第三十九話 ドラゴンライダー。
……うん、農耕神様は悪くない。
多分。
猫か? 猫が神様を狂わせるのか?
私は何もない草原でたそがれながら大きなため息をついた。
ドラゴンちゃんのお散歩のために、誰も通りかからないような草原のど真ん中で休憩中なのだ。
「……盗賊でも連れて来ないかな」
ドラゴンちゃんはどういうわけか、盗まれたお宝を横取りするのが好きらしい。
持って来るのが好きなだけで、そのあとは私にお土産としてくれるのでお宝に執着しているわけではなさそうだ。
お宝はギルドに渡してしまえばいいだけなので、別に持って帰ってくる分にはかまわない。
けれど、たまにお宝を取り返そうとしているのか、それともドラゴンを捕まえたいのか、盗賊が追いかけてくる事がある。
普段なら面倒なだけだが、今は八つ当たりする相手がほしい……。
今回は猫にまかせず私も水風船をぶつけまくりたい。
あれ、意外とすっきりするんだよな。
せりがイカミミの警戒状態になった。
〈気配察知〉だ。
よし、来たか!
「ピギィィィ!!」
ん?
今のは、ドラゴンちゃんの悲鳴?
必死に逃げてくるドラゴンちゃんの背後から、さらに大きなドラゴンが追いかけてきている。
あのバカ、ほかのドラゴンの縄張りに入ったな!
せりが歯をむき出し、毛を逆立て、最大限の警戒をしている。
「!」
あれは、人を襲う方のドラゴンか!!
「くぅ! チャビ!」
くぅとチャビが戦闘体制に入る。
ドラゴンちゃんが私の後ろに降りてきた。
だから、それ、隠れてないからな!?
りゅうたろうが私の肩からひらりと飛び降りた。
「りゅうたろう、戻って!」
空を飛べる相手ではりゅうたろうは戦えない。
大きくなったりゅうたろうが、私の方を振り返って口を開いた。
「……!」
サイレントニャー?
こんな時にどうした?
私の背後からばっさばっさと羽音がして風が起きた。
ドラゴンちゃんが宙に舞い上がり、りゅうたろうがその背中にひらりと飛び乗る。
「……は?」
え、何だ、これ?
りゅうたろうを背に乗せて、ドラゴンちゃんが大型のドラゴンへと立ち向かう。
……何が起きている?
大きさでは負けているが早さはドラゴンちゃんの方が上だ。
りゅうたろうがドラゴンちゃんの背中から飛び、相手のドラゴンに一撃をくらわせる。
宙で一回転しながら降りてきたところにドラゴンちゃんが素早く移動して、再びりゅうたろうを背中に乗せる。
大型のドラゴンが口を開けた。
マズい。
あいつ、火を吹くタイプか!
「よつば、相手のドラゴンのスキルと魔法を〈解除〉!」
よつばが前足をちょいちょいと動かした。
りゅうたろうが相手のドラゴンの背に飛び移り、その翼に噛みついた。
べきべきと音がして、翼から血が吹き出す。
暴れるドラゴンの背中から、りゅうたろうはドラゴンちゃんにもう一度飛び移った。
翼を傷つけられたドラゴンは、よろよろとしながら高度を下げている。
何が起きたんだ……?
スキルを確認する。
りゅうたろう 〈ドラゴンライダー〉 ドラゴンに騎乗して戦う。
え、やだ、カッコいい……。
じゃ、なくて!
いつの間にそんなスキルを?
誰からももらってないよな?
まさか、自力でスキルゲット!?
そんな事、出来るの!?
頭の中を?が埋め尽くす。
相手のドラゴンがずしんっと地面を揺らしながら降りてきた。
翼を傷つけられ、魔法を封じられ、ドラゴンは怒り狂っているようだった。
……これはマズいな。
「くぅ!」
くぅに指示を出すより早く、おこんが飛び出していった。
「おこん、ダメ!!」
ドラゴンの爪をすり抜け、おこんが足を引っ掻いた。
人間相手なら十分な効果だろうが、ドラゴン相手では……。
「……?」
おこんが引っ掻いた途端、ドラゴンが動かなくなった。
え、どうした?
ドラゴンの目はいまだにギラギラしている。
だが、金縛りにあったかのようにピクリとも動かない。
「まさか……」
おこんのスキルを確認すると、やはり増えていた。
おこん 〈引っ掻き〉 高確率で相手を麻痺させる。
なるほど。
どうりで、最近やたらと戦闘に参加したがるわけだ。
しかも、ドラゴンの硬い鱗に傷をつけるとは。
そういや、最近爪研ぎに余念がなかったな。
じゃ、なくて!!
りゅうたろうといい、おこんといい、自力で新しいスキルを手に入れたのか……?
ドラゴンちゃんの背中から飛び降りたりゅうたろうが、空中で大きさを変え、そのまま大型のドラゴンの首に噛みついた。
地面に引きずり倒して止めをさす。
マジかよ。
まさか、くぅより先に、りゅうたろうとおこんでドラゴンを狩ってしまうとは……。
「魔物の買い取りをお願いしたいんですけど」
火の神様に会うため火山都市ガーネットにやって来たのだが、その前にギルドに立ち寄った。
「はい、どうぞ」
若いドワーフがにこにこしながらカウンターの上の物を脇に寄せた。
「……あー、多分、乗らないと思うんですけど」
「あ、そうですか、すみません。じゃあ、床でも大丈夫ですよ?」
うーん。これは、はっきり言った方がいいか……。
「ドラゴンなんですけど」
「……え?」
一瞬ぽかんとしたあと、若いドワーフは、ああ、と頷いた。
「鱗とか牙ですか? いや、翼とかしっぽだと大きいですね」
「本体です」
「…………え?」
片方の翼はりゅうたろうが噛みちぎったのでぼろぼろだが、全体としては状態がいいはずだ。
「あの、お一人で、ドラゴンを……?」
「いえ、猫です」
「……………………え?」
「うちの猫が狩りました」
「ね、こ……?」
ああ、これは完全に彼の理解の範疇を越えたな。
仕方ない。
「ギルドマスターに、《猫を連れた冒険者》が来たと伝えて下さい」
「は、はい……」
ごめんな、若いドワーフくん。
新人さんっぽいのに変なのが来て。
「おう、お前さんか」
以前サナ達の捜索依頼を受けた時に、二人の養い親であるナロクと口論していたドワーフのギルドマスターが奥から顔を出した。
「お久しぶりです」
「そういや、お前さんのおかげで噴火を防げたんだって?」
ありがとうな、とギルドマスターは笑った。
「いや、うーん、あれも猫が……」
「で、魔物の買い取りだって?」
マイペースだな、おい。
まぁ、いいけど。
「ドラゴンなんですけど、どこに出したらいいですか?」
「ドラゴン? まるごとか?」
「はい」
そりゃすげぇな、と言ってギルドマスターはあごを撫でた。
「ギルドの中じゃ無理だしなぁ」
「ですよね」
よし、とギルドマスターは膝を打った。
「広場でやるか」
「ええ? 大丈夫なんですか?」
「ドラゴンなら素材として欲しがるやつも多いから、皆の前でやった方がいいだろ」
「ああ、なるほど」
ここガーネットは鍛冶師や細工師が多い。
ドラゴンはめったに獲れないので欲しがる人はいるだろう。
あまり目立ちたくはないが。
まぁ、今さらか。
この先もドラゴンを獲ってくる事は増えるだろうから、今のうちに慣れておこう。
りゅうたろう達に先を越されたくぅがやる気満々だし。
ドラゴン狩りかぁ……。
まぁ、世界が滅ぶより、ドラゴンを相手にしてくれている方が平和だよな、うん。




