第五十一話 翡翠の森の住人。
ガーネットの魔物達を倒し終えると、あとの事はサナ達に任せ、私達は翡翠の森に行く事にした。
ドラゴンの山を前にギルドマスターが頭を抱えている。
特急依頼の報酬はサナ達に支払われるが、ドラゴンの買い取りは別件になるらしい。
退治でさえ高額になる上に、くぅやりゅうたろうが倒したドラゴンは状態がいいので素材としての金額が上乗せになるのだそうだ。
ただ、尋常な数ではない数のドラゴンの報酬を一介のギルドが即金で払えるはずもなく。
分割払いにさせてくれ、とギルドマスターに頼み込まれた。
今まで貯めたお金が十二分にあるので報酬は必要ないと言ったが、それではほかのギルドや冒険者に示しがつかないと怒られた。
何で私が怒られるんだ……。
結局、お金が必要になったらいつでもガーネットのギルドから必要な分だけ受け取れる、という事で話はついた。
このあと、剥ぎ取りや解体、運搬などもあるが、その辺の事はギルドに丸投げでいいだろう。
さて、翡翠の森に行かなくては。
「キング、〈空間転移〉」
翡翠の森に行くと、嬉しそうにみうが迎えてくれた。
「つかさ、来てくれたんだ!」
「ごめん、今日も用事があって……」
遊びにきたわけではないと言うと、みうは不満そうに頬をふくらませた。
「ご飯は? 食べていくよね?」
ご飯くらいならいいかな。
問題はよつばが何かやらかさないかだが……。
「大丈夫。ワイルドボアがたくさん獲れたから」
みうがにこにこして言った。
こちらの世界のエルフは、私が向こうで読んだ小説や漫画に出てくるエルフ達とは違って普通に肉も食べる。
ただし、家畜の肉や畑で獲れた作物は基本的には口にしない。
狩猟で得た肉や採取した果物に、恵みを感謝しながら食べるのだ。
塩などの調味料や薬など、どうしても必要なものは翡翠の森でだけ入手できる珍しい薬草と物々交換をするらしい。
それも、取り引きするのは精霊に認められた相手だけなのでごく限られた量しか出回らない。
まぁ、私達には好きなだけ持っていけ、と言ってもらっているが。
「長、みうのお父さんに話があるんだけど」
「魔物のこと?」
前回、翡翠の森を覆った黒い霧は、よつばの〈解除〉と虹雲の降らせた雨で完全に消し去った。
あのあと、やはり魔物が現れたらしい。
しかし、たいした数ではなかったようでエルフ達で退治したのだそうだ。
んー?
ほかの所は、黒い霧が出たあとに大量の魔物が襲ってきたはずだが。
黒い霧をほぼ発生と同時に消したせいか、精霊がいるおかげなのか、虹雲が守護しているからなのか。
いや、あまり参考にはならないか。
エルフはちょっと特殊だからなぁ……。
まぁ、無事だったのなら、それでいいか。
みうが、いい香りのする香草でお茶を入れてくれた。
ハーブティーみたいな感じか?
「それで、話というのは?」
長と、おそらくエルフ達のリーダー格にあたる数人が私の話を聞いてくれる事になった。
……はて?
一人だけ妙に怯えた様子の若いエルフがいるのだが。
もしかして、黒のキャラバンの時にうちの魔王様を見た一人か?
さて、どこから話したらいいものか……。
まずは、エルフが異世界から来た人々だという事を説明した方がいいかな。
「それならば知っている」
驚くかと思ったが、私の話にエルフの長はあっさりと頷いた。
「伝承に残されているからな」
エルフ達に代々語り継がれる、いうなれば創成神話のようなものがあるらしい。
それによれば、エルフ達は滅びゆく世界から、精霊樹の導きにより安寧の地、つまり翡翠の森へとたどり着いたのだそうだ。
そうか、エルフは自分達がほかの世界から来た事を知っていたのか……。
エルフはどちらかといえば排他的な種族なのだが、その事が関係あったのかもしれない。
「それで、運命神が我々を滅ぼそうとしていると?」
「エルフだけじゃなくて、ドワーフやほかの世界から来た全ての種族を消したいらしいです」
私の言葉に長達は難しい顔をして考え込んだ。
「なら、こちらから戦いを挑んでは?」
若いエルフが勢い込んで言った。
「我らエルフには精霊の加護があります!」
……やっぱり、血の気が多いのがいたな。
「実際に動いているのは運命神ではないでしょうから、私達が対応すべき相手はそちらの方だと思います」
私の言葉を聞いても納得できない様子だったが。
「しかし……!」
私の肩に乗ったままのりゅうたろうを見て、若いエルフは一瞬怯んだ。
りゅうたろう、どんな顔しているんだよ……。
「運命神は世界の半分を消し去るつもりでいるらしいので、エルフだけの問題ではないんです」
それとも、自分達だけが助かればいいと?
私がそう言うと、若いエルフはそんなつもりじゃ、ともごもご言いながら引き下がった。
まぁ、私の意見に賛同したわけではなく、単に猫達に怯えただけだと思うが。
こら、くぅ! 勝手に出てこない!
ここでエルフ達と戦ったりしないからな!?
「それで、みうに『見て』もらいたいんだけど」
「……」
「みう、どうした?」
動く様子のないみうに、長が首を傾げる。
「『見る』のはいいけどご飯のあと!」
……なるほど。
何か見えたら私達が行ってしまうと思っているのか。
信用されてないな……。
まぁ、仕方ないか。
どっちにしろ、猫達も休ませないといけないし。
「じゃあ、ご飯のあとにお願いね」
私がそう言うと、みうはにっこりと笑って頷いた。
「うん!」
猫達にはキャットハウスでご飯を食べさせて、私はエルフ達とご飯を食べる事にした。
……よつばだけは勝手に出てきて何か食べようとしているが。
ワイルドボアの蒸し焼きや、レッドバードと香草のスープなど、味付けはシンプルなものがほとんどだった。
翡翠の森にしか生えない、虹色のキノコを焼いたものもあった。
……これ、食べて大丈夫なのか?
ノアルという林檎に似た香りのする果物を煮たものや、ルッコの実を搾ったジュースも出てきた。
スカイビーの巣から造った蜜酒もすすめられたが、それは断った。
お腹一杯だというのに、どんどん食べさせようとするのにはまいった。
エルフはほっそりした見た目とは違って、けっこう大食いだからなぁ……。
食事が終わる頃には、もう暗くなっていた。
「みう、そろそろお願いできる?」
「うん、分かった」
みうの瞳が金色に光った。
「……何か、変な文字を書いている人達がいるけど、それかなぁ?」
変な文字って、もしかして。
無限収納から古代神語の勉強をした時のノートを取り出した。
「これと同じ感じ?」
ちらりとノートを見たみうが、うんと頷いた。
「あと、変わった服を着ている。うちに出入りしている商人さんが似たような服を着ていたと思うけど……」
商人? どこの人だ?
「あ、つかさと同じで、目も髪も黒いよ」
「え……」
黒い髪に、黒い目。
それに、変わった服装、商人。
まさか。
「真珠国……?」
「あ、そうか! あの商人さん、真珠国の出身だって言ってた!」
……何故だ?
運命神はほかの世界から来た人々を滅ぼそうとしている。
よそから来た中で、もっとも有名なのが真珠国だ。
ずっと、ずぅっと、昔。
遠い遠い国から船で流れ着いた人々が作った国。
この世界の絵本には、そう書いてあった。
その真珠国の人間が、どうして運命神の手伝いをしている?




