第三十四話 火の神の娘。
……で、これはどうした?
サナ達のいる炎の竜の寝床へと戻った私達は、呆気にとられてその様子を見ていた。
「ヨッホゥ! 身体が軽いわい!」
ナロクがはしゃいでひたすら暴れている。
おお、宙返りまで。
「つかさ! 大丈夫だったかい?」
サナ達が駆け寄ってきた。
「うん、魔方陣も復元出来たよ」
「なら、噴火はしないんだな」
ナルシがほっと息を吐いた。
「ところでナロクさんはどうしたの?」
私の言葉を聞き、サナとナルシは顔を見合わせた。
「それが……」
チャビの暴走から逃げる時にナロクだけ遅れてしまったらしい。
「回復したんだとは、思うんだが……」
それにしては大袈裟だとナルシが首を傾げている。
あー、多分、若返ったんだろうな。
サナ達はチャビの暴走に巻き込まれると子供に戻ってしまうという事は知らない。
でも、ナロクは若返っただけだ。
「もしかして、ドワーフって人間より寿命が長いの?」
「うん、そうだよ。親父は確か、六百才くらいだって言ってたかな」
なるほど。
どれくらい若返ったのかは分からないが、身体が軽く感じるくらいには戻ったようだ。
まぁ、いいか。特にデメリットもなさそうだし。
「あと、何でナルシは古代神語が読めるの?」
「……」
ナルシが視線を伏せた。
「あ、いや。言いたくないなら、別に……」
「あたし達の父親が魔導の塔の出身だからさ」
「サナ!」
大きな声を出したナルシをサナが拳でどついた。
「つかさは大事な友達だろ。あたしは隠さないよ」
サナは私の顔を見てにっと笑った。
「あたし達の父親は、魔導の塔から逃げた魔導師なのさ」
「逃げた?」
「……捕まっていた、俺達の母親と一緒に逃げたんだ」
それは、アレか。
恋に落ちたとか、そういうアレか。
ほほぅ。
……いかん、年寄りくさくなってしまった。
「で、兄貴は古代神語を習ったんだけど、あたしはまだ小さかったからね」
だから教えてもらってないと言うサナに、ナルシがため息をついた。
「泣いて暴れて嫌がったのは、誰だ」
……なんか、状況が浮かんでくるな。
しかし、魔導の塔に捕まっていたという事は、サナ達の母親はみうのような能力の持ち主だった可能性が高い。
……まさかな。
「火の神の娘……」
「!」
「何で知ってるんだい?」
マジか。
いや、待て。
確か、魔方陣には《火の神の娘の血が絶えた時》と書かれていた。
という事は、魔方陣がどうなろうと、私がサナ達を助けるのが間に合わなかったら噴火は止められなかった……?
「……」
何だろう、この気持ち悪さは。
そうだ、あの夢にはミーコさんのほかにも誰かいた。
あれは、誰だ……?
「一度、ガーネットまで戻ろう」
ナルシの言葉に我に返った。
「もう大丈夫だって皆に教えないとさ」
私の肩を叩きながらサナが笑う。
「うん、そうだね」
……?
はて、何か忘れているような……?
「て、てめえ、よくも……、ひぐっ、ひぐっ」
「なんか揺れるし、もうダメかと……、ううっ」
むさ苦しいのが集団で泣くなよ。
うっとうしいな。
「ちょっと忘れてただけでしょうが」
「ちょっと!?」
「ていうか、本当に忘れてやがったのか!?」
はぁ、と私はため息をついた。
「ちゃんと回収に来たんだから、もういいでしょ」
噴火の事ですっかり忘れていた盗賊どもを回収に来たのだが、私を見た瞬間、全員泣き出してしまったのだ。
「聞きたい事があるんだけど」
「な、何だよ! 忘れてたくせに!」
「……置いていくぞ」
「何でも聞いて下さい!」
魔方陣の事を知っていたかと聞くと、盗賊どもはきょとんとした。
「俺達は炎の竜の寝床までしか行ったことねぇし」
んー?
だとしたら、魔方陣を損傷させたのは誰だ?
「そういや、新入りはどこ行った?」
「新入りって?」
「えーと、あれ……?」
「だから、新入り……?」
んん?
どうやら、新入りがいた事は覚えているようだが、それがどんな人物だったかは記憶に残っていないようだ。
ということは、そいつが今回の件の関係者だろうな。
古代神語を理解し、盗賊どもの記憶を操作している。
しかも、噴火させるという自分の手を汚さない手段を使っている。
……タチが悪いな。
私の顔を見た盗賊どもがペットケージの中で後ずさった。
そんなに凶悪な表情していたか?
まぁ、とりあえず、こいつらをギルドにつき出してからだな。
「は、早く連れて行ってくれぇ……」
「もう、こんな所にいたくねぇんだよぉ……!」
捕まりたがる盗賊っていうのも、どうなんだろう……。
「あれ? でも、チャビさんの暴走に巻き込まれると、記憶も消えるんじゃ……?」
ナロクが若返った話をすると女神様は首を傾げた。
そうなのだ。
ドワーフの寿命がいくら長くても記憶は消えてしまう。
けれど。
「サナとナルシ以外の事は百年くらい覚えていないんだって」
ちなみに、私に依頼した事も綺麗さっぱり忘れていた。
「お二人の事は覚えていたんですね」
愛ですね! と女神様は目をきらきらさせて言った。
愛、ねぇ……。
サナ達が火の神の娘の血をひいている事も関係あるかもしれないが。
それでも。
自分にとって一番大切なものだけは残るのかもしれない。
魔導の塔の連中には何もなかったんだろう。
「私だと、猫か……」
大体、転生の理由も猫だったしな。
「女神様。猫神様に会えないかな?」
「ちょっと難しいかもしれませんね……」
猫神様は気まぐれにほかの世界と行ったり来たりしていて、所在がはっきりしないらしい。
それで決まった神殿もないのか。
大体、どこの街に行ってもそれなりに信仰はされているようだが、クリスタルにある女神様の神殿のような立派な建物はなかった。
「どこの神殿でも大丈夫ですよ」
女神様がにこにこしながら言った。
神様なのでどこからでも祈りは届くらしい。
ただ、聞いてくれるかどうかは猫神様の気分次第との事だ。
人には真珠国の神様の件を勝手に押し付けておいて……。
まぁ、仕方がない。
神様といえど、猫だもんなぁ……。
第4章 完。




