第三十一話 地下迷宮。
「ここが地下迷宮か……」
洞窟のような入り口をのぞくと、ゆっくりとした下り坂になっていた。
先の方は暗くてよく見えない。
「りゅうたろう、大きくなって」
私の肩からひらりと飛び降りたりゅうたろうが、虎ほどの大きさに姿を変えた。
ひもをつけられるように、ナロクに炎鉱石の明かりを加工してもらった。
それを、りゅうたろうの首にぶら下げる。
触っても熱くないから大丈夫だ。
「せりと一緒に先を歩いて」
せりは真っ黒だから見失いそうなんだよな……。
猫達は暗くても大丈夫だから、さっさと行ってしまいそうだし。
「よつばはりゅうたろうの後ろを歩いて。罠があったら〈解除〉してね」
よつばはもふもふのしっぽをぴんと立てた。
私は片手に炎鉱石の明かりを持った。
念のため、ナイフはすぐ使えるように腰に下げてある。
草刈り鎌の方が本当は使いやすいのだが、さすが草刈り鎌を振り回す冒険者ってのもな……。
「せり、サナとナルシを〈気配察知〉」
さて、行くか。
せりはひげをぴくぴくさせながら歩いている。
その横を、明かりを首から下げたりゅうたろうが歩く。
天井が高いせいか、思っていたより圧迫感はない。
んー?
どう見ても自然に出来たものじゃないよな……。
壁なども加工してあるようだ。
ナロクに聞いたが、この地下迷宮はドワーフ達が火山の麓に住み着くより前からあったらしい。
道が三ツ又に別れていた。
せりは迷わず真ん中の道を進んだ。
「サナ達、迷わなかったのかな……」
地下迷宮の中ではマップ機能も使えない。
さっきから、やたらと分かれ道ばかりある。
まぁ、うちにはせりがいるから何の問題もないけどな。
せりとりゅうたろうが立ち止まった。
「扉か……」
扉の前には幾つかの小さな像がばらばらに置かれていた。
なるほど、像を正しい位置に置かないと扉が開かない仕組みか。
…………。
「よつば。〈解除〉」
すまんな、名も知らぬ製作者よ。
チートで無理矢理まかり通らせてもらう!
よつばが前足をちょいちょいと動かすと、がこんっと扉が開いた。
気のせいか、像が恨みがましい表情になったように見えた。
「さあ、どんどん行こうか!」
地下や洞窟内でもっとも辛いのは、どれくらい時間がたったか分からない事らしい。
こっちの世界にはスマホも時計もないので、時間を確認する方法がないのだ。
私には女神様が連絡用として持たせてくれたスマホがあるから問題はないが。
それに。
よつばが足を止め、くりんと首を傾げてみせた。
「にあん?」
せりとりゅうたろうも、ちらちらと私を見ている。
「はい、はい。分かりました」
よつばの腹時計は正確だ。
「広い所に出たら、テントを張ってごはんにしようね」
今は夕方くらいだろう。
広場のような場所に出た。
焚き火のあとがある。
せりがふんふんと匂いを嗅ぎ、ぴしっと胸を張った。
サナ達のキャンプのあとだ!
確認したが、すっかり冷えてしまっていて何日前のものかは分からなかった。
まぁ、いい。
ここを通った事だけは確かだ。
テントを張り、猫達と無限収納の中のドラゴンにご飯を食べさせた。
「さて、私も食べますか」
サナ達を見つけた時用にスープでも作っておくかな。
パンもハムもチーズもゆで卵も、その他いろいろ詰め込んできたが、もし絶食状態だとしたら固形物はまずいだろうし。
根菜類とレッドバードの肉を煮込み、塩と胡椒で味を整えた。
「うーん」
しかし、何度見ても慣れないな……。
ボーショというジャガイモに似た味の芋を入れたのだが、これがどぎついピンク色をしているのだ。
しかも、色が濃いほど栄養価が高い。
煮込むと色素が溶け出してスープもピンク色に変わっていく。
……味は美味しいんだけどねぇ。
まぁ、いい。
このスープと、パンとチーズで夕食にしよう。
「ふぅ、お腹いっぱい」
食事を終え、猫達も毛繕いなどしながらまったりと過ごしている。
不意に、せりが耳を伏せたイカミミ状態になった。
〈気配察知〉だ!
「すいませーん、迷ってしまってぇ」
妙に甘ったれた口調で、テントの外から声をかけてきた。
なるほど。
遭難者のふりをした盗賊か。
それにしても、どこにでも湧いてくるもんだなぁ……。
「りゅうたろう、大きくなって」
小声で指示を出す。
「くぅは……」
お腹いっぱいになって眠くなったのか、くぅは面倒くさそうにあくびをした。
「……仕方ない」
一応、ナイフを抜けるようにしておくか。
「ん?」
くぅとは逆に、お腹いっぱいになって遊びたくなったらしいおこんが外に出ようとしている。
んー、まぁ、いいか。
「りゅうたろう、おこん。行くよ」
こちらの様子に気付かず、テントの外から再度声をかけてくる。
「少しでいいんでぇ、水と食べ物を分けてほしいんですけどぉ」
……根こそぎ奪うつもりでいるくせに。
テントの入り口を開けると、おこんが飛び出して行った。
「うわっ! なんだ!?」
「おこん! やってしまえ!」
盗賊の顔に飛びつき、おこんがめちゃくちゃに引っ掻いた。
「ぎゃあああ!」
盗賊が悲鳴を上げて、顔を押さえる。
おこんは素早く飛び降り、明かりの届かない暗闇に身を潜めた。
こっちの世界に来てから、猫達はすっかり狩りの達人になってしまった。
いや、まぁ、小さいむにゃむにゃ(言いたくない)なんかはあっちでも捕まえていたけどな。
「気をつけろ! 何かいるぞ!」
「てめえ!」
ぞろぞろと奥の方から男達が姿を現した。
ふん、出てきたか。
「りゅうたろう!」
虎ほどの大きさになったりゅうたろうが、盗賊どもに飛びかかる。
「うわあああ!」
「なんだ、こいつ!?」
身を潜めるために明かりを用意しなかったのが仇になったな。
猫達にはテントから漏れる明かりで十分だ。
暗闇で人間が猫に勝てると思うなよ!
おこんは盗賊どもの顔を引っ掻き、また素早く暗闇に身を隠す。
りゅうたろうは大きさをいかして前足で叩きのめす。
「ぎゃあああ!」
「この野郎! どっから来やがってんだ!」
やつらにしてみれば、暗闇から正体の分からないものに襲われている状態だ。
さて、どうするか。
捕まえると一度戻らなくてはいけなくなるから面倒だ。
かと言って、見逃すのもなぁ……。
んー?
またアレでいいか。
「りゅうたろう、壁の方に追い込んで!」
りゅうたろうが盗賊どもを殴り飛ばして壁際に追い詰めた。
「おこん、〈創成魔法〉! でっかいペットケージ!」
がしゃんっ、と音を立ててペットゲージの中に盗賊どもが閉じ込められた。
「なんだ!?」
「出しやがれ!」
閉じ込められた盗賊どもが口々にわめいている。
出すわけないだろう。
あ、そうだ。
「大剣使いの男の人と、槍使いの女の人の二人組を見かけなかった?」
「ああ?」
「見かけても言わねぇよ、ばぁか」
……まだ立場というものを分かっとらんようだな。
憎まれ口をたたく盗賊どもに、私はわざとらしくため息をついてみせた。
「あー、私、忘れっぽいからなー」
「あ?」
「このまま、捕まえた事とか忘れそうだなー」
「な!?」
私の言葉に盗賊どもはぎょっとしたようだった。
「てめえ、まさか、俺達を置き去りにする気か!?」
「干からびる前に、誰か来るといいねー」
「ま、待て! 二人組だろ!?」
「炎水晶の所で見たぞ!」
盗賊どもが慌てて騒ぎ出す。
「炎水晶の所って?」
「この奥だ!」
「いつ頃?」
「確か、十日前くらいだ」
……少なくとも、十日前までは順調だったようだ。
「腕が立ちそうだったから、手を出さなかったんだよ」
「な、なぁ、教えたんだから、出してくれよ」
いや、出さねぇよ!
「はい、これ」
水とパンの入った袋をペットケージの中に放り込む。
「なるべく、忘れないようにはするから」
「……ふざけんなぁぁぁぁ!!」




