第五十七話 共闘。
前にきた事のあるお店に入って昼食を取る事にした。
「いらっしゃいませ!」
思っていたより店は混んでいる。
隅の方の空いたテーブルに案内された。
回りの客を見ると、オパール王国には珍しい冒険者が多かった。
よそから出稼ぎに来ているのだろう。
世界を滅ぼそうと小細工をしていた連中は捕まえた。
だが、運命神の方は進展がなかった。
相変わらず黒い霧は発生し、それに魔物達が誘き寄せられている。
シンプルな分、かえって人間に出来る事は限られていた。
各国や都市同士で連携し、黒い霧が発生した所に冒険者や騎士団を送る。
今のところ、それが最良の方法だった。
私達は各国の助っ人として、あちらこちらへと日によって居場所を変えていた。
今日はオパール王国だ。
キングの〈空間転移〉のおかげで、どんな僻地でも一瞬で移動できるので苦ではない。
だが。
「あ、あれ、《竜殺し》だぜ」
「意外とちいせぇんだな」
「なんだ、猫、一緒じゃないのか……」
「……」
どこに行ってもだいたい同じ反応だ。
なまじ冒険者の出入りが激しくなったせいで、私の人相も知れ渡ってしまったようだ。
前は猫を連れていなければバレなかったのに……。
大体、《竜殺し》は猫達の方であって、私はただのオマケですから!
確かに、だいぶ戦う事にも慣れてきたし、魔炎石と合成した大鎌のおかげで普通の魔物なら倒せるようにはなったけどな。
「お待たせしました!」
私のテーブルに湯気をたてた料理が運ばれてきた。
数種類の野菜とレッドバードの肉をパイ生地のようなもので包んで焼いたものだ。
元はキーデという家庭料理で、オパール王国全土で食べられている。
地域によっては、スカイビーの蜜で煮た果実などを入れた甘いキーデを好んで食べている場合もあるようだ。
さくっとした生地の中から、ほくほくとした食感の野菜と、ジューシーなレッドバードの肉が出てくる。
まぁ、今も大変な状況ではあるが、こうしてお店で食事を取る余裕が出てきた。
一時期は移動の合間に猫達にご飯を食べさせて、私自身はパンと牛乳だけで済ませていたくらいだからな……。
ギルドや国の連携がうまく回るようになり、少しはましになった。
とはいえ、まだまだ忙しい。
これを食べたら、また移動しないとな……。
「にゃ……?」
福助が困惑したように小さく鳴いた。
福助の回りを、きらきらしたものが何か言いたげに激しく動き回っているからだ。
「来たか」
マップを表示してせりに声をかける。
「せり、〈気配察知〉」
せりはひげをぴくぴくさせ、やがてマップの一点を見つめてぴしっと胸を張った。
ふむ、ここか。
「キング、〈空間転移〉」
キングがぱちりと目を閉じると、微妙な浮遊感と共に私達は移動した。
「つかさ!」
移動した先には弓矢を手にしたエルフ達の一団がいた。
「黒い霧は?」
「先ほど消えたところだ」
「じゃあ、私達がするのは魔物退治だけでいいんだね」
ここはオパール王国の端に位置する街だ。
関所があるので、街の規模の割には人口は多い。
「警備隊は?」
「住民の避難誘導をしている」
どちらかといえば排他的な種族であったが、この現状は見過ごせないとエルフ達もほかの国や都市と連携を取る事にしたそうだ。
みうの〈とおみ〉の力で黒い霧の発生している街などを探し、その地域を担当しているギルドや街に通達をするのだ。
戦力が足りないと判断すれば、今回のように遊撃部隊を派遣する事もある。
福助と契約している風の精霊を通じて、私達にも連絡がくる。
「そういえば」
若いエルフがこっそりと私に囁いてきた。
「麦酒を初めて飲んだが、うまかった」
基本的に、エルフは畑で栽培されたものや家畜の肉は口にしないのだが。
エルフはお酒も好きだからなぁ……。
出先の街などで、こっそりと食べたり飲んだりする者がいるようだ。
遊撃部隊が若いエルフ達で組織されている事も大きいだろう。
しきたりより好奇心が勝るらしい。
「長達にバレないようにね」
そう言うと、エルフは分かっていると頷いた。
「ルッコの実を入れて焼いた菓子もうまかったから、妹達にも食べさせてやりたいんだが」
うーん、持ち帰るのはさすがにマズいと思うけどなぁ……。
私の顔を見て、エルフはため息をついた。
「そうだよな……」
「蜜飴くらいなら大丈夫だと思うけど」
原材料のスカイビーの蜜は採取してきたものだし。
「携帯食の一種として提案してみたら?」
スカイビーの巣はエルフ達も採ってくるし、麦などを使ったお菓子よりは馴染みがあるだろう。
「そうだな。ま、最初は難しいだろうが」
試してみるさ、とエルフは笑った。
その瞬間、せりがイカミミ状態で「にゃあ!」と鳴いた。
「……来たか」
さて、雑談はここまでだ。
私は無限収納から紅い刃の大鎌を取り出した。
エルフ達が弓矢をかまえる。
「りゅうたろう、大きくなって」
ひらりと肩から飛び降りたりゅうたろうは、地面に着くまでに虎ほどの大きさに姿を変えた。
「くぅ、チャビ、福助。魔法で攻撃」
「にゃお……」
威厳たっぷりに、くぅが一歩前へと踏み出した。
「おこん、よつば、キング。無理しない程度で攻撃」
「にゃん!」
やる気満々のおこんが近くの木でばりばりと爪をといだ。
「せり」
「にゃあああ!」
毛を逆立てたせりが大きな声で鳴いた。
来たな!
「放て!!」
エルフ達が一斉に矢を放つ。
魔力を込めた矢は凄まじい早さで空を切り、魔物達の群れへと突き刺さった。
矢から逃れた魔物達は怯むどころか、勢いを増しながら近付いてきた。
「もう一度!!」
エルフ達が再び矢を放った。
だいぶ数は減ったようだ。
「腹の底に、気合いを入れろ!!」
私の言葉にエルフ達が唇を引き結ぶ。
「くぅ!」
「うなぁぁぁぁおぅぅぅぅ!」
くぅの雄叫びに、空気がびりびりと震えるようだった。
くぅの〈威圧〉で明らかに魔物達の勢いは衰えた。
エルフ達は顔を青ざめさせながらも何とか耐えてみせた。
「行くよ!!」
私は大鎌を握り直した。
「くぅ!」
「にゃお!」
くぅが〈剣魔法〉で作り出した数百の剣が、魔物に向かって放たれた。
「福助!」
「にゃ!」
福助の回りをきらきらしたものが踊るように跳ね回った。
福助の〈風魔法〉がくぅの作り出した剣の速度を上げた。
魔物達に剣が突き刺さる。
「チャビ!」
「にゃお!」
チャビの〈雷魔法〉が魔物に突き刺さった剣へと落ちた。
焦げ臭い匂いをさせながら魔物達が倒れていく。
「放て!!」
エルフ達の放った矢が止めをさした。
だが、魔物達の途切れる様子はない。
おこんが魔物達の足元を素早くすり抜けながら、〈引っ掻き〉で麻痺させていく。
大きくなったりゅうたろうが魔物達の中に飛び込み、片っ端から前足で殴り飛ばす。
よつばは〈魅了〉で魔物を操って同士討ちをさせ、キングは〈影魔法〉で拘束する。
私は大鎌を振るって魔物を倒していった。
「にゃあああ!」
せりが空を見上げながら大きな声で鳴いた。
黒い雲のようなものが近付いてきている。
あれは。
「フラーか!」
フラーの群れが迫ってきていた。
「フラー?」
エルフ達が空を見上げながら首を傾げる。
「災いを呼ぶ鳥って言われている」
羽毛は青く、尾羽の先だけが白い。
嘴ではなく牙の生えた口を持つ巨大な凶鳥の群れだ。
「家畜も作物も、それに人も食べる」
「人を喰うのか……!」
「一羽でも逃がしたら大変な事になるな」
ただ、ドラゴンなどとは違ってただの鳥だ。
うちの猫達なら狩るのは簡単だ。
だが、以前よりも更に数が多い上に魔物達の群れもいる。
「狩ればいいのか」
「なら、我らエルフも得意だ」
弓矢を手にしたエルフ達が誇らしげに胸を張る。
「じゃあ、そっちはお願い」
「任せておけ」
無限収納からドラゴンちゃんを呼び出す。
「りゅうたろう!」
私の声に振り返ったりゅうたろうが大きくなり、ひらりとドラゴンちゃんの背中に飛び乗った。
そのままドラゴンちゃんは空へと舞い上がり、フラーの群れへと立ち向かっていく。
「合わせろ!」
エルフ達が弓矢をかまえる。
りゅうたろうを乗せたドラゴンちゃんはフラーの周囲を飛び回り、群れを固まりにする。
「放て!」
魔力を込めた矢がフラーの群れを射ぬく。
ばたばたと落ちていくフラーに、りゅうたろう達がとどめをさした。
よし、あっちは大丈夫そうだな。
「みんな、いくよ!」
「にゃお……」
「……にゃん」
ん?
猫達から先ほどまでの勢いがなくなった。
ちらちらとフラーを見上げている。
まさか、フラーを狩りたい、とか……?
いや、魔物に集中してくださいよ!
私一人で倒せるわけないでしょうが!
真面目に魔物退治にいそしんでいるのはよつばだけだった。
ああ、フラーは食べられないんだったな。
というか、よつばがくわえているそれ、食べられるのか……。
「くぅ達は魔物を倒して!」
しぶしぶといった感じで猫達は魔物退治を再開した。
おこんなどは諦めきれない様子で時折空を見上げている。
「にゃーおー……」
面倒くさそうにチャビが〈雷魔法〉を魔物達に落とす。
「あぉぉぉ!」
りゅうたろうだけがフラーを狩っているのが気に入らないのか、くぅは私を睨みながら魔物達に炎をまとった岩を降らせている。
キングはどうやら空を飛べる魔物がいないか物色しているようだ。
影を操ってフラーを狩りに行こうとしているのだろう。
「真面目にやりなさい!」
頼むから集中して!
片手間で魔物退治しないでください!!




