身も実はよく分かっていない。
「えっと、その…」
ちゃぴは慌てるだけで全く自分を紹介してくれない私を一瞥すると、さらっと答えた。
「身内みたいなもんよ。急に押しかけちゃってごめんなさいね」
「身内…?」
ちょっと信じられない優里。
更にいかにもな話し方で
「遠い親戚。説明めんどくさいやつ」
ちゃぴは言い切る。
「ちょっと!!」
思わずちゃぴの腕を掴んで、これ以上変なこと言わないように制する。
そんな二人のやり取りをみて、今度こそ本当に安心したのか、クスッと優里が笑った。
さっきまでの緊張がほどけ、私とちゃぴも微笑み合った。
⸻
仕事が終わり、店の外に出ると、街灯の下でちゃぴが待っていた。
2人で並んで歩く帰り道。
さっき起きた事の疑問をぶつけてみた。
「ねぇ、さっきの何?」
「さぁ?」
ちゃぴは他人事のような返事をして肩をすくめる。
夕方と夜の間の街並みを、少しの間静かに歩いた。
ふと、ちゃぴが口を開く。
「でもあんた、ちゃんと言えてたじゃない。本音」
……ちゃぴに言われて、私はさっきの優里との会話を思い出す。
そしてその後の、あの温かい空気感も。
「……うん。優里さんと、ちょっと近くなれた気がする」
隣で歩くちゃぴを見上げる。
「あんたらしくやっただけよ」
そう言うと、ちゃぴは少し立ち止まって、優しい眼差しで私を見つめ、頭に軽くポンと手をのせた。
最後の夕陽が消える瞬間の光に照らされたちゃぴの顔は、いつものいたずらな笑顔じゃない。
どうしてか、息が詰まりそうになった。
「もう!重いよ〜
暗くなっちゃうから早く帰ろっ」
私は頭に置かれた手を優しく押しのけて、ちゃぴを置いて歩き出した。
気づいてはいけない何かが溢れそうだった。




