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転生したら酒好きがバレて、王子に八年間こき使われました——それでも、嫌いになれなかった理由  作者: 白波美夜


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3/4

番外編 赤ワインに、酔ったりしない(ルシアン視点)

ルシアン成人直後の話。

前編と後編の間の時間軸、ルシアン視点

(全然美味くないじゃないか)


婚約者の期待の目をよそに、俺はワイングラスをそっと置いた。隣で、ルビーがこちらを見ている。


ーーことの発端は、三日前に遡る。


「殿下、成人おめでとうございます。何かご所望のものはありますか」


執務室に顔を出したルビーが、珍しく殊勝なことを言った。

俺の成人を祝おう、という感覚があること自体が意外である。


「……ひとつ歳をとったからって、何も変わらんだろう。誕生日を喜ぶ子どもでもない」

「そんな寂しいこと言わないでくださいよ、せっかく成人したんですし、ワインでも飲みませんか?」


ルビーの柘榴色の目が輝いた。酒の話をするとき、こいつはいつもこの顔をする。


「……お前は飲めないだろう」

「わかってます!でも、匂いを嗅ぐだけでも……あ、ついでにラベルもいただけると……」

「人の成人祝いを、ラベル集めの理由にするなよ……」

「まぁまぁ。たまには、普段頑張っている婚約者を労って、ワインくらい開けてくださいよ」

「開き直ったな。完全に俺の誕生日を祝う気ないじゃないか」


ルビーは、イタズラがバレた子どものように笑う。


「確かに、この前のお前の働きはなかなか良かった。じゃあ3日後、俺の部屋で、でいいな?」

「さすが殿下、話が早い」


ルビーは嬉しそうに笑って、颯爽と執務室を出ていく。「チョイスは私にお任せをー!」と叫び声が聞こえる。王子の婚約者として素行に問題あり、減点だな。

なのに、気づけば俺の頬は緩んでいた。


(あいつが愛する酒、か。確かに興味はある)


ーーそして今夜。


テーブルには、ルビーが選んだワインが一本。


「2人きりですし、私が開けますね」


ルビーは手際よく、ボトルのキャップシールに指をかけた。

躊躇なく剥がして、コルクスクリューをまっすぐに差し込み、ゆっくりと回していく。


「おい」

「もう、せっかちですね。今注ぎますよ」

「そうじゃない、やけに手際良くないか?」


俺の問いかけにルビーはピタリ、と動きを止めた。一瞬、目が合うが、あいつはすぐに目を逸らした。


「おい、本当に飲んだことないんだよな!?」

「ないですないです……でもほら、殿下も知ってるじゃないですか?私、隠してるだけで才女なんで」

「……才女の意味を辞書で引いてみろ。飲んだこともないワインボトルが開けられる、は定義に入ってない」

「じゃあ私はワインボトルを開ける才能を持つ才女ってことですね」


ルビーのしたり顔が苛立たしい。腹が立ったので、あいつが開けたコルク栓をゴミ箱に投げた。

「あー!まだ匂い嗅いでないのに!!」と叫んでルビーがゴミ箱を漁ってる。いい気味だ。

それを無視して、ワインボトルを手にすると、ルビーが焦ったようにコチラを向く。


「私が注ぎます!」

「じゃあ頼む」


グラスの中に、ゆっくりと赤が広がっていく。

燭台の灯りを受けて、深く、揺れる赤。

柘榴色、だな。

特に意味はない。ただ、そう思った。


「殿下?」

「……ああ」


我に返って、グラスを受け取る。あいつは自分の手元に、スパークリングウォーターを置く。飲めはしないが、俺に付き合うようだ。甲斐甲斐しく、チーズとドライフルーツも並べている。


「俺は初めての酒だぞ……今更だが、普通アルコール度数が低くて甘い酒を薦めるんじゃないか?」

「初めてだろうが何だろうが、一番美味しいものを飲むのが1番ですよ」


だからお前、飲んだことないんだろう?そう思いつつも、こいつの楽しそうな笑顔に、今日は絆されてやる。

これは俺の成人祝いじゃない、部下への労いだ。


ワイングラスを口元に近づけ、そっと匂いをかぐ。揮発したアルコールの香りが、鼻についた。

ゆっくりと、口をつける。


渋い。それから、酸味。香りはいいが……


(全然美味くないじゃないか)

「……どうです?」


ルビーの質問に「悪くない」と答えると、あいつは口元を押さえた。笑ってやがる、腹立つ女だ。


「なんだ」

「いえ、何も?」


そう言いながら、あいつはチーズを差し出してくる。


「一緒に食べてみてください。また味わいが変わりますよ」


チーズを口に含んで、再度ワインを流し込む。

さっきより、悪くない。


「……なるほどな」

「相性いいでしょう!?このチーズはですね、このワイン産地の隣のアッシュ村で作られていて……」


ルビーが、楽しそうに語り始めた。産地、土壌、気候、水質。

聞きながら、ふと気づく。


(前にも聞いたな、この話)


どこかの来賓に送る酒をあいつが選んでいた。普通そういうのは臣下の仕事だが、あいつは気まぐれでこの手の仕事も自分でやる。俺は書類を見ながら、聞き流していたはずだったのにーー

なぜか、こいつの言うことを覚えていた。

産地の名前も、土壌の話も。

胸が、妙にざわつく。


「殿下、聞いてますか?」

「聞いてない」

「ちょっと!今すごく大事な話してたんですけど!?」

「ワインの産地の話の、どこがそんな重要なんだ」

「あ、やっぱり聞いてるじゃないですか」


そう言ってルビーが嬉しそうに笑った。今日は、こいつにしてやられることが多いな。

若干の苛立ちと共に「おい、そんなのいいから、この前頼んだ人事異動案、作ったんだろうな?」といえば、あいつは嫌そうに顔を顰めた。


「それ、お酒飲みながら話すことです?」

「知ってるだろ、俺はアイツのやりたいことを阻みたいんだよ」

「はいはい…..ルオード卿ですね」

「父上の人の良さに漬け込んでやりたい放題……誰かあいつ抹殺してくんねぇかな」

「……いつもより口が悪くないですか?もしかして、酔ってます?」


ルビーの心配そうな顔に「ワイン如きで酔うわけがないだろう」と返せば、声をあげて笑う。


「そうですね、あなたは神童ですもんね」

「お前なぁ......今度は神童の意味を辞書で調べとけ」

「ほら、殿下はお酒に酔わない神童ってことで」

「適当すぎだろ」


俺が薄く笑えば、あいつも楽しそうに笑った。

気づけば、グラスが空になっていた。ルビーが静かに立ち上がる。


「そろそろ失礼しますね。殿下、改めましてお誕生日おめでとうございます」

「ああ」


言ってから、気づく。まだボトルには、ラベルが貼られたままだ。


「あれ、剥がさないのか?」


素朴な疑問だった。

あいつは、困ったように笑う。


「このワイン、父に試飲してもらったんです。だから、ラベルはもうあるんですよ」


2人の間に、妙な間が流れる。

ルビーは「寝る前に、お水しっかり飲んでくださいね」と笑って部屋を出た。

部屋に、静寂が戻る。

テーブルの上には、ワインボトルが一本。

残っているワインを、グラスにそっと注いだ。


「ったく……入れてから帰れよ。王子に手酌させやがって」


身体が、少し熱っているーー

それに気づいてあいつが早く帰ったことも、だからこそワインをつがなかったことも、ちゃんとわかっていた。


「……ッチ!」


思わず舌打ちが漏れる。

グラスの中では、綺麗な柘榴色が揺れていた。


ーー俺は決して、酔ってなんかない。

異世界転生(恋愛)カテゴリランク入り、ありがとうございます!嬉しすぎて番外編書いちゃいました。

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― 新着の感想 ―
ふふふ‥ なーんか微妙にルビーに押されてますねー。 二人で仲良くトントン紙相撲やってるようなやり取りに、頬が緩んでしまう。 デレてますね、これ。腹黒がデレてます! 「お酒を飲んだことのない」ルビーが流…
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