第五十六話 悩める神々。
さて、こいつらをどうするか。
ちらりと倒れている連中を見て、私はため息をついた。
黒い霧とは無関係のようだからギルドに突き出しても仕方がない。
真珠国の御神体や虹雲の卵が盗まれた事は、表向きには公になっていない。
大体、実行犯だった黒のキャラバンの連中はもう捕まえてギルドに引き渡してしまったしな。
んー?
だからといって、世界を滅ぼそうとしていたやつらを野放しにするわけにもいかない。
「真珠国に連れていくか……」
お稲荷さんに処遇を決めてもらった方がいいか。
御神体の事もあるし。
「おこん、〈創成魔法〉。でっかいペットケージ」
「にゃん!」
がしゃこんっ、と音を立て、巨大なペットケージの中に忍者達を閉じ込めた。
「キング、〈空間転移〉」
キングがぱちりと目を閉じると、微妙な浮遊感と共に私達は真珠国へと移動した。
驚くお稲荷さんにこれまでの経緯を説明すると、深いため息をついた。
「……こちらに流れ着いた当初、彼らの働きで我々は魔物に喰われる事もなく、無事に生活を送れていました」
確かに忍者なら商人や船乗り達と違い、どうにか魔物と戦う事も出来ただろう。
「ですが」
暗い目をして、お稲荷さんは言葉を続けた。
「自分達のためだけに、この世界を滅ぼそうとした事」
そして、御神体を盗み出すように仕向け、なおかつ破壊しようとした事。
「赦すわけにはまいりません」
何かを覚悟した顔でお稲荷さんはそう言った。
「……」
あの国の神様は、情熱的で愛らしく、そして時に残酷だ。
「……分かった。あとは任せる」
「はい」
こっくりとお稲荷さんは頷いた。
「船はどうする?」
魔導で造った船らしいから、破壊してしまった方がいいだろうか。
存在を知ったら利用しようとする連中が出てきてもおかしくないし、ここは一発うちの猫達に粉々に……。
「つかささんが、もらってください」
「え?」
「それが一番安全だと思います」
無限収納に入れておけば、確かにほかの誰にも触れられないが。
んー?
そういや、魔力で動くんだったな。
下手に魔法をぶつけたら変な方向に起動してしまうかもしれない。
いや、でも、大きくなったりゅうたろうにぷちっとしてもらえばいいのでは……?
「お願いします」
深々とお稲荷さんが頭を下げた。
「……」
多分、お稲荷さんも複雑なのだろう。
もしかしたら、あの国へ帰れるかもしれない。
どこかに諦められない部分があるのか。
粉々にしてしまった方が、未練を断ち切れると思うのだが。
いや、お稲荷さん自身が壊すと決めるまで、私が預かっておこう。
「うん、分かった」
私はにっこりと笑ってみせた。
ところで、神様達の方はどうなったかな。
女神様の所に顔を出してみるか。
キングの〈空間転移〉で、久しぶりに神聖王国クリスタルへと移動した。
神殿に入ると、待ちかねていたように女神様が像から抜け出してきた。
「つかささん!」
「あ、久しぶり」
「猫さん達はご無事ですか!?」
「……」
いや、もう、本当にぶれないな!
「大丈夫。こっちは片付いたよ」
気を取り直してそう言うと、女神様は困ったように眉を下げた。
「こちらはちょっと……」
神様達が集まって運命神への対応を話し合ったはずだが、何か問題があったのだろうか。
「いえ、運命神を止めなければ、という意見で一致したのですが」
具体的にどうしていいのか、と女神様はため息をついた。
「運命神が話し合いに応じるとは思えませんし」
まぁ、そうだろうな。
それが出来るくらいなら、最初からそうしているだろう。
ミーコさんが運命を変える猫を探す必要もなかったはずだ。
「力ずくというわけにもいきませんし」
神様同士が力をぶつけ合うとその力が大きすぎて、ほかの世界も巻き込んで消滅してしまうとかいう話だった。
まぁ、それがあるから運命神も自ら出てくる事はないのだが。
神様の事は、神様がどうにかしてくれないとなぁ……。
こっちは地道に黒い霧に誘き寄せられる魔物を退治していくしかないわけだし。
「……分かっていますけど」
女神様が肩を落とす。
あんまりいじめても可哀想か。
女神様一人の責任ではないしな。
「猫達と一緒におやつでも食べようか」
私も少し休みたい。
そう言うと女神様の顔がぱっと明るくなった。
「猫さん達のおやつ、用意してあります!」
新発売だったんですよ、と女神様は勢い込んで言った。
……言っておくけど、私も食べますからね?
第七章 完。




