第五十話 火の神の末裔。
「話は聞いてるよ」
サナ達に話をしに行くと、すでに事情は分かっているようだった。
「これ、親父に作ってもらったんだ」
そう言って、サナは紅く光る穂先を持つ槍をみせてくれた。
もちろん、ナルシも新しい大剣を持っていた。
「もともと、あたしらは魔物退治が主な仕事だったし、やることは変わらないからさ」
すでに、ギルドからの依頼で何件かの村の救援に行っていたらしい。
当然のように火の神の加護を持つ二人は、魔法耐性もあり頼りになる存在だ。
「ナルシ、古代神語を魔導の塔以外で使っている人達を知らない?」
私の問いに、ナルシは小さく首を振った。
「いや、最近では神官ですら分かるやつはほとんどいないはずだ」
ふるき神々の神官さえ古代神語は分からないのか。
んー?
これは早くも詰んだか……。
「ナルシ達のお父さんみたいに逃げ出した人って多いの?」
ちらりとサナとナルシは目を合わせた。
どうした?
「逃げ出す連中は多いんだけど……」
サナにしては珍しく歯切れが悪い。
「逃げおおせるのは、ごくわずかだ」
……つまり、途中で捕まってしまったという事か。
サナ達の様子から、捕まったあとの事は聞かない方がよさそうだ。
しかし、これで魔導の塔関係は消えたな。
まぁ、元々異世界から来た連中だから、運命神とは相容れないだろう。
さて、どうするか。
考え込んでいると、ギルドの受付にいた若いドワーフが飛び込んできた。
「サナさん、ナルシさん、特急依頼です!」
「!」
ギルドからの特別緊急依頼だ。
サナとナルシは立ち上がるとすぐに身支度を始めた。
「どこだい?」
荷物を背中にくくりつけながらサナがたずねる。
「炎鉱石の採掘場です!」
「分かった。すぐに向かう」
「私達も手伝うよ」
私が立ち上がると、手のひらサイズのりゅうたろうがひらりと肩に飛び乗ってきた。
「気持ちはありがたいが……」
「移動、回復、防御、解除。あった方がいいと思うけど?」
渋るナルシにそう言って、にやりと私は笑ってみせた。
「確かにね」
あははとサナが笑う。
「あたしら、武器を振り回すのは得意だけど、それ以外はからっきしだしね」
「……分かった。頼む」
「キング、〈空間転移〉!」
炎鉱石の採掘場に移動するとすでに黒い霧は消えており、すぐ近くまで魔物の群れがせまっていた。
サナ達がそれぞれの武器をかまえる。
「戦えるやつは参加しろ!」
ドワーフ達も斧や剣などをかまえた。
彼らは鉱夫だが、ドワーフは体が頑丈でもともとの戦闘能力が高い。
せりが歯をむき出し、毛を逆立て、最大限の警戒をしている。
まさか……。
地上から迫ってくる魔物達とは別の一団が、空から近づいてくるのが見えた。
ドラゴンの群れだ!
「つかさ、ドラゴンはまかせていいか?」
紅く光る大剣を握り直し、ナルシが言った。
「当然!」
「さっすが、《竜殺し》」
槍をかついだサナが笑う。
それを言うな、それを!
ドラゴンの群れが襲ってきた場合、冒険者でも逃げ出すのが精一杯だ。
だが。
猫達、特にくぅはドラゴン狩り放題という状況に目を輝かせていた。
「りゅうたろう、ドラゴンちゃんと空から攻撃」
大きくなったりゅうたろうを背中に乗せて、ドラゴンちゃんが舞い上がる。
「せりは〈気配察知〉を続けて」
今まではなかったが、増援がくる可能性も捨てきれない。
「チャビは怪我をした人がいたら〈回復〉」
ドラゴン狩りに参加出来ないのかと、チャビは少しばかり不機嫌そうだ。
「手が空いたら攻撃していいよ」
だから、お願いね? とチャビの頭を撫でた。
「よつばは地上の魔物を〈魅了〉して」
よつばは一度狩って以来ドラゴンには興味がない。
美味しくなかったらしい。
……まぁ、美味しかったら今頃ドラゴンちゃんのしっぽの先くらいはなくなっていただろうから、それで良しとしておこう。
くぅは、そわそわしながらドラゴンが近づいてくるのを待っている。
りゅうたろうがドラゴンちゃんと群れの先頭へ仕掛け始めた。
臆病なドラゴンちゃんも、りゅうたろうと一緒ならドラゴンの群れにも立ち向かえるらしい。
「りゅうたろう、こっちに誘導して!」
地上で戦うサナ達やドワーフを巻き込まないように、採掘場の端までドラゴンの群れを移動させたい。
りゅうたろうが鼻先を引っ掻き、ドラゴンちゃんがしっぽを羽に当てたりして、ドラゴンの群れを挑発している。
まんまと挑発に乗ったドラゴンの群れは、くぅ達が待ち構えている方へとやってきた。
「福助、おこん、キング、くぅ。ドラゴンを狩るよ!」
声をかけると、猫達はわくわくしているようだった。
「にゃおおお!」
くぅがご機嫌な様子で鳴き声をあげる。
……何か、少しだけドラゴンが気の毒な気がしないでもない。
くぅが情け容赦なく、ドラゴン達の頭上に火をまとった岩を降りそそぐ。
前より岩が大きくなってないか……?
避けきれず岩に当たったドラゴンが地上近くに高度を下げた。
そこへ巨大な剣が現れ、ドラゴン達を地面へ串刺しにする。
「……」
えぐすぎる……。
福助は風を細く鋭い矢にして、それをむやみやたらに放った。
数百もの風の矢を避けきれるわけもなく、次々にドラゴンが貫かれて落ちていく。
あれなら細かいコントロールとか必要ないもんな……。
りゅうたろうは前に倒した時と同じように、ドラゴンちゃんとの連携で一頭ずつ確実に仕留めていた。
キングもドラゴンの影を操り、それと本体を戦わせている。
ただ、前と違うのはキングの操る影の方が本体より数倍強い事だ。
おこんは自ら巨大なキャットタワーを創成すると、それをかけ登ってドラゴンを引っ掻いていた。
麻痺したドラゴンが地面へと叩きつけられる。
そこへ、やはり創成した巨大な槍で止めをさした。
穂先が紅いところを見るとサナの槍がモデルらしい。
そういや、サナが槍をくるくる回してみせてくれたのをじぃっと見ていたな……。
気に入っていたらしい。
チャビは怪我人を回復させる片手間に、雷を落としてドラゴンを黒焦げにしていた。
いや、ドラゴンって片手間で倒せる相手でしたか……?
私の新スキル〈猫ばか〉でステータスが大幅にアップしているのは分かっていたが、ここまでとは思わなかった……。
ドラゴンは本来冒険者が百人単位で狩る相手のはずだ。
しかも、それは一頭だけの事で、群れの場合はどんな腕のたつ冒険者でさえ逃げ出すのが精一杯なのだ。
それを、まるで小型の獲物でも狩るように……。
猫達がドラゴンを蹂躙している間、サナ達は地上の魔物と戦っていた。
よつばは魔物を魅了して同士討ちをさせている。
その間に、食べられる魔物を見つけては自ら狩っていた。
そして、本来せりは戦闘向きではない。
しかし、小型の魔物なら一撃で仕留められるようだった。
うちの猫達、強すぎやしませんかね……?
その他大勢のうちの一人でしかない私は、元草刈り鎌だった大鎌を手に地道に一匹ずつ魔物を倒していた。
いや、うん、分かっていますよ。
メインは、猫の方だって事は……!!




