第二十八話 空の災い。
「これで、今日の依頼分はクリアだな」
薬草をかご一杯に集めた私は汗を拭った。
「みんな、帰るよ」
声をかけるとりゅうたろう達が走ってきた。
「……また大量だねぇ」
それぞれが狩ってきたお土産を見て、ため息をつく。
もっとも、この辺りには大物がいないらしくくぅだけは不満そうだったが。
今、私はオパール王国の外れの町に滞在している。
ぎりぎりギルドがある規模の町で、農耕と牧畜が主体だ。
ギルドの依頼も、畑を荒らすワイルドボアの退治や収穫した作物を食い荒らすマーウの駆除などがほとんどだ。
黒のキャラバンなどのせいで名前が売れてしまった私は、薬草採取などの依頼をこなしながらこの町に身を潜めているのだ。
「……追われている人みたいだよねぇ」
町の人達もどうもワケアリらしいと思っているらしく、親しげに話しかけてくれるのはギルドマスターくらいだ。
「戻りました」
「はい、はい。お帰りなさい」
にこにこと笑いながら、小柄なおばあさんが迎えてくれた。
この町のギルドは、このおばあさんが一人で運営している。
元々は冒険者だった旦那さんがギルドマスターだったのだが、亡くなってあとをついだらしい。
「薬草採取。はい、依頼達成ね」
サインをして報酬を受け取った。
「今、農繁期で依頼を受けてくれる人がいなかったから、つかさちゃんがいてくれてよかったわ」
このギルドでは冒険者というより、地元の人が小遣い稼ぎに依頼を受ける事が多いようだ。
農繁期には依頼が滞る事も多いらしい。
おまけに今年は例をみないほどの豊作で農家も人手が足りず、普段は薬草採取の依頼を受けてくれる子供達も家の手伝いをしなければならなくなったのだ。
多分、女神様の加護のおかげだよな。
まぁ、これでよつばが食い散らかした分はどうにかなったかな……。
よつばは、くりんと首を傾げてみせた。
「にあん?」
もう勝手に食べたらダメだからな!
本当にお尋ね者になってしまう……。
やれやれ、といったようなため息が頭の上で聞こえた。
(ミーコさん?)
ああ、夢か、これ。
ふっと気付いた。
キジトラ白の小柄な猫がじっと私を見ていた。
(どうかした?)
ミーコさんは、ついっと私の頭の上を見た。
(上?)
空が、何かに覆い尽くされている。
太陽が隠れて地上は真っ暗だ。
水は干上がり、草は枯れ、大地はひび割れている。
(?)
声が聞こえてくる。
「《ことわり》から外れたものよ」
「ううぅぅっ!」
ミーコさんは空に向かって低くうなった。
「邪魔をするな、……よ」
「んー?」
ベッドに寝転んだまま、テントの天井を見上げる。
なんか変な夢みた気がするんだけど……。
「にゃ!」
「痛い!」
福助ががぶりと私の手に噛みついた。
「はい、はい。ご飯ですね」
今、起きますよ。
滞在している町には宿屋がなかったので、許可をもらってギルドの敷地内にテントを張らせてもらっている。
猫達にご飯を食べさせ、私も自分の分の朝食を用意した。
牧畜をしているこの町では新鮮な牛乳が手に入る。
ホットミルクにスカイビーの蜜を入れると、甘い匂いがした。
「りゅうたろう、行くよ」
小さくなったりゅうたろうが、ひらりと私の肩に乗った。
今日の依頼はスカイビーの巣の採取だ。
虫除け対策さえしておけば簡単に採取出来る。
私はターコイズの市場で買った虫除けの護符をいつも腰からぶら下げているので問題はない。
「あった、あった」
スカイビーは蔓の先にまんまるな巣を作り、それがぷかぷか宙に浮いているのだ。
私は愛用の草刈り鎌で蔓を切った。
依頼は五個だったが、すぐに採取出来てしまった。
スカイビーの巣を手に持つと、まるで風船のようにふわふわ浮いている。
「……ダメだからね」
猫達がきらきらした目でスカイビーの巣を見ている。
おこんなどすでに遊びモードに入っているようだ。
「オモチャじゃありません!」
早くギルドに帰った方がよさそうだ。
「帰るよ!」
まだ遊び足りなかったのか、猫達は不満そうだったが今日は早めに切り上げる事にした。
ふと、せりが耳を伏せたイカミミ状態で毛を逆立てた。
〈気配察知〉だ!
「うわぁぁぁ!」
悲鳴だ。
近い!
「りゅうたろう、大きくなって!」
肩からひらりと飛び降りたりゅうたろうは、虎ほどの大きさに姿を変えた。
「行くよ!」
悲鳴は町の外れにある牧場から聞こえてきていた。
駆け付けると巨大な鳥が牛を襲っていた。
この世界の牛は向こうより二倍は大きい。
翼を広げた鳥は、その牛よりさらに大きかった。
羽毛は青く、尾羽の先だけが白い。
くちばしではなく鋭い牙の生えた大きな口がついていて、真っ黒な目は妙に小さい。
「あっち行け! あっち行け!」
牛の近くで子供が泣きながら木の棒を振り回していた。
牛は、そんな子供を守ろうとするかのように鳥と相対している。
「りゅうたろう!」
りゅうたろうは身体の大きさを変えると、鳥に向かって跳んだ。
鳥の首に噛みつき、そのまま地面に押さえ込む。
「大丈夫!?」
「牛が、うちの牛が……!」
牛は身体中に傷を負い血まみれになりやがらも、気丈に首を高く上げて立っていた。
そういえば、こっちの牛は気も強いんだった。
ワイルドボアと戦って勝つ事もあるらしい。
「チャビ、〈回復〉」
ごろごろとチャビがのどを鳴らし始めた。
それにしても、見た事のない鳥だな。
少なくとも猫達のお土産の中にはいなかった。
鑑定スキルを使ってみたが、?マークが出てきただけだった。
うーん、私の鑑定スキル、レベル1だからなぁ……。
ギルドに持って帰れば何か分かるかもしれない。
「これは、フラー……!」
鳥を見たギルドマスターのおばあさんは、そう言ったきり絶句してしまった。
「フラー?」
「……災いを呼ぶ鳥と言われているの」
おばあさんはため息をついた。
「家畜も作物も、何でも食べてしまって。……もちろん、人も」
「!」
「ここ何十年も目撃情報がなかったから、とっくに絶滅したものだとばかり思っていたのだけれど」
おばあさんは、もう一度大きなため息をついた。
「なにより恐ろしいのは、フラーは群れで行動するの」
「群れ……?」
私が見たのはこの一羽だけだ。
ほかのフラーは、どこにいる……?




